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46 それは初耳です
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ふああ……さすがに眠い。馬車に揺られながら、落ちそうになる瞼を何とか開けている。
「館に着いたら、まず、しばらく眠ろう。僕もさすがに眠いよ」
「はい、助かります。ポピィは大丈夫か?」
「あ、はい、だ、大丈夫です」
ん? なんか、別の意味で大丈夫そうじゃないが……まだ、さっきのことを引きずっているのか? あとでフォローしとくか……寝た後で……。
ゴトンッ!
おっと、ついうとうとしていたようだ。馬車が止まる音で目が覚めた。ん? 何か騒がしいな。
馬車の窓から外を見ると、この前来たときより門番の数が増えている。しかも、その中の二人の兵士が、何か言い争いをしながらこちらに近づいて来た。
「……だから、ここは俺たちの仕事なんだから、あんたたちは他の所に行っててくれ」
「いや、我々は辺境伯様から外の警備をするように命じられたのだ。ここは、私が対応する」
二人の兵士はそう言い合いながら、先を争うように馬車の横までやって来た。
「お帰りなさいませ、ライナス様。ただ今、門を開けま……お、おいっ」
「お初にお目にかかります。私はペイルトン辺境伯様より、館周辺の警備を仰せつかったハモンドと申します。失礼ながら、門を入る前に中を検めさせていただきます」
「父上の命令? なぜ、そんなことを……必要ない、すぐに門を開けろ」
「いいえ、そういうわけにはまいりません。これは、辺境伯様からの……」
「ここの領主は、私だっ! たとえ父でも勝手なことはできない。すぐに門を開けろ」
ハモンドはむっとした顔で、まだ何か言いかけたが、もう一人の門番の若者がにこにこしながら、門の方に向かって叫んだ。
「門を開けろぉっ、領主様のお帰りだっ!」
馬車が再び動き出した。ライナス様は憮然とした顔で、馬車の窓から、館の中庭を我が物顔で歩いている兵士たちを眺めていた。
やがて、馬車は館の前のロータリーに止まった。俺たちが馬車から下りていると、玄関のドアが開いて、執事のエリアスさんが出てきた。
「お帰りなさいませ、ご無事で何よりでした」
「ただいま、エリアス。トーマとポピィたちのお陰で、僕は楽だったよ。
ときに、何だい、あの者たちは?」
ライナス様が不快な表情で尋ねると、エリアスさんが少し声を潜めながら答えた。
「はい、それが、昨夜からお父上がお泊りになっておられます」
「えっ、父上が?」
んん? なんか、また面倒事の予感がしないでもないが……とにかく、今は眠い。何が何でも眠るぞ。
……とは言ったものの、やはり眠れませんでした、はい。ライナス様のお父上、ペイルトン辺境伯様が、今回の大捕り物の顛末を聞きたいということらしい。
俺たちはライナス様と共に、執務室へ向かった。
執務室の窓辺に立って、こちらを振り返った四十代後半のがっしりした男性が、ライナス様のお父上、ジョアン・ペイルトン辺境伯だった。
金髪はライナス様と同じだが、顔立ちはあまり似てない。いかにも武人といった精悍な顔立ちだった。
「父上、お久しぶりです。どうしてこちらへ?」
「おお、ライナス、元気そうで何よりだ。
うむ、三日前にエリアスから、今回の件について連絡を受けてな。すぐにでも応援に駆け付けよと思ったのだが、プラド王国の奴らのせいで、今になってしまったのだ。聞けば、一晩で片を付けて帰って来たと言うではないか。さすがは我が息子だと感心しておったところだ。まあ、ゆっくり話を聞かせてくれないか」
歩み寄って来た辺境伯は、そう言いながらライナス様の肩に優しく手を置いた。
「その前に、今回、僕に力を貸してくれた二人を紹介します。彼らのお陰で、僕はほとんど何もせずに悪人どもを一網打尽にできました。トーマとポピィです。二人は冒険者で、トーマはBランクです」
