上 下
4 / 47
春の夢

4

しおりを挟む
 買い物が終わって、俺達は近くに会った公園のベンチに腰掛けた。まだ夕方と言うには早く、子供の姿はない。

「いいものが買えてよかったよ。レイ君、付き合ってくれてありがとね。家族以外とお買い物なんて、憧れてたから楽しかったなぁ」
「女子ってそういうのよくやるんじゃないのか? 友達多そうだし」

 確かにちょっとおかしな奴だとは思うけど、人生楽しそうで、明るくて、行動力の塊みたいだから、きっと陽キャで女子グループの中心にいるんだろうと思った。それなら何で今日は学校をさぼっているのか疑問だけど。
 俺の言葉にハルは空を見上げた。

「残念ながら私に友達はいませーん。あと、これ以上は事情を詮索しないっていうルールに則り、追求禁止としまーす」
「えっと、なんかごめん……」

 ハルは俺の顔を指さした。

「謝るのも禁止! なんか私が可哀想みたいじゃん」
 そう言ってそっぽ向いた。
「安心しろ。俺も友達いないから別に可哀想とかは思ってない」
 俺の言葉にハルは吹き出した。

「ふふっ、私達ボッチ同盟だね」
「嫌な同盟だな」
「友達とカフェでお茶したり、彼氏と遊園地に行ったり、そういうのって憧れるけど私には無理な話だなって思っちゃう。諦めるなんて、周りからしたらまだ頑張りが足りないんだろうけど」
「頑張ってるかどうかは自分が決めることだろ」
「えっ?」
 驚いた顔で俺を見つめる。

「周りからどう思われるかなんて関係ない。自分が頑張ってると思うならそれでいいだろ。それでもとやかく口を出してくる奴のことなんて放っておけ」
 すると突然、ハルは声をあげて笑い始めた。

「あはは、放っておけって……レイ君、面白すぎ。でも、そうだよね。私は頑張ってる! だからそれでよし! なんだ、そんな簡単なことだったんだ」
 そしてハルは俯いて呟いた。

「やっぱり君を選んで正解だった」

 その言葉の意味が分からなくて、反応に困った。すると突然、ハルは立ち上がった。
「あ! 猫だ!」
 そう言って、公園の茂みの方に走って行く。

「おい、また道路に飛びだしたりするなよ!」
 俺の言葉にハルは足を止めて振り向いた。
「もしそうなったら、またレイ君が助けてくれるんでしょ?」
 そう言って笑う。あんなのはもうごめんだ。

 ハルは足音をひそめて茂みの側に近づいた。なんとなく放っておくのが心配で俺も後ろに続いた。茂みの陰を二人で覗き込むと、小さな三毛猫が丸くなっていた。

「可愛いねぇ」
 ハルが小声で言う。本当に嬉しそうな顔に思わず胸がウッとつっかえる。こんな感覚は知らない。
「……そうだな」
 その時、俺の電話が鳴った。その音で猫が逃げて行ってしまう。

「悪い」
 俺はすぐに電話を切った。
「猫のことは仕方ないよ。電話、出ないの?」
「ああ、もういいんだ」
 また電話が鳴り始めた。
「また鳴ってるよ?」
「ちょっと行ってくる」
 仕方なくその場を離れた。

 俺の電話番号を知ってるのは一人しかいない。電話に出ると、聞きなれた低い男の声がする。
『もうお前の家の前についてるぞ。居留守か?』
「仕事には行かない」
 それだけ言って電話を切った。

「よかった、ちゃんと戻って来てくれて」
 ハルはベンチに戻ってきた俺を見て言った。
「勝手に帰ったらさすがに後味が悪いからな」
 そう言って隣に座る。
「そっか、そうだよね。今日はすっごく楽しかったよ。もっと一緒にいたいけど、満足してあげる」
 変な言い方に思わず笑ってしまった。
「ははっ、何だよそれ」

 ハルは俺に手の平を差し出した。

「はい」
「なに、金か?」
 ほんの冗談のつもりだった。
「うん、そう」
 ハルは真面目な顔でそう言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ぽっちゃり好きの望まない青春

mazecco
青春
◆◆◆第6回ライト文芸大賞 奨励賞受賞作◆◆◆ 人ってさ、テンプレから外れた人を仕分けるのが好きだよね。 イケメンとか、金持ちとか、デブとか、なんとかかんとか。 そんなものに俺はもう振り回されたくないから、友だちなんかいらないって思ってる。 俺じゃなくて俺の顔と財布ばっかり見て喋るヤツらと話してると虚しくなってくるんだもん。 誰もほんとの俺のことなんか見てないんだから。 どうせみんな、俺がぽっちゃり好きの陰キャだって知ったら離れていくに決まってる。 そう思ってたのに…… どうしてみんな俺を放っておいてくれないんだよ! ※ラブコメ風ですがこの小説は友情物語です※

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

疾風バタフライ

霜月かずひこ
青春
中学での挫折から卓球を諦めた少年、越谷廉太郎。 高校では充実した毎日を送ろうと普通の進学校を選んだ。 はずだったのだが、 「越谷くん、卓球しよ?」 彼の前に現れたのは卓球の神様に愛された天才少女・朝倉寧々。 輝かしい経歴を持つ彼女はなぜか廉太郎のことを気にかけていて? 卓球にすべてをかける少年少女たちの熱い青春物語が始まる! * 真夏の冬将軍という名義で活動していた時のものを微修正した作品となります。 以前はカクヨム等に投稿していました。(現在は削除済み) 現在は小説家になろうとアルファポリスで連載中です。

ほつれ家族

陸沢宝史
青春
高校二年生の椎橋松貴はアルバイトをしていたその理由は姉の借金返済を手伝うためだった。ある日、松貴は同じ高校に通っている先輩の永松栗之と知り合い仲を深めていく。だが二人は家族関係で問題を抱えており、やがて問題は複雑化していく中自分の家族と向き合っていく。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

【完結】眼鏡ごしの空

一茅苑呼
青春
幼なじみの『彼』に似た先輩。 「いまでもオレ、松原のことが好きだよ」 ───『彼』に似ているから駄目なのに、『彼』に似すぎているから、突き放すことができない……。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...