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27 許された罪
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嵐が過ぎ去った後のような、静かな深夜。
ようやく二人きりになった優士郎と真由香は、真由香が使っていた二人用の寝室で、灯りを点けず、並んで月明かりに照らされた窓の外を眺めていた。
二人が出会ってから初めての、二人だけの夜だった。
優士郎はずっと無言のままだ。以前の真由香だったら、優士郎が話し始めたり、動き出したりするのを待つだけだった。今さらながら、何もかも優士郎にリードさせて、それを当然のように考え、甘えていた自分の幼さを思う。
「┅┅ねえ、優君┅┅この前、飯田さんが来たけど、優君が行くように頼んだの?」
「いや、あいつが勝手に┅┅でも、ここの住所をつい教えてしまったのは、僕の責任だ┅┅」
「ふふ┅┅彼女、あなたのことが本当に心配なのね┅┅でも、いい人だから、わたしは好きよ。彼女に、いつでも来ていいって伝えといて┅┅」
「そんなこと言ったら、毎日でも来そうだな┅┅うるさいからやめとくよ。でも、君があいつを気に入っているということは伝えておく┅┅たぶん、知っているだろうけど┅┅」
「うん、そうだね┅┅彼女、本当に何でもお見通しって感じ┅┅でも、おかげでずいぶん勇気づけられた┅┅」
真由香は小さなため息を吐きながら、優士郎の胸に顔をうずめ、両腕を彼の体にまわしていく。
「┅┅優君、ごめんね┅┅六年近くも待たせて┅┅今さら、どんな言い訳も通用しないって分かってる┅┅でも、これだけは知っておいて欲しいの┅┅」
真由香はそこでいったん言葉を切ると、優士郎の背中にまわした腕に力を込めた。
「┅┅あなたと出会ったあの日から、わたしはずっとあなたとの未来だけを見つめていた┅┅初めての恋で┅┅あなたみたいな素敵な人が相手で┅┅子供のわたしは、思っていることと違うことをしたり、言ったり┅┅今考えると、ずっとテンパってたんだと思う┅┅そのくせ臆病で┅┅でも、あなたはずっとそんなわたしに優しかった┅┅わたしはそれがいつまでも続くって思い込んでいた┅┅本当にごめんね、優君┅┅愛をあげられなくて┅┅愛してもらうばっかりで┅┅あなたとキスしたかったの┅┅抱かれたかったの┅┅一番ロマンチックな時にって思っていて┅┅それで┅┅」
真由香は涙に声も震え、それ以上言えなくなった。
優士郎は何も言わず、ゆっくりと真由香の体を抱え上げ、ベッドへ運んだ。そして、彼女の体を優しく横たえると、その上に覆い被さって見つめた。
もう、真由香は夢見心地で優士郎を見つめながら、彼の顔を両手で愛おしげに触った。
「┅┅今夜は、歯止めが効かないかもしれない┅┅」
「┅┅うん┅┅うん┅┅いいよ┅┅わたしの体、めちゃくちゃにしていいから┅┅優君の好きなようにして┅┅」
真由香はそう言うと、両足を開いて優士郎の腰の辺りにしっかりと巻き付けた。
「もう、放さないよ、優君┅┅わたしからは一生逃げられないから┅┅」
二人の荒い息づかいが重なり、二匹の獣はお互いを食べ尽くすかのように、がっぷりと口を咥え合った。
奥多摩の春はまだ遠かったが、鳥たちは春の訪れを待ちわびていたかのように、朝早くから木々の間を飛び回り、恋の歌を囀り続けていた。
天井に近い小さな明かり取りの窓から、柔らかな朝の光が差し込み、ベッドで寄り添い合って眠る二人を優しく照らす。やがて、男の方が先に目を開き、そっと体を起こす。そして、傍らで眠る、まだあどけなさを残した女の寝顔を、微笑みながらしばらく見つめた後、素っ裸のままベッドから降りて窓際へ歩いて行く。
カーテンをわずかに開いて、明るくなっていく森や遠くの町並みを眺めながら、大きく背伸びをする。そこへ、眠りから覚めた女が、やはり生まれたままの姿で男のそばへ歩み寄る。男はカーテンをいっぱいに開き、希望に満ちた空を見上げながら、女の肩を優しく抱き寄せる。
