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第三章
第十五話 旅立ち
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次の日、俺たちも両親もやや緊張した雰囲気の中で朝食を済ませた。いつもなら祖母と冗談を言って笑わせる竜騎も、さすがにその朝は神妙な顔で食事を終えた。
「婆ちゃん┅┅ほんとにお世話になりました。毎日、うまい飯を食べさせてもらって、ありがとう┅┅」
竜騎の突然の感謝に、祖母はすぐに返答ができず、こみ上げてくる涙を手拭いで抑えながら何度も頷いた。
「うん┅┅うん┅┅婆ちゃんも楽しかったよ┅┅ありがとうね、竜ちゃん┅┅」
「┅┅もう、竜騎ったら、急に真面目にならないでよ┅┅」
沙江も思わずもらい泣きしながら、箸を置いて祖母の方に体を向けた。
「お婆様、本当にお世話になりました。お役目が終わったら、お土産を持ってまた来ます。それまで、どうかお体を大切になさって、お元気でいて下さい┅┅」
「沙江ちゃん┅┅うう┅┅年寄りをそんなに泣かすんじゃないよぉ┅┅」
祖母は立ち上がって、竜騎と沙江をかわるがわる抱きしめ、涙を流した。
やがて時計が九時を指す頃、祖母の家の庭に二台の黒塗りのベンツが入ってきた。車から降りてきたのは四人の黒いサングラスをかけた男たちだった。俺と竜騎、沙江は荷物を持って、見送りの祖母や俺の両親に別れを告げた。
「じゃあ、行ってくるよ┅┅」
「ああ、気をつけてな┅┅」
「皆無事に帰ってきてね┅┅┅待ってるからね┅┅」
「修坊┅┅体に気いつけてなぁ┅┅竜ちゃん、沙江ちゃんも┅┅修坊のことよろしくお願いします┅┅」
俺は思わず涙ぐみそうになって、もう振り返らず一方の車に乗り込んだ。サクヤが俺の横に乗り、竜騎と沙江は一緒にもう一方の車に乗った。イサシとゴーサは空港まで飛んでついていくことになった。黒いサングラスの男たちは、二人ずつに分かれて車に乗り、一人が運転席についた。
「小谷修一様ですね?私は警視庁公安部特務警護課の者です。これより皆様を成田空港までお送りします。着いてからのことはまた後ほどお話いたします。とりあえずこれをお渡しいたします」
助手席の男がそう言って、パスポートと航空券、そして黒いケースに入ったカードを手渡した。
「このカードみたいなのは何ですか?」
「はい、それはキャッシュカードです。必要なお金はすべてこれをお使いください。ただ、現金は外国ではなるべく持ち歩かない方がいいので、現金化するのは必要な分だけになさってください」
男がそう言い終えるのと同時に車が動き出した。俺は両親や祖母に手を振りながら、もしかすると、これが最後の別れになるかもしれないと心の中で想っていた。
空港で俺たちを待っていたのは、政府専用の大型ジェット機だった。車はVIP専用の入り口から入り、出国検査は無しで直接飛行機の側まで行って止まった。
「ふへえ┅┅俺たちってやっぱすげえんだな?」
車から降りた竜騎が日の丸の着いたジェット機を見上げながらつぶやいた。
「あちらのターミナルの方に官房長官と宮内庁首席神祇官がお見送りに来ておられます。私たちはここでお別れいたします。ご武運をお祈りいたします」
「ありがとうございました。行ってきます」
俺たちは、黒服の男たちが敬礼をして見送る中、タラップを登っていった。
だだっ広い政府専用機の中は俺たちと使霊たち、そして護衛のSPが四人、客室乗務員二人、そして機長、副機長の計一四人だけだった。
ここからヨルダンのアンマン空港まで十時間かけて飛び、そこで竜騎と沙江は下りて別の飛行機でクウェートへ向かう。俺とサクヤはそのままこの飛行機でフランスのマルセイユ空港へ向かう予定だった。
「さあて、暇だし、トランプでもするか?」
「あなた、そんなものも持ってきたの?」
「ああ、手品や占いもできるぜ┅┅沙江、恋占いしてやろうか?」
「け、結構です┅┅私はあちらに着くまでアラビア語の勉強をしますので┅┅」
沙江はそう言うと、小型のノートパソコンにイヤホンをつなぎインターネットのサイトでアラビア語の学習を始めた。
「おい、修一┅┅俺もアラビア語やった方がいいのかな?」
あきれ顔の竜騎が俺に問いかけた。
