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48 モフモフでビューン
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「オウウ~ン……ワフッ、ワフッ」
空の彼方から声が聞こえたと思ったら、もう目の前に、白く輝く巨大な、胴の長い犬がいた。早すぎだろっ! まだ、五分ちょっとくらいしか経ってないぞ。
「スノウっ! あはは……でかくなったなあ、見違えたぞ」
『お久しぶり~~ご主人様ぁ……会いたかったよお』
「うわっぷ、あはは……こら、分かったから、もうやめろ」
俺がスノウにもみくちゃにされて舐め回されている様子を、ポピィは呆気に取られて見つめていた。彼女には、俺が何もない空間を相手に暴れているようにしか見えなかったからだ。
「そ、そこに、スノウがいるですか?」
「ああ、そうなんだ。このスノウに頼んで運んでもらえば、どんなに遠くても、あっという間に行くことができるぞ」
「でも、わたしにはスノウが見えません。どうやってスノウに運んでもらうですか?」
うん、たぶん俺の考えが正しければ、可能だと思うんだが……。
「ちょっと待っててくれ。スノウに何かいい方法はないか聞いてみるから」
(スノウ、ポピィにもお前が見えたり、触ったりできるようにならないか?)
「ワフッ、ク~ン、アフッ、ワフ~ン『できるわよ。ご主人様が信じられる人ならば、私の中の精霊を与えれば私を認識できるようになるわ』」
(やっぱりそうか。じゃあ、ポピィに分けてやってくれるかい?)
「ワフッ『分かったわ』」
空中に金緑色の小さな光の球が浮かび上がる。ポピィは、いきなり現れた精霊の姿に驚いている。
「大丈夫だ、ポピィ。その光の球にゆっくり顔を近づけてごらん」
ポピィは小さく頷いて、ためらいがちにそっと光の球に顔を近づけた。
「わわっ、ひ、光が……っ! はうううっ!」
光の球がポピィの頭に吸い込まれて消えた途端、ポピィの瞳に星が宿り、手を胸の前で組んで身悶えし始めた。
「こ、これがスノウ、か、可愛い~~ですぅ~~」
『よろしくね、ポピィ』
「はわわ、こ、声が……これ、スノウの声です?」
「そうだよ。これで、いつでもスノウと話ができて、一緒に遊べるぞ」
「はいですっ。あ、あのう、触ってもいいですか?」
ポピィがお願いすると、スノウは宙に浮かんでいたが、ゆっくり下りてきて、草原の上に体を丸めてうつ伏せに寝転んだ。
「ふああ、モフモフで……何か良い匂いがします」
ポピィはスノウの首元に抱きつくと、白い毛の中に顔を埋めて幸せそうな声を上げた。
「さて、じゃあスノウに乗せてもらって、《木漏れ日亭》に行こうか。スノウ、頼めるか?」
「ワフッ『もちろん、お安い御用よ』」
♢♢♢
俺たちは、スノウの首の後ろによじ登った。俺が前でスノウの毛を掴み、ポピィは俺の腰にしっかりしがみつくかっこうだ。
『よろしいですか? では、出発しますよ』
「あ、ああ。なあ、スノウ、俺たちさ、風景も楽しみたいから、ゆっくり飛んでくれるとありがたいんだが……」
『はい、承知しました、ご主人様。じゃあ、一番遅い速度で行きますね』
スノウはゆっくりと上昇を始め、見る見るうちに地上が遠くなっていく。そして、体を東に向けると、音も無く、まさに空中を滑るように飛び始めた。
「うおおおっ」
その加速は半端なかった。一番遅い速度と言っても、優に時速百キロは超えている。そこまでわずか数秒で到達するのだ。風圧と重力で、俺たちは大きく後ろへのけぞった。
俺は風を避けるために、自分の前に結界でボードを作った。おかげで風圧が無くなり、やっと景色を眺める余裕ができた。
「夢みたいです、トーマ様。本当に空を飛んでるですよ」
ポピィの興奮した声が背中から聞こえてくる。
「ああ、凄い眺めだな。街があんなに小さく見える」
俺はその広大なパノラマを見渡しながら、この世界には、まだ余った土地が多すぎると感じていた。街や村の周囲には畑も広がっていたが、それ以外は手つかずの原野と森ばかりである。
いずれは、どこか、あまり人が近づけない場所をもらうか買い取って、地球の技術も生かした自分の国を造ってもいいな。
そんなことを考えていたら、スノウがゆっくりと高度を下げ始めた。前方にパルトスの街が見えてきた。街の人たちが、もし俺たちに気づいたら、パニックになるだろうな。なにしろ、二人の人間が座ったような恰好で空を飛んでいるわけだからな。どうか、誰も気づかないでくれ。
♢♢♢
スノウは、《木漏れ日亭》の裏庭にゆっくりと着陸した。
「トーマさん、ポピィちゃん、お帰りなさい!」
スノウの様子に気づいていたサーナさんとエルシアさんが、裏庭で待っていて、俺たちを出迎えてくれた。
「急に帰って来てすみません。二人にお願いがあって……」
「あらあら、全然かまわないわ。そういう約束だったもの。さあさあ、中に入って」
