リサシテイション

根田カンダ

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第34話 開戦

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 山川が嶋と飯塚を訪ねた翌日、嶋達は議事堂前にいた。
 夏菜達や真一達は既にナノマシンの身体に換装されており、古田部隊はナノマシンのヘリで神戸へ出発、柴田チームはすでに東大柏キャンパスで配置に就いていた。
 《シマー》軍の最速到着予定は明日午前11時。
 九州北部に10000の兵が到着予定であり、次が本州西日本の全域に、午後1時から午後5時の間に50000が到着すると、『アリサ』が分析していた。
 

ーーー《シマー》アメリカ軍は到着後、それぞれに破壊と殺戮を繰り返しながら神戸と京都、大阪のスーパーCPUを目指すと思われます。
 こちらの《シマー》ユーザー協力者様達と自衛隊を含めた九州迎撃部隊は15000、山口から京都までが60000。
 《シマー》第一陣に対しては、我々が数的優位に立てます。ーーー


 『アリサ』は敵ナノマシンの傷と黄砂レーダーを利用し、大まかな実体化予測地点を予測していたが、それでも正確な実体化地点の予測は不可能だった。
 その為『アリサ』は、ヘリや陸上車両用のナノマシンも既に配置していた。
 協力者達のナノマシンも、協力者数の3倍の量を配置し、実体化した敵への最も近い地点で実体化出来るよう、分散していた。


ーーー協力者様達には、明日の午前9時に《シマー》にログインする様、要請しております。
 バーチャル世界で待機して頂き、敵実体化次第、最も近い地域で実体化し迎撃に向かって頂きます。
 自衛隊協力部隊も、九州で1000、西日本で4000。小隊規模で主要地域に待機、遊撃して頂きます。ーーー


[俺達はどこへ?]


ーーー井上様、夏菜達達には神戸に向かって頂きます。
 世界最高峰の『昇陽』のあるポートアイランドが、最大激戦地になると思われます。
 激戦地に必要なのは、やはり士気の高さ。
 井上様達、夏菜様達の世界的に有名なユーザーに前線に立って頂く事により、士気を維持して頂きます。ーーー


 嶋は真一や夏菜達に、申し訳無さ気に視線を向けた。
 真一達は笑顔で右手の親指を立て、夏菜様は武器を構え、少女戦隊アニメのヒロイン達の様にポーズを取った。


「苛烈な戦場になると思いますが、どうかご無事で。」


 真一達と夏菜達は、それぞれチームに分かれヘリに乗り込んで出発して行った。


ーーーヘリを構成するナノマシンは、皆様のナノマシンの予備も兼ねてます。
 破損した場合、再生のタイムラグ無しで戦闘継続可能です。
 私は『アリサ』。抜かりはありません。ーーー


[俺はどうすればいい?]


 嶋とエンジニア達、残ったボディーガード達16名、計20名が残っていた。


ーーー飯塚様達とアメリカ、シリコンバレーに向かって頂きます。ーーー


「飯塚さん達もか!?」


 嶋は驚き、飯塚、難波、塩田は黙って頷いた。
 『アリサ』は数日前にナノマシンで形成されたF44戦闘機数機を、既にシリコンバレーに向かわせていた。
 途中給油も必要なく、マッハ10で巡行可能なナノマシンのF44は、既にシリコンバレーに到着していた。
 

ーーーこちらのナノマシンでならば、敵500名の《シマー》アメリカ軍も、皆様の敵ではありません。
 皆様には《シマー》メインサーバー、《シマー》製造プラント、ナノマシン製造プラントを破壊して頂き、《シマー》での軍備増強を阻止します。ーーー


 それでもアメリカのコントロール下にある《シマー》軍は数百万。
 日本の嶋の軍も集まっているとは言え、おそらくは現在の90万がほぼ限界と思われた。
 現在アメリカの主目標は日本だが、数百万もの兵力を世界へ分散されれば、兵力に劣る嶋達には不利だった。
 その為に『アリサ』は、シリコンバレーを破壊し、兵力増強阻止を最優先としたのだった。
 それに、アメリカ合衆国建国以来約300年近い歴史の中で、本土防衛戦の経験が皆無の為、主戦場をアメリカ本土とする計画を立てていた。
 実際アメリカ軍は、敵地攻撃制圧能力では世界最強を誇るが、防衛戦に関して言えば将官から兵卒まで、組織的な作戦遂行能力は極端に低かった。
 かつてテロリストが民間航空機をジャックし、貿易センタービルを破壊、ホワイトハウスやペンタゴンの目前にまで迫った危機を経験してからですら、本土防衛体制に進歩は無かった。
 アメリカ合衆国本土とは言え、シリコンバレーとペンタゴンを陥落させれば、大規模な組織的戦闘指示系を破壊出来る。
 そうなればイギリスとオーストラリアが敵にまわったとしても、通常兵士と通常兵器のみならば自衛隊のみで戦え、嶋達は残存《シマー》軍に集中出来た。


 程なく嶋が待機していた議事堂前に、入間と中村が特殊部隊SATを引き連れてやって来た。


「嶋社長、我々も戦闘に参加させて頂きます!
 全国のSAT部隊は既に所属警察署で待機、命令を待っております。」


 嶋は入間を一瞥し


「生身の連中なんか、役に立たねえよ。」


「ならば私達にも、貴方達と同じ戦闘ボディーをお願いします!」


[『アリサ』福岡と大阪のSATにナノマシンは可能か?]


