上 下
28 / 48
5

夜、二人きり

しおりを挟む
 ルイスとの約束の時間が近づいてきて、私はそっと部屋を出た。リアナはよっぽど疲れたのか、もうベッドですやすやと眠ってしまっている。
 宿の玄関の外には一人の後ろ姿が見えた。約束の9時よりちょっと早いけど、ルイスも先に来ていたのかな。
「お待たせ、ルイ……」
「待ってたよエマ」
 そこにいたのはレイだった。
「どうして、レイがここに……?」
「これからルイスと会うんでしょ? それまで俺と話そうよ」
 なんでルイスと会うことも知ってるんだろう……
「納得いっていない顔だね。ルイスがエマに話しているのを見かけて、読唇術どくしんじゅつで分かったんだ」
「ど、読唇術!?」
「うん。みんなやるでしょ、読唇術」
 レイの周りは一体どんな環境なんだ。
「そんなことはいいからさ。一緒に座ろうよ」
 そう言って近くに置いてあるベンチに視線を向けた。
「うん……」
 私達は並んで座った。レイは私と何を話したいんだろう。
「ふふっ、エマを独り占めできるなんて嬉しいなぁ」
「独り占めって……」
「だってエマはみんなに囲まれてるから、こうでもしないと2人きりになれなかったんだよ。俺だって、もっとたくさんエマと話したいんだから」
 そう言ってレイはむくれた。
 なんていうか、自分に対してデレ全開な人と付き合いがないから対応がよく分からない。
「ソ、ソッカァ……」
「ねえ、エマは将来の夢ってある?」
「え?」
「俺達はあと三年もしないうちにこの学園を卒業して、一人前の貴族として生きていかないといけないんだよ。俺とエマの家は王政に携わる役人も輩出する名家なわけで、エマは自分の将来をどう考えてるのかなって」
 将来の夢、か……毎日の生活に手一杯で先のことなんて考えていなかったなあ。
「正直、王政とか家のこととかあんまり考えられていないんだ。でも、そういうの全部なしにして夢を見るなら、私は自分の大切な人を幸せにするために生きていきたい……ってこれじゃきっとよくないよね。あはは……」
 貴族令嬢としては自覚が足りないんだろう。否定されるかもしれないと思ったけど、レイはそうじゃなかった。
「……俺も同じだよ。なんだかほっとした」
 そう言ってレイは微笑んだ。
「俺の周りは兄さん達を始め、みんな俺より優秀でさ。国のためとか、家のためって言っていつも働いてる。それはすごいことだし、俺もそうなりたいって思うんだけど、それとは別で好きな人と幸せに暮らしたいとも思うんだよね。俺の周りでそんなことを言う人は誰もいない。だから俺がおかしいんじゃないかって思っていたんだ」
「おかしい事なんてないよ。それにね、お兄さんたちはレイのことが好きだから家の仕事を頑張っているんでしょ。それってレイの願いと同じなんじゃない?」
「そっか、また俺は勘違いしてたんだね。やっぱり俺の知らない見方をくれるエマのこと、好きだなぁ」
 穏やかな声で話すレイは、なんだか昼間とは違って大人びて見えた。レイは私の方を向いた。
「エマって昨日会って話すまでは、性悪で冷酷で悪魔みたいな人だと思ってたから、かなり印象変わったよ」
「なにそのイメージ!?」
「だっておじさんからは悪魔みたいだって聞いてたんだよ。角が6本あって、羽で空中を移動できて……」
「くっ……あははっ! なにそれ面白過ぎるでしょ!」
 レイのおじさん、すごい嘘を吹き込んだもんだな。
「あれ、エマ?」
 声の方を振り向くと、ルイスが不思議そうな顔をして立っていた。
「じゃあ俺はそろそろ行くね。話せて楽しかったよ」
 そう言ってレイは宿へ戻っていった。ルイスが私の隣に座る。
「レイと何を話してたの?」
「なんかレイって、私のことを角が6本生えた悪魔だと思ってたんだって。しかも羽で空を飛んで……ふふっ」
 想像すると面白過ぎてまた笑いが込み上げてきた。
「ねえ、ルイスも面白いと思わない?」
「あんまり楽しそうだと僕はちょっと面白くないんだけど……でも、エマが笑ってるならいい事にする、うん」
 なぜかルイスは自分に言い聞かせるみたいに言った。
「それで、ルイスは私に何か話があるの?」
「話っていうか、しばらくエマとちゃんと話せてなかったなと思ってね」
 ぐぅ……っ! それは私がルイスを避けてたからで、
「その件に関しましては、本当に……」
「いや、いいんだよ。いいように取れば、エマが僕のことを意識してくれるようになったってことだからね」
 そう言って不敵な笑みを見せた。意識するどころか、私はルイスのことを好きに……!
「ねえ、エマ」
「ひゃ、ひゃい!」
「あれから家は大丈夫? 王城で見たエマのお父様もかなり気が動転しているみたいだったし、家に帰ってからが心配だったんだ」
「うん、ありがとう。お父さんとは家でじっくり話して、今までよりは私のことを理解してくれるようになったと思う。私のことを庇ったせいで会えなくされたメイドも私のところに戻ってきたしね。上手くいってると思うよ」
「そっか、よかったぁ……」
 ルイスは安心した表情を浮かべた。本当に心配してくれていたんだなって、改めて思う。
「エマの家族の話って今まで聞いたことなかったね。お父様ってどんな人なの?」 
 シルバは、そうだなぁ……
「一言で言えば頑固。人の話は聞かないし、私のことまで勝手に決めたりするし。まあ、最近はちょっとましになったけど」
「へぇ、それは手ごわそうだね。いつか会う時は気に入ってもらえるように頑張るよ」
「別に会わなくてもいいんじゃ……」
「僕はエマと、エマの家族にも好きになってもらいたいんだ。いつか家族になりたいからね」
「か、家族……!」
「僕はそれくらいエマのことが大好きってこと」
「あ、あわわ……」
「あれ、ちょっと押しすぎたかな?」
 頭がショートして、告白の返事どころではなくなってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ

藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。 そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした! どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!? えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…? 死にたくない!けど乙女ゲームは見たい! どうしよう! ◯閑話はちょいちょい挟みます ◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください! ◯11/20 名前の表記を少し変更 ◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更

第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

斯波
恋愛
辺境伯令嬢ウェスパルは王家主催のお茶会で見知らぬ令嬢達に嫌味を言われ、すっかり王都への苦手意識が出来上がってしまった。母に泣きついて予定よりも早く領地に帰ることになったが、五年後、学園入学のために再び王都を訪れなければならないと思うと憂鬱でたまらない。泣き叫ぶ兄を横目に地元へと戻ったウェスパルは新鮮な空気を吸い込むと同時に、自らの中に眠っていた前世の記憶を思い出した。 「やっば、私、悪役令嬢じゃん。しかもブラックサイドの方」 ウェスパル=シルヴェスターは三部作で構成される乙女ゲームの第二部 ブラックsideに登場する悪役令嬢だったのだ。第一部の悪役令嬢とは違い、ウェスパルのラストは断罪ではなく闇落ちである。彼女は辺境伯領に封印された邪神を復活させ、国を滅ぼそうとするのだ。 ヒロインが第一部の攻略者とくっついてくれればウェスパルは確実に闇落ちを免れる。だがプレイヤーの推しに左右されることのないヒロインが六人中誰を選ぶかはその時になってみないと分からない。もしかしたら誰も選ばないかもしれないが、そこまで待っていられるほど気が長くない。 ヒロインの行動に関わらず、絶対に闇落ちを回避する方法はないかと考え、一つの名案? が頭に浮かんだ。 「そうだ、邪神を仲間に引き入れよう」 闇落ちしたくない悪役令嬢が未来の邪神を仲間にしたら、学園入学前からいろいろ変わってしまった話。

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

モブに転生したので前世の好みで選んだモブに求婚しても良いよね?

狗沙萌稚
恋愛
乙女ゲーム大好き!漫画大好き!な普通の平凡の女子大生、水野幸子はなんと大好きだった乙女ゲームの世界に転生?! 悪役令嬢だったらどうしよう〜!! ……あっ、ただのモブですか。 いや、良いんですけどね…婚約破棄とか断罪されたりとか嫌だから……。 じゃあヒロインでも悪役令嬢でもないなら 乙女ゲームのキャラとは関係無いモブ君にアタックしても良いですよね?

めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。

hoo
恋愛
 ほぅ……(溜息)  前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。     ですのに、どういうことでございましょう。  現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。    皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。    ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。    ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。    そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。    さあ始めますわよ。    婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆     ヒロインサイドストーリー始めました  『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』  ↑ 統合しました

悪役令嬢になる前に、王子と婚約解消するはずが!

餡子
恋愛
恋愛小説の世界に悪役令嬢として転生してしまい、ヒーローである第五王子の婚約者になってしまった。 なんとかして円満に婚約解消するはずが、解消出来ないまま明日から物語が始まってしまいそう! このままじゃ悪役令嬢まっしぐら!?

転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。 私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。 攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって? 私は、執事攻略に勤しみますわ!! っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。 ※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。

処理中です...