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続編

王国の反撃編

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  王国の英雄 1


 失意の王を支えながら、ルートと3人の貴族たちは、執務室へ向かった。

「ん?どうしたのだ、オリアス王よ」
 執務室にいたリーフベル所長、ガルニア侯爵、宮廷魔導士営団長ハンス・オラニエは、打ちひしがれた様子の王の姿に驚いた。

「はい、実は……」
 王に代わってボース辺境伯が、謁見の間でのいきさつを語った。

「な、なにいいっ、あの腰ぎんちゃくどもが……うぬうう、わしが卑怯者どもの首をはねてくれる」
 ガルニア侯爵が怒りに真っ赤になって立ち上がった。

「叔父上、やめてくだされ……」
「へ、陛下、しかしこのままでは……」
「これ以上、わしに恥をかかせないでくだされ」
「う、ううむ……」

「オリアスの言う通りじゃ。王の言葉に従わぬ者たちが、お主に従うはずもなかろう」
「し、しかし、先生、反逆者たちをこのまま野放しにしていては……」
「なあに、そんな保身しか考えぬ臆病な連中が、何かできるはずもない。放っておけ。今は、これからどうするかを考えるのが先じゃ」

 リーフベル先生の言葉に、侯爵も鞘を納めるしかなかった。

「すみません。こんなことになるとは……僕の計画ミスです」

 貴族も同席させた方が、より《魅了》の恐ろしさを実際に理解できると提案したのはルートだった。彼は、自分の見通しの甘さをひどく後悔していた。

「ルート、お前のせいではない。すべては、わしの不徳のいたすところだ……だが、今になって考えると、むしろこの方が良かったのかもしれぬ……」
 王は椅子に座りながら、1つため息を吐いてから続けた。

「あのまま、何も知らずに、あの者たちの兵を中心に帝国と戦っていたら、恐らくアラン・ドラトの魔法を見た途端、総崩れになって負けていたであろう」

「うむ、確かにお主の言う通りじゃ。裏切り者が早めに分かったことは、良しとせねばなるまい……じゃが、困ったのう、兵力が圧倒的に足りぬな。今ここにいる者たちの兵で動かせるのはいかほどじゃ?」

「私の兵は2000でございます」
「私もボース伯爵と同じ、2000は動かせます」
「わしの兵が4000。あとは、小領主たちじゃが、かき集めても2000がせいぜいですな」

「やっと1万といったところか。それにトゥーラン国の兵と、聖教国の援軍で、2万弱といったところかのう」
「そうですな。情報によると、国境付近に展開している帝国軍は3万とも4万とも聞いております」

 一同は深刻な表情で黙り込んだ。

「あの、いいですか?」
 満を持して、ルートが口を開いた。

「うむ、何でも言ってくれ」
 王も他の者たちも期待に満ちた目を、この天才少年に向けた。

「義勇軍を募ったらどうでしょうか?」
「「「義勇軍?」」」

 一同は、また初めて聞く言葉に一斉に疑問の声を上げた。

「それは、何じゃ?魔法で軍隊を作るのか?」

「い、いえいえ、まあ、ゴーレムくらいだったら作れますが……いや、そうじゃなくてですね、義勇軍とは、自分の意志で国のために戦う、という人たちの集まりです。つまり、国中にお触れを出して兵士を募集するのです」

 ルートの提案に、一同は驚いて顔を見合わせた。

「つまり、一般民衆を兵士にするというのか?」

「はい。ただし、僕の狙いは、冒険者たちと先ほど王様を裏切った貴族たちの私兵たちです。たぶん、貴族の私兵たちの中には、主人の行動に不満や反感を持つ者たちもいるはずです。
 王国を守るという旗のもとに、募集を掛ければ、そういった兵士たちが自分の意志で集まってくれるのではないかと」

「ううむ、面白い考えだとは思うが、そう上手くいくとは……それに、一般民衆を命の危険にさらすのは王として忍び難い」

「いや、王よ、……」
 リーフベル先生が立ち上がって円卓の周りをゆっくり歩きながら続けた。

「逆に、一般民衆からすれば、うれしいのではないかのう、王が、自分たちを頼ってくれると知ったら。それに、何も戦場だけが使い道ではない。そうじゃろう?戦場の周囲の村や街の防衛やケガ人の救護など、後方支援にも人手が必要じゃ」

「はい、僕もそう考えていました。冒険者以外の一般民の人たちには、僕が防御魔法を掛けて、後方支援をやってもらおうと思います。
 冒険者や兵士の人たちには、リーナやジークたちと一緒に、敵の補給部隊を襲撃したり、敵の後方をかく乱する陽動部隊になってもらいます」

「ふふふ……いやあ、面白いですね。ブロワー教授はどこでそんな高等戦術を学ばれたのか、興味は尽きませんが……。
 国王陛下、私もブロワー教授の作戦に賛成いたします」
ハンス・オラニエもルートの提案に賛同した。

「陛下、確かにこれなら兵士の不足分は補えます。帝国はまさか後方を攻撃されたり、補給を絶たれるとは考えていないでしょう。十分に勝機はありますぞ」

「ううむ……分かった。国民を危険にさらすのは忍びないが、ここは頼らせてもらおう。
 ただし、十分に安全は確保してくれ」
「はい、承知しました」

「うむ。では、王よ、さっそく文官に交付文書を作成させるのじゃ。『王国の危機に立ち上がれ国民よ』とか、民衆の心を奮い立たせる書面にするのじゃぞ。
 それと、ルートよ、民衆の心が1つになるためには、かつての建国の英雄ラウル・グランデルのような存在が必要じゃ。当然、お主がその役を引き受けるのであろう?」

 リーフベル先生の言葉に、ルートは慌てて首と手を振った。
「ええっ、いやいやいや、僕にはそんな真似はできませんよ」

「何を言う、お主以外に英雄になれる人間はおらぬであろう?」

 周囲の王も、侯爵も、ハンスまでもうんうんと頷いてルートを見ていた。
 ルートは何とかその役から逃れるために、必死で頭を働かせた。そして、閃いた。

「あ、そうだ、いますよ、適任者が」

「ほう、誰じゃな?」

「ベルナール・オランド先生です」

 ルートの言葉に、一同があっと声を上げてお互いの顔を見合った。

「えっ、どうかしたんですか?」

リーフベル先生、侯爵、ハンスが、気の毒そうにオリアス王の方を見た。
王は、苦い物を食べたときのような顔で小さな唸り声を上げていた。

「ううむ、あ奴か……確かに腕は立つし、見栄えもよいことも認める、が、軽薄才子を絵に描いたような男じゃ。気に入らんな」

「な、何かあったんですか?」
 ルートはリーフベル先生に小さな声で尋ねた。
「う、うむ、昔、ちょっとな……」
「リーフベル、聞こえておるぞ」
 
王はそう言ってから、気まずそうに咳払いをして、ルートの方を見た。
「ルート、お前があ奴、オランドのせがれを推薦する理由は何じゃ?」

 質問されて、ルートは考えながら答えた。
「僕も最初の頃は、彼が軽薄でナルシストで、苦手なタイプに思えました……」

「うむうむ、そうであろう」

「……しかし、付き合っていくうちにだんだん分かってきたのです。彼がいかに冷静に計算した言動で人と接しているか、ということ。彼はとても頭が良くて賢い人です。たぶん、それを表に出さないために、あんな言動をしているのだと思います。そして、子供のような純粋な心を残している人です」

「うははは……王よ、これは1本取られたのう。ルートの見る目は確かじゃ。もう、そろそろ過去のことは水に流すがよい」

 リーフベル先生の言葉に、王はため息を吐いて、何か吹ききれたようなような表情でルートを見た。
「そうじゃな。お前がそれほど買う人物なら、わしがとやかく言うことではない。
 分かった。ルートよ、この件はお前に任せる。あ奴を説得してくれ」



  王国の英雄 2


 後で、リーフベル先生に聞いた話では、6年前、当時王立学校の生徒だった王の娘、つまりセリーシア王女が、若い担任のベルナールに恋をしたのが事のきっかけだった。
 セリーシアは恋心を募らせ、ついにある日、父母の前でその思いを告白した。

 ところが、オリアス王はそんな娘の思いを一刀のもとに切り捨てた。そもそも、オランド家は貴族と言っても爵位は男爵、王家の娘を嫁にできる身分ではなかった。それに、セリーシアにはすでに海王国バルジアの第1王子の妃に、という王家同士の話し合いができていたのだ。

 それでも、あきらめきれない王女は1度だけでいいから、ベルナールと会ってくれと王に懇願した。母親の王妃の進言もあり、会うだけならと王も折れて、ベルナールは王家の茶会に招待された。
 王女はまだ自分の思いをベルナールには打ち明けていなかった。余計な迷惑を掛けたくないという思いからだった。
 何も知らないベルナールは、王家に招待されて舞い上がった。そして、やらかした。例の調子で延々としゃべり続けたのだ。