ーーー戦闘が始まるまでには。ーーー


[わかった。頼む。]


 嶋はポケットからライト型のスキャンデバイスを出し、入間やSAT隊員達全員をスキャンした後


「議事堂にログインカプセルを届ける。それまで待ってろ。」


 それだけ言うと、嶋とボディーガード達の身体が一瞬で崩さり、SAT隊員達は驚いていた。
 

「あの、飯塚さん…」


 中村が飯塚に話しかけた。


「嶋社長、ご機嫌が悪い様ですが、何かありましたか?」


 飯塚は一瞬入間を見て


「これから戦争だからでしょう。」


 それだけ言って、自分達の4WDに乗り込み出発してしまった。
 入間達は怪訝に思いながらも、議事堂内部へと向かった。


「私の様だな…。」


 SATに囲まれ議事堂へ向かいながら、入間は中村に言った。


「何か心当たりあるんですか?」


「無いんだ…。ただ今朝高岡総理に自由党幹事長豊田の事を聞いて来たそうだ。」


 岩村達と拘束された自由党のドン豊田。


「嶋社長が?何か関わりがあったのでしょうか?」


「わからない。高岡総理も尋ねたそうだが、黙って電話を切ったそうだ。
 ただ私も豊田とはもう何年も会っていない。
 唯一関わったのが、9年前。検察特捜部の要請で、政治家と官僚の不正の捜査をした時だ。豊田も容疑者の1人だったが、立件出来なかった。
 その件かも知れないが、嶋社長はまったく関わりがない筈だが…。」


 入間達が議事堂内部に入ると、中央ホールにすでにログインデバイス100機程が置かれていた。
 《シマー》と同型のサングラス型デバイス。
 装着して横になると『アリサ』の世界にダイブし、身体はレーザーシールドが張られ、外部からの攻撃を防御してくれる。
 秋葉原のオフィス地下のカプセルを、戦闘に参加する一般人協力者用に、小型化改良した物だった。


 入間は思わず議事堂入り口を振り返った。


「いつの間に…」


 クーデター当日、岩村達を拘束に乗り込んだ時から嶋は、自身のナノマシンの一部を議事堂内に隠し、壁に偽装し増殖させていたのだ。
 そのナノマシンに、美保子のプログラムをインストールしただけだった。
 入間達は、岩村達がいた地下4階の部屋へ入り、デバイスを装着した。
 瞬間、景色が広大な大自然に変わった。
 周りを見渡すと、大自然には不似合いな巨大な高層ビルが立ち、ビルの入り口に嶋がいた。


「もう来たのか、入れ。」


 ビル内は、レジャー施設を併合したホテルの様な造りで


「ここは戦ってくれる皆さんが、まず最初に訪れる場所だ。
 待機中も含めて、自由に使ってもらって構わない。食事も可能だ。味覚も食感も再現されてる。」


 入間達は《シマー》の世界に関してはニュースやネットでは知ってはいたが、それを遥かに超える『嶋』の世界に、恐怖に近い感覚を覚えた。


「なんて科学力だ…」


「科学じゃない。文明だ。」


「あの、嶋社長!」


 中村が嶋に問いかけた。
 嶋はただ中村に目をやった。


「何か、私達に怒ってらっしゃる様ですが…」


「殺して欲しいなら教えてやるが、お前達を殺したいのは、俺じゃ無い。」


 それだけ言って嶋は姿を消した。


 入間達はただ、何も言えずその場に立ち尽くしていた。
 すると床が勝手に動き出し、入間達を応接室の様な豪華な広い部屋へと移動させた。
 壁には大型モニターがあり、入間達が参加する作戦の概要が映し出されていた。
 

「我々は首都防衛の様ですね。」


 警視の階級を持つSAT隊長がモニターを見て言った。
 だが入間は嶋の言った言葉の意味を考えていた。


[私達…いや、私を殺したい程憎んでる人物がいると言う事か…。
 だが私を憎んでいるとしたら、犯罪者だけだ。
 嶋社長の周りには、誰1人として犯罪者は居なかった。
 豊田と繋がりがある人物も…]


