3 / 30
1
騙されて強引に協力者に仕立て上げられた工藤日生です
しおりを挟む
その時、勢いよく扉が開いた。そしてそこに現れたのは制服姿の女子生徒だった。走ってきたのか、肩で息をつくたびにツインテールが揺れる。そして、手には大きな紙袋。
「はぁっ…はぁっ…、もうほんっと人使いが荒いんだから…!」
そう言って高木先輩の前まで歩いていき、紙袋を差し出した。
「ほら、これ。頼まれてた服。」
「助かる。」
その女子生徒はラフェの方に目を向けた。
「この子が…例の?」
「ああ。」
「魔王の娘っていうからどんなに恐ろしいかと思っていたけど、こんなに可愛らしい子なんてね。」
そう言ってラフェに近づく。
「私は成瀬乙女。よろしくね。」
「ふんっ。」
ラフェはそっぽを向いた。
「あら、反応は可愛くないのね。」
「乙女、いいから先に進めるぞ。」
高木先輩が声をかける。二人のやり取りを見るに、成瀬さんも「関係者」なんだろう。
「はーい。…っていうか、潔その恰好どうしたの? サイズおかしくない?」
確かに、俺のジャージでは手首や足首が見えて不格好だ。悔しいから考えないようにしてたのに…!
「俺の制服はこいつに剥ぎ取られたからな。このジャージは日生から借りたんだ。」
「ひなせ…?」
そう言って振り向いた成瀬さんと目が合う。
「あれ。いたの?」
シンプルに酷い。
「っていうか、いいの? 部外者をここにいれて。」
「日生は協力者だからいいんだ。何でも力を貸すと言ってくれている。」
そんなこと一言も言ってないですけど!?
「ふーん。」
成瀬さんは僕のじろじろと見まわした。
「まあ、潔がいいっていうならいいわ。私は二年の成瀬乙女。見たことない顔だけど、もしかして新入生?」
「そうです。高木先輩に騙されて強引に協力者に仕立て上げられた工藤日生です。よろしくお願いします。」
「うん、よろしく。」
俺の抗議は何もなかったかのようにスルーされた。君たち、似たもの同士だね。
高木先輩はぱちんと手を叩いた。
「自己紹介が済んだところで、乙女の持ってきた服に着替えてもらおう。俺と日生は外に出ているから、乙女、頼んだ。」
「りょーかい。」
高木先輩に続いて俺は部屋を出た。廊下の窓からは午後の日差しが差し込んでいて、俺は目を細めた。新入生以外はまだ春休みのためか、校舎は静かだ。
「悪いな。乙女は幼なじみなんだが、ちょっと変なやつだろ。」
「いいえ? 全然?」
あなたの方がだいぶ変です、という言葉が喉元まで出かけたのを何とかこらえた。
「そうか、ならいいんだ。」
そう言って、高木先輩は黙った。しばらく沈黙が流れる。
俺は気になっていたことを口にした。
「そういえば…さっき一部の人しか知らないって言ってましたけど、どうして高木先輩達は知っているんですか?」
「ああ、そのことも説明しないとだったな。理事長の用意した箱を移したこの部屋は、長い間『開かずの間』になっていたんだ。ここの鍵は初代理事長の子孫が受け継いでいて、学園の教師はここに何があるのかも知らない状況だった。しかし五年前、異変が起きた。」
「異変、ですか。」
