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「なんだ、もう酒も食い物もないのか。仕方ない、今日はこれでお開きだ。片付けは業者に頼んであるからそのままにして帰ってよし」
『おうぃーっす……』

 立っているのはもはやエヴァさんと私だけであったが、さすがに今回は酔っ払ったな。

「それじゃあ、お先に失礼します」
『おうぃーっす……』
「リアス、マロフィノ帰るよ」

 返事がない……完全に酔い潰れているようだ……。てか帰るとは言ったものの、どっか宿空いてるかなぁ。
 マロフィノを頭に乗せ、リアスをおぶり会議室を後にすると、ギルドマスターの部屋の前でエヴァさんが待っていた。

「猫ひげを(セリカが)予約しといたからそこに泊まるといい」
「マジっすか!あざっす」
「なぁ、フィヨルドに会った時何か言ってなかったか?」
「いや……特別……あっでもリアスを見て」
 それを聞くとエヴァさんは複雑な表情をした。
「なんていうか、エルフという種族を憎んでいるような感じを出していました。他は特には」
「そうか……なら良い。お前にフィヨルドについて少しだけ話ておこう……」

 フィヨルドという人物が指名手配されたのは今から30年ほど前、出現当時は殺人や放火、魔獣を街や村に引き込んで暴れさせたり、火薬を積み込んだ獣車で爆破をするなど、かなり過激なテロ行為を行っていたらしいが、指名手配され顔が売れ出すとしばらくなり潜めていた。ところが今から1年ほど前、バーサーカー事件とともに現れ、再び世間を騒がせ始めたのだとか。
 話を聞き終わり、感じたのはエヴァさんはフィヨルドについて重要な何かを隠している、そんな印象を受けたが追求するようなことはしないでおこう。

「危険な相手だ、もしまた遭遇するようなことがあったら……」
「大丈夫です、深追いしたりしませんよ」
「わかっているならそれでいい、気をつけて帰れよ」
「はい。ああそうだ、リアスもこんなですし2日ほどクエストはお休みします」
「わかった。今回も激務だったからなゆっくり休め」
「はい、おやすみなさい」

 会釈をしてマロフィノを落としそうになり、あたふたしながらエヴァさんと別れる。

「タタラ!」
「はい?」
「お前、私が全て語っていないって気づいてんだろ。なんで聞いてこない」

 やっべ、気づいたのがバレてた。顔に出てたかぁ。しかし、なんでって言われても……。

「いや、ほら、あれです。この世界で一番得体の知れないのは俺ですから、そんな俺をギルドに迎え入れてくれたエヴァさんが、今は話す必要なしって判断したことなら別に俺は聞こうとは思わないってだけです」
「お前は、馬鹿なのか阿呆なのか……判断に困るよ」
「なんすか!それ!?」
「その調子でお嬢のことも何も聞いてないんだろ?」
「ええ、まぁ33歳のエルフとしか」
「これからも、お嬢を頼んだぞ」
「えっあっ……はい」

 そういうと、エヴァさん背を向けてシッシッといった具合に手を振った。
 ギルドから出て猫ひげに向かう道すがら、私は少しだけリアスのことを考えていた。エヴァさんにお嬢とかリアス嬢とか呼ばれたり、ジィとかいうエヴァさんが恐れるような人に可愛がられているようだったり、きっと良いところのお嬢様なのかなぁとか。どうしてお嬢様だったら1人でイザベルまで徒歩で来るなんて無謀なことさせられたのか、とか。少しだけ、ホントに少しだけリアスのことを考えたが、まぁ私が知ってどうにかなるようなことじゃないか、という結論が出たところで猫ひげに到着した。

