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きっとまた
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それからすぐにリアナ達が先生を連れて助けに来てくれた。宿に戻った私とルイスは、斜面から滑り落ちた時の怪我を治療してもらうことになった。私は少し足を擦りむいたくらいだったけど、私を庇ったルイスはまだ医務室で治療を受けている。私は医務室の外にあるベンチに座ってルイスが出てくるのを待っていた。
「隣、いいかな?」
声をかけてきたのはレイだった。
「レイ……リアナ達と一緒に先生から話を聞かれてたんじゃないの?」
「そうだったんだけど、三人もいらないって追い出されちゃった」
「そっか……」
レイは私の隣に腰掛けた。
「エマの周りはいい人がいっぱいだね」
「え?」
レイは突然どうしたんだろう。
「俺はエマにひどいことをしたんだから、みんなにとって明らかに悪者だし嫌われて当然なんだよ。それなのに、最初はもちろん嫌われてたけど、エマの言葉でみんなが仲間に入れてくれた。それってすごいことだよ」
「そう、かな。でも確かにリアナとルイスは優しいし、ジキウスは……まあ悪い人じゃないって思うよ」
「それはさ、エマが優しくていい人だから、周りにもそういう人が集まってくると思うんだよね。だからこそ、エマの周りはいい人だけでなくちゃいけないと思うんだ」
そう言ってレイは私の方を向いた。
「俺はエマが好きだよ。つい最近まで自分を貶めようとしてた奴がこんなこと言っても信じられないと思うけど」
「貶めるって、だってその時レイは……」
話そうとする私の口元にレイは人差し指を当てた。
「今は俺の話を聞いて」
私が口を閉ざすと、レイは正面に向きなおった。
「この二日間、すっごく楽しかったよ。エマやみんなと一緒に力を合わせたり、時には言い合ったり、笑いあったりしてさ。このままずっと、何も分からない馬鹿なふりをしてエマの隣にいたいよ。でもそれは駄目なんだ」
レイは俯いた。
「この前は側にいさせてなんて言っちゃったけど、撤回するよ。エマの家を目の敵にしている、俺の家系の過激な人達は俺がエマの側にいることを許すはずがない。それにエマや王家が俺に罰を与えなくても、俺は一生この罪を背負って生きていくべきなんだ。今の俺じゃ、自分のしたことを背負うので精一杯だよ」
そんな風に考えていたなんて、全然知らなかった……まただ。レイが私よりずっと大人に見える。
レイは私と目を合わせた。湖畔で話したあの日と同じ、真っ直ぐな瞳だ。
「同じ学園だし、これからも顔を合わせることはあると思う。でも今までみたいに話したりはしない。……それでももしこの先、社交界やどこかで再会することが出来たら、その時は全部を賭けて俺のことを好きにさせてみせるよ。その時までには今よりずっと強くて立派な男になってるから」
レイはそう言った。
私はなんて言葉をかけたらいいんだろう。私より年下で体も小さいのに、こんなにも戦って生きている彼に。
「レイ、あの……」
「なんてね」
「……え?」
「貴族として厳しい勢力争いを生き抜いていくには、人を欺く演技力も必要でしょ。いじらしい俺の演技に思わず同情しちゃったんじゃない? なんて言ったって俺はランス家の優秀な三男だからね! 褒めてくれてもいいんだよ? えへへ」
そう言ってキラキラした笑顔を見せた。そしてレイは立ちあがる。
「俺は先に行くよ。これでさよならだね。今まで本当にありがとう」
そう言って私と目も合わせずに歩いて行ってしまう。
「待って!」
私の言葉にレイは立ち止まった。
「……どっちが本当のレイなの?」
「さて、どっちでしょう?」
それだけ言って、レイが振り向くことはなかった。
私は小さくなっていく背中をただ見つめていた。
「エマ……エマ!」
呼ぶ声に気づいて顔を上げると、そこにはルイスが立っていた。
「あっ、ルイス……」
「お待たせ」
そう言って微笑む。
「もう怪我は大丈夫なの?」
「うん。ちょっと足を捻っちゃったんだけど、先生が魔法で治療してくれたから大丈夫。でもしばらくは安静にしていないとだって」
「そっか。でも、ルイスが元気そうでよかった……」
「エマは元気がなさそうだね。まだどこか痛む?」
そう言ってルイスは心配そうに私の前にしゃがみ込んだ。
「ううん、違うの……さっきね、レイがここに来て、さよならを言われちゃった」
「そっか、レイ君が……」
ルイスは私の手を取った。
