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春の夢
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買い物が終わって、俺達は近くに会った公園のベンチに腰掛けた。まだ夕方と言うには早く、子供の姿はない。
「いいものが買えてよかったよ。レイ君、付き合ってくれてありがとね。家族以外とお買い物なんて、憧れてたから楽しかったなぁ」
「女子ってそういうのよくやるんじゃないのか? 友達多そうだし」
確かにちょっとおかしな奴だとは思うけど、人生楽しそうで、明るくて、行動力の塊みたいだから、きっと陽キャで女子グループの中心にいるんだろうと思った。それなら何で今日は学校をさぼっているのか疑問だけど。
俺の言葉にハルは空を見上げた。
「残念ながら私に友達はいませーん。あと、これ以上は事情を詮索しないっていうルールに則り、追求禁止としまーす」
「えっと、なんかごめん……」
ハルは俺の顔を指さした。
「謝るのも禁止! なんか私が可哀想みたいじゃん」
そう言ってそっぽ向いた。
「安心しろ。俺も友達いないから別に可哀想とかは思ってない」
俺の言葉にハルは吹き出した。
「ふふっ、私達ボッチ同盟だね」
「嫌な同盟だな」
「友達とカフェでお茶したり、彼氏と遊園地に行ったり、そういうのって憧れるけど私には無理な話だなって思っちゃう。諦めるなんて、周りからしたらまだ頑張りが足りないんだろうけど」
「頑張ってるかどうかは自分が決めることだろ」
「えっ?」
驚いた顔で俺を見つめる。
「周りからどう思われるかなんて関係ない。自分が頑張ってると思うならそれでいいだろ。それでもとやかく口を出してくる奴のことなんて放っておけ」
すると突然、ハルは声をあげて笑い始めた。
「あはは、放っておけって……レイ君、面白すぎ。でも、そうだよね。私は頑張ってる! だからそれでよし! なんだ、そんな簡単なことだったんだ」
そしてハルは俯いて呟いた。
「やっぱり君を選んで正解だった」
その言葉の意味が分からなくて、反応に困った。すると突然、ハルは立ち上がった。
「あ! 猫だ!」
そう言って、公園の茂みの方に走って行く。
「おい、また道路に飛びだしたりするなよ!」
俺の言葉にハルは足を止めて振り向いた。
「もしそうなったら、またレイ君が助けてくれるんでしょ?」
そう言って笑う。あんなのはもうごめんだ。
ハルは足音をひそめて茂みの側に近づいた。なんとなく放っておくのが心配で俺も後ろに続いた。茂みの陰を二人で覗き込むと、小さな三毛猫が丸くなっていた。
「可愛いねぇ」
ハルが小声で言う。本当に嬉しそうな顔に思わず胸がウッとつっかえる。こんな感覚は知らない。
「……そうだな」
その時、俺の電話が鳴った。その音で猫が逃げて行ってしまう。
「悪い」
俺はすぐに電話を切った。
「猫のことは仕方ないよ。電話、出ないの?」
「ああ、もういいんだ」
また電話が鳴り始めた。
「また鳴ってるよ?」
「ちょっと行ってくる」
仕方なくその場を離れた。
俺の電話番号を知ってるのは一人しかいない。電話に出ると、聞きなれた低い男の声がする。
『もうお前の家の前についてるぞ。居留守か?』
「仕事には行かない」
それだけ言って電話を切った。
「よかった、ちゃんと戻って来てくれて」
ハルはベンチに戻ってきた俺を見て言った。
「勝手に帰ったらさすがに後味が悪いからな」
そう言って隣に座る。
「そっか、そうだよね。今日はすっごく楽しかったよ。もっと一緒にいたいけど、満足してあげる」
変な言い方に思わず笑ってしまった。
「ははっ、何だよそれ」
ハルは俺に手の平を差し出した。