 王は改めて娘に、ベルナールとの交際は認められないと言い渡した。
 セリーシア王女はかなわぬ思いを抱えたまま、王立学校を卒業した。その思いをついに告白することもなく、傷心の王女はその1年後、バルジア海王国に嫁いでいった。

 ただ、彼女は嫁ぐ日まで父王とほとんど口を利かなかったらしい。それは王城内では有名な語り草となっており、リーフベル先生の耳にも当然入っていた。
 王女も傷心を抱えていたが、それを彼女に強いた父王もまた傷心を抱えることになったのだった。



「な、なんと、エリスが……帝国に……」
 さすがのベルナールも、ルートから一連の出来事を聞かされると、蒼白になってしばらくは呆然と床を見つめていた。
 が、やがて彼は顔を上げると、まるで炎を宿したかのような目でルートを見つめた。

「ブロワー君、そのドラトとかいう奴は、今どこに?こうしてはおれん、我がクラスの生徒を手に掛けた報い、思い知らせてくれる」
「ベルナール先生、落ち着いてください、エリスはすぐにどうこうという危険はないと思います」
「なぜ、そんなことが分かる?そいつは人を思い通りに操れるのだろう?だったら、エリスを獣欲のままに弄んでいるかもしれぬではないか」

 確かに、ルートもそれについては完全に否定することはできなかった。ただ、命さえ無事なら、その体と心の傷は時間が癒してくれるのではないか。今はそれにすがるしかなかった。

「僕の仲間のリーナという冒険者が、数人の冒険者とともにエリスがドラトの船に乗り込むのを確認しています。ドラトは、エリスをたぶんその冒険者たちと同じ、戦のための道具として使うつもりではないかと思います。
 だから、トゥ―ラン国に乗り込んで、戦場で堂々とかたをつけ、エリスも取り戻しましょう。僕に力を貸してください」

「ああ、もちろん戦うとも。いつ出発するのだ?」

 ベルナールがようやく落ち着いたところで、ルートはさらに詳しいことを彼に話した。
 ミハイル公爵以下の貴族たちの言動を聞いたときは、さすがにルートも彼を魔法で眠らせようかと思ったほど、ベルナールは怒り狂い、感情をあらわにして教官室の壁を何度も拳で殴りつけた。

「なるほど……それで、民衆から兵士を募るのか……分かった。彼らを、後方支援の部隊と敵後方をかく乱する陽動部隊に分けるんだな。それで、僕は陽動部隊に入るのか?」

 しばらくして、何とか冷静さを取り戻したベルナールは、ルートから作戦の続きを聞いて質問した。

「いいえ、僕としては、先生に連合軍の指揮を執っていただきたいと思っています」
「えっ?ちょ、ちょっと待て、僕が指揮官だと?そんなことができるわけがないだろう。指揮官は当然、ガルニア侯爵かボース辺境伯ではないか」
「はい、本来ならそうです。しかし、今回は王様と首脳の会議で正式に決定したのです。先生を王国正規軍の総司令官にすると」

 ベルナールはあまりの驚きにしばらく混乱する頭を抱えて、部屋の中を歩き回った。
「いったい、なぜ、そんなことに……僕は1度も軍隊経験などないのに……」

「すみません。事後承諾になってしまいましたが、先生を推薦した張本人は、僕です」

 ベルナールはあっと叫んで、ルートを振り返り、近づいて来た。
「君が?僕を、どうして?」
「先生が、王国の旗を掲げて立つ《英雄》にふさわしい、先生以外にはいない、そう思ったからです」

 ベルナールはしばらくの間、ルートの両肩をつかんだままじっと見つめていた。

「本来なら、王国の旗の下に集うべき、主要な貴族たちの大半が尻込みして逃げました。先生も王国の臣たる貴族の1人でしょう?やはり、尻尾を巻いて逃げますか?ここで、貴族の誇りを見せるべき時ではありませんか?」

「くくく……あははは……まったく君という男は……敵に回ったら、顔も見たくないほどの恐ろしい策士だな」
「最高の誉め言葉だとありがたく受け取っておきますよ」

 ベルナールはつかつかと歩いて行って、壁に掛けてあった愛用の剣を手に取ると、ゆっくりと剣を引き抜き、上に掲げた。窓から差し込む日差しに、剣は美しく光輝いた。

「承知したぞ、ルート・ブロワー。王命とあらば、なんで断ることができよう。このベルナール・オランド、王国の旗にわが命を捧げることを、ここに誓う」

「はい、国王様もお喜びになるでしょう」
 そう答えてから、ルートはふと思いついて、言葉を続けた。
「あ、そうだ、先生。先生の防具を一式、僕に作らせていただけませんか?なんなら、剣も新しくしてもいいですが」

「何?本当か?それはありがたい話だが……防具は市販の安いプレート・アーマーしか持っていないんだ」

「任せてください。タイムズ商会の専属工房である《リープ工房》には、腕利きのドワーフの親方がいます。彼なら必ずすごい防具を作ってくれますよ。
 それでですね、せっかくなら、先生のステータスを強化、補助する防具にしようと思うのですが、先生のステータスを見ても良いですか?」

「おお、それはありがたい。もちろん構わないよ。そうか、君は鑑定スキルも持っていたんだったな。あはは……まったく、何でもありだな」

 ルートはベルナールの許可を得て、《解析》で彼のステータスを見た。
 
《名前》 クライス・オランド
 《種族》 人族
 《性別》 ♂
《年齢》 26
《職業》 教師
《状態》 健康

《ステータス》
  レベル  : 109
  生命力  : 1178
  力    : 1060
  魔力   : 565
  物理防御力: 859
  魔法防御力: 435
  知力   : 619
  敏捷性  : 285
  器用さ  : 332

《スキル》 体術 Rnk5  剣術 Rnk5  光魔法 Rnk3
      槍術 Rnk5 センプトブル Rnk1
      ソードマスター Rnk5
    ※ マーバラ神の加護
    ※ 英雄の雛鳥

※ 「剣聖」の二つ名を持つ。本人は10歳の時に自分のステータスを確認して以来、ステータスの確認をしていないので、その後マーバラ神の加護を受けたことと英雄の資質が芽生えたことを知らない。
※ ルートに出会って、教師人生の充実感と生きがいを改めて感じている。


 ルートは思わず叫び声を上げそうになって、慌ててごくりとそれを飲み込んだ。
(はああっ?な、何だよこの化け物ステータス……しかも、マーバラ神の加護に「英雄の雛鳥」だって?それに、何だセンプトブルって?これって魔法かな?はあ……本人も知らない?あはは……笑うしかないな……)

「どうしたんだい、変な顔して?。僕のステータスって、そんなにひどかった?」

「えっ、あ、いや、そんなことはありません。すごいステータスだなって驚いていたところです」
(本人には言うべきなのかな?う~~ん……いや、今はまだ黙っておこう)

「そうかい?《技能降授》のとき見てから、今まで1度も見ていないんだ。剣の才能があるって言われたから、もうそれ一筋さ。あはは……」

「あは、は……ええっと、先生はもう、ほとんど防具はいらないほどの防御力ですが、あえて言うなら魔法防御がもう少しあれば完璧です。防具は魔法防御に特化したものを作りましょう。剣はどうしますか?」

「そうだな……実際の戦場となると、相手は鎧を着ているんだよな。そうなると、このレイピアでは少々心もとないか。う~ん……ハルバートにするか……いや、やはり剣がいい。すまないが、ロングソードをお願いできるか?頑丈な奴がいい」

「分かりました。楽しみにしていてください」

 少しばかり年を食った「英雄の雛鳥」は、ようやくその力を見出してくれた人物に巡り合えて、光輝く大空へと羽ばたこうとしていた。



 閑話 クラウスの秘密


 それは、リーフベル先生を《毒沼のダンジョン》に連れて行った日の夜のことだった。
 夕食後、ルートたちはずっと今後の作戦を話し合っていたが、疲れてきたので一息休みを入れて、お茶を飲もうということになった。
 
 背伸びをして立ち上がったリーフベル先生が、突然こう言い出した。
「そうじゃ、クラウスに聞きたいことがあるのじゃが、ルート、呼び出せるか?」

「あ、はい、呼び出せます。クラウス、来てくれ」

 すぐに祭壇の下に魔法陣が浮かび上がり、黒い巨体のガーディアンが現れた。

「お呼びですか?我が主」
「ああ、リーフベル先生がお前に聞きたいことがあるそうだ」
「はっ。リーフベル殿、何なりとお聞き下され」

「う、うむ。しかし、大きいのう、見上げていると首が疲れそうじゃ」
「おお、これは気が付きませんで申し訳ない」
 クラウスはそう言うと、あっという間にちょっと大きめの大人の男くらいのサイズに小さくなった。

「うおお、そんなこともできるのか?」
「はあ、これしき、何の造作もありませぬが……」

「2人とも、立ってないでこっちへ来て、座りながらゆっくり話そうよ」
 ルートの声に、2人はルートがいる応接用のソファと所へ行って腰を下ろした。

「のう、クラウスよ、そなたはルートに召喚されてここに来たのじゃな?」
「いかにも。我が主の素晴らしきお力で、この世界に呼び出して頂きました」

「うむ。では、そなたがいた元の世界はどのような世界じゃったのか、聞かせてくれぬか?」

「はあ、そうですなあ、一言で言えば、〝果てしなき闇と混沌〟の世界、でしょうか。
 我がいたのは、この光の世界の対極にある闇の世界なのです。そこには、死滅したものの残骸と生まれ出ようとするものの力が入り混じり、常に雑多な叫びと思念に満たされておりました。
 我や仲間たちは、この混沌から生まれ、力を注ぎこまれて強大な存在に成長しながら、時折、光の世界からやって来る召喚の魔力に魅かれて、こちらの世界に遊びに出て行きました。そう、我らにとって、光の世界に呼び出されるのは、実に楽しい遊びでした。
 我はある時は《魔王》、またあるときは《破滅》と呼ばれ、ほとんどの場合、召喚者の命と引き換えに光の世界に出ることができました……」

 そこまで言うと、クラウスはいかにもつまらなそうにため息を吐き、息をつめて聞いているリーフベル先生の方をちらりと見てから続けた。
「まあ、我の場合、たいていは意味もなく襲い掛かってくる人間たちや、勇者とかいう者たちの相手をしたり、むやみに祭られて狭い場所に閉じ込められたり、退屈でつまらない思い出しかありませんが……」

「そ、そうか、ふむ。つまり、そなたは神々の世界とは対極の世界の者で、神々と同等の力を持つ者ということじゃな」
「ああ、どうなのでしょうな。その神々とかいう者がどんなものか分からぬので、何とも答えられませぬが……我が主にはとうてい及びませぬ。その程度の力ですよ」

「そうかぁ、じゃあ、ここに閉じ込めておくのはずいぶんと退屈で辛いことだろうね?」

 ルートの問いに、クラウスはあわてて首と手を振って答えた。
「いやいや、我が主、それは違いますぞ。ここは実に面白く、退屈はしておりませぬ。ダンジョンの管理というものは、実にやりがいがあります。1つ1つの階層の設計、配置する魔物の種類と数、宝箱の中身の製作やランクの設定などなど、やること、考えることはいくらでもありますからなあ。それに、我が作ったダンジョンを懸命に攻略する冒険者たちを眺めていると、時間が経つのも忘れるほど面白いのです」

「あはは……そうか、それならよかったよ」

「はい。それに、ジャスミンの手伝いもなかなかに面白いものですぞ。彼女は今、主の前世の記憶をもとに、け、け……けい……けいけ……」
 クラウスが突然壊れたCDにようになったので、ルートたちは驚いたが、クラウスの言葉にルートの頭にひらめくものがあった。

「〝ケイタイ〟か?」
「おお、それそれ、ケイタイなるものを作ろうとしておりまして、素材集めの手伝いをしておるのですが、これがまた大変でして……」
(マ、マジか?すげえな、ジャスミン。本当に携帯創り出したら大変なことになるぞ)

「おお、それと、料理にもはまっておりましてなあ、いやあ、やりたいこと、やらねばならぬことが多すぎて、退屈どころではありませぬよ。うはははは……」
(えっ、クラウスが、りょ、料理?うわあ、あり得ねえ……)

「むう、わしの笑い方を真似しおって……ときに、ルートよ、ケイタイとは何じゃ?」
「あ、ああ、ええっとですね、小型の通信機といいますか……」
「通信機じゃと?つまり、連絡を遠くから伝える機械か?そんなものが前世にはあったのか?」
「はい……ありました。しかし、この世界では機械だけでは無理です。おそらく、ジャスミンは、魔法を利用しようと考えているのでしょう」

 リーフベル先生の目がキラキラ輝き始めたので、ルートは何とか話をそらそうと思った。しかし、先生はもう逃がさないといた様子でルートに迫って来た。

「ん、先生、近い。お茶、はいった」
 ナイスタイミングでリーナが間に入って来た。
「お、おお、すまぬ、つい興奮してな。どれ、お茶をいただきながらゆっくり聞かせてもらおうかのう」
(やっぱり聞くんかいっ!)

「それで、なぜこの世界ではその機械が使えんのじゃ?」

 ルートはあきらめのため息を吐いて、どう説明したものかと頭をひねった。

「ああ、ええっとですね、それを説明するには、まず電気というものについて説明しなければいけないのですが……」
「電気?もしかして、雷の仲間か?」
「おお、そうです。さすが先生、すばらしい。雷は光の速度で移動する電子、つまり電気の元の集まりなんです。しかし、この電子は通常は目に見えないほど小さくて、こうしたすべての物質の中にそれこそ数えきれないほど無数に閉じ込められています……」

 ルートは、こうして延々と電気のこと、電波のことなどを説明した。リーナとクラウスはやがて台所に逃れて、楽し気に話をしながら、クッキーを仲良く作り始めた。

「……つまり、そういうわけで、球形のこの大地で遠く離れた所と電波で通信しようとすると、どうしても、途中に電波を中継するアンテナという機械が必要になります。そして、その機械を動かすためにもまた電気が必要なのです。だから、アンテナ、電気を作り出す機械をあちこちに設置しないと、通信機は使えないというわけです」

 ルートは長い説明をやっと終わって、大きなため息を吐いた。

「なるほどのう。いや、実に面白かった。お主の前にいた世界は、恐ろしく進んだ世界なのじゃな?」
「ええ、確かにこの世界に比べれば進んでいました。でも、僕はこっちの世界の方が好きですよ」
「ぬははは……そりゃあ、リーナがおるからのう」
「な、そ、そうじゃなくて……」
「お、何じゃ?違うのか?お~~い、リーナ~~、ルートがなあ……」
「うわああ、やめ、やめ……」

「ん、何?どうしたの?」

「ああ、いや、な、何でもないから。あはは……」

 ルートの慌てふためく姿に、リーフベル先生は腹を抱えて笑い転げるのだった。



  集え、王国の旗の下に 

 『 告  王国民兵を募集す
 
 先般、西の大陸のラニト帝国軍がトゥ―ラン国への侵略を開始せり。
  その暴挙に対し、ハウネスト聖教国教皇は、神を信奉する国々へ、トウーラン 国救援を要請せり。友好国であるわが国も、当然これに応ぜねばならぬ。
  が、帝国軍は多勢にて、しかも、教皇の要請に応ずる国は甚だ少なし。
  このままであれば、トゥーラン国は日を経ずして降伏し、勢いに任せた帝国軍がわが国  
 にも攻め寄せてくるは必定なり。
  よって、なんとしても、トゥーラン国での戦いに勝利せねば、わが国は滅亡の危機にさ
らされることになるであろう。
 勇気ある忠実なる王国民よ。どうか、この王国の平和のため、家族友人の安寧のた
め、今こそそなたたちの力と勇気を、この我に貸してはくれまいか。
 
        グランデル国王 オリアス・グランデル

  心あるものは、最寄りの「冒険者ギルド」にて記名の上、来たる1月11日、5つ鐘までに王城広場に集合のこと  』

 
 この文書は、1月5日の朝、王城から一斉に兵士たちによって全国の街や村に運ばれていった。
街や村の公共の広場に立て看板が立てられ、街にはさらに冒険者ギルドと公共掲示板用に1枚ずつ余分に配られた。

 受付場所は、本来なら《領政局》になるところだが、反旗を翻した貴族たちの領地では、確実に妨害が入ることが予想されたので、冒険者ギルドに委託されたのである。
 もちろん、そこへも領主による妨害や脅迫が来るかもしれないが、ギルドは全国の街にあるので、他の街で受付をする者たちをすべて妨害することは不可能だろう。

 文書が公布されるや、国中が蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

「さて、どんな状況になっておるかな……」
 1月6日、その日ガルニア侯爵の館で、侯爵、ルート、リンドバル辺境伯、コルテス子爵、ポルージャ子爵が集まって、各街での状況報告と今後の方針を話し合う会合が開かれることになっていた。

「旦那様、ただ今帰りました」
 最初に執務室に入って来たのは、侯爵家の執事ライマン・コルテスだった。

「おお、ライマン、どうであった、街の様子は?」
「はい、街は大変な騒ぎになっております。大半は戦の影響を心配する者たちですが、冒険者ギルドの前には長蛇の列ができておりましたし、広場では大勢の者が集会を開いておりました。戦に参加するか、しないかを盛んに論じ合っておりました」

「おお、そうか。では、かなりの数の民衆が受付に来ておるのだな?」
「はい。多くは冒険者たちでしたが、中には獣人や普通の民衆と思われる者たちもかなりいました」

 侯爵は満足げに頷いて、ライマンにお茶の準備を始めるように命じた。
 そして、それが合図ででもあったかのように、招待された者たちが次々に到着し始めたのだった。

 一同が席に着くと、議長役のガルニア侯爵が、ルンドガルニアの街での民衆の様子を語り、他の街ではどのような状況か、報告を求めた。

「では、まず私から報告しましょう」
 リンドバル辺境伯がそう言って、リンドバルの街での様子を数字を交えながら報告した。

 それによると、2日目の現時点で受付人数は600人を超え、まだ増える見込みであること、商人からの物資や資金の支援が続々と寄せられていることなどであった。

 ポルージャとコルテスの街もおおむねリンドバルの街と同じだったが、特にポルージャでは志願者の数が1000人に達しようとしていた。

「そうか…なんとも胸が熱くなるのう。これほどまでに王国に忠義の心を持ってくれていたとは……」
 ガルニア侯爵が感動に声を震わせながらつぶやいた。

 確かに王国の民衆は、今のグランデル王室に敬愛と親しみを抱いていた。ただ、今回の場合はむしろ、自分たちの生活に直結した危機を感じていたのである。
 というのも、近年、王国内の物品の生産が飛躍的に向上していた。それは言い換えれば人々の生活が豊かになり、消費が大きく伸びたということだ。これにはタイムズ商会の存在とルートの考え方が大きく関わっていた。

 生活のあらゆる分野で新製品を次々に開発することで、王国全土で新しい仕事と労働力が生まれた。また、利益を貯め込まずにどんどん投資をすることで、生産が拡大するとともに貨幣の流通がスムースになり、すべての人がその恩恵を受ける結果となった。
 今、王国は歴史上空前の経済発展の途上にあったのだ。

 人々は、その豊かさを実感し、日々希望を胸に働いていた。ところが、そこに、降って湧いたような帝国の侵略と、王国の危機の報せである。
 今の生活を失うわけにはいかない、これが偽らざる人々の本音だった。


「陛下は、トゥーラン国への出発を15日と決めておられる。11日の招集後間もないが、民兵への訓練や部隊編成はルートとホアンに任せてよいか?」

「はっ、お任せください。ブロワー、良いな?」
「はい、そういう取り決めでお願いしたのですから、責任をもってやります。
 ただ、このままだと民兵だけで1万を超えそうですが、輸送の方は大丈夫でしょうか?」

 ルートの問いに、ガルニア侯爵はニヤリと笑って胸を張った。
「ふふ……安心しろ。実はな、バルジア海王国のセリーシア王女殿下の御尽力で、バルジア王が、200隻の軍艦を兵士の輸送に貸し出すことを決定したのだ。昨日、その知らせが陛下の下に届けられた。これで、わが国の軍艦と合わせて480隻になる。3万の兵を楽に運べるようになったのだ」

 一同はそれを聞いて、感動の声を上げた。バルジア海王国が事実上の参戦を表明したことになる。直接地上戦には加わらないが、海上戦も想定しなければならない状況で、頼もしい味方が付いてくれたのである。

「では、今後の各自の動き、予想される問題点について、細部まで話し合っておこう。次に会うのは11日、王城でとなる。それまでにやるべきことを共有しておくぞ」

 侯爵の言葉に全員が頷いて、目の前に置かれた予定表に目を落としながら、それぞれの今後の動きを話し合っていった。



  それぞれの戦い


 侯爵家での会合を終えたルートは、ポルージャに帰ると、タイムズ商会本社の2階に、各部署の責任者たちを全員集めて、初めての本部会議を開いた。
 そこで、ルートは現在の世界の情勢と今後の見通しについて、大まかに説明した。

「……というわけで、僕とジーク、リーナは戦地に行くことになります。ただ、心配しないでください。僕もこの2人も絶対死ぬことはありません。それは僕が神に誓って約束します。
 皆さんには、僕たちが留守の間、いろいろ不便をおかけしますが、どうか、できる範囲のことをやって、商会を支えてください。留守の間の責任者は、母のミーシャとその補佐のライルさん、マリアンナにやってもらいます」

 ルートが説明を終えて座ると、さっそく、工房責任者のボーグ親方が立ち上がった。
「話は分かった。後のことは心配しないで思い切り戦ってこい。お前たちは国を守るため、俺たちは《タイムズ商会》を守るために全力で戦ってやるぜ」

「ああ、ボーグの言う通りだ。こういうときこそ、商会への恩を返す時だ、そうだろう、皆?」
 輸送部担当のグラントの言葉に、責任者たち全員が「オウッ」と叫んで片手を突き上げ、その後一斉に拍手をした。

 《タイムズ商会》を守る戦いは、この上もなく士気高らかで、ルートは安心してポルージャを離れることがでたのだった。


「じゃあ、親父、行ってくる」
「うむ。青狼族の誇りにかけて、見事敵を打ち破ってまいれ」

 帝国の侵略と王国の民兵募集の報せは、リンドバルの街で働いていた青狼族の若者たちから、青狼族の村にも伝えられた。
 族長のダマルは、ルートとリーナが必ずこの戦いに参加すると考え、息子のガイゼスとあと3人の男たちを、知らせに戻って来た4人の若者たちと一緒に送り出した。
 彼らには、必ずルートとリーナの側にいて守るように命じてあった。


「あ、あの、すまねえが、ここになんて書いてあるか、教えてくれねえだか?」
「おう、なんだ、兄ちゃん、知らないのか?」

 リンドバルの公園の入り口で、たくさんの毛皮を背中に担いだ若者に、通りがかった男は立て看板の文章を読んで聞かせた。

「今、国中が大騒ぎだよ。ここにも帝国が攻めてくるんじゃないかってね」
「はああ、そうだったのか……おら、山の中に住んでるんで、ちっとも知らなかっただよ。ありがとうな」

 その若者、トッドは男に礼を言うと、市場に毛皮を売りに向かった。彼がこの街を訪れたのは約9か月ぶりである。
 9か月前、彼はこの街で、必死に1人の少女の行方を尋ね回った。そして、ようやく1件の宿屋で、少女についての手がかりを得ることができた。
 だが、その宿屋『雨宿り亭』の女主人マーサから聞かされたのは、残酷な事実だった。

 トッドがしばらく世話をし、恋焦がれた少女リーナは、今を時めく《タイムズ商会》の会長である少年の婚約者だった。しかも、ギルドで聞いた話では、冒険者としても国中に名前を知られた《時の旅人》のメンバーで、もうすぐAランクに昇級するであろうと言われている凄腕のアサシンだったのだ。

 大きなショックを受けたトッドは、それから山の中に引きこもり、落胆した日々を送った。そしてどうにか心の整理がついて、やっと9か月ぶりに街へ下りてきたのだった。

(大勢の冒険者が民兵に登録しているらしいだな……もしかしたら、リーナも戦争に行くかもしれねえだ……どうせ、生きてても希望なんてねえだ。よし、おらも民兵に応募しよう。戦場で、もしかするとリーナにもう1度会えるかもしれねえ。もう、結婚は出来ねえだども、せめてひと目会って死ねたら、おら、もうそれで満足だ)

 トッドはそう決意すると、冒険者ギルドへ向かった。
 1人の若者の未練と決別するための戦いが始まろうとしていた。


 ルートとリーナは、王立学校の始業式に合わせて、前日の8日に王都に帰った。
 その日の午後、学校では職員全員が集まって、例年通り職員会議が開かれた。ただし、今年の職員会議の議題の中心は、言うまでもなく帝国との戦いのことだった。

 まず、冒頭にリーフベル所長から、ベルナールが王国軍の総司令官として、ルートが民兵軍の指揮官の1人として戦地に赴くことが発表された。また、生徒の1人、エリス・モートンが、アラン・ドラトに魅了を掛けられ連れ去られたことも告げられた。

 ほとんどの職員がすでに知っていたので驚きはなかったが、沈鬱な空気が広い会議室を包んでいた。

 その後、新学期に向けての様々な議題に移ったが、重い空気は会議が終わるまで消えることはなかった。

 そして、翌日の始業式で、全校生徒の前で、リーフベル先生の口から、2人の出征が告げられた。貴族出身の子弟がほとんどだったので、生徒たちもすでにその情報は知っていた。だから、その発表の時は全員じっとうつむいて黙っていたが、2人の教師がしばしの別れを告げるために前に進み出たとき、それは起こった。