俺たちと、小さく姿を変えたスノウは裏口から一階のホールの中へ入っていった。
サーナさんとエルシアさんが、すぐにハーブティーとクッキーでもてなしてくれた。
「それで、お願いってなあに?」
「はい、そのことをお話しする前に、お二人にも俺の秘密をお話しておこうと思います」
俺はそう言うと、ポピィに話した〈心の声〉=ナビのこと、ナビが教えてくれた魔法属性の影響のことを語った。
二人は、途中で何度も驚きの声を発しながら、俺の話を聞き終えた。
「驚くことばかりね。エルフの私でも初めて聞くギフトや魔法の話、とても興味深かったわ」
「やっぱり、トーマさんは特別な人だったのね。初めてあった時から、そう感じていたのよ」
俺が前世の記憶を持つ、転生人だと知ったら、どう感じるんだろう。そんなことを思いながら、膝に抱いたスノウを撫でていた。
「話は分かったわ。もちろん、ポピィちゃんなら大歓迎よ。うちの方がむしろ助かるわ」
「うん、わたしも嬉しい。ポピィちゃん、わたしと一緒の部屋でいいでしょう?」
「あ、はい、ありがとうございます。これからよろしくお願いします」
こうして、ポピィの落ち着く先は決まった。ここならスノウもいるし、安心だ。
俺はその日、久しぶりに『木漏れ日亭』に宿泊することにし、ポピィを連れて街に出て行った。知り合いの人たちに、ポピィのことを頼んで回るためだ。俺のこだわり症候群である。できるだけたくさんの人の目に見守られることは、安全な生活をする上で大事なことだと考えたからだ。
頻繁に通うであろう市場の店々や鍛冶屋のロッグス親方、屋台のおっちゃんなどに改めてポピィを紹介した後、最後に冒険者ギルドへ向かった。
受付(実は副ギルド長)のバークさんは、ロビーの人たちが驚くほどの声を上げて、カウンターから出てきた。その騒ぎに、ギルマスのウェイドさんまで現れて、ロビーにいた冒険者たちは、何事かと見ていた。
どうやら、エプラの街の捕り物劇のことは、ギルド専用の通信魔道具で連絡が入っていたらしい。通信魔道具ってあったんだ。どんな仕組みになってるか、興味あるなあ。いつか見せてもらおう。
やっと落ち着いたところで、俺はポピィがこの町に住むようになったこと、時々冒険者の仕事をするので、そのときは《虹の翼》や《赤き雷光》と組ませてやって欲しい、ということをお願いした。
「分かった、ポピィのことは任せておけ。ところで、お前はこれからどうするんだ?」
「俺は最初の目標通り、世界中を旅して回りますよ」
「そうか……まあ、俺も昔はそんな夢を持って、あちこち旅をしたけどな。どこも、大した違いはなかった。まあ、お前もやれるだけやってみて、落ち着く気になったら、ここに帰ってこい。ここは、いい街だ。あちこち旅をしてきた俺が言うんだから、間違いないぞ」
「はい、俺もこの街が好きですよ。ただ、俺の中には、矛盾した二つの心があって、こんな街でずっとのんびり暮らしたい、でも、きっと一週間もする頃には、またあてもない旅に出たくなるだろうって分かっているんです。
まあ、今ウェイドさんが言ったように、旅をやれるだけやって、もういいやと思ったとき、運よく生き延びていたら、この街に落ち着くかもしれません」
そんな雑談をした後で、エプラの街でもらった褒賞金を二つに分けて、俺とポピィのそれぞれの口座に預け入れた。一人分は十五万ベルだった。これで、ポピィの口座には三十五万ベル入っていることになる。しばらくは心配なく暮らしていけるだろう。
さて、後の心配は無くなったので、また王都を目指して旅を始めますかね。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
読んでくださって、ありがとうございます。
章立てはしていませんが、これで一応、第二章の終了です。
次回更新までしばらくお待ちください。
少しでも面白いと思われたら、📢の応援よろしくお願いします。
空の彼方から声が聞こえたと思ったら、もう目の前に、白く輝く巨大な、胴の長い犬がいた。早すぎだろっ! まだ、五分ちょっとくらいしか経ってないぞ。
「スノウっ! あはは……でかくなったなあ、見違えたぞ」
『お久しぶり~~ご主人様ぁ……会いたかったよお』
「うわっぷ、あはは……こら、分かったから、もうやめろ」
俺がスノウにもみくちゃにされて舐め回されている様子を、ポピィは呆気に取られて見つめていた。彼女には、俺が何もない空間を相手に暴れているようにしか見えなかったからだ。
「そ、そこに、スノウがいるですか?」
「ああ、そうなんだ。このスノウに頼んで運んでもらえば、どんなに遠くても、あっという間に行くことができるぞ」
「でも、わたしにはスノウが見えません。どうやってスノウに運んでもらうですか?」
うん、たぶん俺の考えが正しければ、可能だと思うんだが……。
「ちょっと待っててくれ。スノウに何かいい方法はないか聞いてみるから」
(スノウ、ポピィにもお前が見えたり、触ったりできるようにならないか?)