「…官、長官?」


「ん?あ、あぁ、すまん。何だ?」


「何だはこっちです、長官。
 これを見て下さい。嶋社長の怒りの原因は、彼の事件です…。」
 

 中村はタブレットを見せた。


「タブレットなんかあったか?」


「デバイスが欲しいと思ったら現れました。信じられません!
 と、それより恐らくは彼です!
 安田光照52歳。9年前不動産侵奪罪、国の所有する土地を、評価額の半額以下で売却した罪で、3年服役しております。
 当時財務官僚で、当時の財務大臣と幹事長豊田も捜査対象でしたが、証拠不十分で不起訴となってます…。
 安田さんはクーデター時、私達が議事堂で合流したスナイプさんの仲間です。安田さんも嶋社長と議事堂に突入してます。」


 入間は安田、やっさんの顔に見覚えがあった。
 

「私が取り調べを行った…。彼は大臣からの圧力で書類を偽造してたんだ…。
 だが議事堂に突入したメンバーに彼はいなかったぞ…。」


「ゲーム専用の姿だったと思われますが、なぜ公文書偽造ではなく、不動産侵奪罪なんですか?
 土地の売却自体は、金額は別としても財務省のプロジェクトでした。
 彼が勝手に売却して利益を得た訳ではありません!」


「私は公文書偽造で検察に書類を送ったんだ。だが裁判では、不動産侵奪罪での起訴となっていた。
 検察は、豊田と財務大臣を起訴出来なかった事で、関わった官僚達に罪を擦りつけて体裁を保ったんだ…。」


 入間は頭を抱えたが、すぐに頭を上げ天井に向かって叫んだ。


「嶋社長と面会がしたい!タブレットを出せるなら、聞こえてるだろう?
 嶋社長に会わせてくれ!」


『不要です。『彼』が貴方を許す事はありません。
 ですが、それで作戦に支障をきたす事もありません。』


 『アリサ』は音声で答えた。


『それに、既に任務へと向かっております。任務終了まで、帰ってくる事はありません。』


 嶋達は既に《シマー》領域へと移動していた。


「では、安田さん!安田さんはどちらに?」


『彼も既に任務に就いています。
 貴方に今出来る事は、貴方の任務を遂行するだけです。』


 安田の起訴には、入間も検察に異議申し立てをしていた。
 自身の作成した書類と違う起訴内容に、納得がいかなかったからだった。
 だが受け入れられなかった。
 

「あの事件は、出来レースだったんだ…。検察は豊田に買収され、官僚に必要以上に重い罪を着せ事件を終わらせたんだ。
 あの時私は正義を守れなかった。でも正義を諦めた訳じゃ無い!
 だから高岡総理に賛同したんだ!
 自分の命に変えても正義を、国民を守る!」


 中村とSAT隊員達は、黙って頷いた。


「俺達を任務に就かせてくれ。」


『入間様、中村様はSAT装備で宜しいですか?』


「中村は狙撃隊員だ。スナイプさんと同じ装備にしてやってくれ。」


『畏まりました。ではナノマシンに換装します。』
 

 次の瞬間、入間達は議事堂前にいた。
 全員SATの黒い隊服に、ヘルメットで統一され、中村だけ武装が違った。
 M110スナイパーライフル。


ーーー体調はどうですか?ーーー


 突然頭の中に声が響いた。


「なんだ!?」


ーーー貴方達の頭の中に、直接通信しています。味方同士の通信も、声に出す必要は御座いません。慣れなければ声に出しても繋がります。
 バイザーはモニターになっており、思い浮かべるだけで必要情報が表示されます。
 敵味方表示は、敵が赤、味方が緑ですが、乱戦時に味方を誤射しないよう、オートセイフティが付いており、機銃を横殴りに乱射しても、味方へは発射されません。ーーー


 ヘルメットのバイザーに映像が浮かび上がり、地形や配置も表示されていた。
 その映像は、バイザーの少し先に浮かび上がってる様に見え、指で触ると反応した。


ーーー映像は空間に浮かんでる様に調整され、タッチパネルの様に反応し、視線や思考にも反応します。
 今の内に慣れておいて下さい。
 尚、武装の弾薬は消費量と同量が、ナノマシンによって即座に再生されますので、弾切れの心配はありません。
 敵の到着は明日以降です。それまでに身体能力と情報映像の操作に慣れておいて下さい。ーーー


 通信が切れると、入間達は即座に訓練を行った。




 入間達が議事堂で実体化した頃、嶋達もシリコンバレーで実体化していた。
 だが前回と違い嶋オリジナルのナノマシンの為、《シマー》サーバーのあるビル内ではなく、外部の庭の陰だった。


「外か…。まずは侵入からになるな…。
 ビル内の人員配置は…同じだな。」


 前回潜入した時、ビル内に『アリサ』がコントロール出来るデバイスを作成し残して来ていた。
 ビル侵入計画はまず、『アリサ』がコントロールするデバイスが地上3階南で騒ぎを起こし警備の目を引き寄せた後、嶋達が十字型のビルの1階四方から侵入、1階警備員を無力化、階段を使い各階を制圧しつつ、地下4階サーバールームを目指す作戦を立てた。
 『アリサ』の分析でも、それが最善の策の筈だった。
 シリコンバレー上空に、ドム・ボロスが現れるまでは。









 





 




 
 
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