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春の夢
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ハルについて歩いていると川沿いの道に出た。繁華街から離れたのは俺に気を使ってくれたのか。
川沿いの桜並木は満開になっていた。ずっと先まで桜のラインが続いている。このあたりもこんなに咲いているなんて知らなかった。
「わぁー! 桜すごいねぇ!」
ハルは無邪気に駆け出す。
「こんなに近くで見たの、いつぶりだろ……」
そう呟いて嬉しそうに桜を眺めている。俺も外に出るのを避けるようになってから、桜なんて久しく見ていない。青空に映える薄ピンク色の花が昔は好きだったような気がする。
「綺麗だな……」
呟くように口を出た。
「レイ君もそう思う? それじゃあいい場所見つけちゃったね」
俺の顔を覗き込んでハルはニイっと笑った。慣れない距離感に少し戸惑う。
「桜の下を散歩しよっか。それもデートっぽいね」
「こんなに桜が満開になってるのに、見に来る人は少ないんだねぇ。穴場なのかな?」
隣を歩くハルが言う。並木道の先には老夫婦と子供を連れた母親がいるくらいだった。どうしてそんな当たり前のことを聞くのか。
「平日の昼間だからじゃないか?」
「ああ、そっか! すっかり忘れてたよ」
ハルは照れたように笑った。
同い年くらいなはずだから恐らく高校生。ハルにも学校へ行っていない何か事情があるんだろう。
「あ、今なに考えてるのか当ててあげよっか?」
俺の表情で察したのか、そう言った。
「ズバリ! 『天然なところも可愛いな。推せる』でしょ!」
なんでそんなことを自信満々に言えるんだ。
「……お前、人生楽しそうだな」
「えへへ。褒め言葉として受け取っておくよ」
そこで話は途切れて、俺はぼんやりと桜を見上げながら歩いた。この景色、なんだか懐かしい感じがする。昔の記憶は曖昧だからいつのことかは思い出せない。それにここは俺の生まれた場所じゃないのに。
「ちょっと!」
その声に振り向くとハルが膝に手をついて息を切らしていた。
「はぁ、はぁ……もう、歩くの早い!」
「悪い」
一人で歩くときは早足になるのが癖になっていた。誰かと一緒に歩くなんて普段はめったにないから感覚が分からない。
「もう、そんなんじゃいいデートは出来ないぞ!」
「デートなんて一生することないから大丈夫」
「今がデートでしょうが!」
そう言ってハルは俺の胸目がけてグーパンを突き出してくる。俺は手の平で受け止めた。
「おのれ、小癪な……」
ハルは悔しそうな顔をすると、両手でパンチを繰り出す。
「当たれっ! 当たれぇ!」
腕の軌道はバレバレで、それを受け止めることはたやすい。
「そんなんじゃいつまでたっても当たらないと思うけど」
「この……唸れ私の右腕!」
そう言って突き出した拳は、途中で急停止した。構えていた俺の手が空を切る。
「くふふ、かかったね」
ハルは俺を見て嬉しそうに笑う。その様子が全部嘘には見えなくて、「金が目的じゃない」というのも本当なのかもしれないと思った。それならどうして俺に声をかけたのか……まあ、そんなことは何でもいいか。
空気を掴んだ手には何かに触れた感触があった。そっと手を開くと、中には薄ピンク色の花びらが一枚入っていた。
「ええ!? いいなぁ!」
俺の手を覗き込んでハルは目を輝かせた。
「私も掴みたい!」
そう言うと、ハルは夢中になって花びらを追いかけ始めた。伸ばす手は空振りするばかりで、花びらにも触れられない。
「おい、もういいだろ……」
「レイ君は出来たからっていいけど、私は全然よくないんだから! 桜を掴めるまでやめないからね!」
「はぁ……!?」
一向に花びらを掴めそうな気配はない。いつまで続けるつもりだよ。
その時、ハルの追いかけていた花びらが風に吹かれて車道に飛ばされた。ハルも花びらの動きに夢中になって車道へ飛び出す―――
轟音をあげて車は遠ざかっていった。
「おい! 死にたいのか!」
咄嗟に腕を掴んで歩道へ引き寄せた勢いで、俺達は地面に尻もちをついていた。俺を見上げたハルはおかしそうに笑う。
「ふふっ、さっきまで死のうとしていた君に言われるなんてね」
自分が傷つくのは何とも思わないけど、目の前で人が傷つくところは見たくなかった。それに、そんなこと絶対に知られなくないけど、ハルにはほんの少しだけ情が湧いてしまっていた。
「……なんだよ」
「ううん、助けてくれてありがとう。まだレイ君とのデートを楽しみたいからね」
そう言ってハルは立ち上がると、服についた土を払う。
「桜を掴むのは諦めることにするよ。行こっか」
ハルは俺に手を差し出した。白くて細い腕だ。ちょっと力をかけたら簡単に折れてしまいそう。女子っていうのはみんなこうなのか?