「ワフッ、ク~ン、アフッ、ワフ~ン『できるわよ。ご主人様が信じられる人ならば、私の中の精霊を与えれば私を認識できるようになるわ』」
(やっぱりそうか。じゃあ、ポピィに分けてやってくれるかい?)
「ワフッ『分かったわ』」
空中に金緑色の小さな光の球が浮かび上がる。ポピィは、いきなり現れた精霊の姿に驚いている。
「大丈夫だ、ポピィ。その光の球にゆっくり顔を近づけてごらん」
ポピィは小さく頷いて、ためらいがちにそっと光の球に顔を近づけた。
「わわっ、ひ、光が……っ! はうううっ!」
光の球がポピィの頭に吸い込まれて消えた途端、ポピィの瞳に星が宿り、手を胸の前で組んで身悶えし始めた。
「こ、これがスノウ、か、可愛い~~ですぅ~~」
『よろしくね、ポピィ』
「はわわ、こ、声が……これ、スノウの声です?」
「そうだよ。これで、いつでもスノウと話ができて、一緒に遊べるぞ」
「はいですっ。あ、あのう、触ってもいいですか?」
ポピィがお願いすると、スノウは宙に浮かんでいたが、ゆっくり下りてきて、草原の上に体を丸めてうつ伏せに寝転んだ。
「ふああ、モフモフで……何か良い匂いがします」
ポピィはスノウの首元に抱きつくと、白い毛の中に顔を埋めて幸せそうな声を上げた。
「さて、じゃあスノウに乗せてもらって、《木漏れ日亭》に行こうか。スノウ、頼めるか?」
「ワフッ『もちろん、お安い御用よ』」
♢♢♢
俺たちは、スノウの首の後ろによじ登った。俺が前でスノウの毛を掴み、ポピィは俺の腰にしっかりしがみつくかっこうだ。
『よろしいですか? では、出発しますよ』
「あ、ああ。なあ、スノウ、俺たちさ、風景も楽しみたいから、ゆっくり飛んでくれるとありがたいんだが……」
『はい、承知しました、ご主人様。じゃあ、一番遅い速度で行きますね』
スノウはゆっくりと上昇を始め、見る見るうちに地上が遠くなっていく。そして、体を東に向けると、音も無く、まさに空中を滑るように飛び始めた。
「うおおおっ」
その加速は半端なかった。一番遅い速度と言っても、優に時速百キロは超えている。そこまでわずか数秒で到達するのだ。風圧と重力で、俺たちは大きく後ろへのけぞった。
俺は風を避けるために、自分の前に結界でボードを作った。おかげで風圧が無くなり、やっと景色を眺める余裕ができた。
「夢みたいです、トーマ様。本当に空を飛んでるですよ」
ポピィの興奮した声が背中から聞こえてくる。
「ああ、凄い眺めだな。街があんなに小さく見える」
俺はその広大なパノラマを見渡しながら、この世界には、まだ余った土地が多すぎると感じていた。街や村の周囲には畑も広がっていたが、それ以外は手つかずの原野と森ばかりである。
いずれは、どこか、あまり人が近づけない場所をもらうか買い取って、地球の技術も生かした自分の国を造ってもいいな。
そんなことを考えていたら、スノウがゆっくりと高度を下げ始めた。前方にパルトスの街が見えてきた。街の人たちが、もし俺たちに気づいたら、パニックになるだろうな。なにしろ、二人の人間が座ったような恰好で空を飛んでいるわけだからな。どうか、誰も気づかないでくれ。
♢♢♢
スノウは、《木漏れ日亭》の裏庭にゆっくりと着陸した。
「トーマさん、ポピィちゃん、お帰りなさい!」
スノウの様子に気づいていたサーナさんとエルシアさんが、裏庭で待っていて、俺たちを出迎えてくれた。
「急に帰って来てすみません。二人にお願いがあって……」
「あらあら、全然かまわないわ。そういう約束だったもの。さあさあ、中に入って」
俺たちと、小さく姿を変えたスノウは裏口から一階のホールの中へ入っていった。
サーナさんとエルシアさんが、すぐにハーブティーとクッキーでもてなしてくれた。
