巻き込まれ体質の俺は魔王の娘の世話係になりました

亜瑠真白

文字の大きさ
上 下
2 / 30

なにせ君は見てしまったんだからな

しおりを挟む
「お、お前! 騙したなぁっ!?」
 椅子に縛り付けられたラフェは俺を睨みつけた。いつの間にか角と尻尾は影も形もなくなっている。
 よっぽど腹が減っていたらしく、ラフェはすんなりと俺の後をついてきた。男のいる空き教室の前まで来ると、ラフェも気が付いたらしく逆走。しかし、あの男が瞬時にラフェを捕獲し、逃げ出さないように置いてあった椅子に縛り付けた。
「よく連れてきてくれた。俺は二年の高木潔たかぎきよしだ。礼を言うよ。」
 そう言ってパンイチ先輩は恭しく頭を下げた。
「それはまあ、いいですけど。俺は一年の工藤日生くどうひなせです。それより、早く服を交換したらどうですか。」
 俺は部屋を見回した。恐らくこの部屋のどこかにラフェの元々着ていた服があるんだろう。教室かと思っていたが、改めて見るとかなり狭い。俺の部屋と同じくらいか。部屋の奥にある唯一の小さな窓はカーテンが閉められ、オレンジ色の照明が部屋を照らしている。置いてあるのはラフェが縛り付けられているイスと古びたクローゼットが一つ。クローゼットは両開きの扉の一枚が壊れたのか、無くなっている。床には木片やらなんやらが散らばっているだけで服のようなものは見つけられない。それにここは一体何の部屋なんだ。
「それは出来ない。」
「はぁ?」
「こいつの服は千切れてただの布切れになってしまった。もとはと言えば…」
「とにかく、服はないってことですよね!?」
 思わず口を挟んでしまった。高木先輩は話を遮られて少し不満そうに俺を見た。
「そうだ。」
「じゃあこれ使ってください。」
 俺は持っていたカバンを高木先輩に投げた。中には新品のジャージが入っている。高木先輩は初め不思議そうにしていたが、バッグの中を見て理解したらしい。
 これから三年間、ジャージを着るたびにこの人のことを思い出すんだろうと心地の悪さはあるが、パンツ一丁の男と椅子に縛り付けられた女の子の絵面を思えば、それくらい大したことではない。
「助かった。あのままでは外に出られないからな。」
 俺のジャージに着替えた高木先輩はそう言って爽やかに笑った。どういういきさつで服を剥ぎ取られる羽目になったのか分からないが、ラフェのような危険人物に遭遇するなんて、この人も巻き込まれ体質なのかもしれない。少し同情する。
「最悪、君の制服を剥ぎ取らなければならないところだったよ。」
 爽やかな笑顔のまま、そう言った。
 前言撤回。こいつも危険人物だ。
「それにしても、よくジャージなんて持っていたな。今日は入学式とホームルームだけだろ。」
「それは、まあ、人生の教訓と言いますか…」
 俺は日ごろから着替えを持ち歩いている。そうなったきっかけは二年前。海沿いを歩いていると、知らない家族のグループに巻き込まれ、無理やりバナナボートに乗せられた。その日は遠くに住む親戚との久々の再会だったらしく、俺を甥っ子と勘違いしていた。もちろん水着など着ていない俺は海に落ちてびしょ濡れになり、知らない家族に服を買ってもらう羽目になった。
 高木先輩は不思議そうに首を傾げた。
「まあいい。俺の制服をこいつに着せておくわけにもいかないし、あいつに要らん服を持ってきてもらおう。ちょっと電話するから、待っていてくれ。」
 そう言って部屋を出て行った。
 さて、俺としてはここらへんで見なかったことにして帰りたいんだが、約束を破るのは後味が悪い。俺は「放せ!」だの「私は魔界第二十四代王…」だの騒がしくしている奴に近づいた。そしてカバンからソレを取り出して、身動きの取れない奴の顔の前に差し出す。
「ほら。」
「…くれるのか?」
「ああ。渡すって言ったろ。」
 その言葉を聞いて、ラフェは途端に目を輝かせた。俺が口元まで運んでやると、大きな口を開けてクリームパンにかぶりついた。よほど嬉しいのか、ハの字みたいに眉が垂れ下がっている。
「こんな、おいひいものが、あるなんて…」
 ラフェは口いっぱいにクリームパンを詰め込んでそう呟いた。
 よし、約束は果たした。これ以上、危険人物達に関わるべきではない。先輩が戻ってくる前に帰ろう。急いで教室の出口に向かうと、無情にも扉が開いた。
「ん、どうした? 今、電話したらすぐに来るって言っていたから、少し待とう。」
「あの…俺っていないとだめなんですか?」
 僅かな期待を込めて尋ねた。
「もちろんだ。なにせ君は見てしまったんだからな。」
「先輩のパンツですか?」
「うるさいっ!」
 高木先輩は顔を赤くして怒鳴った。そして扉を閉める。
「いいか。ここからの話は必ず秘密にすること。」
「じゃあ、秘密のままでいいんですけど。」
「ダメだ。お前はもう当事者の一人なんだから。」
 そんなぁ…
「今から百年前…」
「百年前!?」
 高木先輩は俺の反応を無視して言葉を続けた。
「この高校の初代理事長が開校前日に裏庭を歩いていると、倒れている子供を見つけた。慌てて駆け寄り声をかけると、その子供は『自分は魔王の娘だ。少し眠れば良くなる』と答えたそうだ。ただならぬ事態を察した理事長は、理事長室にあった本棚を今でいうDIYで改造し、人ひとり分が入れる戸付きの箱を用意した。そしてもう一度その子供のところへ行き、安心して眠れる場所を用意したことを伝えた。子供は理事長の提案を受け入れ、その箱の中に入って眠りについたという。箱は理事長の代替わりの際に、初代によってこの空き部屋へと移された。そのように初代理事長の手記には残されている。」
 そう言ってラフェの方に顔を向けた。
「そして百年経った今日、扉は開かれた。」
 視線を向けられたラフェは頬を膨らませた。
「子供子供って失礼な! 私は三百年以上も生きているんだぞ! 敬え!」
 ラフェの抗議を無視して、高木先輩は俺の方を振り向く。
「こいつの存在はごく一部の関係者しか知らない。ここまで話したということは、どういうことか分かるな?」
 受け入れたくはなかったが、認めざるを得ない。ラフェは魔王の娘で、何故かこの世界にきて、そして巻き込まれ体質によりその存在を知ってしまった俺は簡単には逃がしてもらえないらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメンストーカーに目を付けられましたが全力で逃げます!

Karamimi
恋愛
中学卒業間近に、ラブレターを晒されるというトラウマ的出来事を経験した渚。 もう男なんて大っ嫌い!絶対彼氏なんか作らない! そう決意したはずなのに。 学年一のイケメン、片岡隆太に告白される。 これはきっと何かの間違いだ… そう思っていたのに… どんどんストーカー化する隆太、周りもどんどん固められていき、追い詰められる渚! この絶体絶命の自体に、渚は逃げ切れるのか!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...