上 下
25 / 48
5

つい……

しおりを挟む
「はぁ……」
 なんだか疲れた。ジキウスのおかげで国外追放の件の背景が分かったけど、高圧的で強引なところが困る。 
 今日はアリスに美味しい紅茶を入れてもらって癒されよう。それならどこかでお茶菓子を買って帰ろうかな。
 私は街へ寄り道をして、見つけたカフェでお菓子を購入した。

 街から家へ向かって歩いていたら、道に迷った。
「あ、れ……?」
 お店が立ち並ぶ街並みは終わり、いつの間にか湖のほとりに出ていた。人気はなく、道を尋ねられそうな家やお店ももちろんなかった。
 一旦学園に戻ってからいつもの帰り道を行くよりも直接家を目指した方が早いなんて、楽しようとした自分が馬鹿だった……街になんて数えるくらいしか行ったことないし、自分の地理的センスを買い被り過ぎた。
「とりあえず、来た道を戻ってみるか……」
「お前……俺を笑いに来たのか!」
 その声、嫌な予感がする。恐る恐る声の方を向くと、湖畔の木の陰にレイが立っていた。眉を吊り上げて私を睨みつけている。
「いや、ここに来たのはたまたまで……」
「嘘つけ! 俺の後をつけてきたに決まってる! そうじゃなかったらこんな人気のない場所に来るのはおかしい!」
 そう言われても、道に迷っただけなんだよなぁ……
 レイはふっと息を吐いて、自嘲気味に笑った。
「笑いたいなら笑えばいいさ。千載一遇のチャンスを潰した俺に、帰る場所なんてない。父さんも母さんも、兄さん達も、きっと俺に失望してる。出来損ないの三男なんて、生まれてこなきゃよかったんだって……!」
 そう言ってレイは目元をぬぐった。
「何もそこまで言わなくたって……」
「お前に何が分かる!」
「分かるよ」
 レイ・ランス、14歳。飛び級で学園に入学したため、エマ達と同じ1年生。8つ年上のロム、5つ年上のシルを兄に持つ。ロムとシルも過去に飛び級で学園に在籍しており、首席で卒業した。近い将来、王政で重要な役職を与えられると噂されている。レイも優秀ではあるが、兄達ほどの飛びぬけた才能はなく、劣等感を抱えて育った。
 段々と思い出してきた。君の半生は見てきたからよく知っているよ(ゲームのシナリオで)。
「そうか、お前も名家の重圧を受けて生きてきたんだもんな……」
 レイは納得したように言った。
「でも、俺に帰る場所がない事は変わらない。分かるだろ? 出来損ないには生きる価値がないって。兄さん達が失望した顔なんて、見たくないんだよ……」
「お兄さん達は君を出来損ないだなんて思ってないよ。今回の件もお父さんやお兄さんから指示された訳じゃないでしょ?」
「え……?」
 レイは目を丸く見開いた。
 ゲームでもレイがランス家再興のために裏工作をするシナリオがあった。レイ編のシナリオにエマは出てこないから裏工作の内容も今回とは違うけど、指示されて実行したレイが作戦に失敗して絶望するところは同じだ。恐らくそれ以外も。
「指示してきた父方のおじさんは、競合するリーステン家を没落させる作戦を実行するために君を洗脳していたんだ。この作戦を実行しなければ家は没落するって何度も刷り込んで君を実行に向かわせた。成功すれば自分の手柄、失敗すれば君の責任にするつもりだったんだ。今回の件はおじさんが勝手にやったことで、お兄さん達は何も知らなかった。きっと今頃、事態を知って君を心配しているよ」
「そんな……だって……」
「お兄さん達は君を過酷な政治競争に巻き込みたくなくて、離れさせようとしていたんだよ。お兄さん達に仕事の話を聞いてもはぐらかされた覚えあるでしょ? 君は自分が出来損ないだから話してくれないんだと思ったかもしれないけど、お兄さん達は話を聞いた君が巻き込まれるのを防ぐためにあえて言わなかったんだよ。お互いに本心を言わないせいでここまでこじれちゃったんだけど」
 レイは驚いたように私を見つめていた。
 あ……これは余計なことまで言い過ぎたかも。
「いや、あの、これはあくまで私の想像というか……」
「すごい……そんな風に考えたことなかった」
 本来のシナリオであれば、作戦に失敗して落ち込んだレイを主人公のリアナが慰めてあげて、レイは家に帰る決心をする。それでお兄さん達と話し合って誤解が解けたレイは、支えてくれた主人公に恋心が芽生えるという流れだ。
 これって、もしかして私がレイのことを攻略しちゃってるんじゃない? いや、まさかね……
「さっきの話は忘れて! 私、帰るから!」
「待って!」
 そう言ってレイに袖を掴まれた。
「今回のこと、本当に悪かった。まだちゃんと謝ってなかったから」
 そう言って真っ直ぐに私を見つめる瞳には、はっきりとしたレイの意思が感じられた。
「いくら家のためだとしても、相手を陥れるようなやり方はするべきじゃなかった。次は自分自身の能力で周りに認められて、ランス家の位を高められるように努力する」
 今までが洗脳されていたんだから、この言葉がレイの本当の気持ちなんだろう。
「許してほしいなんて言わないけど、誠意を尽くすから側に居させてほしい。だってエマは……」
 そう言って私の手を両手で握る。そしてキラキラした笑顔を見せた。
 唐突に思い出した。このシナリオのラストで出てくるスチルと同じ構図。ということはこの後に続く台詞は……!
「暗闇から連れ出してくれた、俺の太陽だから!」
 脳内で好感度が上がるSE効果音が流れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ

藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。 そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした! どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!? えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…? 死にたくない!けど乙女ゲームは見たい! どうしよう! ◯閑話はちょいちょい挟みます ◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください! ◯11/20 名前の表記を少し変更 ◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更

転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!

つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが! 第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。    *** 黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。

悪役令嬢の庶民準備は整いました!…けど、聖女が許さない!?

リオール
恋愛
公爵令嬢レイラーシュは自分が庶民になる事を知っていた。 だってここは前世でプレイした乙女ゲームの世界だから。 さあ準備は万端整いました! 王太子殿下、いつでも婚約破棄オッケーですよ、さあこい! と待ちに待った婚約破棄イベントが訪れた! が 「待ってください!!!」 あれ?聖女様? ん? 何この展開??? ※小説家になろうさんにも投稿してます

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ
恋愛
正式名称「乙女ゲームの悪役令嬢(噛ませ犬系)に転生して、サド心満たしてエンジョイしていたら、ゲームのヒロインが鬼畜女装野郎だったので、助けて下さい」 乙女ゲームの世界に転生して、ヒロインへした虐めがそのまま攻略キャラのイベントフラグになる噛ませ犬系悪役令嬢に転生いたしました。 ヒロインに乙女ゲームライフをエンジョイさせてあげる為(タテマエ)、自身のドエス願望を満たすため(本音)、悪役令嬢キャラを全うしていたら、実はヒロインが身代わりでやってきた、本当のヒロインの双子の弟だったと判明しました。 申し訳ありません、フラグを折る協力を…え、フラグを立てて逆ハーエンド成立させろ?女の振りをして攻略キャラ誑かして、最終的に契約魔法で下僕化して国を乗っ取る? …サディストになりたいとか調子に乗ったことはとても反省しているので、誰か私をこの悪魔から解放してください ※小説家になろうより、改稿して転載してます

悪役令嬢に転生したのですが、フラグが見えるのでとりま折らせていただきます

水無瀬流那
恋愛
 転生先は、未プレイの乙女ゲーの悪役令嬢だった。それもステータスによれば、死ぬ確率は100%というDEATHエンド確定令嬢らしい。  このままでは死んでしまう、と焦る私に与えられていたスキルは、『フラグ破壊レベル∞』…………?  使い方も詳細も何もわからないのですが、DEATHエンド回避を目指して、とりまフラグを折っていこうと思います! ※小説家になろうでも掲載しています

乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました! でもそこはすでに断罪後の世界でした

ひなクラゲ
恋愛
 突然ですが私は転生者…  ここは乙女ゲームの世界  そして私は悪役令嬢でした…  出来ればこんな時に思い出したくなかった  だってここは全てが終わった世界…  悪役令嬢が断罪された後の世界なんですもの……

完全無欠なライバル令嬢に転生できたので男を手玉に取りたいと思います

藍原美音
恋愛
 ルリアーノ・アルランデはある日、自分が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界に転生していると気付いた。しかしルリアーノはヒロインではなくライバル令嬢だ。ストーリーがたとえハッピーエンドになろうがバッドエンドになろうがルリアーノは断罪エンドを迎えることになっている。 「まあ、そんなことはどうでもいいわ」  しかし普通だったら断罪エンドを回避しようと奮闘するところだが、退屈だった人生に辟易していたルリアーノはとある面白いことを思い付く。 「折角絶世の美女に転生できたことだし、思いっきり楽しんでもいいわよね? とりあえず攻略対象達でも手玉に取ってみようかしら」  そして最後は華麗に散ってみせる──と思っていたルリアーノだが、いつまで経っても断罪される気配がない。  それどころか段々攻略対象達の愛がエスカレートしていって──。 「待って、ここまでは望んでない!!」

処理中です...