辺境伯は、あらためて俺とポピィに目を向け、手を差し出してきた。
「よくぞ息子を助けてくれた。礼を言う」
うん、歴戦の武人も、末っ子は可愛いのだろうな。しかも、あまり構ってやれない側室の子だ。不憫にも思っているのだろう。
「トーマです。お目にかかれて光栄です」
「ポッポ、ポピィです、よろしゅくお願いします、です」
あっ、ライナス様が吹き出した。
辺境伯もそんな息子を見て、楽し気に俺たちの手を握った。
「あはは……座ってゆっくり話そう。エリアス、お茶を頼む」
「はい、すぐに」
エリアスさんの声も心なしか嬉しそうだ。
♢♢♢
「ところで、君たちはまだ幼いが、兄妹で冒険者をやっているのかね?」
一同がソファに座ったところで、開口一番に辺境伯が俺たちに尋ねた。
「あ、いいえ、俺たちは兄妹ではありません。俺は、家が貧しかったので食い扶持を減らすために、半年前、村を出て冒険者をやっています。ポピィは、両親を盗賊に殺されて、奴隷になっていましたが、雇い主が彼女を見捨てて逃げたので、俺が助けて奴隷から解放したんです」
俺の答えに、辺境伯は唖然とした表情だったが、少し気まずそうに目を逸らした。
うん、まあ、子どもとしては、のっけから割と壮絶な人生だよな。でも、それがこの世界の庶民の子どもなんですよ。貴族とは根本的に違うんです。
「そ、そうか……しかし、たった半年でBランクとはすごいな。トーマ君はどこの村の出なのかね?」
「はい、レブロン辺境伯領のラトス村です」
「ふむ……やはりそうか」
ん? 「やはり」とは、何ぞ?
「父上、それはどういうことですか?」
俺が質問する前に、ライマス様が質問してくれた。
「うむ。エリアスの手紙に、若干十一歳のBランク冒険者に助成を頼んだと書いてあったので、もしやと思ったのだが……ラトス村の出だと聞いて納得した。ラトス村はこの国でも最も厳しい環境にある辺境の村だ。周囲には危険度Bランクの森があり、作物も育ちにくい。だが、その中で鍛えられた男たちは、強い。そこらの腕自慢くらいでは相手にならないくらいにな。
実は、以前レブロン卿に聞いた話だがな。辺境伯家とラトス村の代々の村長は契約を交わしているらしい。それは、いざ辺境伯家が戦に赴くとなった時は、ラトス村の自警団は、そのまま辺境伯軍の一部隊として戦地に赴く。その代わり、ラトス村に何かの危機があった時は、辺境伯軍がすぐに駆けつけるし、救援物資を送るというものだ。
それを聞いて、とてもうらやましく思ったものだ」
なんと、それは初耳ですな。レブロン辺境伯家と契約ねえ……ああ、なるほど、クレイグさんが俺に監視を付けたのは、そういうわけか。戦力になりそうな男は、できるだけ村にとどめて、しかも鍛えておけ、というお達しなんだな。すぐにでも俺を呼び戻せるようにしておきたかったということか。
まあ、本当の事情を話せば、村の男たちは全員嫌がって出て行くことになりかねないからな。監視するしかなかったんだろう。ふう、よかったよかった、村を出て正解だったね。
♢♢♢
その後、俺たちはお茶を飲みながら、今回の一件を報告した(主にライナス様が)。
「今回のことで、街にはもちろんだが、ライナスにも良い影響が出てくるはずだ。もちろん、すぐには街の住民たちの信頼は戻らないだろうが、前の領主とは違うという強いメッセージは伝えることができたはずだからな」
さすが辺境伯、冷静な分析をしてますね、と言いたいところだが、そもそも前領主の失政を長年ほったらかした責任は、あなたにあるんですよ。反省してくださいね。
話もそろそろ終わろうとする頃、廊下をドスドス、ガシャガシャと大きな音を立てて足音が近づいて来た。
「エプラ衛兵隊副隊長ヤムス・ダルトン、ご報告に参りました」
「うむ、入れ」
「はっ、失礼します」