「ああ。この部屋から何かを叩くような鈍い音が聞こえてくるようになった。その音が聞こえるのは不定期で、しかし日を追うごとに音の強さと頻度が増していっているのは確かだった。その噂を耳にした理事長の子孫が駆けつけ、受け継がれていた鍵で部屋の戸を開けることになった。数十年ぶりに部屋へはいると、音はやはりあの箱の中から聞こえてくるようだった。扉を開けようと数人がかりで引っ張ったが、扉はびくともしなかった。後日、チェーンソーで箱ごと切断しようと試みたが、傷一つつかなかった。どうやら魔王の娘自身がその箱に術をかけたらしい。自ら出てくるまではどうすることもできないと判断した関係者らは、箱の見張りと事情を知らない生徒・職員らへの情報統制のため、生徒の中から秘密裏に管理委員を立てた。それが俺達だ。俺達は二代目になる。活動としては、学園の中で唯一この部屋の鍵を持つことが許され、箱に異常がないかを監視する。時にはこの部屋について探っている人物を排除したりな。」
「排除って…」
返り血を浴びて不敵に笑う先輩の姿が頭に浮かんだ。この人ならやりかねない。
「心配しなくても暴力行為はしないさ。いわば情報戦だな。偽の情報を流して別のところへ関心を向けさせる。そうやってこの秘密を守ってきた。」
「そんな風に苦労して秘密にしてきたのに、俺のことは簡単に巻き込むんですね。」
少し皮肉を込めて言った。
「今回は緊急事態だったからな。制服を奪われたのは不覚だった。さすがに下着のまま廊下を走り回る訳にはいかないから、日生が偶然通りかかって助かった。それに日生なら秘密を守るって確信できたからな。」
「なんでそう言い切れるんですか。」
俺のことなんて何も知らないくせに、と思ったのが口調に現れたが、高木先輩は気にしていないようだった。
「それくらい見抜けなければ、管理委員は務まらないな。」
その時、部屋の扉が開いた。成瀬先輩が顔を出す。
「お待たせ。着替え、終わったよ。」
部屋に戻ると、ラフェは首元に大きなリボンがついた白いワンピースを着ていた。
「ふふん。どうだ? 私の完璧なまでの着こなしは!」
拘束から解放されて調子を取りもどしたのか、胸を反らして得意げに笑った。
「ほんと、可愛いから何でも似合うね。これ、福袋に入ってた服なんだけど、可愛すぎて自分にはちょっとなーって感じで着てなかったから、新品のままだよ。役に立ってよかった。」
そう言って成瀬先輩が笑う。
「私に着てもらえてこの服も喜んでいるだろう。なにせ私は魔界第二十四代王、ルゼリフ・ドリースの一人娘、ラフェだからな!」
「カフェ?」
成瀬先輩が首をかしげる。
「ラ! フェ!」
「ラフェちゃんね。名前も可愛い。」
「可愛い言うな! あと、様をつけろ!」
「はいはい。」
「くぅぅ!」
軽くあしらわれて、ラフェは不満そうに成瀬先輩を睨んだ。
「はぁっ…はぁっ…、もうほんっと人使いが荒いんだから…!」
そう言って高木先輩の前まで歩いていき、紙袋を差し出した。
「ほら、これ。頼まれてた服。」
「助かる。」
その女子生徒はラフェの方に目を向けた。
「この子が…例の?」
「ああ。」
「魔王の娘っていうからどんなに恐ろしいかと思っていたけど、こんなに可愛らしい子なんてね。」
そう言ってラフェに近づく。
「私は成瀬乙女。よろしくね。」
「ふんっ。」
ラフェはそっぽを向いた。
「あら、反応は可愛くないのね。」
「乙女、いいから先に進めるぞ。」
高木先輩が声をかける。二人のやり取りを見るに、成瀬さんも「関係者」なんだろう。
「はーい。…っていうか、潔その恰好どうしたの? サイズおかしくない?」
確かに、俺のジャージでは手首や足首が見えて不格好だ。悔しいから考えないようにしてたのに…!
「俺の制服はこいつに剥ぎ取られたからな。このジャージは日生から借りたんだ。」
「ひなせ…?」
そう言って振り向いた成瀬さんと目が合う。
「あれ。いたの?」
シンプルに酷い。
「っていうか、いいの? 部外者をここにいれて。」
「日生は協力者だからいいんだ。何でも力を貸すと言ってくれている。」
そんなこと一言も言ってないですけど!?