「オランド先生っ、僕も先生と一緒に戦わせてください!」
 突然、生徒たちの中から1人の男子生徒が声を上げた。

「私も戦いたいです」
「ブロワー先生、一緒に連れて行ってください」
「僕も戦う!」

 まるで、堰を切ったように、生徒たちが口々に叫び始めた。

「静かにっ、静かにしたまえ、静まれ~~~つ!」
 コーベル教頭が必死に叫んだ結果、ようやく生徒たちは静かになった。

 リーフベル先生が前に出て、生徒たちに静かな声で言った。
「栄光あるわが校の生徒諸君、わしは今、大変感激しておる。さすがはわが校の生徒たちであると。その心意気やあっぱれ、その愛国心と誇りは、わが国の宝である。
 だがな、安心するがよい……」
 演題の上に飛び乗ったリーフベルは、にこにこしながら、踊るようなしぐさでルートとベルナールを指し示した。

「わが校が誇るこの2人の天才が、あっという間に帝国を撃退してくれるであろうぞ。君たちが活躍せねばならぬのはその後じゃ。
 彼らの後を継いで、明日の王国をしっかりとした国にする。それが君たちすべてに課された大きな責任なのじゃ。よいかな?」

 校長の言葉に、生徒たちは落ち着きを取り戻し、その後は静かな中で始業式が終わった。

 ルートは、ホームルームのために自分のクラスへ向かった。しばらくのお別れを告げるためでもあった。
 教室に入ると、生徒たちが静かに座って彼を迎えた。いつもは、おしゃべりで賑やかな教室がウソのようだった。



  ルート先生の教え 1


「お早う、皆、元気そうで何よりだ。ああ、ええっと、新学期が始まった日に、こんなことを言うのは先生としても辛いのだが、聞いている通り、帝国がこの国の海を挟んだ隣国であるトゥーラン国に攻め込もうとしている。これを許せば、いずれ、この国にも手を伸ばしてくるだろう。
 僕とベルナール先生は、それを阻止するためにトウーラン国へ行くことになった。
 しばらくの間、君たちとは会えないが、どうか今まで通りしっかり勉学に励んでほしい。いつ帰るか、はっきりとしたことは今は言えないが、そんなに長くはかからないと思う。
 さて、それでは後期の予定について……」

「先生っ」

 ルートが、説明を続けようとしたとき、学級委員長のゲイル・カートンが手を上げた。

「なんだい?ゲイル」

 ゲイルは立ち上がって、その正義感に満ちた目でまっすぐにルートを見つめた。

「所長はああおっしゃいましたが、僕は納得していません。
 先生は、あの最初のホームルームの時、こうおっしゃいました。『貴族は、なぜ偉いか。それは、いざ国が存亡の危機に立った時、貴族が国や国民を守るために、誰よりも早く、誰よりも勇敢に戦わなければいけない立場にある人間だからだ』と。
 僕は、その言葉を生涯胸に置いて生きてゆこうと、あの時心に誓いました……]

「私もです」
「僕も同じです」
 生徒たちが次々と立ち上がって、ゲイルに賛同した。

「それなのに、今、この国には、領地に閉じこもって戦いに行こうとしない貴族が、多くいます」
 ゲイルはそう言って、座ったまま顔を上げられずにいる何人かの生徒たちを見回した。

「そんな貴族がいるのに、なぜ、貴族ではない先生が、命の危険がある戦地に行かれるのですか?なぜ、貴族である僕たちが、先生と一緒に戦えないのですか?」
 そうだ、そうだという声が、教室の中を満たした。

 ルートが、それに答えようと口を開きかけたとき、悔し気にうつむいていた生徒たちの中で、ジャン・バードルが立ち上がって叫んだ。

「お、お前たちは、何も知らないんだ。僕は、父上から聞いた。帝国には、恐ろしい英雄がいて、目を見るだけで相手を思いのままに操れるらしい。そんな相手に、どんなに兵隊が向かって行ったって、逆に操られて味方を攻撃するようになるって……」

「だから、こそこそ領地に隠れて逃げるって言うのか?」

「違うっ!……貴族は……貴族にとっては、自分の領民を守ることが何より大切なんだ。
 た、たとえ、帝国に支配されても、うまく交渉して領地と領民を守ることができれば……」

「ああ、もういい、バードル、それ以上しゃべるな、反吐が出る。
 結局、国や王室より、自分さえ安全で、今まで通りの暮らしができれば、喜んで帝国の王の足を舐めるということだな?恥を知れっ」

「もういい、そこまでだ2人とも。皆、座ってくれ」
 ルートの声に、まだ憤懣やるかたないゲイルや何人かの生徒は、バードルを睨みつけながらしぶしぶと腰を下ろした。

 ルートは教壇から降りて、ゆっくりと生徒たちの間を歩きながら、話し始めた。

「感情は、時に多くの人を動かす大きな力となる。だが、感情に溺れてしまうと、人は判断力を失って、大きな失敗につながることもある。
 ここは、冷静に、できるだけ客観的に、現在の状況を皆に話しておきたいと思う……」

 ルートのクラスの外には、いつしかホームルームが終わった上級生のクラスの生徒たちが少しずつ集まって来ていた。ルートとベルナールから、帝国の戦力分析や戦略について質問し、情報を得ようと考えたのだ。そして、彼らはこっそりと後ろの入り口から入り、並んで座りながらルートの話を聞き始めたのだった。

「……先ほど、ジャンが言ったことは事実だ。帝国の王子アラン・ドラトは、《魅了》という、人を思いのままに操る魔法を使う。一度に何人に魔法を掛けられるか、正確には分からないが、少なくとも10人以上は一度に操れる。彼が戦場でその力を使えば、わが国の兵士は、操られて味方を攻撃するようになるだろう。
 だが、これは覚えておいて欲しい。この世には、〝完全無欠の魔法など存在しない〟ということだ。
 魔法は、必ず決まった法則で作られる。その法則を知っていれば、どんな魔法に対しても、それを打ち破る、あるいは無効化する方法は見つかるのだ……」

「先生、それじゃあ……」
 目を輝かせ始めた生徒の頭を優しく撫でて行きながら、ルートは続けた。

「僕とオランド先生が行くと決めた時点で、それくらいの準備ができたんだって気づいてほしかったなあ」

 生徒たちが一斉に笑い声と歓声を上げた。

「あはは……さすが天才魔導士だ。すげえ」
「先生ならやってくれると信じていました」

「先生、ゴーレムを使ったらだめなんですか?ゴーレムは人間じゃないし、操れないのでは?」

「おお、さすがメリンダ、鋭いな。だが、残念ことにゴーレムも操られてしまうんだ。
 ドラトの《魅了》は、相手の体の内部に《魔法陣》を描きつけることによって、相手を操るんだ。ゴーレムも基本は同じ、魔法陣で操る。だから、《魅了》によって、ゴーレムの魔法陣は描き換えられてしまうんだよ」

「うわあ、なんて厄介な魔法なんだ」

「そう、とても厄介だ。だが、描き換えることが可能なら、こっちもその手を使えばいい。
 もう、言わなくてわかるな?」

「なるほど、相手の魔法を描き換える魔法を創ったってことですね?」
「そういうことだ。まだ、実際にどうなるかは実戦で確かめないと分からない。でも、《魅了》を無力化できることは、確かめてある。
 だから、心配しないで、先生たちが帰って来るのを待っていてほしい」

「「「「わかりました!」」」」

 ルートはにっこり笑って頷くと、教壇に戻ってさらに言葉を続けた。

「それと、もう1つ言っておきたいことがある。さっき、ゲイルとジャンが言っていたことだ。
 先生の貴族に対する考えは、今も変わらない。ゲイルが言った通りだ。でも、一方で、上の支配者が変わるだけで、自分の身や領地が安全ならそれでいい、という、ジャンの考えも理解できる……まあまあ、話を聞くんだ、ゲイル……。
 先生が言いたいのは、それが、今の国家の仕組みの限界だということだ。王家という支配者が、部下の貴族に国を分割して治めさせているのが、今の王国であり、他の多くの国も同じような仕組みで国が出来ている。
支配者と部下をつなぎ留めているのは、何だ?ゲイル」

 ルートの問いに、ゲイルはすぐに大きな声で答えた。
「それは、王家に対する忠誠の心です」

「その通りだ。だが、すべてそうだと言い切れるだろうか?金や権力を手に入れるために、王家に忠誠を誓ったふりをしている部下はいないのか?そして、それは悪だと言い切れるのか?そもそも、忠誠心って何なのだ?……」

ルートの投げ込んだ爆弾に、生徒たちは動揺し、ざわざわと騒ぎ始めた。



  ルート先生の教え 2


「先生っ、でも、このグランデル王国が何百年も続いて来たのは、領主である貴族が王家に忠誠を誓って来たからではないですか?」

 ゲイルの言葉に、何人かが賛同の声を上げる。

「うん、そう考えるのが普通だよな。だが、ここで、あえて言っておこう、忠誠心があっても無くても、王国は続いただろう。これは、貴族の子女である君たちには、耐えがたい言葉で、きっと怒りを感じるに違いない。だから、これから話すことは、スラム街に生まれ育った先生の個人的な考えだと思って聞いて欲しい……」