「大丈夫。僕達の世界は思ったよりも繋がっているものだよ。きっとまた会えるから」
また会える……その時はレイが幸せになっているといいな。
「みんなのところへ行こう」
そう言ってルイスは私を引き上げた。
「隣、いいかな?」
声をかけてきたのはレイだった。
「レイ……リアナ達と一緒に先生から話を聞かれてたんじゃないの?」
「そうだったんだけど、三人もいらないって追い出されちゃった」
「そっか……」
レイは私の隣に腰掛けた。
「エマの周りはいい人がいっぱいだね」
「え?」
レイは突然どうしたんだろう。
「俺はエマにひどいことをしたんだから、みんなにとって明らかに悪者だし嫌われて当然なんだよ。それなのに、最初はもちろん嫌われてたけど、エマの言葉でみんなが仲間に入れてくれた。それってすごいことだよ」
「そう、かな。でも確かにリアナとルイスは優しいし、ジキウスは……まあ悪い人じゃないって思うよ」
「それはさ、エマが優しくていい人だから、周りにもそういう人が集まってくると思うんだよね。だからこそ、エマの周りはいい人だけでなくちゃいけないと思うんだ」
そう言ってレイは私の方を向いた。
「俺はエマが好きだよ。つい最近まで自分を貶めようとしてた奴がこんなこと言っても信じられないと思うけど」
「貶めるって、だってその時レイは……」
話そうとする私の口元にレイは人差し指を当てた。
「今は俺の話を聞いて」
私が口を閉ざすと、レイは正面に向きなおった。
「この二日間、すっごく楽しかったよ。エマやみんなと一緒に力を合わせたり、時には言い合ったり、笑いあったりしてさ。このままずっと、何も分からない馬鹿なふりをしてエマの隣にいたいよ。でもそれは駄目なんだ」
レイは俯いた。
「この前は側にいさせてなんて言っちゃったけど、撤回するよ。エマの家を目の敵にしている、俺の家系の過激な人達は俺がエマの側にいることを許すはずがない。それにエマや王家が俺に罰を与えなくても、俺は一生この罪を背負って生きていくべきなんだ。今の俺じゃ、自分のしたことを背負うので精一杯だよ」
そんな風に考えていたなんて、全然知らなかった……まただ。レイが私よりずっと大人に見える。
レイは私と目を合わせた。湖畔で話したあの日と同じ、真っ直ぐな瞳だ。
「同じ学園だし、これからも顔を合わせることはあると思う。でも今までみたいに話したりはしない。……それでももしこの先、社交界やどこかで再会することが出来たら、その時は全部を賭けて俺のことを好きにさせてみせるよ。その時までには今よりずっと強くて立派な男になってるから」
レイはそう言った。
私はなんて言葉をかけたらいいんだろう。私より年下で体も小さいのに、こんなにも戦って生きている彼に。
「レイ、あの……」
「なんてね」
「……え?」
「貴族として厳しい勢力争いを生き抜いていくには、人を欺く演技力も必要でしょ。いじらしい俺の演技に思わず同情しちゃったんじゃない? なんて言ったって俺はランス家の優秀な三男だからね! 褒めてくれてもいいんだよ? えへへ」
そう言ってキラキラした笑顔を見せた。そしてレイは立ちあがる。
「俺は先に行くよ。これでさよならだね。今まで本当にありがとう」
そう言って私と目も合わせずに歩いて行ってしまう。
「待って!」
私の言葉にレイは立ち止まった。
「……どっちが本当のレイなの?」
「さて、どっちでしょう?」
それだけ言って、レイが振り向くことはなかった。
私は小さくなっていく背中をただ見つめていた。
「エマ……エマ!」
呼ぶ声に気づいて顔を上げると、そこにはルイスが立っていた。
「あっ、ルイス……」
「お待たせ」
そう言って微笑む。
「もう怪我は大丈夫なの?」
「うん。ちょっと足を捻っちゃったんだけど、先生が魔法で治療してくれたから大丈夫。でもしばらくは安静にしていないとだって」
「そっか。でも、ルイスが元気そうでよかった……」
「エマは元気がなさそうだね。まだどこか痛む?」
そう言ってルイスは心配そうに私の前にしゃがみ込んだ。
「ううん、違うの……さっきね、レイがここに来て、さよならを言われちゃった」
「そっか、レイ君が……」
ルイスは私の手を取った。
「大丈夫。僕達の世界は思ったよりも繋がっているものだよ。きっとまた会えるから」
また会える……その時はレイが幸せになっているといいな。
「みんなのところへ行こう」
そう言ってルイスは私を引き上げた。
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