「あはは┅┅やってみたらどうだ?俺は自分の頭じゃ、たった数時間でアラビア語が覚えられるとはとうてい思えないからな┅┅言葉はもう諦めているよ」
「そうだよな┅┅良かったぜ、修一も俺と一緒で┅┅じゃあ、俺たちはポーカーでもしようぜ」
俺と竜騎は前方にあるラウンジルームへ向かった。そして、竜騎に教えてもらいながらポーカーやブラックジャックに興じた。
さすがに政府専用機だけあって、内部の設備や食事は豪華だった。サービスも至れり尽くせりで、シャワー室まであるのは驚きだった。
〝修一様、そろそろお休みになられた方がよろしいかと┅┅〟
夕食の後、竜騎や沙江たちと雑談をしていると、サクヤが心の声でそう言った。飛行機に乗ってから、少しほったらかしにしすぎたことを反省しながら、サクヤがいる座席に帰っていった。サクヤは赤い顔ではにかみながら、いかにも嬉しげに俺を迎えた。
「あ、あの、寒くございませんか?毛布を借りてきましょうか?」
「いや、大丈夫だよ┅┅」
「┅┅では、お、お茶か何かを┅┅」
「いや、何もいらないよ┅┅サクヤ、眠るまで側にいてくれ┅┅それだけでいいから┅┅」
「は、はい┅┅ずっと┅┅お側におりまする┅┅」
俺とサクヤは座席を倒して横になり、向き合ってうっとりとお互いを見つめ合う。ただそれだけで幸せだった。
「まるで、ままごと遊びだな┅┅でも、お二人を見ていると、こっちまで何か幸せな気持ちになるよ┅┅」
「ああ、そうだな┅┅」
通路を挟んで、斜め後ろの席に座っていたイサシとゴーサは、俺たちの様子を見ながら、小さな声でささやき合うのだった。
アンマンでいったん竜騎、沙江たちと別れた俺たちは、それからさらに三時間あまりかかってフランスのマルセイユ空港に着いた。現地時間では夜の十時過ぎで、空港内にはあまり人影はなかった。税関で入国審査を済ませてロビーまで出てきたところで、俺は見知らぬ日本人の男に呼び止められた。
「小谷修一様ですね?」
「はい、そうですが┅┅」
「初めまして。私はフランス日本大使館に勤務している三島礼一と申します。小谷様のお世話をするように言われて参りました」
いかにも頭がキレそうな三十前後の男はそう言うと、俺たちを案内してVIP通路から空港を出た。そして大使館の車で俺たちをマルセイユ港近くのホテルへ連れて行った。
その道中、彼は今回妖魔が取り憑いたと思われる人物について、基本的な情報を書いたメモを手渡し、こう言った。
「確かにそのルクレール氏は、いろいろと評判の良くない人物ではありますが、まさか悪魔に取り憑かれているなどという事は、にわかには信じられません。宮内庁の調査員にも何回か会いましたが、胡散臭い連中ばかりで┅┅あ、いや、これは失礼、あなたのことを言ったわけではありませんが┅┅」
「あはは┅┅まあ、普通の人から見れば、確かに胡散臭いと思われるでしょうね┅┅もう子供の頃からそういった目で見られるのは慣れていますよ。ところで、その宮内庁の調査員って、世界中にいるんですか?」
「ああ、そうですね┅┅私も詳しいことは知りませんが、宮内庁の内部にある極秘の組織ということで、私が会ったのは男女二人組でした。女性の方は外国人だったので、恐らく世界中にネットワークがあると考えていいでしょう。いずれあなたにも接触してくると思います┅┅あ、ホテルはその先です。予約は取ってありますので、フロントにお名前をおっしゃって下さい」
「いろいろお世話になり、ありがとうございました」
「お困りのことがありましたら、いつでもご連絡下さい。では、お気をつけて┅┅」
ホテルの前で三島と別れ、俺たちはホテルの中に入っていった。
〝なあ、やっぱりフランス語でしゃべるのかなあ?〟
俺は横のサクヤに心の中で問いかけた。いくら姿が見えないとはいえ、サクヤも緊張しているらしく、あちこちを眺めながら俺の問いかけに気づかない様子だった。
〝おい、サクヤ、大丈夫か?〟
〝あ、は、はい、何でしょうか?〟
〝緊張するのはしかたないけど┅┅しっかり状況把握はしておくんだぞ〟
〝はい┅┅申し訳ございません┅┅〟
俺はフロントの前まで行くと、係の男に思い切って日本語で話しかけた。
「予約している小谷ですが┅┅」
「いらっしゃいませ。小谷様ですね、うかがっております┅┅」