「ふーん。」
成瀬さんは僕のじろじろと見まわした。
「まあ、潔がいいっていうならいいわ。私は二年の成瀬乙女。見たことない顔だけど、もしかして新入生?」
「そうです。高木先輩に騙されて強引に協力者に仕立て上げられた工藤日生です。よろしくお願いします。」
「うん、よろしく。」
俺の抗議は何もなかったかのようにスルーされた。君たち、似たもの同士だね。
高木先輩はぱちんと手を叩いた。
「自己紹介が済んだところで、乙女の持ってきた服に着替えてもらおう。俺と日生は外に出ているから、乙女、頼んだ。」
「りょーかい。」
高木先輩に続いて俺は部屋を出た。廊下の窓からは午後の日差しが差し込んでいて、俺は目を細めた。新入生以外はまだ春休みのためか、校舎は静かだ。
「悪いな。乙女は幼なじみなんだが、ちょっと変なやつだろ。」
「いいえ? 全然?」
あなたの方がだいぶ変です、という言葉が喉元まで出かけたのを何とかこらえた。
「そうか、ならいいんだ。」
そう言って、高木先輩は黙った。しばらく沈黙が流れる。
俺は気になっていたことを口にした。
「そういえば…さっき一部の人しか知らないって言ってましたけど、どうして高木先輩達は知っているんですか?」
「ああ、そのことも説明しないとだったな。理事長の用意した箱を移したこの部屋は、長い間『開かずの間』になっていたんだ。ここの鍵は初代理事長の子孫が受け継いでいて、学園の教師はここに何があるのかも知らない状況だった。しかし五年前、異変が起きた。」
「異変、ですか。」
「ああ。この部屋から何かを叩くような鈍い音が聞こえてくるようになった。その音が聞こえるのは不定期で、しかし日を追うごとに音の強さと頻度が増していっているのは確かだった。その噂を耳にした理事長の子孫が駆けつけ、受け継がれていた鍵で部屋の戸を開けることになった。数十年ぶりに部屋へはいると、音はやはりあの箱の中から聞こえてくるようだった。扉を開けようと数人がかりで引っ張ったが、扉はびくともしなかった。後日、チェーンソーで箱ごと切断しようと試みたが、傷一つつかなかった。どうやら魔王の娘自身がその箱に術をかけたらしい。自ら出てくるまではどうすることもできないと判断した関係者らは、箱の見張りと事情を知らない生徒・職員らへの情報統制のため、生徒の中から秘密裏に管理委員を立てた。それが俺達だ。俺達は二代目になる。活動としては、学園の中で唯一この部屋の鍵を持つことが許され、箱に異常がないかを監視する。時にはこの部屋について探っている人物を排除したりな。」
「排除って…」
返り血を浴びて不敵に笑う先輩の姿が頭に浮かんだ。この人ならやりかねない。
「心配しなくても暴力行為はしないさ。いわば情報戦だな。偽の情報を流して別のところへ関心を向けさせる。そうやってこの秘密を守ってきた。」
「そんな風に苦労して秘密にしてきたのに、俺のことは簡単に巻き込むんですね。」
少し皮肉を込めて言った。
「今回は緊急事態だったからな。制服を奪われたのは不覚だった。さすがに下着のまま廊下を走り回る訳にはいかないから、日生が偶然通りかかって助かった。それに日生なら秘密を守るって確信できたからな。」
「なんでそう言い切れるんですか。」
俺のことなんて何も知らないくせに、と思ったのが口調に現れたが、高木先輩は気にしていないようだった。
「それくらい見抜けなければ、管理委員は務まらないな。」
その時、部屋の扉が開いた。成瀬先輩が顔を出す。
「お待たせ。着替え、終わったよ。」
部屋に戻ると、ラフェは首元に大きなリボンがついた白いワンピースを着ていた。
「ふふん。どうだ? 私の完璧なまでの着こなしは!」
拘束から解放されて調子を取りもどしたのか、胸を反らして得意げに笑った。
「ほんと、可愛いから何でも似合うね。これ、福袋に入ってた服なんだけど、可愛すぎて自分にはちょっとなーって感じで着てなかったから、新品のままだよ。役に立ってよかった。」
そう言って成瀬先輩が笑う。
「私に着てもらえてこの服も喜んでいるだろう。なにせ私は魔界第二十四代王、ルゼリフ・ドリースの一人娘、ラフェだからな!」
「カフェ?」
成瀬先輩が首をかしげる。
「ラ! フェ!」
「ラフェちゃんね。名前も可愛い。」
「可愛い言うな! あと、様をつけろ!」
「はいはい。」
「くぅぅ!」
軽くあしらわれて、ラフェは不満そうに成瀬先輩を睨んだ。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説

イケメンストーカーに目を付けられましたが全力で逃げます!
Karamimi
恋愛
中学卒業間近に、ラブレターを晒されるというトラウマ的出来事を経験した渚。
もう男なんて大っ嫌い!絶対彼氏なんか作らない!
そう決意したはずなのに。
学年一のイケメン、片岡隆太に告白される。
これはきっと何かの間違いだ…
そう思っていたのに…
どんどんストーカー化する隆太、周りもどんどん固められていき、追い詰められる渚!
この絶体絶命の自体に、渚は逃げ切れるのか!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる