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夏の夢
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「茜君、起きて」
声がして目を開けると、波瑠が俺を覗き込んでいた。
「もう朝になっちゃったよ。二人とも、よく寝たね」
そう言って照れたように笑う。そして立ち上がると、河川敷を上っていった。
「さて、そろそろ帰らないと。帰り道はどっちかな?」
眩しそうに日光を手で遮る。朝陽に照らされた彼女の横顔はとても綺麗だった。その彼女に近づきたくて、俺は体を起こす。
その時、突然やってきた自転車に彼女ははねられた。
「茜君、起きて」
その声に俺は飛び起きた。冷汗が背中を伝う。
目の前の波瑠は驚いたように目を丸く見開いた後、優しく微笑んだ。
「もう朝になっちゃったよ。二人とも、よく寝たね」
そう言って、さっき見たのと同じように照れて笑った。そして立ち上がると、河川敷を上っていく。
心臓がバクバクと早鐘をうつ。
「さて、そろそろ帰らないと。帰り道はどっちかな?」
眩しそうに日光を手で遮る。俺は必死になって、波瑠の背中を追いかけた。
「波瑠……!」
「え?」
振り向いた彼女の腕を強引に引っ張って、バランスの崩れた体を全身で受け止める。目の前を自転車が通り過ぎていった。
「ごめんね、周りが見えてなくって。茜君、大丈夫?」
呼吸が荒くなって、視界にもやがかかる。俺は馬鹿だ……あんなに気を付けていたのに、波瑠の夢を見てしまった。今回はたまたま回避できたからよかったけど、目の前で波瑠が事故に遭っていたらと思うと怖くて仕方ない。俺のせいで波瑠が……
「茜君!」
強引に手で顔を持ち上げられる。真っ直ぐな瞳が俺を見つめていた。
「私を見て。今思ってること、全部言って」
その視線から逃れることは出来ない。ぽつぽつと言葉が出てくる。
「……波瑠の夢を見た。波瑠が自転車にはねられる夢。身近な人の不幸を夢に見るのも、不幸に遭う現実を変えられなかった時も怖い」
「でも、茜君は私を助けてくれたでしょ?」
「今回は運がよかっただけで! もしまた夢を見てしまったら、その時は……!」
「茜君、目、閉じて」
「え……?」
「私が、怖くなくなるおまじないをかけてあげるから」
そう言われて、俺は目を閉じた。瞼の裏には今朝見た夢の光景が浮かぶ。彼女が自転車にはねられるのを、俺はなすすべもなく見つめていた。波瑠が傷つく未来なんてもう二度と見たくない。
その時、額に柔らかな感触があった。キスされた、と理解するのに数秒かかった。
目を開けると、波瑠は満足そうに笑っていた。
「ほら、もう私のことで頭がいっぱいになったでしょ。唇にするのは本当に好きな人のために取っておいてあげるね」
波瑠に触れられた場所からむず痒いような感覚が体に広がる。初めての刺激に体が熱くなった。
「もし怖い思いに押しつぶされそうになったら、このキスを思い出してよ……私もそうするから」
そう言うと、波瑠は俺から一歩距離を取った。
「それじゃあ、本当にもう帰らないと。また連絡するね」
「……ああ、俺も連絡する」
「ふふっ、じゃあ楽しみにしてる。またね」
波瑠は笑顔を見せて、その場を去った。
声がして目を開けると、波瑠が俺を覗き込んでいた。
「もう朝になっちゃったよ。二人とも、よく寝たね」
そう言って照れたように笑う。そして立ち上がると、河川敷を上っていった。
「さて、そろそろ帰らないと。帰り道はどっちかな?」
眩しそうに日光を手で遮る。朝陽に照らされた彼女の横顔はとても綺麗だった。その彼女に近づきたくて、俺は体を起こす。
その時、突然やってきた自転車に彼女ははねられた。
「茜君、起きて」
その声に俺は飛び起きた。冷汗が背中を伝う。
目の前の波瑠は驚いたように目を丸く見開いた後、優しく微笑んだ。
「もう朝になっちゃったよ。二人とも、よく寝たね」
そう言って、さっき見たのと同じように照れて笑った。そして立ち上がると、河川敷を上っていく。
心臓がバクバクと早鐘をうつ。
「さて、そろそろ帰らないと。帰り道はどっちかな?」
眩しそうに日光を手で遮る。俺は必死になって、波瑠の背中を追いかけた。
「波瑠……!」
「え?」
振り向いた彼女の腕を強引に引っ張って、バランスの崩れた体を全身で受け止める。目の前を自転車が通り過ぎていった。
「ごめんね、周りが見えてなくって。茜君、大丈夫?」
呼吸が荒くなって、視界にもやがかかる。俺は馬鹿だ……あんなに気を付けていたのに、波瑠の夢を見てしまった。今回はたまたま回避できたからよかったけど、目の前で波瑠が事故に遭っていたらと思うと怖くて仕方ない。俺のせいで波瑠が……
「茜君!」
強引に手で顔を持ち上げられる。真っ直ぐな瞳が俺を見つめていた。
「私を見て。今思ってること、全部言って」
その視線から逃れることは出来ない。ぽつぽつと言葉が出てくる。
「……波瑠の夢を見た。波瑠が自転車にはねられる夢。身近な人の不幸を夢に見るのも、不幸に遭う現実を変えられなかった時も怖い」
「でも、茜君は私を助けてくれたでしょ?」
「今回は運がよかっただけで! もしまた夢を見てしまったら、その時は……!」
「茜君、目、閉じて」
「え……?」
「私が、怖くなくなるおまじないをかけてあげるから」
そう言われて、俺は目を閉じた。瞼の裏には今朝見た夢の光景が浮かぶ。彼女が自転車にはねられるのを、俺はなすすべもなく見つめていた。波瑠が傷つく未来なんてもう二度と見たくない。
その時、額に柔らかな感触があった。キスされた、と理解するのに数秒かかった。
目を開けると、波瑠は満足そうに笑っていた。
「ほら、もう私のことで頭がいっぱいになったでしょ。唇にするのは本当に好きな人のために取っておいてあげるね」
波瑠に触れられた場所からむず痒いような感覚が体に広がる。初めての刺激に体が熱くなった。
「もし怖い思いに押しつぶされそうになったら、このキスを思い出してよ……私もそうするから」
そう言うと、波瑠は俺から一歩距離を取った。
「それじゃあ、本当にもう帰らないと。また連絡するね」
「……ああ、俺も連絡する」
「ふふっ、じゃあ楽しみにしてる。またね」
波瑠は笑顔を見せて、その場を去った。
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