驚いたことに、彼は流ちょうな日本語で答え、にこやかな顔でカギを手渡した。
「どうぞごゆっくりお過ごし下さい。これは日本語の当ホテルの案内です。よろしかったらお使いください」
「どうも、ありがとう」
〝すごいな┅┅あの人、何カ国語しゃべれるんだろう?〟
俺が心の中でそうつぶやいたとき、サクヤの緊張した感覚が電流のように伝わってきた。
〝修一様┅┅能力者です。左手前方、椅子に座った女と立っている男┅┅〟
指示された方に目を向けると、ロビーの人々の中にこちらをじっと見つめている男女がいた。一人は茶色の髪に鳶色の瞳のまだ若い女性で、もう一人はその女性の横に立つ背の高い長髪の黒の上下の服を着た中年の男だった。彼らを見たとき、俺は直感でさっき三島から聞いた宮内庁の調査員ではないかと思った。
果たして彼らは、俺たちがエレベーターのところへ行くのに後を付けてきた。そして、エレベーターに一緒に乗り込んだのである。
「俺に何か用ですか?」
俺は右手に気を溜めながら、前に立った男に問いかけた。男と横の女はびくっと体を動かしたが、こちらは振り返らず、男は黙って両手を挙げた。
「┅┅どうか、ご無礼をお許しください┅┅射矢王様┅┅」
「あなた方は、宮内庁の調査員ですね?」
「はい┅┅三島一等書記官からこちらのホテルにご滞在だとお聞きし、お待ちしておりました┅┅」
エレベーターが俺たちの泊まる部屋の階に止まったので、俺は彼らに先に出るように言った。
「とりあえず、部屋に入ってからお話をうかがいましょう」
「恐れ入ります┅┅」
俺は警戒を解かず、サクヤにも油断をするなと心の声で伝えてから部屋のドアを開いた。
「どうぞ座ってください┅┅」
「はい┅┅その前に改めて自己紹介をいたします。私は、宮内庁調査部ヨーロッパ支部長の服部羅雪と申します。こちらは、同じくヨーロッパ支部隊員のソーニャ・ボルスカヤです」
「先日、新射矢王に就任しました小谷修一です。こっちは、使霊のサクヤです┅┅サクヤ、お茶かコーヒーを淹れてくれないか?」
サクヤは二人の調査員をじっとにらみつけていたが、俺の言葉に表情を和らげて頷くと部屋の隅にあるキャリアの方へ歩いて行く。
「┅┅なんて、きれい┅┅あんなきれいな精霊、はじめて見る┅┅」
ソーニャがサクヤを目で追いながら、片言の日本語でつぶやいた。
〝しゅ、修一様┅┅申し訳ございません┅┅使い方が分からないのですが┅┅〟
部屋の隅で、サクヤが自動湯沸かしのポットを抱えておろおろしながら俺を見ていた。その可愛い様子に思わず微笑みながら、向かいのソーニャに言った。
「ソーニャさん、すみませんがサクヤの手伝いをしてくれませんか?」
「おお┅┅ダー┅┅わかりました」
ソーニャは嬉しそうに頷いて、サクヤの方へ歩いて行った。
「┅┅この日をずっと待ち望んでおりました┅┅」
服部は無精髭を生やし、頬はこけ、目だけが鋭い光を放っている、何か修行中の武芸者といった感じだった。
「と、言いますと┅┅何か困っていたことでもあるのですか?」
「ええ┅┅恥ずかしながら、われわれヨーロッパ支部は、隊員こそ百名以上在籍する世界最大の組織なのですが┅┅使い魔程度なら全員何とか戦えますが、幹部クラスの妖魔と戦える者は数えるほどしかいません。ましてや、今回のような大妖魔が相手では、戦えるのは私ともう一人ぐらいで┅┅奴らがやることをただ見張るぐらいしかできませんでした┅┅」
「┅┅そうでしたか┅┅俺も初めての実戦なので、どの程度やれるか分かりませんが┅┅とりあえず、ルクレールという人物について、分かっていることをお話し頂けませんか?」
「はい、われわれがこれまで得た情報をあなたにお伝えします┅┅」
服部はそう言うと、サクヤとソーニャが紅茶を持って戻ってくるのを待って、話を始めた。
その話から分かったことは、次のようなことだった。
まず、ルクレール家はもともと銀行業から身を起こし、今の巨大財閥を築き上げていったこと。しかし、現在の経営の中心はIT産業と石油の取引で、本業の銀行は三男のジルベールが継ぎ、規模も小さくなり財閥の中ではほとんど存在感がなくなっていること。また先月、現当主のジョルジュがグループ内のある記念式典でスピーチを始めた直後、急に容貌が変化し、壇上で苦しみ始めたことがあったこと。彼はすぐに病院に運ばれ治療を受け、現在は退院してクウェートの別荘で休暇をとっていること。不思議なことに、彼が倒れたとき、同時にジルベールの娘で十二歳になるシモーヌも倒れて、しばらく意識を失っていたこと、などだった。
