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夏の夢

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 俺達はトイレでそれぞれ制服に着替えることになった。俺は波瑠の希望で学ランを買った。
 今まで制服には縁がなかった。かといって特に憧れもなかった訳だけど、まさかこんなタイミングで着ることになるなんてな。
 ただこんな真夏に学ランの上着を着る訳もなく、白シャツに黒のズボンじゃいつもと変わり映えはしなかった。

 着替えて外で待っていると、パタパタと足音が聞こえた。そっちを振り向く。

「お待たせー! ちょっと手こずっちゃった」
 その姿に目を奪われる。白いシャツと赤いリボンのコントラスト。シャツの襟口からは鎖骨が覗く。
「えへへ、髪も縛ってみたんだ。どうかな?」

 いつもの長い髪を一つに束ねて、首のラインもよく見えた。でも、それ以上に……
 視線を下に向けると、膝上でチェックのスカートが揺れる。白く伸びる足が眩しくて、目のやり場に困る。いつもはもっと丈の長いスカートで隠しているから、今日はなんか……

「茜君? あ、もしかして、私に見とれてた? なんちゃって……」
「……悪いかよ」
「え?」
「ほら、着替えたんだし行こうぜ」
「あ……うん! 案内するね」



 隣を歩く波瑠は、突然くるっと一回転した。
「ねえねえ、私達、ちゃんと高校生に見えてるかな?」
「学校をさぼってる不良には見えてるかもな」
「ええー、茜君のイジワル」
 そう言って不満そうに頬を膨らませた。

「じゃあ、一緒に学校をさぼってるカップルには見えてるかな?」
「カップルじゃないだろ」
「茜君は今好きな人、いる?」
「いないよ」
「それなら、気になる人は? 一緒にいたいなって思う人」

 いないって言えばいいのに、言葉に詰まった。

「ああ! その反応はいるんでしょ! ねえ、どんな子?」
 無邪気に体を寄せてきた波瑠と目が合う。俺は顔を逸らした。
「俺と違って、明るくて人生楽しそうな奴」
「へぇ、そういう子が好みなんだ。歳は? どうやって知り合ったの?」
「俺ばっかりは不公平だろ。波瑠も答えろよ」
 俺の言葉に波瑠は口元に手を当てて考える素振りを見せた。
「んー、私の好きな人は、優しくって一緒にいて楽しい人だよ」
 そう答える波瑠は相手を思い出して顔が赤くなっているように見えた。

 波瑠は「気になる人」じゃなくて「好きな人」と言った。俺とは全然違うソイツが羨ましくて胸が焼けそうになる。それはそうだ。もし俺が女だったら、俺みたいな陰気な奴、彼氏になんて絶対したくない。
 波瑠がどうして俺と一緒にいるのか、自信はない。でも隣にいることが許されるなら、「もっと近づきたい」と欲を出してもいいのだろうか。
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