今夜、君の夢が見られますように

亜瑠真白

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春の夢

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 歩いていると、桜並木の終わりにたどり着いた。
「桜もここまでかぁ」
 立ち止まったハルが悲しそうに言う。
「そうみたいだな」

 ここまでついてきたけど、これ以上付き合ってやる義理はない。

「じゃあ、俺はこの辺で……」
 歩いていこうとする俺の腕をハルが掴んだ。
「ちょっと! 私まだ『満足した』って言ってないよ!」
「……お前なぁ、よく出会って数十分の人間にそんな執着できるな。俺がどんな奴かなんて知らないだろ。ひどい目に遭わされていたかもしれないんだぞ」

 普通に考えて男の方が力も強いんだから、危ない目に遭う可能性が高いのはハルの方だ。ここまで危機感がないのは心配を通り越して呆れてくる。
 俺の言葉にハルは薄く笑った。

「君がどんな人かなんて関係ないよ。あの場で死のうとしていたっていう事が私にとっては君の全て。正直、どんな目に遭ってもよかったんだよ」
 ハルの瞳は冷たく闇を宿していて、今までとは別人みたいだった。
「それって、どういう……」

 ハルは申し訳なさそうな顔になった。

「ごめん、ちょっと余計な事言っちゃったね。レイ君は私にひどい事なんてしなかったんだからそれでいいじゃん。もうちょっとだけ一緒にいてよ」
 一緒にいてほしい、なんてそんなことを言われたのは初めてかもしれない。俺の顔を見てハルは微笑む。
「ねえ、あっちに行ってみよう!」
 そう言うと、俺の手を取って走り出した。



 ハルに手を引かれて走る。他人と一緒にいるのは苦手だ。他人に余計な情を持ちたくない。そう思っているはずなのに、この手を振りほどけないのはどうしてだろう。力を出せば簡単にほどけるのに。本当は、俺もハルと一緒にいたいのか……?

 ハルが立ち止まったのは、こじんまりとした雑貨屋の前だった。店先にはネコ雑貨と書かれた看板がぶら下がっている。
「ネコ雑貨だって! ちょっと見て行こうよ」
 ハルに連れられて店に入る。店内は他に客が無く、オルゴール調のBGMがかすかに流れていた。

「わぁ……可愛いねぇ」
 棚に並んだ商品を見て、ハルは声を漏らす。猫をモチーフにしたアクセサリー、猫が描かれた食器、他にもいろいろ。猫関連の商品だけで店を埋めるほどよく集めたなと感心するほどだ。楽しそうに店内を見て回るハルの後ろを俺はついて歩いた。

「猫好きなのか?」
 何となく気になって聞いた。
「うん。昔から好きでいつか飼いたいなぁってずっと思っていたんだけどなかなか難しいよね。だからこういう猫のグッズとか、猫の動画を見て楽しんでるの」
「そうか……」

 まあ、生き物を飼うのは俺達みたいな子供が勝手に決められることじゃない。アパートがペット禁止とか、猫アレルギーとか、そもそも親が猫好きじゃないとか、色々あるんだろう。

「ねえ、これとこれだったらどっちがいいと思う?」
 そう言って見せてきたのは、猫の顔の形をしたポーチと、猫のシルエットをモチーフにしたシルバーネックレスだった。
「女子のそういう質問はもう答えが決まってるから、真面目に答えるだけ損だって本に書いてあった」
 俺の言葉にハルは頬を膨らませた。
「もう! そんな身も蓋もないこと言わないの。私はそんな女じゃないもん」

 まあ……そこまで言うならいいか。

「じゃあそっち」
 俺はネックレスを指差した。
「んふふ。私もこっちがいいと思ってた! じゃあ買ってくるね」
 そう言って機嫌よくレジへ歩いて行った。結局決まってたんじゃないか。
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