「はぁ、流石に飲み疲れた……」

 ♦︎

 朝を迎え、グッタリとベッドに沈むパーティーメンバーを見て私は昨日エヴァさんに言ったことを伝える。

「今日と明日はクエストをお休みにしましたので、のんびりと過ごしましょう」
「さ……んせー……」
「フィー」
「じゃあ、俺はトムの工房に行ってきますんでゆっくり休んでいてください」
「ういぃ……」
「マロフィノ、リアスを頼んだぞ」
「フィゥウォ」

 どんな返事だよ。まぁ、ついて来るそぶりを見せないのでわかったってことだろう。部屋を出て3日分の代金を支払い、お昼のサンドイッチを多めに買い、目抜き通りに向け歩き出す。
 今日の天気は曇り。この世界に来てから天気が悪いのは記憶の中では初めてのことだったのでちょっと新鮮な気分になった。
 二日酔いもなく軽快な足取りで歩いていると何人かに声をかけられた。内容はワームロワ討伐おめでとう……昨日の今日でもう情報が漏れている。人の口に戸は立てられないとは言うが、少しぐらいタイムラグは欲しいものである。

「トム、おはよう。今日空いてる?」
「うお!?タッタタラさん!?ワームロワ討伐とダンジョンクリアおめでとうございます」

 トム……お前もか。がっくりしながら工房の一日使用料5000ピックを支払い、2階の作業部屋に入る。

「よし!気をとりなおして、いっちょやりますか!」

 メニューウィンドウ起動、クラフト。クラフトスペース展開。
 部屋を緑色のレーザーのような光が下から上えと駆け巡りクラフトスペースが確保された。
 制作スキル【製図】ダンゴ制作時に作った設計図を出して手を加える。
 フレームを大幅に強化して……サスとブレーキも性能を上げるように……あとバックもできるようにして……つーかフロントフォークは新たに設計し直しかなぁ……もはや手を加えるというより別物だなコレ……。
 今回、ダンゴをただ再制作するのではなく、2人と1匹の旅を想定してサイドカーを取り付ける計画を立てた私は、設計図と格闘を始めた。
 
 車両の基本構造をひと通り見直し改良を加えて、サイドカーの製図に取り掛かろうとしたところで扉をノックする音が聞こえた。

「タタラさん、さーせん。そろそろ閉店っす」
「えっ?ウッソ。さっき来た……マジこんな時間!?」

 設計図制作に夢中になり気がつけば、すでに午後8時。結局、今日は何も作れなかった……。明日でどこまで出来るかなぁ、サイドカーの制図だけなら部屋でも出来るか……あれ、だったら今日来た意味……いやいや、そこは深くは考えまい。
 サイドカーのことをあれこれ考えながら階段を下りると、入口の外で雨が降っているのが見えた。

「マジかぁ」

 ゲームの時はもちろん使わないので傘などあるはずもなく、仕方ないので濡れて帰る決意を固めた時、下から一本の傘が突き出てきた。

「うお!」
「なんじゃ、ビビりじゃのう」
「全然ビビってないですぅ」
「他に言うことはないのか?」
「えーっと……帰りに浴場に寄って行く予定ですが、行きます?」
「良いのう!シャワーばかりでウンザリしておったところじゃ」

 私を心配してってことはないんだろうけど、リアスはわざわざ工房まで傘を持って来てくれて、私の作業が終わるのを待っていてくれたようだ。
 入口で2人揃って傘を開き歩き出す。

「マロフィノは?」
「ミケとイチャイチャしとったぞ」
「ああ……そう」

 マロフィノのやつ、休みをエンジョイしてやがるな。

「風呂が終わったら、パエリアが食べたんじゃ」
「ああ……猫ひげには無いか、そういえば帰る途中、パエリアって看板あったような……って、それ見て食べたくなったんでしょ?」
「そうじゃ!文句あるか?」
「いいえ……むしろ……」
「なんじゃ?」

「ありがとう……ございました……」

「うん……」

 降りしきる雨が傘を叩く音とリアスの喋る声だけを聴きながらアクリスでの初めての雨は、なぜか私を暖かい気持ちにさせてくれたのだった。


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