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わたしの願い事
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「私はご飯作ってるから、茜君は先にお風呂入ってきてもいいよ」
「ありがとう。じゃあそうさせてもらうよ」
茜君をお風呂に送り出して、私はキッチンに立つ。さあ、ここからが本番だ。
一緒に暮らすことになって、家事は二人で分担すると決めた。洗濯や掃除は一人暮らしをしていた茜君の方が慣れていて、始めは色々と教えてもらった。でも料理に関して茜君は全くで、カップラーメンしか作れないと自信たっぷりに豪語していた。そんな風だから、料理だけは私が出来るだけやろうと思った。もう何年も入院していたから、最後に包丁を握ったのも思い出せないくらい。それでも料理番組や料理本を見て、少しずつ練習していった。
最初に作ったのは卵焼き。味は濃いし、焦げ目は付きすぎるしで散々だった。それでも茜君は文句を言わずに食べてくれた。だから次はもっと頑張ろうと思えた。
涙を流しながら切った玉ねぎは飴色に。肉だねにはナツメグを少し。せっかくだから形はハートにしようかな。
「おまたせ。出来たよ」
湯気の立つデミグラスハンバーグをテーブルに並べた。うん、なかなかいい出来じゃないか。
「ありがとう。……いただきます」
そう言って茜君はハンバーグを口にした。さて、私も一口。
その瞬間、固まってしまった。お肉が……お肉が硬い! どうして!? ハンバーグというか、ぎゅっと詰まったお肉の塊を食べているみたいな。見た目はこんなに美味しそうなのに!
恐る恐る茜君の方を見ると、何も言わずに黙々とカチコチのハンバーグを口に運んでいる。
「ああ……ごめん! ハンバーグ失敗しちゃった。無理して食べなくていいから、ね?」
私の言葉に、茜君は顔を上げた。
「確かにちょっと硬めだけど、普通に美味いぞ? 波瑠が作ってくれたものは何でも美味いと思うけど」
そう言ってまた食べ始めた。
正直私の料理は下手くそで、ちゃんと煮えてなかったり、味が薄かったり、失敗ばかりだ。それなのに茜君は美味しいと言っていつも食べてくれる。これは優しさというより、ちょっと茜君の味覚が変なんじゃないかって最近は疑っている。だからもっと上手くなって、本当に美味しい料理で茜君のお腹をいっぱいにしたい。
「ありがとう。また頑張って作るね」
「波瑠は明日の病院、十時からだっけ?」
並んで食後のお茶を飲んでいると、茜君が言った。
「うん。茜君は十二時から講座だったよね。私は六時に出るから朝ごはんは一緒に食べられないけど、冷蔵庫におにぎり用意しておくね」
そうだ、今のうちに明日の朝ご飯と茜君のお弁当を作らないと。ご飯を早炊きでセットして、お弁当は冷凍してあるお米でオムライスにして……ご飯が炊けたら、おにぎりの具は梅干しと鮭フレークにしよう。
立ち上がってキッチンに向かおうとすると、背中に声が掛かった。
「なあ、前から思ってたんだけどさ。病院行くとき、家を出るの早すぎないか? 確かに実家にいた頃よりはちょっと離れたけど、せいぜい電車で4駅だろ? 歩く時間を考えたとしても一時間もかからないのに、いつもどこかに寄ってるのか」
振り向くと、茜君もこっちを振り向いていた。まあ、確かにそう思うよね。
「朝の散歩って結構気持ちがいいんだよ。そんなに朝強いわけでもないから、午前中の用事でもないと早く起きられないし。前に病院の帰りにクロワッサン買ってきた時があったでしょ? それだって、散歩の途中でたまたま見つけたんだよ」
「……そうか。なら、いいけど」
納得してくれたのか、茜君は体の向きを戻した。もちろん今言ったことに嘘はない。でも、本当の理由は茜君には教えてあげないけどね。
「ありがとう。じゃあそうさせてもらうよ」
茜君をお風呂に送り出して、私はキッチンに立つ。さあ、ここからが本番だ。
一緒に暮らすことになって、家事は二人で分担すると決めた。洗濯や掃除は一人暮らしをしていた茜君の方が慣れていて、始めは色々と教えてもらった。でも料理に関して茜君は全くで、カップラーメンしか作れないと自信たっぷりに豪語していた。そんな風だから、料理だけは私が出来るだけやろうと思った。もう何年も入院していたから、最後に包丁を握ったのも思い出せないくらい。それでも料理番組や料理本を見て、少しずつ練習していった。
最初に作ったのは卵焼き。味は濃いし、焦げ目は付きすぎるしで散々だった。それでも茜君は文句を言わずに食べてくれた。だから次はもっと頑張ろうと思えた。
涙を流しながら切った玉ねぎは飴色に。肉だねにはナツメグを少し。せっかくだから形はハートにしようかな。
「おまたせ。出来たよ」
湯気の立つデミグラスハンバーグをテーブルに並べた。うん、なかなかいい出来じゃないか。
「ありがとう。……いただきます」
そう言って茜君はハンバーグを口にした。さて、私も一口。
その瞬間、固まってしまった。お肉が……お肉が硬い! どうして!? ハンバーグというか、ぎゅっと詰まったお肉の塊を食べているみたいな。見た目はこんなに美味しそうなのに!
恐る恐る茜君の方を見ると、何も言わずに黙々とカチコチのハンバーグを口に運んでいる。
「ああ……ごめん! ハンバーグ失敗しちゃった。無理して食べなくていいから、ね?」
私の言葉に、茜君は顔を上げた。
「確かにちょっと硬めだけど、普通に美味いぞ? 波瑠が作ってくれたものは何でも美味いと思うけど」
そう言ってまた食べ始めた。
正直私の料理は下手くそで、ちゃんと煮えてなかったり、味が薄かったり、失敗ばかりだ。それなのに茜君は美味しいと言っていつも食べてくれる。これは優しさというより、ちょっと茜君の味覚が変なんじゃないかって最近は疑っている。だからもっと上手くなって、本当に美味しい料理で茜君のお腹をいっぱいにしたい。
「ありがとう。また頑張って作るね」
「波瑠は明日の病院、十時からだっけ?」
並んで食後のお茶を飲んでいると、茜君が言った。
「うん。茜君は十二時から講座だったよね。私は六時に出るから朝ごはんは一緒に食べられないけど、冷蔵庫におにぎり用意しておくね」
そうだ、今のうちに明日の朝ご飯と茜君のお弁当を作らないと。ご飯を早炊きでセットして、お弁当は冷凍してあるお米でオムライスにして……ご飯が炊けたら、おにぎりの具は梅干しと鮭フレークにしよう。
立ち上がってキッチンに向かおうとすると、背中に声が掛かった。
「なあ、前から思ってたんだけどさ。病院行くとき、家を出るの早すぎないか? 確かに実家にいた頃よりはちょっと離れたけど、せいぜい電車で4駅だろ? 歩く時間を考えたとしても一時間もかからないのに、いつもどこかに寄ってるのか」
振り向くと、茜君もこっちを振り向いていた。まあ、確かにそう思うよね。
「朝の散歩って結構気持ちがいいんだよ。そんなに朝強いわけでもないから、午前中の用事でもないと早く起きられないし。前に病院の帰りにクロワッサン買ってきた時があったでしょ? それだって、散歩の途中でたまたま見つけたんだよ」
「……そうか。なら、いいけど」
納得してくれたのか、茜君は体の向きを戻した。もちろん今言ったことに嘘はない。でも、本当の理由は茜君には教えてあげないけどね。
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