もうすぐ、この辺りは一面桜の花で埋め尽くされるだろう。二人が出会った頃の、あの思い出の公園のように。
ようやく二人きりになった優士郎と真由香は、真由香が使っていた二人用の寝室で、灯りを点けず、並んで月明かりに照らされた窓の外を眺めていた。
二人が出会ってから初めての、二人だけの夜だった。
優士郎はずっと無言のままだ。以前の真由香だったら、優士郎が話し始めたり、動き出したりするのを待つだけだった。今さらながら、何もかも優士郎にリードさせて、それを当然のように考え、甘えていた自分の幼さを思う。
「┅┅ねえ、優君┅┅この前、飯田さんが来たけど、優君が行くように頼んだの?」
「いや、あいつが勝手に┅┅でも、ここの住所をつい教えてしまったのは、僕の責任だ┅┅」
「ふふ┅┅彼女、あなたのことが本当に心配なのね┅┅でも、いい人だから、わたしは好きよ。彼女に、いつでも来ていいって伝えといて┅┅」
「そんなこと言ったら、毎日でも来そうだな┅┅うるさいからやめとくよ。でも、君があいつを気に入っているということは伝えておく┅┅たぶん、知っているだろうけど┅┅」
「うん、そうだね┅┅彼女、本当に何でもお見通しって感じ┅┅でも、おかげでずいぶん勇気づけられた┅┅」
真由香は小さなため息を吐きながら、優士郎の胸に顔をうずめ、両腕を彼の体にまわしていく。
「┅┅優君、ごめんね┅┅六年近くも待たせて┅┅今さら、どんな言い訳も通用しないって分かってる┅┅でも、これだけは知っておいて欲しいの┅┅」
真由香はそこでいったん言葉を切ると、優士郎の背中にまわした腕に力を込めた。
「┅┅あなたと出会ったあの日から、わたしはずっとあなたとの未来だけを見つめていた┅┅初めての恋で┅┅あなたみたいな素敵な人が相手で┅┅子供のわたしは、思っていることと違うことをしたり、言ったり┅┅今考えると、ずっとテンパってたんだと思う┅┅そのくせ臆病で┅┅でも、あなたはずっとそんなわたしに優しかった┅┅わたしはそれがいつまでも続くって思い込んでいた┅┅本当にごめんね、優君┅┅愛をあげられなくて┅┅愛してもらうばっかりで┅┅あなたとキスしたかったの┅┅抱かれたかったの┅┅一番ロマンチックな時にって思っていて┅┅それで┅┅」
真由香は涙に声も震え、それ以上言えなくなった。
優士郎は何も言わず、ゆっくりと真由香の体を抱え上げ、ベッドへ運んだ。そして、彼女の体を優しく横たえると、その上に覆い被さって見つめた。
もう、真由香は夢見心地で優士郎を見つめながら、彼の顔を両手で愛おしげに触った。
「┅┅今夜は、歯止めが効かないかもしれない┅┅」
「┅┅うん┅┅うん┅┅いいよ┅┅わたしの体、めちゃくちゃにしていいから┅┅優君の好きなようにして┅┅」
真由香はそう言うと、両足を開いて優士郎の腰の辺りにしっかりと巻き付けた。
「もう、放さないよ、優君┅┅わたしからは一生逃げられないから┅┅」
二人の荒い息づかいが重なり、二匹の獣はお互いを食べ尽くすかのように、がっぷりと口を咥え合った。
奥多摩の春はまだ遠かったが、鳥たちは春の訪れを待ちわびていたかのように、朝早くから木々の間を飛び回り、恋の歌を囀り続けていた。
天井に近い小さな明かり取りの窓から、柔らかな朝の光が差し込み、ベッドで寄り添い合って眠る二人を優しく照らす。やがて、男の方が先に目を開き、そっと体を起こす。そして、傍らで眠る、まだあどけなさを残した女の寝顔を、微笑みながらしばらく見つめた後、素っ裸のままベッドから降りて窓際へ歩いて行く。
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もうすぐ、この辺りは一面桜の花で埋め尽くされるだろう。二人が出会った頃の、あの思い出の公園のように。
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