「┅┅なるほど┅┅分かりました。それで、あなた方から見て、ジョルジュさんは妖魔に取り憑かれていると思いますか?」
「はい、間違いなく取り憑かれています┅┅しかも、幹部クラス以上の大妖魔だと思われます┅┅これをご覧下さい┅┅」
服部はそう言うと、ポケットから数枚の写真を取り出してテーブルに並べた。それは、ジョルジュとルクレール家の何人かの人々を遠くから撮ったものだった。
「っ!┅┅これは┅┅」
俺とサクヤはそのジョルジュの写真を見て、お互いの顔を見合わせた。写真からでもはっきりと感じられるほど、禍々しい陰の気が放出されていたからである。
「間違いありませんね┅┅でも、他の人たちからは妖気は感じられません┅┅んん┅┅この子がシモーヌですか?」
「そうです┅┅何か感じられますか?」
「んん┅┅何か今までに感じたことがない気ですね┅┅何だろう?サクヤ、君はどう思う?」
サクヤも眉をひそめてじっとシモーヌの写真を見つめていた。
「┅┅私にも分かりません┅┅ですが、害意は感じられません┅┅妖魔とは違う何かが取り憑いているのでしょうか?」
サクヤの言葉に、服部とソーニャは小さな感嘆の声を上げた。
「おお┅┅さすがは射矢王様と使霊様┅┅実は、シモーヌを見て、このソーニャがキリストの精霊を感じたと言うのです┅┅」
「キリスト?つまり、光のヌシの御霊がこの子の中に?」
「はい、そーです。シモーヌはとても強い光のご加護を受けています」
ソーニャが身を乗り出すようにしてそう言った。
「┅┅なるほど┅┅そう考えると、ジョルジュがスピーチ会場で倒れ、同時にシモーヌも倒れたのも納得いきますね┅┅」
「二人の気がぶつかり合った┅┅」
「はい┅┅ジョルジュの中の妖魔とシモーヌの中の守護霊体が戦った結果、お互いに消耗したと考えていいでしょう」
「┅┅家族の中で光と闇の戦いがあるのか┅┅なんともやりきれないな┅┅」
「はい┅┅実は我々が心配しているのはその点でして┅┅」
服部は改まった表情で俺を見つめた。
「ジョルジュにとって、身内の中に光の者がいることは大変厄介な事態に違いありません。ですから、何とかこれを取り除きたいと考えると推察できます┅┅」
「そうか、シモーヌが狙われる可能性が高い┅┅」
「はい、十中八九間違いないでしょう┅┅それに、もしシモーヌをこちらの陣営に取り込むことができれば、大きな戦力になるかと┅┅」
俺は、自分がフランスに派遣された理由をはっきりと理解した。
「分かりました┅┅明日からさっそくシモーヌを見張ることにします。彼女の住所を教えて下さい」
それからいくつかの情報をやりとりした後、服部たちは今後もできる限り協力をすることを約束して去って行った。
「婆ちゃん┅┅ほんとにお世話になりました。毎日、うまい飯を食べさせてもらって、ありがとう┅┅」
竜騎の突然の感謝に、祖母はすぐに返答ができず、こみ上げてくる涙を手拭いで抑えながら何度も頷いた。
「うん┅┅うん┅┅婆ちゃんも楽しかったよ┅┅ありがとうね、竜ちゃん┅┅」
「┅┅もう、竜騎ったら、急に真面目にならないでよ┅┅」
沙江も思わずもらい泣きしながら、箸を置いて祖母の方に体を向けた。
「お婆様、本当にお世話になりました。お役目が終わったら、お土産を持ってまた来ます。それまで、どうかお体を大切になさって、お元気でいて下さい┅┅」
「沙江ちゃん┅┅うう┅┅年寄りをそんなに泣かすんじゃないよぉ┅┅」
祖母は立ち上がって、竜騎と沙江をかわるがわる抱きしめ、涙を流した。
やがて時計が九時を指す頃、祖母の家の庭に二台の黒塗りのベンツが入ってきた。車から降りてきたのは四人の黒いサングラスをかけた男たちだった。俺と竜騎、沙江は荷物を持って、見送りの祖母や俺の両親に別れを告げた。
「じゃあ、行ってくるよ┅┅」
「ああ、気をつけてな┅┅」
「皆無事に帰ってきてね┅┅┅待ってるからね┅┅」
「修坊┅┅体に気いつけてなぁ┅┅竜ちゃん、沙江ちゃんも┅┅修坊のことよろしくお願いします┅┅」