エリアスさんがドアを開くと、何やら不機嫌そうな顔のダルトンさんが入って来た。
「ご苦労だったな、ダルトン士爵。今、ライナスたちから報告を受けた所だ」
「はっ、ありがたきお言葉、痛み入ります。それならば、繰り返しになりますので、私からの報告は省きます。では、犯人一味の処罰とこのトーマとポピィへの報償に話を移しても良いでしょうか?」
「うむ。処罰については、ライナスに一任する。ただ、今回出てきた魔薬については、他の街や村でも調査する必要があるので、証拠品の一部を持ち帰りたい。それと、報償のことだな……」
「はっ、今回はギルドへの正式な依頼ではなく、あくまでも街からの直接の依頼という形を取っております」
「ふむ……それなら、今はまだ街の財政も苦しかろう、私の方から出すとしよう」
「あ、いや、それはお待ちいただきたいのですが……」
ダルトンさんは、苦虫を噛み潰したような表情で、うめくようにそう言った。
「ん、なぜだ? 功を成した息子に出す金だ、何もおかしなことではあるまい?」
辺境伯の言葉に、ダルトンさんはしばしためらった後、顔を上げて辺境伯にこう言った。
「……今、ここへ来る途中、領軍の部隊長のハモンドという方から、こう言われました。
『プラドとの争いがひっ迫している時に、余計なことをしたものだ。ライナス殿は、よほど辺境伯家の足を引っ張りたいのだな』と。
もちろん、これが辺境伯様のお考えだとは思いません。が、しかし、領都の方からはそういうふうに見えるのだとしたら、ここで領都の金を使わせるわけにはまいりません」
聞いた辺境伯は、眉間にしわを寄せて、小さく舌打ちをした。
「ハモンド……あの腰巾着め……奴は、妻が侯爵家から護衛として連れてきた者でな。恐らく、侯爵家との連絡役もやっておるのだろう……すぐにでも首を切ってやりたいが、侯爵家の手前、そういうわけにもゆかなくてな。嫌な思いをさせてすまぬ。
だが、心配するな。今回出す金は、私が自分のために使ったということで処理しておく。まあ、大金は出せぬがな」
ああ、歴史もののドラマとかでよくあるパターンですね。こちらはもらう物をもらえさえすれば、構いませんよ。
しかし、政略結婚というやつは、本当に大変そうですね。ご愁傷さまです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
読んでくださってありがとうございます。
少しでも面白いと思われたら、📢の応援よろしくお願いします。
「館に着いたら、まず、しばらく眠ろう。僕もさすがに眠いよ」
「はい、助かります。ポピィは大丈夫か?」
「あ、はい、だ、大丈夫です」
ん? なんか、別の意味で大丈夫そうじゃないが……まだ、さっきのことを引きずっているのか? あとでフォローしとくか……寝た後で……。
ゴトンッ!
おっと、ついうとうとしていたようだ。馬車が止まる音で目が覚めた。ん? 何か騒がしいな。
馬車の窓から外を見ると、この前来たときより門番の数が増えている。しかも、その中の二人の兵士が、何か言い争いをしながらこちらに近づいて来た。
「……だから、ここは俺たちの仕事なんだから、あんたたちは他の所に行っててくれ」
「いや、我々は辺境伯様から外の警備をするように命じられたのだ。ここは、私が対応する」
二人の兵士はそう言い合いながら、先を争うように馬車の横までやって来た。
「お帰りなさいませ、ライナス様。ただ今、門を開けま……お、おいっ」
「お初にお目にかかります。私はペイルトン辺境伯様より、館周辺の警備を仰せつかったハモンドと申します。失礼ながら、門を入る前に中を検めさせていただきます」
「父上の命令? なぜ、そんなことを……必要ない、すぐに門を開けろ」
「いいえ、そういうわけにはまいりません。これは、辺境伯様からの……」
「ここの領主は、私だっ! たとえ父でも勝手なことはできない。すぐに門を開けろ」
