巻き込まれ体質の俺は魔王の娘の世話係になりました

亜瑠真白

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もう飽きた!

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「ラフェ、今日もやるぞ。」
 放課後、部屋に入った俺は寝ているラフェを起こした。ラフェが目を開いたことを確認して、テレビに動画サイトを映す。
「またやるのかぁ? もう飽きた!」
 そう言ってラフェは布団にくるまった。
 前回、ラフェの魔力が魔界に帰るには足りないことが発覚してから、俺と高木先輩達はいろいろと対策を練った。俺は栄養を取らせるために思いつく様々な食材を用意した。ラフェに「人間の栄養素を魔界に当てはめてもいいのか?」と言われたが、他に当てがないから仕方がない。サラダとかスープとかで出すと反応がイマイチだったから、みんなクリームパンの中に詰めて与えている。なんだか、野菜嫌いの子供にこっそり食べさせようとする親みたいな苦労だ。
 高木先輩達は質のいい睡眠のための道具をそろえてくれた。今まで使っていたものよりちょっといい枕、ちょっといいマットレス、ちょっといい掛け布団、それに心を落ち着かせるアロマなんかも…一体誰がこんなにお金を出しているんだか。
 そんな感じで最近の放課後はエクササイズ動画を流してラフェを運動させ、疲れたら寝かせることがメインの役目になっていた。
 ラフェに運動をさせるために始めたエクササイズだったが、最近は飽きたとよく文句を言っている。
「そう言うと思って、新しいダンスエクササイズ動画を探してきたぞ。」
「違う! 外に出たいって言ってるんだ!」
 ラフェは抗議してきた。まあ、分かってたんだけどな。
 部屋でエクササイズ動画を流して運動させるのは、ラフェをできるだけ外に出さないようにするためだ。だからそれを認めるわけにはいかない。
「何か欲しいものがあるなら俺が買って来てやるから…」
「今日外に出さないなら、運動もしないし一睡もしない!」
「はぁ…」
 こんなカードを切られたらどうしようもない。俺は成瀬先輩に電話した。
「もしもし、成瀬先輩ですか?」
『日生君、どうしたの?』
「あの…ラフェが外に出してくれないなら運動も睡眠もボイコットするって言ってまして…」
 ラフェが俺の近くに来て囁いた。
「ご飯も食べないって言え。」
「あー、ご飯も食べないって言ってます…どうしたらいいですか?」
『あちゃー、そうかぁ…』
 するとガサガサと雑音が入った。
『日生、俺だ。』
 電話の相手は高木先輩に交代したみたいだ。あの二人、ほんといつでも一緒にいるな…
『今回は特別に屋外での運動を許可する。でもな、日生…』
「はい?」
『ラフェを外に出すってことは、即ちお前が罰を受ける可能性も跳ね上がるんだぞ。そのことをよく肝に銘じておくんだな。』
 そう言って電話は切れた。ラフェがそわそわとした様子で口を開く。
「それで、外出ていいって?」
「ああ…」
「やったー!」
 喜ぶラフェとは対照的に、俺はストレスで胃が痛くなってきた。

 運動場所として俺は河川敷を選択した。理由は十分な広さと、平日の夕方なら人は少ないと踏んだからだ。
 ラフェを連れて河川敷に着くと、思った通り人はほとんどいない。野球場や公衆トイレが整備されてるような場所ではなく、ここはだだっ広いだけで何もない河川敷。先客はトランペットを練習する学生と、体操をしているおじいさんだけだった。
「さて、せっかく来たからにはきっちり運動してもらうぞ。」
「まあ、それは仕方ない。それで何をするんだ?」
 場所のことばかりに気を取られて肝心のところを考えてなかった。何もない河川敷には名前の通り何もない。だからこそ人がこなくていいんだけど…
「じゃあ…ランニングで。」
「りょーかい。でもせっかくの外なのに何にもないなんてな」
 刺激を期待してたであろうラフェはつまらなそうに言った。
「じゃあ今からでも部屋に戻るか?」
「嘘! いやー、外は気持ちいなー」
 それでも部屋よりはマシらしく、変な小芝居を始めた。
 ランニングをする前にまずはストレッチをする。
「日生、今日はいつもよりストレッチ長めだな。」
「まあな。」
 ラフェは部屋でのエクササイズを始めてからみるみる体力がついてきている。そんなラフェにこの外で全力で逃げられたら…かなりヤバい。緊急時に全力疾走できるようにストレッチは入念にしておきたい。
「よし、じゃあ行くか。」
「おー!」
 俺は左右に目を向ける。さて、川上に行くか川下に行くか。じゃあ、より人気の少なそうな川上で。
 走り出そうとした時、背後から声がかかった。
「お待たせしてすいません!」
 周りには俺たち以外、誰もいない。先客二人は数十メートル先だ。これはもしかして「始まってる」のか…? 動けずにいると肩をトントンと叩かれた。仕方なく振り返る。
「お待たせしました。あの…『なんでも屋』の方ですよね?」
 そこに立っていたのは若い女の人だった。それにしても「なんでも屋」って言うのは…
「そのブルーに白いラインが入ったジャージですぐに分かりました。」
 そう言って女の人は微笑む。
 青地に白のラインのジャージなんて、世界にどれだけあると思ってるんだよ! これは完全に巻き込まれが始まってるな…
 でも今回は違うって否定すればするだけだし、簡単に逃げられそうだ。この人も本物の何でも屋に頼んだ方がいいだろう。
「いや、俺たちは…」
「そうだ! 私達がなんでも屋だ!」
 ラフェは俺と女の人の間に割り込んでそう宣言した。
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