ONE WEEK LOVE ~純情のっぽと変人天使の恋~

mizuno sei

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 二年前、バスケットボールをあきらめた祐輝は、しばらくの間何もやる気が起こらず、危うく矢島たちのグループに引き込まれそうになった。矢島は、祐輝をおだて、将来はこの学校を二人で仕切ろうと熱心に誘った。やけになっていた祐輝は、何度か彼らと行動を共にし、いろいろな悪さをやった。

 しかし、やはり彼らとはどうしても相容れない部分があった。本音は一分でも一緒にいたくはなかった。どっちつかずの袋小路の中をさまよう日々が続いた。

 夏休みも近くなったある日の昼休み、矢島たちの目を避けるように校舎裏をぶらついていた祐輝は、部室棟の陰で不良たちにからまれている吉田竜之介と出会った。
 不良たちは二年生だったが、祐輝の姿を見るとあわててどこかへ姿を消した。事情を飲み込めず、ぽかんとしている吉田に、祐輝は何気なく声をかけた。
「もう、大丈夫だぞ。なんであいつらにからまれてたんだ?」

 吉田は まるであこがれの人に出会った女の子のように、顔を赤らめてはにかんでいた。祐輝は直感的に吉田のキャラクターを理解したように感じた。背筋にぞくっと悪寒が走った。
 そして、彼の直感は当たっていた。以来、吉田は祐輝の〝追っかけ〞になった。

 祐輝がその後演劇部に入ったのは なにも、 吉田の熱愛に屈したからではない。一つには、矢島たちから離れるきっかけを探していたこと、もう一つは、演劇という未知の世界が、バスケットボールへの未練を忘れさせてくれるのではないか、という淡い期待があったからでもある。

 売店でパンと牛乳を買いながら、祐輝はそれとなく周囲の生徒たちを見回していた。
 いったい彼女は何年生なのだろう。想像の中の彼女はますます美化され、甘ったるい切なさがつのっていく。

「祐ちゃん、どこ行くの?」
「だから、言ったろうが……用事があるの」
 まさか、謎の美少女を探して校内をうろつくなどとは、口が裂けても言えない。
「練習さぼっちゃだめだよ。地区予選は六月なんだからね」
 吉田の声を背中で聞きながら、祐輝は右手を挙げて返事をする。

 時々、昼食に利用する屋上へ向かいながら、彼はふと頭に浮かんだ台詞をつぶやいた。
「…夢をいっぱい心につめこんだのに…いつの間にか、心が現実に押しつぶされて…夢はどこかへ消えてしまった…ひとかけらの夢さえ、今は…」

 六月に開かれる演劇の全国コンクール地区予選で、祐輝たちの演劇部は『月夜に降る雨』というタイトルの劇をやる。
 アーティストを目指して上京した一人の若者が、過酷な現実の中で傷つき、自暴自棄になっていくが、一人の少女との出会いをきっかけに少しずつ立ち直っていく。しかし、少女は不治の病に冒されていて、若者が初めてのステージで成功を収める姿を確かめた後、そっと立ち去っていく…、というストーリーの劇である。

 ストーリーそのものはよくあるパターンで、あまり気に入らなかったが、主人公の若者が妙に自分と重なる部分があるような気がして、祐輝はそれなりに熱を入れて練習に打ち込んでいた。なにしろ人数の少ない演劇部である。彼は、主人公の若者役に満場一致で推されてしまった。相手役の、不治の病に冒された少女が、吉田竜之介であることは何とも不満であったが……。
 しかし、吉田はひとたび舞台に上がると、全く別人に変身するのだ。その演技力には、祐輝も感嘆せざるを得なかった。今回の配役も、四人の女子部員が、とうてい吉田には及ばないと辞退した結果なのだった。

「…美しい月の滴が降りそそぎ…汚れた俺を濡らす…でも、次には笑い声が降ってきて… ずぶ濡れの俺をあざ笑う…いつもくり返す安らぎと苦しみ……」
 ギターをつま弾きながら歌う、主人公の台詞をそこまで口にしたとき、祐輝は雷に打たれたように硬直して、その場に固まってしまった。

 二年生の教室棟の廊下を行き交う生徒たちの中に、彼の方に向かって足早に近づいてくる一人の少女……。まぎれもなく、あの少女だった。
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