ハモンドはむっとした顔で、まだ何か言いかけたが、もう一人の門番の若者がにこにこしながら、門の方に向かって叫んだ。
「門を開けろぉっ、領主様のお帰りだっ!」
馬車が再び動き出した。ライナス様は憮然とした顔で、馬車の窓から、館の中庭を我が物顔で歩いている兵士たちを眺めていた。
やがて、馬車は館の前のロータリーに止まった。俺たちが馬車から下りていると、玄関のドアが開いて、執事のエリアスさんが出てきた。
「お帰りなさいませ、ご無事で何よりでした」
「ただいま、エリアス。トーマとポピィたちのお陰で、僕は楽だったよ。
ときに、何だい、あの者たちは?」
ライナス様が不快な表情で尋ねると、エリアスさんが少し声を潜めながら答えた。
「はい、それが、昨夜からお父上がお泊りになっておられます」
「えっ、父上が?」
んん? なんか、また面倒事の予感がしないでもないが……とにかく、今は眠い。何が何でも眠るぞ。
……とは言ったものの、やはり眠れませんでした、はい。ライナス様のお父上、ペイルトン辺境伯様が、今回の大捕り物の顛末を聞きたいということらしい。
俺たちはライナス様と共に、執務室へ向かった。
執務室の窓辺に立って、こちらを振り返った四十代後半のがっしりした男性が、ライナス様のお父上、ジョアン・ペイルトン辺境伯だった。
金髪はライナス様と同じだが、顔立ちはあまり似てない。いかにも武人といった精悍な顔立ちだった。
「父上、お久しぶりです。どうしてこちらへ?」
「おお、ライナス、元気そうで何よりだ。
うむ、三日前にエリアスから、今回の件について連絡を受けてな。すぐにでも応援に駆け付けよと思ったのだが、プラド王国の奴らのせいで、今になってしまったのだ。聞けば、一晩で片を付けて帰って来たと言うではないか。さすがは我が息子だと感心しておったところだ。まあ、ゆっくり話を聞かせてくれないか」
歩み寄って来た辺境伯は、そう言いながらライナス様の肩に優しく手を置いた。
「その前に、今回、僕に力を貸してくれた二人を紹介します。彼らのお陰で、僕はほとんど何もせずに悪人どもを一網打尽にできました。トーマとポピィです。二人は冒険者で、トーマはBランクです」
辺境伯は、あらためて俺とポピィに目を向け、手を差し出してきた。
「よくぞ息子を助けてくれた。礼を言う」
うん、歴戦の武人も、末っ子は可愛いのだろうな。しかも、あまり構ってやれない側室の子だ。不憫にも思っているのだろう。
「トーマです。お目にかかれて光栄です」
「ポッポ、ポピィです、よろしゅくお願いします、です」
あっ、ライナス様が吹き出した。
辺境伯もそんな息子を見て、楽し気に俺たちの手を握った。
「あはは……座ってゆっくり話そう。エリアス、お茶を頼む」
「はい、すぐに」
エリアスさんの声も心なしか嬉しそうだ。
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「ところで、君たちはまだ幼いが、兄妹で冒険者をやっているのかね?」
一同がソファに座ったところで、開口一番に辺境伯が俺たちに尋ねた。
「あ、いいえ、俺たちは兄妹ではありません。俺は、家が貧しかったので食い扶持を減らすために、半年前、村を出て冒険者をやっています。ポピィは、両親を盗賊に殺されて、奴隷になっていましたが、雇い主が彼女を見捨てて逃げたので、俺が助けて奴隷から解放したんです」
俺の答えに、辺境伯は唖然とした表情だったが、少し気まずそうに目を逸らした。
うん、まあ、子どもとしては、のっけから割と壮絶な人生だよな。でも、それがこの世界の庶民の子どもなんですよ。貴族とは根本的に違うんです。
「そ、そうか……しかし、たった半年でBランクとはすごいな。トーマ君はどこの村の出なのかね?」
「はい、レブロン辺境伯領のラトス村です」
「ふむ……やはりそうか」
ん? 「やはり」とは、何ぞ?