 ルートはそう前置きすると、生徒たちを見回しながら続けた。

「この国が、何百年も続いてきたのは、金や権力を振り回す貴族も含めて、すべての貴族たちに黙って従って〝支えてきた民衆〟がいたからだ。
 権力者の欲も不満も、すべて民衆に向けられる。働かせ、金を搾り取り、気に入らなければ虫けらのように殺す。もちろん、中には民衆のために善政を行う貴族もいるだろう。だが、基本は同じだ。支配する側とされる側、搾取する側とされる側、この構造は変わらないし、おそらく誰も、民衆自身でさえも疑問を感じてはいないだろう。
 そう、民衆自身にも責任はある。自分たちが、どんなに理不尽な扱いを受けているか気づかず、ただ命じられるまま働き、金や命を差し出してきた……」

 ルートは1つ息を吐いてから、苦渋の顔をしている生徒たちに微笑みながら続けた。

「つまり、この愚かな民衆のお陰で、王国は何百年も続いた。もし、途中で、民衆が不満を持って一斉に反乱を起こしたら、この国はとうの昔に滅んでいただろう。
 ジャン、君はこう言うかもしれないね。『そんな恩知らずの民衆など、全部殺してしまえばいい』と。いいだろう、全員殺してしまったとしよう。反乱は収まった。だが、君の領地には民衆は誰もいなくなった。さて、君の家に多くの金や食料を納めていたのは誰だったのかな?広い土地だけを治めて、自分で畑を耕し、獣を狩って生活するか?
 だったら、他の土地から民衆を連れてくればいい、と言うかもしれない。だが、他の領主が、金づるである民衆をそんなに簡単にくれると思うか?
 すまない……とても嫌なことを言った。でも、先生が言いたかったことは分かってくれたと思う。
 この国も、他の国も実に危うい制度の上に国が成り立っている、ということだ。
 貴族同士で、お前は卑怯だ、いや、これが当たり前のことだ、と言い合っても、しょせんは同じ、砂の上に一生懸命石の城を建てようとしているようなものだ」

「だったら、先生は貴族はこの国には必要がない存在だとおっしゃるのですか?」

「いや、メリンダ、そうじゃない。先生は初めに言ったように、貴族が貴族としての役割をきちんと果たす限り、尊敬するし、必要な存在だと思っている。ただし、それは世襲制でなくても良い、とも思っている」

「世襲制じゃない?そ、それは……」
「うん、領主はその領地の民衆が選ぶ。もっと大胆なことを言うなら、王も国民が投票で選べばいいと思っている」

 ルートのあまりに大胆な考えに、ついて行けず困惑する生徒が大半だったが、教室の後ろや外でずっと話を聞いていた上級生たちから、驚きの声や拍手が巻き起こり、生徒たちもルートもびっくりして、ようやく自分たちのクラスを群衆が囲んでいることに気づいたのだった。

「こんな面白い授業は初めて聞いたよ。ああ、俺も、ブロワー先生のクラスに入って1年生からやり直したい」
「ああ、まったく同感だ。1年1組の諸君、君たちがうらやましいぞ。これは、全校生徒に向けてぜひやってもらいたい講義だ。ブロワー先生、どうかお願いします」

 その男子生徒の言葉に、廊下や教室の後ろから割れんばかりの拍手が起こった。

「ああ、わかった、わかった……じゃあ、その件は僕が戦地から帰ったら、リーフベル先生に相談してみることにしよう。
 さて、だいぶ時間が過ぎてしまったが、今学期の予定について説明してからホームルームを終わりにしようと思う。ゲイル、メリンダ、予定表を皆に配ってくれ」

 こうして、後期最初のホームルームの時間は、大きな衝撃を生徒たちに与えて終わった。いつしか、それは『ブロワー教授の伝説の授業』として、長く学園の生徒たちの間で語り継がれていくことになる。

 この日、心の中を嵐のようにかき乱されたのは、ジャンをはじめとする領地に引きこもった貴族たちの子女ばかりではなかった。
 ゲイルやミランダといった、一本気な忠誠心を持つ貴族の子女たちやそろそろ領地経営に関わり始めた上級生たちも、大いに心を揺すぶられ、この国を新しい視点で見つめ直すきっかけになったのである。

 ルートがほのめかしたのは、古代ギリシャのアクロポリスで行われていた直接民主制ではなく、前世の日本で行われていた間接民主制だった。だが、地球の中世の封建社会と同じであるこの世界に、いきなり間接民主制度を取り入れるのは無理だと、ルートも考えていた。
 とりあえず、民衆に何らかの力、政治への影響力を持たせるには、部分的な投票制度は取り入れるべきだと思っていたのである。



  王城広場にて


 1月11日、空はあいにくの曇り空だったが、王城の広場は、おそろいの鎧兜に身を包んだ正規兵1万と、思い思いの装備で集まった民兵1万1千の熱気に包まれていた。
 王都の教会の5つ鐘が鳴り始めた瞬間、広場の最前列に並んだ楽士隊が高らかにラッパを吹き鳴らし始めた。
 そして、それを合図に王城の3階の広いベランダに、オリアス王をはじめとして王妃、皇太子、王女など、王室の面々が姿を現した。

 楽士隊が左右に退出していくのと入れ替えに、王が前に進み出た。

「栄光ある王国軍の兵士たち、並びに親愛なる民兵の諸君、よくぞ、この王国の危機に立ち上がり、我がもとへ集まってくれた。心より感謝する……」

 ウオー~~ッという歓呼の声がしばらく続く。

 王は片手を上げて兵隊を鎮めると、続けて言った。
「これより、心づくしの酒と料理をふるまうゆえ、どうか心ゆくまで飲んで食べて、互いに親睦を深めてほしい……」

 再び先ほどより一段と大きな歓呼の声が響き渡った。

「明日より2日間、城内の近衛軍の施設を使って訓練を行い、14日朝からそれぞれの出発地へ移動してもらう。
 クライス・オランド総司令官以下王国軍1万は、徒歩にてガルニア領ラークスの港へ。
 ホラン・コルテス子爵、ルート・ブロワー以下、民兵団1万1千は、同じく徒歩にてハウネスト聖教国のミストールの港へ。
 そして、めざす、西の大陸への出発は、15日未明とするっ!」

 今度は力強い雄叫びが、王城の空に響き渡った。


 広場では、王城で働く侍女や下男たちが総出で、調理の準備や酒樽運びが始まっていた。

 ルートとリーナ、ジークは広場の片隅で、冒険者たちの集団に囲まれ、雑談に花を咲かせていた。
「あはは……まったくだ。こんな可愛い人が、あの名高い《銀髪の美しき死神》だなんて、絶対信じられねえぜ」
「だから、死神じゃない……誰がそんな名前つけたの?」
「いやあ、かっこいいじゃねえか。なあ、ルート?」
「あはは……死神はちょっと過激すぎるかな。でも、狙われたら、まず逃げられないのは確かだけどね」
「ああ、それは違えねえ、ルートが逃げられねえんだから、相当なもんだ」
「ジークっ、後でおしおき」
「うわあ、わ、悪かった、頼む、勘弁してくれ~~」
 一段と賑やかな笑い声が響き渡る。

 そのとき、彼らの輪の外に、1人の若い男がのっそりと近づいて来た。

「あ、あのう……」
「ん、なんだ?何か用か?」

「っ!ト、トッド」
 突然、リーナが叫んで立ち上がった。

「あ、リ、リーナ……こんなに早く会えるなんて……」
「どうして、ここへ……あなたも民兵に志願したの?」

「う、うん……」

「リーナ、彼はもしかして……」
「うん、トッド、リンドバルの山の中で、私を助けてくれた人」
「そうか」
 ルートは立ち上がって、若者のもとへ向かった。

「初めまして、トッドさん。僕はリーナとパーティを組んでいるルート・ブロワーです」
「ルート…ブロワー……そうか、あんたがリーナの……」
 トッドはそう言って、ルートを見つめたまま涙をポロポロと落とし始めた。

「ちょっと失礼するよ。リーナ、来てくれ」
 ルートはそう言うと、トッドの肩を抱いて少し離れた所へ移動した。

「すまねえ……すまねえ……」
「いいんですよ、気にしないでください。さあ、座ってください。
 リーナ、飲み物をもらってくる。彼と話をしていてくれ」
「う、ん」

 ルートはその場を離れて、広場の中央へ向かった。
 トッドの気持ちが、痛いほど理解できたからであった。せめて、今日だけは、ゆっくりとリーナと話をさせてやろうと思ったのだ。もちろん、リーナへの未練が燃え上がってしまうのは困るが、そのときは、はっきりと彼にリーナとのことを諦めてもらおうと考えていた。