断るのも違う気がして、差し出された手を軽く掴んで立ち上がった。
川沿いの桜並木は満開になっていた。ずっと先まで桜のラインが続いている。このあたりもこんなに咲いているなんて知らなかった。
「わぁー! 桜すごいねぇ!」
ハルは無邪気に駆け出す。
「こんなに近くで見たの、いつぶりだろ……」
そう呟いて嬉しそうに桜を眺めている。俺も外に出るのを避けるようになってから、桜なんて久しく見ていない。青空に映える薄ピンク色の花が昔は好きだったような気がする。
「綺麗だな……」
呟くように口を出た。
「レイ君もそう思う? それじゃあいい場所見つけちゃったね」
俺の顔を覗き込んでハルはニイっと笑った。慣れない距離感に少し戸惑う。
「桜の下を散歩しよっか。それもデートっぽいね」
「こんなに桜が満開になってるのに、見に来る人は少ないんだねぇ。穴場なのかな?」
隣を歩くハルが言う。並木道の先には老夫婦と子供を連れた母親がいるくらいだった。どうしてそんな当たり前のことを聞くのか。
「平日の昼間だからじゃないか?」
「ああ、そっか! すっかり忘れてたよ」
ハルは照れたように笑った。
同い年くらいなはずだから恐らく高校生。ハルにも学校へ行っていない何か事情があるんだろう。
「あ、今なに考えてるのか当ててあげよっか?」
俺の表情で察したのか、そう言った。
「ズバリ! 『天然なところも可愛いな。推せる』でしょ!」
なんでそんなことを自信満々に言えるんだ。
「……お前、人生楽しそうだな」
「えへへ。褒め言葉として受け取っておくよ」
そこで話は途切れて、俺はぼんやりと桜を見上げながら歩いた。この景色、なんだか懐かしい感じがする。昔の記憶は曖昧だからいつのことかは思い出せない。それにここは俺の生まれた場所じゃないのに。
「ちょっと!」
その声に振り向くとハルが膝に手をついて息を切らしていた。
「はぁ、はぁ……もう、歩くの早い!」
「悪い」
一人で歩くときは早足になるのが癖になっていた。誰かと一緒に歩くなんて普段はめったにないから感覚が分からない。
「もう、そんなんじゃいいデートは出来ないぞ!」
「デートなんて一生することないから大丈夫」
「今がデートでしょうが!」
そう言ってハルは俺の胸目がけてグーパンを突き出してくる。俺は手の平で受け止めた。
「おのれ、小癪な……」
ハルは悔しそうな顔をすると、両手でパンチを繰り出す。
「当たれっ! 当たれぇ!」
腕の軌道はバレバレで、それを受け止めることはたやすい。
「そんなんじゃいつまでたっても当たらないと思うけど」
「この……唸れ私の右腕!」
そう言って突き出した拳は、途中で急停止した。構えていた俺の手が空を切る。
「くふふ、かかったね」
ハルは俺を見て嬉しそうに笑う。その様子が全部嘘には見えなくて、「金が目的じゃない」というのも本当なのかもしれないと思った。それならどうして俺に声をかけたのか……まあ、そんなことは何でもいいか。
空気を掴んだ手には何かに触れた感触があった。そっと手を開くと、中には薄ピンク色の花びらが一枚入っていた。
「ええ!? いいなぁ!」
俺の手を覗き込んでハルは目を輝かせた。
「私も掴みたい!」
そう言うと、ハルは夢中になって花びらを追いかけ始めた。伸ばす手は空振りするばかりで、花びらにも触れられない。
「おい、もういいだろ……」
「レイ君は出来たからっていいけど、私は全然よくないんだから! 桜を掴めるまでやめないからね!」
「はぁ……!?」
一向に花びらを掴めそうな気配はない。いつまで続けるつもりだよ。
その時、ハルの追いかけていた花びらが風に吹かれて車道に飛ばされた。ハルも花びらの動きに夢中になって車道へ飛び出す―――
轟音をあげて車は遠ざかっていった。
「おい! 死にたいのか!」
咄嗟に腕を掴んで歩道へ引き寄せた勢いで、俺達は地面に尻もちをついていた。俺を見上げたハルはおかしそうに笑う。
「ふふっ、さっきまで死のうとしていた君に言われるなんてね」
自分が傷つくのは何とも思わないけど、目の前で人が傷つくところは見たくなかった。それに、そんなこと絶対に知られなくないけど、ハルにはほんの少しだけ情が湧いてしまっていた。
「……なんだよ」
「ううん、助けてくれてありがとう。まだレイ君とのデートを楽しみたいからね」
そう言ってハルは立ち上がると、服についた土を払う。
「桜を掴むのは諦めることにするよ。行こっか」
ハルは俺に手を差し出した。白くて細い腕だ。ちょっと力をかけたら簡単に折れてしまいそう。女子っていうのはみんなこうなのか?
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