上 下
27 / 77

26 俺はのんびりとパルトスに帰りたい 1

しおりを挟む
「では、皆さん、また護衛の方をよろしくお願いします」

 三日間の滞在を終えて、俺たちは再び《ビーピル商会》のハンスさんの馬車で、パルトスに帰る日の朝を迎えた。

 行きと同様、荷物を積んだ大きな馬車にハンスさんと使用人の若者二人が乗って前を行き、護衛の俺たちが乗った小さな馬車が後からついて行く。

「おお、良いナイフを買ってもらったな、ポピィちゃん」
「はいっ、むふふ……」
 新たに加わったポピィは、ジェンスたちからペットのように可愛がられていた。

 タガーナイフを取り出して、宝物のようにぼろ布で磨き始めたポピィに、ジェンスたちの視線が集まる。

「このナイフで、ゴブリン十三匹、スライム二十一匹、オーク一匹を倒したのか……」
「何というか……トーマは鬼だな」
「そうよ、ひどいよ、こんな可愛い子に」
「鬼畜……」

 あ、あはは……ひどい言われようだな。しかし、皆さん、騙されてますよ。こいつは、そんなやわなタマじゃないすからね。最後のオークなんて、手足の筋を斬られて、プギャプギャ泣いているのを容赦なくとどめを刺しましたからね、喉をかき切って。はい、暗殺者の血は確かに流れていますよ。


(っ! 前方百メートルだな)
『はい、かなりの数です。魔物と人間ですね』

 俺の索敵に反応があった。ただ、少し様子がおかしい。

「ジェンスさん、前方に敵です。すぐに前の馬車を止めて、ハンスさんたちに来るように伝えてください」
「っ! 分かった」

 馬車が止まり、俺たちは二台の馬車の間に集まって作戦会議を始めた。

「道に魔物が八匹待ち構えています。その横の茂みの中に人間の伏せ兵が二十人ほど隠れています。それと、少し離れた森の中に一人います。
この状況から考えられることは、恐らく噂の盗賊団で、その中に魔物使いがいるということです。そして、俺たちが魔物に気を取られている隙に、弓矢や魔法で攻撃、次いで近接戦でとどめを刺す、といったところでしょうか」

「ううむ、厄介だな。森の中にいるのが魔物使いだな?」

「はい。こいつはポピィに任せます」
 俺の言葉に、周囲の人たちは驚いた。
「いや、そいつは無茶だろう、危険すぎる」

「時間がありません。ここは俺の指示に従ってもらえませんか?」

 全員が難しい顔で仕方なく頷いた。

「じゃあ、役割分担を言います。先ずハンスさんたちは前の馬車の荷台に隠れてください。なるべく荷物の間が良いです」
「分かりました」
「シュナさんは、魔法の準備をお願いします。狙いは左前方の茂みの中の盗賊です。茂みを燃やし尽くすつもりでお願いします。その後は、馬車の屋根の上から適宜魔法攻撃をお願いします」
「ん、任せて」
「ベンさんとキャリーさんで、魔物の相手をお願いできますか?」
「おう、任せろ」
「分かったわ」
「では、俺とジェンスさんで盗賊をやっつけましょう」
「よっしゃ! 皆、容赦なくいくぜ」
「「「おうっ」」」

 皆がそれぞれの馬車に散った後、俺はポピィの両肩に手を置いて言った。

「気配を消して、後ろから回り込め。焦るなよ、確実に仕留めるんだ。それと、一番大事なことを言うからな、よく心に留めておけよ。もし途中で俺たちがやられたら、決して戻って来るな。そのままできるだけ遠くに逃げるんだ。いいな?」
「そ、そんな、あの……」
「いいな?」
 ポピィは涙を浮かべて、唇を引き結びながら小さく頷いた。
「よし、行け」

 ポピィは〈隠蔽〉のスキルで気配を消して、最後に俺の方を振り返ってから茂みの中へと消えて行った。

「さて、行きますか……」
 俺は、ポピィが魔物使いの元へたどり着くまでに片をつける決意をして、御者席のジェンスさんの横に座った。

 馬車がゆっくりと動き出す。前の馬車の御者席にはベンさんとキャリーさんが座り、ハンスさんたちは幌付きの荷台に隠れ、シュナさんは、御者席の後ろでいつでも魔法を撃てる準備をして身構えていた。
 俺とジェンスさんは後ろの馬車で、いつでも前の馬車の横に出て行く心づもりをしていた。

 そして、道に待ち構えた魔物たちが動き出し、三十メートルの距離に近づいたとき、
「わあ、魔物だ~~」
 ベンさんが合図の叫び声を上げ、馬車が止まった。
(ど、どうでもいいけどさ、もう少し緊張感のある声を出してよ、ベンさん……)

「火の精霊よ、我が命に従い、数多の業火をもって敵を討ち滅ぼせっ! ファイヤー・バレットッ!」
 御者席に立ったシュナさんの詠唱が響き渡り、十数個の火の玉が一斉に道路脇の茂みに放たれた。

 ぐわああっ……ぎゃああっ……た、助けてくれええっ……
 一気に燃え上がった茂みから悲痛な叫び声が上がり、その炎の中から体に火が点いた男たちが飛び出してきた。

 ジェンスさんが馬車を走らせ、前の馬車と茂みの間に割り込んで、馬車を止める。そして、俺と共に馬車から飛び降りて、道に出てきた盗賊たちを無力化していく。

 ベンさんとキャリーさんは、すでに馬車から下りて、道の向こうから走って来るランドウルフの群れに突進していた。ウルフの群れは十五、六匹ほどだったが、シュナさんがファイヤーボールで先制攻撃をしたので、十匹ほどに減っていた。

「くそったれっ! だから早く攻撃しろって言ったんだ」
「おいっ、魔法だっ」「矢で射殺せっ」
 盗賊たちは大混乱の中、運良く火から逃れた者たちが、武器を手に喚き合っていた。

 俺とジェンスさんは、道へ逃げ出してきた盗賊たちを打ち倒した後、前後から挟み撃ちにするために、俺が盗賊たちの後ろへ回り込む作戦をとった。

 燃え盛っていた火がようやく下火になり、立ち上る煙のすき間から、馬車の方の様子が見えてきたとき、難を逃れた盗賊たちは驚きと憎しみのこもった目で前方を見つめた。

 道の左前方には、全滅したランドウルフの死体が転がり、二台並んだ馬車の前には焼け焦げた仲間たちがまとめられてロープで縛られ、その後ろに四人の冒険者たちがこちらを睨みつけながら仁王立ちしていたのである。

「おいっ、盗賊ども、あきらめてお縄につくか、尻尾を巻いて退散するんだ」

「はっ、ふざけるなっ! この程度で我ら《闇の死神》が諦めると思うなよ。へへ……まだ、こっちはお前らの倍以上の人数がいるんだ。それに、とっておきの切り札もまだ残っているぜ。どうだ、逃げ出すか? もっとも、逃がしはしないがな、ふひひひ……(お頭、どうしたんすか、早く例の切り札の魔物を出してくださいよ)」

 盗賊たちは、焼け焦げた茂みの向こうから、馬車の方へじわじわと前進を始めた。

 俺は、ようやく気付かれないように盗賊たちの背後に回り込み、少しずつ近づき始めた。と、その時、背後から何者かが音も無く近づいてくるのに気づいて、メイスを構え直した。

しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...