「リーナ、元気そうだな?」
「うん、元気だよ。トッドは元気にしてた?」

 トッドは自嘲気味の笑いを浮かべながら首を振った。
「いや、おらは、ダメだ……おめえがいなくなってから、何も手につかなくて……ずっと山の中にこもっていただよ」

「……辛い思いさせて、ごめんね」
「いや……しょうがねえよ……あんないい男が待っていたんじゃ、帰るよな……ほれてんだべ?あいつに」
「う、うん……」
「そうか……そうか……もう結婚したのか?」
「まだ……彼が今年の秋に15になるから、そしたら結婚する」
「そうか……今、幸せなんだべ?」
「うん」

 トッドは小さく何度か頷いた後、大きなため息を1つ吐いて、吹ききれたような表情で顔を上げた。
「それを聞いて安心しただよ。どうか、幸せにな」

「ありがとう。トッドも早くいい人見つけて、幸せになって」
「ああ、おめえよりもっと美人を見つけて、嫁さんにするべ」

 トッドは笑いながらそう言うと、立ち上がって手を差し出した。
 リーナも笑いながら立ち上がって、その手を握った。

 遠くからその様子を見ていたルートが、お茶が入ったコップを両手に持って、ゆっくりと2人に近づいて来た。

「お茶でもどうですか?ゆっくりお話をしましょう」
 ルートがそう言ってお茶を差し出すと、トッドは丁寧にそれを断って、ルートを見つめた。

「おらのことはリーナから聞いているべ?確かにケガをして倒れたリーナを、おらは世話をした。だども、それに恩を着せてリーナを自分の嫁さんにしょうとしたんだ。あんたにとって、おらは薄汚ねえ泥棒カラスだで……殴ってくれても構わねえだよ」

(ああ、こっちの世界じゃ〝泥棒猫〟じゃなく〝泥棒カラス〟って表現するんだ)
 ルートは、そんなことを考えながらにこやかな顔でトッドに首を振った。

「そんなことはしませんよ。人を好きになるって、ごく自然なことじゃないですか。たまたま、僕が好きになった人とトッドさんが好きになった人が、同じ人だったという、ただそれだけのことです。
 それに、あなたは、リーナが獣人なのに、差別して力づくで自分のものにしようとはしなかった。ちゃんと、1人の女性として扱ってくれた。
 リーナがあなたに救われたことを、僕はとても感謝していますよ」

 トッドは目を見開いて、驚いたようにしばらくルートを見ていたが、やがてふっと笑いながらうなだれて首を小さく振った。

「あはは……やっぱり、かなうわけねえ……」
 彼は小さくそうつぶやいた後、顔を上げてリーナとルートを交互に見ながらこう言った。

「リーナさん、ルートさん、お2人の幸せを祈っていますだよ。おらも、この戦が終わったら、リンドバルの街に移り住んで、働くことにしようと思う。また、会える日を楽しみにしているべ」
「うん、また会おうね、元気で」
「もし、仕事が見つからなかったら、市場にある《タイムズ商会》のパスタソース製造所に行ってみてください。人手が足りないって言っていたので」
「ああ、ありがとうな。じゃあ、またな」

 トッドは晴れやかな顔で手を振りながら去って行った。



  民兵団の訓練 1


「……ねえ、ルート」
「ん、何?」

 トッドの後姿を見送っていると、リーナが少しすねたような顔でちらりと見ながら、そっとルートの腕を抱きしめてきた。
「もしも……もしも、だけど……私が帰って来た後、好きな人が出来たから山に帰るって言ったとしたら、引き留めた?トッドと決闘して、私を奪い返した?」

 ルートは思わず吹き出しそうになりながらも、ぐっと我慢して、リーナの可愛い計略に付き合うことにした。

「ああ、そりゃあ、もちろん引き留めたし、決闘したかもしれない……」
 リーナはそれを聞くと、嬉しそうににやけながら、腕にぐっと力を込めた。

「でも、最終的に決めるのはリーナだからね、僕よりトッドの方が好きなら、あきらめるしかないよ」
 ルートの意地悪なお返しに、リーナはまともに受け取って慌て始めた。

「ル、ルート、ただ言ってみただけだよ、私が好きなのはルートだけだからね……」
「あはは……ごめん、わかってるよ。誰にもリーナは渡さない、大好きだよ、リーナ……」
「……ルート……」
 
「お~~い、お2人さん、あんまり見せつけるなよ。こっちの独身連中がふてくされて困ってるんだ」
 ジークの言葉に、2人は慌てて離れながら赤くなった。

「あ~あ~、誰だ?あの2人を前にしたら帝国の英雄も青ざめるだろう、なんて言った奴は。赤くなるだろう、の間違いじゃないのか?」
「ぎゃははは……そいつは違えねえや」
 この後、ルートとリーナはさんざんからかわれ、それは宴の間中続いたのだった。


 大騒ぎの宴から一夜明けた翌朝、近衛兵の訓練所にある会議室に、司令部の面々、王国軍の隊長たち、民兵団の代表者たちが集まって、合同会議が開かれた。

 冒頭、ガルニア侯爵から、隊長たちには赤いマントが、民兵団の代表20名には金の星型のバッジと銀の同じ星型のバッジが下賜された。
 これは、ルートの提案で、急造の軍で一番大事なのは連絡系統がスムースであること、そのためには指揮官は誰なのかが、誰にでもすぐ分かるようにしようということだった。
 
 民兵の代表者は、冒険者の中から6名、経歴や仕事から選ばれた一般人が14名という構成だった。銀色のバッジは、自分が信頼する者を副官として任命し、付けてもらうことになっていた。

「さて、これから2日間の短い合同訓練の後、いよいよ我々は帝国軍との戦いに赴くことになる。これから、その戦いの最も重要な基本戦略について、各責任者から説明してもらう。頭にしっかり叩き込んで、各部隊を指揮してほしい。
 では、まず、共通の情報共有ということで、コルテス子爵から、現在の戦況について説明してもらおう」

 議長のガルニア侯爵の言葉に、コルテス子爵が頷いて立ち上がり、壁に張られた西大陸の大きな地図の前に歩いて行った。

「私の配下の諜報員が伝えてきたところによると、帝国軍は5日前、トゥーラン国の西と北から同時に侵攻を開始し、地図で言うとこの辺り、それぞれ西は80㎞、北は60㎞の地点まで軍を進めている。トゥーラン国の3つの街と2つの砦が陥落した。だが、トゥ―ラン軍はかなり善戦していると私は見ている。それは、2つの理由からだ。

 1つは、帝国軍の侵攻速度が遅いことだ。これは、山が多いという地形的な理由もあるが、何よりトゥーラン軍が実に賢い戦法を取っていることが原因だ。彼らはむやみに出て行かず、砦に籠城して、少人数で左右から交互に奇襲を仕掛けている。これは、アラン・ドラトによる《魅了》の被害を最小限に抑える効果的なやり方だ。

 2つ目は、トゥ―ラン軍の士気が大変高いことだ。これには、トゥーラン国の第3王子、ウェイ・ホートンの影響力が大きいと私は見ている。
 実は、トゥ―ラン国は昨年の暮れ、わが国と同様にアラン・ドラトの突然の来襲を受け、王以下、王族や重臣たちが《魅了》の餌食になった。王族で唯一難を逃れたウェイ王子は、知らせを聞くと、すぐさま手勢を率いて王城に攻め込み、《魅了》に掛かった両親、兄弟、重臣たちをことごとく捕え、あるいは殺してしまったのだ。そして、帝国との戦いが終わったら、自分がすべての責任を負うことを宣言し、暫定的な王位に就いた。
 外から見れば反乱だが、国民も兵たちも彼を全面的に支持した。今、トゥーラン国はかつてないほど1つにまとまって、帝国軍と戦っているのだ。

 以上が、現在までに分かっている戦況だ。また、情報が入り次第、指揮官たちには伝えることにする」

「ご苦労じゃった、ホアン。では、次に、オランド司令官から、作戦全体の概要について説明してもらう」

 コルテス子爵に代わって、ベルナールが立ち上がり、地図の前に移動した。

「今回の初期作戦について説明する。
まず、王国軍はラークス港から出港して、ここ、トゥ―ラン国の北の港町ペイグーに向かう。恐らく、帝国軍の偵察部隊が入り込んでいることが予想される。また、軍艦も待機しているかもしれない。その時はさっそく交戦になるわけだが、まだ、帝国はわが国が動き出したことには気づいていない。よって、港の防御は手薄なはずだ。迅速に港を制圧し、防衛の部隊を残して、本隊は北から進軍している敵部隊を迎え撃つ。そして、そのままの勢いで西方から進撃している敵の側面を叩く。