俺は思わず涙ぐみそうになって、もう振り返らず一方の車に乗り込んだ。サクヤが俺の横に乗り、竜騎と沙江は一緒にもう一方の車に乗った。イサシとゴーサは空港まで飛んでついていくことになった。黒いサングラスの男たちは、二人ずつに分かれて車に乗り、一人が運転席についた。
「小谷修一様ですね?私は警視庁公安部特務警護課の者です。これより皆様を成田空港までお送りします。着いてからのことはまた後ほどお話いたします。とりあえずこれをお渡しいたします」
助手席の男がそう言って、パスポートと航空券、そして黒いケースに入ったカードを手渡した。
「このカードみたいなのは何ですか?」
「はい、それはキャッシュカードです。必要なお金はすべてこれをお使いください。ただ、現金は外国ではなるべく持ち歩かない方がいいので、現金化するのは必要な分だけになさってください」
男がそう言い終えるのと同時に車が動き出した。俺は両親や祖母に手を振りながら、もしかすると、これが最後の別れになるかもしれないと心の中で想っていた。
空港で俺たちを待っていたのは、政府専用の大型ジェット機だった。車はVIP専用の入り口から入り、出国検査は無しで直接飛行機の側まで行って止まった。
「ふへえ┅┅俺たちってやっぱすげえんだな?」
車から降りた竜騎が日の丸の着いたジェット機を見上げながらつぶやいた。
「あちらのターミナルの方に官房長官と宮内庁首席神祇官がお見送りに来ておられます。私たちはここでお別れいたします。ご武運をお祈りいたします」
「ありがとうございました。行ってきます」
俺たちは、黒服の男たちが敬礼をして見送る中、タラップを登っていった。
だだっ広い政府専用機の中は俺たちと使霊たち、そして護衛のSPが四人、客室乗務員二人、そして機長、副機長の計一四人だけだった。
ここからヨルダンのアンマン空港まで十時間かけて飛び、そこで竜騎と沙江は下りて別の飛行機でクウェートへ向かう。俺とサクヤはそのままこの飛行機でフランスのマルセイユ空港へ向かう予定だった。
「さあて、暇だし、トランプでもするか?」
「あなた、そんなものも持ってきたの?」
「ああ、手品や占いもできるぜ┅┅沙江、恋占いしてやろうか?」
「け、結構です┅┅私はあちらに着くまでアラビア語の勉強をしますので┅┅」
沙江はそう言うと、小型のノートパソコンにイヤホンをつなぎインターネットのサイトでアラビア語の学習を始めた。
「おい、修一┅┅俺もアラビア語やった方がいいのかな?」
あきれ顔の竜騎が俺に問いかけた。
「あはは┅┅やってみたらどうだ?俺は自分の頭じゃ、たった数時間でアラビア語が覚えられるとはとうてい思えないからな┅┅言葉はもう諦めているよ」
「そうだよな┅┅良かったぜ、修一も俺と一緒で┅┅じゃあ、俺たちはポーカーでもしようぜ」
俺と竜騎は前方にあるラウンジルームへ向かった。そして、竜騎に教えてもらいながらポーカーやブラックジャックに興じた。
さすがに政府専用機だけあって、内部の設備や食事は豪華だった。サービスも至れり尽くせりで、シャワー室まであるのは驚きだった。
〝修一様、そろそろお休みになられた方がよろしいかと┅┅〟
夕食の後、竜騎や沙江たちと雑談をしていると、サクヤが心の声でそう言った。飛行機に乗ってから、少しほったらかしにしすぎたことを反省しながら、サクヤがいる座席に帰っていった。サクヤは赤い顔ではにかみながら、いかにも嬉しげに俺を迎えた。
「あ、あの、寒くございませんか?毛布を借りてきましょうか?」
「いや、大丈夫だよ┅┅」
「┅┅では、お、お茶か何かを┅┅」
「いや、何もいらないよ┅┅サクヤ、眠るまで側にいてくれ┅┅それだけでいいから┅┅」
「は、はい┅┅ずっと┅┅お側におりまする┅┅」
俺とサクヤは座席を倒して横になり、向き合ってうっとりとお互いを見つめ合う。ただそれだけで幸せだった。
「まるで、ままごと遊びだな┅┅でも、お二人を見ていると、こっちまで何か幸せな気持ちになるよ┅┅」
「ああ、そうだな┅┅」
通路を挟んで、斜め後ろの席に座っていたイサシとゴーサは、俺たちの様子を見ながら、小さな声でささやき合うのだった。
