巻き込まれ体質の俺は魔王の娘の世話係になりました

亜瑠真白

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こいつの思考回路を侮ってはいけなかった

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 そんなこともありながら校門を突破した。
「日生! あのシュークリーム?はどこにあるんだ。」
「ここからニ十分くらい歩いたとこだな。あー、そこの信号を右だ。」
 地図アプリを確認すると、あとは道なりでつきそうだ。
「りょーかい。」
「ん? 信号は分かるのか?」
「当たり前だろ。」
 んー…魔界の当たり前はよく分からないんだけど…イメージで言えば、
「もっとなんか…こう、マグマが吹き出してたりとか、紫色の液体が流れてたりとか…」
 ラフェは俺を小馬鹿にするように笑った。
「ふっ。いつの時代の話をしているんだ。そんなのは、ひいおじい様が統治されていた頃に整備されたぞ。」
 そう言って、歩きながら近くのビルを指さす。
「あれに似たような建物はある。信号もある。飛行者と歩行者を分けないとだからな。ああ、人間は飛べないんだったか。くふふ。」
「ラフェも飛べるのか?」
 そう聞くと、途端にラフェの表情が曇った
「まだ…でも! あともう少しすれば、私だって父みたいな、魔王の娘にふさわしい立派な羽が生えるはず…!」
「そうか。」
 魔王の娘っていう肩書も大変なんだろうな。
「まあ、態度は一人前に大きいし、それに見合った羽がじきに生えるんじゃないか。」
「…態度が大きいっていうのは余計だが、励ましとして受け取っておく。」
 気づけばビル街を抜け、河川敷に出ていた。歩道には等間隔に木が植えられていて、所々に咲いている白い花を見ると、これは桜か。
「この花…」
 ラフェが呟く。
「ん?」
「なんか懐かしい感じがする…何でかは思い出せないけど。」
 そう言って口元に手を当て、考える素振りを見せた。
 これはチャンスかもしれない。桜を見せてやれば、それがきっかけで故郷を思い出して魔界に帰りたくなるかも。時期的にもそろそろ満開になるだろう。
「じゃあ、今度この花がたくさん咲いてるところに行ってみるか。」
「いいのか? お前、意外といいやつだな!」
 ラフェが嬉しそうに笑う。
「そりゃ、どうも。」
 魔界に帰すためだからな。
 川沿いを歩いていると、カーブを曲がったところで奥に行列が見えた。アプリを確認すると、やっぱりあの行列が目的の店らしい。
「ラフェ、あの並んでる店がそうだ。」
「こんなに並んでるのか!?」
 ラフェは目を丸くした。
「まあ、今日テレビに出てたし、元々が行列店らしいからな。」
 店の近くまで行くと、三十人くらいは並んでいそうだった。
「魔法で店を十個くらいコピーして作ってやればすぐ食べれるか…?」
「やめろって!」
 危ない危ない…こいつの思考回路を侮ってはいけなかった。
「どうする? 結構待ちそうだし、やめておくか?」
「いや、やめない。これを食べるためにここまで来たんだからな。」
「そうか。」
 俺達は最後尾に並んだ。店からは生地の焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。
「ぐぬぬ…恐るべし、クリームパンの上位互換…」
「それ、パン屋の前では絶対言ったらだめだからな?」
 列が進み、俺達の番が近づいてきた。店先の看板を見ると、定番のカスタードの他にもチョコレートやストロベリーなんかの変わり種もあるらしい。
「色々あるんだな…! 私は一種類ずつ!」
「いや、高木先輩達からもらった予算の範囲内でお願いしたいんだが…」
 ラフェにかかる分のお金は支給してもらえるらしい。俺としてはありがたいが、お金の出どころは…余計なことは知らないほうがいい。
「ケチ!」
 ラフェは頬を膨らませてそっぽを向いた。
 その時、俺達の後ろに二人組の男が入ってきた。割り込み…だよな。
気になって後ろの様子を気にしていると、割り込まれた女子高生達が男に声をかけた。
「ちょっと! 割り込みやめてください!」
「割り込みだなんて人聞き悪いなぁ。俺らは仲間と合流しただけだよ。な、相棒?」
 そういって男の一人が俺と肩を組んできた。はぁ…?
 男の口元は微笑んでいるが、目は笑っていない。話を合わせないと後でどんな目に遭うか…後ろの子達には悪いけど、ここは「はい」って言うしかない。巻き込まれたときは流れに身を任せる、だ。
「は…」
「違うぞ! 私達はこんな下衆の仲間なんかではない!」
 俺の言葉を遮るようにラフェが言い放った。
 男達がラフェに近づく。
「ああ? 何言ってんの?」
「下衆、だと?」
「ああ、そう言った。」
 ラフェは自分より大きな男たちを相手に、一歩も引く様子を見せない。
 俺は茫然として声が出なかった。心臓がバクバクと早まっているのが分かる。ラフェは、一体どうしようっていうんだ…
「お嬢ちゃんは俺達が手を出さないって高をくくってるんだ? そんなことないよ。なんたって俺達は下衆らしいから、ね!」
 そう言って男の一人が腕を振りかぶった。まずい…!
「あ?」
 男は俺を睨みつける。俺は咄嗟に男の腕を掴んでいた。
「ちょっと! そこで何してるの!」
 その時、向こうから声が掛かった。見ると自転車に乗った警察官だった。
「ふんっ。」
 男は腕を強引に振りほどいた。バランスを崩して俺は地面に尻もちをつく。
「行くぞ。」
 そう言って男達は去っていった。
「大丈夫ですか?」
 近くに来た警官は俺に声をかけた。
「ああ、はい。助かりました…」
 警官がいなくなった後、ラフェはニッと笑った。
「日生、まあまあかっこよかったぞ。」
「お前は危なすぎる! あのまま男に殴られてたかもしれなかったんだぞ!」
「私が人間ごときに負けるとでも?」
 そう言って不敵に笑った。
「でもまあ、もし日生が止めてくれなかったら、あいつの頭にうさ耳を生やして、語尾が『ぴょん』になる魔法をかけてやろうと思ってたから、あいつにとっては日生が止めてくれてよかったんじゃないか?」
「なんだよ、それ…」
 俺なんかが止めに入らなくても大丈夫だったってことか。ははっと笑うと、一気に疲れが押し寄せた。
「なんか猛烈に腹減った…」
「そのためのこれ、だろ!」
 ラフェはキラキラとした瞳で店を指さした。
「ああ…そうだったな。」
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