 一方、民兵団は、トゥ―ラン国の南、このリンハイという小さな漁村に上陸する。ここは南から西にかけて険しい山岳地帯が広がるふもとの村だ。帝国軍はまだここには入っていないはずだ。そこから避難民をリンハイへ誘導しつつ、首都トゥーランへ向かう。途中の街や村に防衛隊を配置しつつ、いざというときはリンハイに避難して、船で脱出してほしい。

 以上が初期の作戦だ。後はそれぞれの指揮官の指示に従い、臨機応変に行動してほしい」

 ベルナール・オランド、この《英雄の雛鳥》の声は、出席者たちの心にいつの間にか湧き上がる高揚心と勇気を与えていた。

「では、何か質問や意見があれば手を上げてくれ」

 その後、いくつかの質問とそれについての議論が交わされた後、会議は終わり、それぞれの代表者たちは自分の部隊へ帰っていった。

 そして、いよいよ、実戦に向けた2日間の訓練が始まった。



  民兵団の訓練 2


  ルートとコルテス子爵は、民兵団の運用について、あらかじめ2人で綿密な計画を話し合っていた。

 まず、1万1千人を、役割によって大きく2つの部隊に分けるということだ。
1つはベルナールが説明したように、補給物資を守りながら移動し、避難民の救済と街や村の防衛にあたる部隊。こちらに1万人を割り当て、コルテス子爵が指揮を執る。
もう1つは、ラニト帝国に潜入し、帝国軍の補給線を分断するゲリラ部隊だ。こちらは冒険者を中心に、なるべく戦闘経験のある者を千人ピックアップする。この部隊を指揮するのは、傭兵としてこういう戦いの経験が豊富なジークだ。ただし、途中からルートが半分の500人を指揮する予定だ。
というのも、ルートは初め王国正規軍とともに、北から侵攻している帝国軍を壊滅させる戦いに参加し、その後、本隊と別れて帝国領に潜入、情報収集をしながら国境付近を横断してジークたちと合流するという予定だからだ。

1万人以上もいる民兵をいっぺんには訓練できないので、ルートはまず、冒険者と何らかの戦闘経験のある人たちを別の場所に集めることにした。その結果、およそ600人が、屋内訓練場に集まった。
ほとんどが冒険者と元冒険者、そして、もと衛兵や傭兵経験者たっちだった。だが、その中に、獣人の人たちがかなりの数いて、驚いたことに青狼族の村から族長の息子のガイゼス以下8人の青狼族の若者たちが参加していたのだった。

「ガイゼスさん、びっくりしましたよ。でも、頼もしい戦力が加わってありがたいです」
「ああ、こいつらが知らせに来てくれてな。それなら、ルートさんとリーナを側で守れって、親父も村の者たちもそう言って俺たちを送り出したんだ」
「そうだったんですね。感謝します。じゃあ、リーナの指揮下に入ってもらっていいですか?」
「ああ、そのつもりだった。リーナ、よろしく頼む」
「うん、わかった。青狼族の強さを見せつける。皆、やるよ」
「「「おうっ」」」

 ルートは、観閲席がある2階のスペースに上がって行って、拡声器の前に立った。
「皆さん、聞いてください。
今、ここに集まってもらった皆さんには、帝国領に潜入して、帝国軍の補給部隊や補給基地を襲撃してもらう〝奇襲部隊〟に入ってもらいます。
まず、部隊編成から始めます。リーダーの皆さんは前に出てきて、横1列に並んでください。他の皆さんは、リーダーが並んだら、適当に分かれて、各リーダーの後ろに並んでください。全員並び終えたら、リーダーは後ろに並んだ人の数を数えて、前にいるジーク、今手を上げたごっつい男です。彼にご自分の名前と人数を報告してください。
その後の具体的な訓練は、また後で指示します。では、移動を始めてください」

 人々がざわざわと動き始めると、ルートは下に降りて行って、ジークとリーナにこう言った。
「しばらく、ここの指示を頼むよ。僕は、足りない数の人間をスカウトしてくる。あと400人くらいだから、少し時間がかかると思う。リーダーを集めて、特技なんかを聞いたり、適当な訓練をさせたりしておいてくれないか」
「おう、まかせておけ」
「ん、行ってらっしゃい」

 ルートは急いで外の訓練場へ向かった。

 日頃、近衛兵たちの実践訓練が行われる広いグラウンドでは、すでにグループ別に分かれて、けが人や病人の搬送、応急処置、集団による戦闘などの訓練が始まっていた。

「子爵様、ちょっとよろしいですか」
「おお、ブロワーか。様付けはいらん。で、どうした?」
「はい、奇襲部隊の人数が足りないので、あと400人ほどこちらから招集したいと思いまして」
「うむ、そうか、わかった。では、集合させるので待っておれ」

 コルテス子爵はそう言うと、据え付けの拡声器の所へ行って叫んだ。
「皆の者、よく聞け。
 奇襲部隊のブロワー指揮官から、人間が足りぬので400人ほど奇襲部隊へ移動してほしいということじゃ。今からブロワー指揮官の説明を聞いてもらうので、できるだけ近くに集まってくれ」

 ざわめきが次第に大きくなり、訓練場を埋め尽くした人々が前の方に集まって来た。
 ルートは拡声器の前に立って、人々に呼びかけた。

「皆さん、先ほどコルテス子爵からお話があったように、現在、奇襲部隊の人数は600人足らずで、あと400人ほど足りません。これから、いくつか条件を言いますから、該当する方は、どうか奇襲部隊に参加していただけないでしょうか。
ただし、奇襲部隊は当然、敵との交戦を想定しています。命の危険がある大変な任務です。ですから、それでも一緒に戦ってくださるという方だけお願いします。
 では、まず、弓を扱える方、手を上げていただけますか……おお、やっぱり多いですね。では、実戦に参加して良いという方は1列でここを通って、隣の屋内訓練場へ移動してください。前から数えて100人で切りたいと思います……」

 ルートはそう言うと、コルテス子爵に自分と向かい合わせに立ってもらい、その間を志願者が通って出口へ向かうようにした。

 弓の経験者はざっと数えても2~3千人はいたので、100人少なくなっても問題は無いだろう。
「……98、99、100、はい、ここまでです。後の方たちは、どうか、街や村の防衛のために頑張ってください」

 弓兵隊の招集が終わると、ルートは再び拡声器の所へ戻った。
「では、次に、治癒魔法が使える方、手を上げてください……ああ、やはり少ないですね。では、10人お願いします」

 こうして、ルートはそれから、医療介護部隊、輸送部隊、そして最後に戦闘部隊を招集して、ちょうど400人になるよう数を調整しながら招集作業を終えた。

「子爵、どうもおじゃましました。おかげで部隊の編成が出来そうです」
「うむ……ブロワーよ、おまえには大変な役目を背負わせて、すまないと思っている……」
「いいえ。これだけたくさんの人たちが、国を守るために集まってくれたんです。頑張らないわけにはいきませんよ」
「そうだな……だが、わしは、いや、陛下も侯爵様も、お前がいてくれればこの戦に負けることはないと思っている。頼むぞ」
「はい」

 ルートの澄んだ空の色の瞳を見つめながら、ホアン・コルテスは、ずっと抱えていた不安が不思議と消えていくのを感じながら、柔らかな微笑みを浮かべた。

 屋内訓練場へ帰ったルートは、書きだされた名簿の紙を見ながら、ジーク、リーナと相談して急いで部隊編成を決めていった。
 その結果、次のような部隊が編成された。リーダーたちはそれぞれの部隊や小隊の隊長や副官に割り当てられた。

司令官:ルート・ブロワー、副司令官:ジーク・バハード

〈斥候部隊〉……隊長:リーナ、副官:バート・ホッグス(冒険者)以下、60名。
〈戦闘部隊〉……隊長:ジーク・バハード、副官:ローガン・グリント(元傭兵)以下、第1小隊~第8小隊まで800名。
〈輸送部隊〉……隊長:ハンス・ドルキン(衛兵)、副官:ペイル・ホーネス(衛兵)以下、60名。
〈救護部隊〉……隊長:サリナ・バルト(聖教会ガルニア支部司祭)、副官:ベネット・コール(王都の医者)以下、75名。

ルートが拡声器を使って、この部隊編成を発表し、その後、さっそくそれぞれの部隊に
分かれて、実戦を想定した訓練を始めた。
 明確な役割分担と、指揮系統を設定したおかげで、戦闘経験がない人々も高い意識を持って訓練に取り組むことができた。

 ルートは、訓練の全体指揮を執りながら、繰り返し彼らに言った。
「場合によっては、すべての人が武器を持って戦わなければいけない場面があると思います。〝殺さなければ殺される〟それが、戦争なんです。甘い心は捨ててください。でも、人としての慈悲の心は持ち続けてください。武器を捨てた敵は、もはや敵ではありません。このことを、しっかり心に刻んでください」

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