アンマンでいったん竜騎、沙江たちと別れた俺たちは、それからさらに三時間あまりかかってフランスのマルセイユ空港に着いた。現地時間では夜の十時過ぎで、空港内にはあまり人影はなかった。税関で入国審査を済ませてロビーまで出てきたところで、俺は見知らぬ日本人の男に呼び止められた。
「小谷修一様ですね?」
「はい、そうですが┅┅」
「初めまして。私はフランス日本大使館に勤務している三島礼一と申します。小谷様のお世話をするように言われて参りました」
いかにも頭がキレそうな三十前後の男はそう言うと、俺たちを案内してVIP通路から空港を出た。そして大使館の車で俺たちをマルセイユ港近くのホテルへ連れて行った。
その道中、彼は今回妖魔が取り憑いたと思われる人物について、基本的な情報を書いたメモを手渡し、こう言った。
「確かにそのルクレール氏は、いろいろと評判の良くない人物ではありますが、まさか悪魔に取り憑かれているなどという事は、にわかには信じられません。宮内庁の調査員にも何回か会いましたが、胡散臭い連中ばかりで┅┅あ、いや、これは失礼、あなたのことを言ったわけではありませんが┅┅」
「あはは┅┅まあ、普通の人から見れば、確かに胡散臭いと思われるでしょうね┅┅もう子供の頃からそういった目で見られるのは慣れていますよ。ところで、その宮内庁の調査員って、世界中にいるんですか?」
「ああ、そうですね┅┅私も詳しいことは知りませんが、宮内庁の内部にある極秘の組織ということで、私が会ったのは男女二人組でした。女性の方は外国人だったので、恐らく世界中にネットワークがあると考えていいでしょう。いずれあなたにも接触してくると思います┅┅あ、ホテルはその先です。予約は取ってありますので、フロントにお名前をおっしゃって下さい」
「いろいろお世話になり、ありがとうございました」
「お困りのことがありましたら、いつでもご連絡下さい。では、お気をつけて┅┅」
ホテルの前で三島と別れ、俺たちはホテルの中に入っていった。
〝なあ、やっぱりフランス語でしゃべるのかなあ?〟
俺は横のサクヤに心の中で問いかけた。いくら姿が見えないとはいえ、サクヤも緊張しているらしく、あちこちを眺めながら俺の問いかけに気づかない様子だった。
〝おい、サクヤ、大丈夫か?〟
〝あ、は、はい、何でしょうか?〟
〝緊張するのはしかたないけど┅┅しっかり状況把握はしておくんだぞ〟
〝はい┅┅申し訳ございません┅┅〟
俺はフロントの前まで行くと、係の男に思い切って日本語で話しかけた。
「予約している小谷ですが┅┅」
「いらっしゃいませ。小谷様ですね、うかがっております┅┅」
驚いたことに、彼は流ちょうな日本語で答え、にこやかな顔でカギを手渡した。
「どうぞごゆっくりお過ごし下さい。これは日本語の当ホテルの案内です。よろしかったらお使いください」
「どうも、ありがとう」
〝すごいな┅┅あの人、何カ国語しゃべれるんだろう?〟
俺が心の中でそうつぶやいたとき、サクヤの緊張した感覚が電流のように伝わってきた。
〝修一様┅┅能力者です。左手前方、椅子に座った女と立っている男┅┅〟
指示された方に目を向けると、ロビーの人々の中にこちらをじっと見つめている男女がいた。一人は茶色の髪に鳶色の瞳のまだ若い女性で、もう一人はその女性の横に立つ背の高い長髪の黒の上下の服を着た中年の男だった。彼らを見たとき、俺は直感でさっき三島から聞いた宮内庁の調査員ではないかと思った。
果たして彼らは、俺たちがエレベーターのところへ行くのに後を付けてきた。そして、エレベーターに一緒に乗り込んだのである。
「俺に何か用ですか?」
俺は右手に気を溜めながら、前に立った男に問いかけた。男と横の女はびくっと体を動かしたが、こちらは振り返らず、男は黙って両手を挙げた。
「┅┅どうか、ご無礼をお許しください┅┅射矢王様┅┅」
「あなた方は、宮内庁の調査員ですね?」
「はい┅┅三島一等書記官からこちらのホテルにご滞在だとお聞きし、お待ちしておりました┅┅」
エレベーターが俺たちの泊まる部屋の階に止まったので、俺は彼らに先に出るように言った。
「とりあえず、部屋に入ってからお話をうかがいましょう」
「恐れ入ります┅┅」
俺は警戒を解かず、サクヤにも油断をするなと心の声で伝えてから部屋のドアを開いた。
「どうぞ座ってください┅┅」
