上 下
16 / 47

16

しおりを挟む
「りょーちゃんにお土産あるよ~ん」

 茉美は僕の隣に座るなりそう言って、トートバッグから和柄の小さな紙袋を取り出した。

「浅草の?」

 受け取って中身を見ると、雷門のちょうちんの柄の抹茶色のハンカチが入っていた。

「これ、みんなでおそろいだよん」と茉美が青い同じハンカチを取り出す。
「写真見る? 着物めっちゃよかったんだよ」

 樹奈がスマホを取り出してささっと操作し、僕に画面を見せてくれる。
 着物姿の三人が雷門や仲見世、浅草寺など、浅草らしい場所で撮影した写真が続く。買い食いしたあげまんじゅうやメンチカツ、甘酒なんかの写真もある。

「また行こうって話してたから、今度は良君も行こうね」

 樹奈がやさしく微笑む。

「うん。行きたいな」

 昨日、行けばよかったかも。でも一度断ったものをやっぱり行くとは言いにくかった。しかたない。
 昨日の話で盛り上がる三人を学食に残して、僕は午後の授業に向かった。
 ノートをとりながら、頭の片隅で柳子提案のモーニングがどうなるかをちょっと考えていた。

 授業を終えて講義室を出ながらスマホを取り出すと、樹奈から写真が送信されていた。浅草で撮った写真を数枚、僕にもくれたのだ。
 写真ありがとう、と返信しながらほっとしていた。樹奈とはどうにかいままで通りでいられそうだ。

 大学を出ると、自転車でコーヒースタンドに向かった。
 樹奈が想いを寄せているらしいロン毛髭をもう一度確認しておきたかった。
 もしかして彼女がいるかも、と思ったけれど、店に客の姿はいなかった。
 少し離れた場所で自転車を停めると、ロン毛髭、いや、クサカさんがぱっとこちらを見た。笑顔で頭を下げてくる。早々に見つかってしまった。
 僕は頭を下げて、お店に来たんですといった顔をして自転車を押していく。

「こんにちはー」

 明るい声であいさつをする爽やかなクサカさん。
 こんにちはと僕も焦りながらあいさつを返す。
 改めてよく見ると、身長がほんとに高い。百八十以上あるだろう。鼻も高いし、切れ長の目は大きい。塩顔。ピアス、四つもしてるよ。

「いらっしゃいませ。いつもどうも」

 いつもどうも? 顔、覚えられてる。

「樹奈ちゃんの友達ですよね?」

 樹奈ちゃんて馴れ馴れしい。やっぱり顔見知りなのか。というか、仲が進展してるのか。

「あ、はい」
「今日、樹奈ちゃんは一緒じゃないの?」

 タメ口早すぎ。

「あ、もう帰ったみたいです」
「そうなんだ。残念」

 残念とか軽々しくいうな。気がある女の子が聞いたら誤解するだろう、確実に。

「ご注文は?」

 ペースを乱された僕は、

「カフェラテください」

 いつも樹奈が頼んでるものを注文してしまった。ここはただのコーヒーのほうが良かったんじゃないか。

「僕、クサカって言います。お名前は?」
「あ……池間です」
「池間さんは昨日、浅草行ったんですか?」

 なんでそのこと知ってるんだ? 僕の表情を読み取ったらしい彼が続けて言った。

「僕ら、けっこう連絡とりあってるんですよ。夜とか」
「はぁ、そうなんですか」

 なんだって。じゃあ、昨夜も樹奈から浅草の話を聞いたってことか。

「僕は行ってません。用事があって」
「そうなんだ。浅草、すごく楽しかったみたいですよ」
「へえ……」

 なんで樹奈の話をあんたから聞かないとならないんだ。

「僕にもお土産買ってくれたらしくて。なんか、提灯の柄のハンカチが可愛かったとかで」

 四人だけのおそろいかと思ったら、こいつもおそろいだったのか。

「お待たせしました、どうぞ」

 彼はカフェオレを僕の前にとんと置いた。お金を僕は笑顔で差し出す。

「浅草っていま、カップルも多いみたいですね。デートスポットみたいになってるのかな? 今度二人で行こうって話になってて」

 え?

「樹奈とですか?」
「そうなんですよ」

 デートに行く約束してるのか。
 というか、付き合ってる?
 あれ?

「もしかして樹奈と付き合ってるんですか?」
「いやいや、ただの友達です。の、はずです」

 の、はずです、ってなんだ。

「クサカさんていま彼女いないんですか?」
「えー、直球」

 は?

「モテないんですよ、僕」

 答えになってない。

「冷めちゃいますよ」

 帰れってか。
 僕はカフェオレをむんずとつかむと、にっこり笑ってその場でぐいっと飲んだ。

「僕、スケボー通勤してるんですよ」
「スケボー……」

 クサカさんは両手を広げてスケボーに乗るフリをする。わかってますよ、スケボーぐらい。

「このまえ、店の前でこけちゃって。そこにちょうど樹奈ちゃんが居合わせたんですよ。怪我とかなかったんだけど、ハンカチで泥とかはらってくれて」
「はぁ……」

 それで仲良くなったと言いたいのか。

「スケボー教えて欲しいって頼まれて、それで、何度か教えたんですよね」

 樹奈がスケボー。初耳だけど。
 確か運動が苦手って言ってたはず。
 すると、黄色いクロスバイクに乗った金髪の女の子が店の前に現れた。
 自転車を降りてクサカさんに挨拶をする。同僚みたいだ。
 金髪女子が店内に入ると、彼らは仲よさそうに僕のわからない単語を使って話しはじめた。
 髪色は違うけど、もしかすると、以前彼といちゃついていた店員かもしれない。

 デートにスケボー。
 樹奈がロン毛髭となにをしようと、僕には関係のないこと。もう詮索するのはよせ。
 僕は自分にそう言い聞かせながら、自転車にまたがって立ち去った。





 翌朝、いつものようにファミレスで働いていると、出勤した店長からアンケート用紙みたいなものを渡された。


〈モーニングのリニューアルに求めるもの、希望などがあればご意見をおよせください〉


 とある。
 モーニングのリニューアルって、柳子の提案が受け入れられたのか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

両隣から喘ぎ声が聞こえてくるので僕らもヤろうということになった

ヘロディア
恋愛
妻と一緒に寝る主人公だったが、変な声を耳にして、目が覚めてしまう。 その声は、隣の家から薄い壁を伝って聞こえてくる喘ぎ声だった。 欲情が刺激された主人公は…

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

処理中です...