巻き込まれ体質の俺は魔王の娘の世話係になりました

亜瑠真白

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さて、本題に入ろう

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 高木先輩が一歩進みでた。
「さて、準備も終わったことだし本題に入ろう。箱から出てきた後のラフェの処遇について、初代理事長から言伝を預かっている。」
「お前も様をつけろ!」
「丁重に魔界へお返しする、とのことだ。どうして百年前にこの学園で一人倒れていたのか知らないが、初代理事長の計らいで十分に休息できたはずだ。ここはお前のいるべき場所ではない。魔界へ帰ってもらおう。」
「…嫌だ。」
 うつむいたラフェの表情は見えない。しかし、強く握りしめた拳から意思の強さが感じられた。
「弱っていた私を助けてくれたあの時の人間には感謝している。でも! どうしても帰りたくない理由があるんだ!」
「そんなことは俺達に関係ないな。魔界の生物がこの人間界に存在しているだけで俺たちにとって脅威なんだ。いつこの世界を滅ぼされてもおかしくない。」
「そんなことはしない!」
「その言葉を信じられる証拠はない。」 
 俺達の間に張り詰めた空気が流れる。
 高木先輩を睨みつけるラフェの前に、成瀬先輩が割って入った。
「ラフェちゃん。私達はね、別に意地悪で言ってるんじゃないの。魔界のみんなも、きっとラフェちゃんの帰りを待ってるよ。」
「うるさい! 私は帰りたくない!」
 高木先輩は俺の方を振り向いた。
「日生、お前も帰るように説得しろ。お前の言う事なら聞くかもしれない。」
 正直、こんな展開についていけてない自分がいた。さっきまでみんな、笑って話していたじゃないか。それなのにこんな、言い合いになって…
 言葉に詰まっていると、ラフェが叫んだ。
「自分の運命を力ずくで変えようとしてるんじゃないかっ!」
 振り絞るようなその言葉に、俺は強い衝撃を受けた。
 俺は今まで巻き込まれ体質だと割り切って、流れに身を任せてきた。運命を変えてやろうだなんて、これっぽっちも考えてこなかった。でも、目の前にいる俺より小さな女の子は運命に逆らおうと必死にもがいてるじゃないか。そんなこの子を、また俺は流れに身を任せて、その努力を踏みにじってもいいのか?
 そして自然と言葉がこぼれた。
「無理に帰らせなくても、いいんじゃないでしょうか。」
「あ?」
 こいつは何を言い出すんだとでも言いたげな表情で高木先輩が俺を見る。
「さっき帰りたくない理由があるって言ってました! それなのに、その理由も聞かずに帰していいんですか!? 帰った後、ラフェにどんな運命が待っているかも知らないくせに!」
「お前、自分がどういう事を言ってるのか本当に分かっているか? 帰りたくない理由があるなら無理に帰らなくていいだと? どれだけ無責任なことを言っていると思っているんだ!」
「じゃあ俺がラフェの面倒を見ます! 万が一、ラフェがこの世界に害を与えそうになったら、俺が身をもって阻止します! だから、ラフェが元いた世界に戻ってもいいって思えるまで、待ってくれませんか!?」
 少しの沈黙の後、高木先輩はハァっとため息をついた。
「全く…そこまで言うとは驚いた。まあ、俺達としても力づくでラフェを帰らせることはできないし、なるべく穏便な形で帰したいとは思ってる。」
「日生君、面倒を見るって簡単なことじゃないのよ。これから毎日、自分の時間を使って面倒を見るの。何を食べるか知ってる? 一日の生活リズムは? 楽しい事だけじゃないのよ。」
「そんな、ペットを飼いたがってる子供を諭すみたいに言わなくても…」
 俺の言葉に高木先輩と成瀬先輩が吹き出す。やっと張り詰めていた空気がほどけた。
「何を食べるかと言えば、さっきクリームパンをあげたら喜んで食べてましたよ。」
「魔王の娘ってクリームパン食べるの!?」
 成瀬先輩は目を丸くして言った。
 高木先輩が口を開く。
「まあ、なんだ。俺達と日生は最終的な目的として一致しているんだ。困ったことがあったら何でも言ってくれ。協力する。」 
「あ、ありがとうございます!」
 成瀬先輩は紙にサラサラと何かを書いて、俺に差し出した。
「これ、私の電話番号。何かあったらこの番号に連絡してね。」
「ありがとうございます。」
 俺はラフェに手を差し伸べた。
「…ラフェ。」
 赤い瞳は不安そうに揺れている。もう、大丈夫だから。
「行こう!」
「うん!」
 俺達は手を取って部屋を飛び出した。
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