「はい┅┅その前に改めて自己紹介をいたします。私は、宮内庁調査部ヨーロッパ支部長の服部羅雪と申します。こちらは、同じくヨーロッパ支部隊員のソーニャ・ボルスカヤです」
「先日、新射矢王に就任しました小谷修一です。こっちは、使霊のサクヤです┅┅サクヤ、お茶かコーヒーを淹れてくれないか?」
サクヤは二人の調査員をじっとにらみつけていたが、俺の言葉に表情を和らげて頷くと部屋の隅にあるキャリアの方へ歩いて行く。
「┅┅なんて、きれい┅┅あんなきれいな精霊、はじめて見る┅┅」
ソーニャがサクヤを目で追いながら、片言の日本語でつぶやいた。
〝しゅ、修一様┅┅申し訳ございません┅┅使い方が分からないのですが┅┅〟
部屋の隅で、サクヤが自動湯沸かしのポットを抱えておろおろしながら俺を見ていた。その可愛い様子に思わず微笑みながら、向かいのソーニャに言った。
「ソーニャさん、すみませんがサクヤの手伝いをしてくれませんか?」
「おお┅┅ダー┅┅わかりました」
ソーニャは嬉しそうに頷いて、サクヤの方へ歩いて行った。
「┅┅この日をずっと待ち望んでおりました┅┅」
服部は無精髭を生やし、頬はこけ、目だけが鋭い光を放っている、何か修行中の武芸者といった感じだった。
「と、言いますと┅┅何か困っていたことでもあるのですか?」
「ええ┅┅恥ずかしながら、われわれヨーロッパ支部は、隊員こそ百名以上在籍する世界最大の組織なのですが┅┅使い魔程度なら全員何とか戦えますが、幹部クラスの妖魔と戦える者は数えるほどしかいません。ましてや、今回のような大妖魔が相手では、戦えるのは私ともう一人ぐらいで┅┅奴らがやることをただ見張るぐらいしかできませんでした┅┅」
「┅┅そうでしたか┅┅俺も初めての実戦なので、どの程度やれるか分かりませんが┅┅とりあえず、ルクレールという人物について、分かっていることをお話し頂けませんか?」
「はい、われわれがこれまで得た情報をあなたにお伝えします┅┅」
服部はそう言うと、サクヤとソーニャが紅茶を持って戻ってくるのを待って、話を始めた。
その話から分かったことは、次のようなことだった。
まず、ルクレール家はもともと銀行業から身を起こし、今の巨大財閥を築き上げていったこと。しかし、現在の経営の中心はIT産業と石油の取引で、本業の銀行は三男のジルベールが継ぎ、規模も小さくなり財閥の中ではほとんど存在感がなくなっていること。また先月、現当主のジョルジュがグループ内のある記念式典でスピーチを始めた直後、急に容貌が変化し、壇上で苦しみ始めたことがあったこと。彼はすぐに病院に運ばれ治療を受け、現在は退院してクウェートの別荘で休暇をとっていること。不思議なことに、彼が倒れたとき、同時にジルベールの娘で十二歳になるシモーヌも倒れて、しばらく意識を失っていたこと、などだった。
「┅┅なるほど┅┅分かりました。それで、あなた方から見て、ジョルジュさんは妖魔に取り憑かれていると思いますか?」
「はい、間違いなく取り憑かれています┅┅しかも、幹部クラス以上の大妖魔だと思われます┅┅これをご覧下さい┅┅」
服部はそう言うと、ポケットから数枚の写真を取り出してテーブルに並べた。それは、ジョルジュとルクレール家の何人かの人々を遠くから撮ったものだった。
「っ!┅┅これは┅┅」
俺とサクヤはそのジョルジュの写真を見て、お互いの顔を見合わせた。写真からでもはっきりと感じられるほど、禍々しい陰の気が放出されていたからである。
「間違いありませんね┅┅でも、他の人たちからは妖気は感じられません┅┅んん┅┅この子がシモーヌですか?」
「そうです┅┅何か感じられますか?」
「んん┅┅何か今までに感じたことがない気ですね┅┅何だろう?サクヤ、君はどう思う?」
サクヤも眉をひそめてじっとシモーヌの写真を見つめていた。
「┅┅私にも分かりません┅┅ですが、害意は感じられません┅┅妖魔とは違う何かが取り憑いているのでしょうか?」
サクヤの言葉に、服部とソーニャは小さな感嘆の声を上げた。
「おお┅┅さすがは射矢王様と使霊様┅┅実は、シモーヌを見て、このソーニャがキリストの精霊を感じたと言うのです┅┅」
「キリスト?つまり、光のヌシの御霊がこの子の中に?」
「はい、そーです。シモーヌはとても強い光のご加護を受けています」