「それで、お願いってなあに?」
「はい、そのことをお話しする前に、お二人にも俺の秘密をお話しておこうと思います」
俺はそう言うと、ポピィに話した〈心の声〉=ナビのこと、ナビが教えてくれた魔法属性の影響のことを語った。
二人は、途中で何度も驚きの声を発しながら、俺の話を聞き終えた。
「驚くことばかりね。エルフの私でも初めて聞くギフトや魔法の話、とても興味深かったわ」
「やっぱり、トーマさんは特別な人だったのね。初めてあった時から、そう感じていたのよ」
俺が前世の記憶を持つ、転生人だと知ったら、どう感じるんだろう。そんなことを思いながら、膝に抱いたスノウを撫でていた。
「話は分かったわ。もちろん、ポピィちゃんなら大歓迎よ。うちの方がむしろ助かるわ」
「うん、わたしも嬉しい。ポピィちゃん、わたしと一緒の部屋でいいでしょう?」
「あ、はい、ありがとうございます。これからよろしくお願いします」
こうして、ポピィの落ち着く先は決まった。ここならスノウもいるし、安心だ。
俺はその日、久しぶりに『木漏れ日亭』に宿泊することにし、ポピィを連れて街に出て行った。知り合いの人たちに、ポピィのことを頼んで回るためだ。俺のこだわり症候群である。できるだけたくさんの人の目に見守られることは、安全な生活をする上で大事なことだと考えたからだ。
頻繁に通うであろう市場の店々や鍛冶屋のロッグス親方、屋台のおっちゃんなどに改めてポピィを紹介した後、最後に冒険者ギルドへ向かった。
受付(実は副ギルド長)のバークさんは、ロビーの人たちが驚くほどの声を上げて、カウンターから出てきた。その騒ぎに、ギルマスのウェイドさんまで現れて、ロビーにいた冒険者たちは、何事かと見ていた。
どうやら、エプラの街の捕り物劇のことは、ギルド専用の通信魔道具で連絡が入っていたらしい。通信魔道具ってあったんだ。どんな仕組みになってるか、興味あるなあ。いつか見せてもらおう。
やっと落ち着いたところで、俺はポピィがこの町に住むようになったこと、時々冒険者の仕事をするので、そのときは《虹の翼》や《赤き雷光》と組ませてやって欲しい、ということをお願いした。
「分かった、ポピィのことは任せておけ。ところで、お前はこれからどうするんだ?」
「俺は最初の目標通り、世界中を旅して回りますよ」
「そうか……まあ、俺も昔はそんな夢を持って、あちこち旅をしたけどな。どこも、大した違いはなかった。まあ、お前もやれるだけやってみて、落ち着く気になったら、ここに帰ってこい。ここは、いい街だ。あちこち旅をしてきた俺が言うんだから、間違いないぞ」
「はい、俺もこの街が好きですよ。ただ、俺の中には、矛盾した二つの心があって、こんな街でずっとのんびり暮らしたい、でも、きっと一週間もする頃には、またあてもない旅に出たくなるだろうって分かっているんです。
まあ、今ウェイドさんが言ったように、旅をやれるだけやって、もういいやと思ったとき、運よく生き延びていたら、この街に落ち着くかもしれません」
そんな雑談をした後で、エプラの街でもらった褒賞金を二つに分けて、俺とポピィのそれぞれの口座に預け入れた。一人分は十五万ベルだった。これで、ポピィの口座には三十五万ベル入っていることになる。しばらくは心配なく暮らしていけるだろう。
さて、後の心配は無くなったので、また王都を目指して旅を始めますかね。
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(本編は完結しました)
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