「はい」
「なに、金か?」
ほんの冗談のつもりだった。
「うん、そう」
ハルは真面目な顔でそう言った。
「いいものが買えてよかったよ。レイ君、付き合ってくれてありがとね。家族以外とお買い物なんて、憧れてたから楽しかったなぁ」
「女子ってそういうのよくやるんじゃないのか? 友達多そうだし」
確かにちょっとおかしな奴だとは思うけど、人生楽しそうで、明るくて、行動力の塊みたいだから、きっと陽キャで女子グループの中心にいるんだろうと思った。それなら何で今日は学校をさぼっているのか疑問だけど。
俺の言葉にハルは空を見上げた。
「残念ながら私に友達はいませーん。あと、これ以上は事情を詮索しないっていうルールに則り、追求禁止としまーす」
「えっと、なんかごめん……」
ハルは俺の顔を指さした。
「謝るのも禁止! なんか私が可哀想みたいじゃん」
そう言ってそっぽ向いた。
「安心しろ。俺も友達いないから別に可哀想とかは思ってない」
俺の言葉にハルは吹き出した。
「ふふっ、私達ボッチ同盟だね」
「嫌な同盟だな」
「友達とカフェでお茶したり、彼氏と遊園地に行ったり、そういうのって憧れるけど私には無理な話だなって思っちゃう。諦めるなんて、周りからしたらまだ頑張りが足りないんだろうけど」
「頑張ってるかどうかは自分が決めることだろ」
「えっ?」
驚いた顔で俺を見つめる。
「周りからどう思われるかなんて関係ない。自分が頑張ってると思うならそれでいいだろ。それでもとやかく口を出してくる奴のことなんて放っておけ」
すると突然、ハルは声をあげて笑い始めた。
「あはは、放っておけって……レイ君、面白すぎ。でも、そうだよね。私は頑張ってる! だからそれでよし! なんだ、そんな簡単なことだったんだ」
そしてハルは俯いて呟いた。
「やっぱり君を選んで正解だった」
その言葉の意味が分からなくて、反応に困った。すると突然、ハルは立ち上がった。
「あ! 猫だ!」
そう言って、公園の茂みの方に走って行く。
「おい、また道路に飛びだしたりするなよ!」
俺の言葉にハルは足を止めて振り向いた。
「もしそうなったら、またレイ君が助けてくれるんでしょ?」
そう言って笑う。あんなのはもうごめんだ。
ハルは足音をひそめて茂みの側に近づいた。なんとなく放っておくのが心配で俺も後ろに続いた。茂みの陰を二人で覗き込むと、小さな三毛猫が丸くなっていた。
「可愛いねぇ」
ハルが小声で言う。本当に嬉しそうな顔に思わず胸がウッとつっかえる。こんな感覚は知らない。
「……そうだな」
その時、俺の電話が鳴った。その音で猫が逃げて行ってしまう。
「悪い」
俺はすぐに電話を切った。
「猫のことは仕方ないよ。電話、出ないの?」
「ああ、もういいんだ」
また電話が鳴り始めた。
「また鳴ってるよ?」
「ちょっと行ってくる」
仕方なくその場を離れた。
俺の電話番号を知ってるのは一人しかいない。電話に出ると、聞きなれた低い男の声がする。
『もうお前の家の前についてるぞ。居留守か?』
「仕事には行かない」
それだけ言って電話を切った。
「よかった、ちゃんと戻って来てくれて」
ハルはベンチに戻ってきた俺を見て言った。
「勝手に帰ったらさすがに後味が悪いからな」
そう言って隣に座る。
「そっか、そうだよね。今日はすっごく楽しかったよ。もっと一緒にいたいけど、満足してあげる」
変な言い方に思わず笑ってしまった。
「ははっ、何だよそれ」
ハルは俺に手の平を差し出した。
「はい」
「なに、金か?」
ほんの冗談のつもりだった。
「うん、そう」
ハルは真面目な顔でそう言った。
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