ソーニャが身を乗り出すようにしてそう言った。
「┅┅なるほど┅┅そう考えると、ジョルジュがスピーチ会場で倒れ、同時にシモーヌも倒れたのも納得いきますね┅┅」
「二人の気がぶつかり合った┅┅」
「はい┅┅ジョルジュの中の妖魔とシモーヌの中の守護霊体が戦った結果、お互いに消耗したと考えていいでしょう」
「┅┅家族の中で光と闇の戦いがあるのか┅┅なんともやりきれないな┅┅」
「はい┅┅実は我々が心配しているのはその点でして┅┅」
服部は改まった表情で俺を見つめた。
「ジョルジュにとって、身内の中に光の者がいることは大変厄介な事態に違いありません。ですから、何とかこれを取り除きたいと考えると推察できます┅┅」
「そうか、シモーヌが狙われる可能性が高い┅┅」
「はい、十中八九間違いないでしょう┅┅それに、もしシモーヌをこちらの陣営に取り込むことができれば、大きな戦力になるかと┅┅」
俺は、自分がフランスに派遣された理由をはっきりと理解した。
「分かりました┅┅明日からさっそくシモーヌを見張ることにします。彼女の住所を教えて下さい」
それからいくつかの情報をやりとりした後、服部たちは今後もできる限り協力をすることを約束して去って行った。
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高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
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田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~
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唯一の血縁者である姪っ子を引き取った月山(つきやま) 五郎(ごろう) 41歳は、住む場所を求めて空き家となっていた田舎の実家に引っ越すことになる。
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この物語は、日本製品を異世界の冒険者に販売し、引き取った姪っ子と田舎で暮らすほのぼのスローライフである。
小説家になろう 日間ジャンル別 1位獲得!
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追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
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魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
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俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
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【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
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幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
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記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
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池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
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