「父上、それはどういうことですか?」
俺が質問する前に、ライマス様が質問してくれた。
「うむ。エリアスの手紙に、若干十一歳のBランク冒険者に助成を頼んだと書いてあったので、もしやと思ったのだが……ラトス村の出だと聞いて納得した。ラトス村はこの国でも最も厳しい環境にある辺境の村だ。周囲には危険度Bランクの森があり、作物も育ちにくい。だが、その中で鍛えられた男たちは、強い。そこらの腕自慢くらいでは相手にならないくらいにな。
実は、以前レブロン卿に聞いた話だがな。辺境伯家とラトス村の代々の村長は契約を交わしているらしい。それは、いざ辺境伯家が戦に赴くとなった時は、ラトス村の自警団は、そのまま辺境伯軍の一部隊として戦地に赴く。その代わり、ラトス村に何かの危機があった時は、辺境伯軍がすぐに駆けつけるし、救援物資を送るというものだ。
それを聞いて、とてもうらやましく思ったものだ」
なんと、それは初耳ですな。レブロン辺境伯家と契約ねえ……ああ、なるほど、クレイグさんが俺に監視を付けたのは、そういうわけか。戦力になりそうな男は、できるだけ村にとどめて、しかも鍛えておけ、というお達しなんだな。すぐにでも俺を呼び戻せるようにしておきたかったということか。
まあ、本当の事情を話せば、村の男たちは全員嫌がって出て行くことになりかねないからな。監視するしかなかったんだろう。ふう、よかったよかった、村を出て正解だったね。
♢♢♢
その後、俺たちはお茶を飲みながら、今回の一件を報告した(主にライナス様が)。
「今回のことで、街にはもちろんだが、ライナスにも良い影響が出てくるはずだ。もちろん、すぐには街の住民たちの信頼は戻らないだろうが、前の領主とは違うという強いメッセージは伝えることができたはずだからな」
さすが辺境伯、冷静な分析をしてますね、と言いたいところだが、そもそも前領主の失政を長年ほったらかした責任は、あなたにあるんですよ。反省してくださいね。
話もそろそろ終わろうとする頃、廊下をドスドス、ガシャガシャと大きな音を立てて足音が近づいて来た。
「エプラ衛兵隊副隊長ヤムス・ダルトン、ご報告に参りました」
「うむ、入れ」
「はっ、失礼します」
エリアスさんがドアを開くと、何やら不機嫌そうな顔のダルトンさんが入って来た。
「ご苦労だったな、ダルトン士爵。今、ライナスたちから報告を受けた所だ」
「はっ、ありがたきお言葉、痛み入ります。それならば、繰り返しになりますので、私からの報告は省きます。では、犯人一味の処罰とこのトーマとポピィへの報償に話を移しても良いでしょうか?」
「うむ。処罰については、ライナスに一任する。ただ、今回出てきた魔薬については、他の街や村でも調査する必要があるので、証拠品の一部を持ち帰りたい。それと、報償のことだな……」
「はっ、今回はギルドへの正式な依頼ではなく、あくまでも街からの直接の依頼という形を取っております」
「ふむ……それなら、今はまだ街の財政も苦しかろう、私の方から出すとしよう」
「あ、いや、それはお待ちいただきたいのですが……」
ダルトンさんは、苦虫を噛み潰したような表情で、うめくようにそう言った。
「ん、なぜだ? 功を成した息子に出す金だ、何もおかしなことではあるまい?」
辺境伯の言葉に、ダルトンさんはしばしためらった後、顔を上げて辺境伯にこう言った。
「……今、ここへ来る途中、領軍の部隊長のハモンドという方から、こう言われました。
『プラドとの争いがひっ迫している時に、余計なことをしたものだ。ライナス殿は、よほど辺境伯家の足を引っ張りたいのだな』と。
もちろん、これが辺境伯様のお考えだとは思いません。が、しかし、領都の方からはそういうふうに見えるのだとしたら、ここで領都の金を使わせるわけにはまいりません」
聞いた辺境伯は、眉間にしわを寄せて、小さく舌打ちをした。
「ハモンド……あの腰巾着め……奴は、妻が侯爵家から護衛として連れてきた者でな。恐らく、侯爵家との連絡役もやっておるのだろう……すぐにでも首を切ってやりたいが、侯爵家の手前、そういうわけにもゆかなくてな。嫌な思いをさせてすまぬ。
だが、心配するな。今回出す金は、私が自分のために使ったということで処理しておく。まあ、大金は出せぬがな」
ああ、歴史もののドラマとかでよくあるパターンですね。こちらはもらう物をもらえさえすれば、構いませんよ。
しかし、政略結婚というやつは、本当に大変そうですね。ご愁傷さまです。
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