今夜、君の夢が見られますように

亜瑠真白

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夏の夢

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 片付けをして図書館を出ると、空には灰色の雲が立ち込めていた。
「雨、降りそうだね」

 波瑠の言葉の通り、街を歩いているとぽつぽつと雨が降り始めた。近くのシャッターが閉まった店先に急いで避難する。

「ちょっと濡れちゃったね。シャツが張り付くのってなんか嫌な感じ」
 そう言われて無意識に波瑠の方を向いた。白いシャツから肌色が透けて見えるのが生々して、慌てて顔を逸らす。
「か、傘買ってくるよ」
 雨の中に出て行こうとすると、波瑠が俺のシャツの袖口をくいっと引っ張った。
「茜君がもっと濡れちゃうよ。雨が止むまで一緒に待っていよう?」
「分かった……」

 波瑠の方を見ないように、雨の降る街を眺める。それなのに、波瑠のいる右側に意識が向いて落ち着かない感じがした。呼吸が浅くなる。

「ねえ、この前『運命があるか』って話したの、覚えてる?」
「あ……ああ、覚えてるよ」
「保留にしてた私の考えなんだけどね、運命はもしかしたらあるのかもしれないけど、あんまり信じてないかな」
「どうして?」
「私ね、病気のせいで学校に行けてないの」
「え……?」

 波瑠が……病気?

「安心して、今は体調大丈夫だから。部屋で横になっているよりも、外に出たほうがよっぽど調子いい気がするし。それで、私の病気がこの先どうなるかがもし運命で決まっているとしても、そんなのを信じる気はさらさらない。だから好き勝手に眩しく生きようと思うの」
 そう言うと波瑠は俺の腕を掴んで引き寄せた。目が合うと波瑠はニッと笑った。

「私がいま茜君といるのは私の意思。だって私達がニセモノの制服を買って街を歩くなんて運命、神様が決めてたらユニーク過ぎない?」
 その言葉に思わず吹き出した。
「ふはっ、それはとんだ変態だな」
 俺につられて波瑠も笑いだす。
「でしょ? だからきっと私達の未来はこれから好きに出来るんだよ」
 波瑠がそう言うから本当にそんな気がした。波瑠の言葉には惹きつける力がある。

「もしさ、私達がクラスメイトとして出会ってたらどうだったんだろうね。こんな風に一緒に雨宿りしたかな」
「接点ないし、ただのクラスメイトAだったんじゃないか?」
 波瑠は明るくて可愛くて、きっとクラスの人気者になっていただろう。それに比べて俺は人付き合いが苦手な暗い奴で、そんな俺達が関わるはずない。
「ええ、そうかな? 小湊と佐伯だから、名簿順で前後の席になってそれがきっかけで話す様になったかも」

 明るい日差しが差し込む教室。がやがやと話をするクラスメイト達。ふと後ろの席を振り向くと制服姿の波瑠が俺に笑いかける、そんな都合のいい妄想が頭に浮かんで、慌ててかき消した。

「波瑠は初対面でも構わずに距離詰めてくるからな。俺のことが好きなんだと勘違いした男達が被害者の会を作りそうだな」
「もう! 別にそんなことしないもん」
 そう言って抗議するように肩で小突いた。
「茜君は本が好きだから図書委員とかやってそうだよね。お昼休みは図書室のカウンターで難しい本読んでそう」
 架空の学校生活でも俺はボッチなのかよ。まあ、男友達が出来るのなんて想像もできないけど。
「それで、暇そうだから私が遊びに行ってあげるの。今日は何読んでるのーって」
「波瑠がいたら毎日退屈しなさそうだな」
「それ、褒めてるんだよね? ……ふふっ」
 波瑠は楽しそうに笑った。
「まあ、退屈しないのは今もそうか。お金を渡してデートするなんて聞いたことないからな」

 そう言って俺は財布から百円玉を取り出した。

「ほら、今日の分」
 波瑠は百円玉に手を伸ばして、途中で止めた。
「これを私が受け取らなかったら、今日は本当のデートをしたってことになっちゃうね」
 そんな言葉に心臓が跳ねた。波瑠は試すみたいに俺を見つめている。波瑠は他に気になるやつがいるわけで、それなのに俺はなんて言ったらいいんだろう……
「それは……」
「あ、雨が上がったみたい」
 そう言われて空を見上げる。いつも間にか雨は上がり、青空が見えた。
 その時、手のひらからお金を拾い上げる感触があった。

「残念。帰らなくちゃ」
 波瑠は大人っぽい笑みを浮かべると、先を歩いて行った。
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