ONE WEEK LOVE ~純情のっぽと変人天使の恋~

mizuno sei

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1 横断歩道の天使

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 正門に続くゆるやかな坂を上りながら、永野祐輝は、満開の桜並木を新鮮な思いで眺めていた。
 新学期の始まりは、いつも、どことなく切ない気持ちとわくわくした興奮が入り混じった形容しにくい気分になるのが常だった。でも、今年は何となく今までの春とは違う気がする。それは、昨日の小さな出来事が原因だったかもしれない。

 昨日の夕方のことだった。
 実は 祐輝は学校に無断で土木作業のアルバイトをしている。夜中の道路工事や配管工事の作業員として、ほとんど毎日働いていた。
 昨日も仕事先に自転車で向かっていた。その途中の横断歩道で、偶然同じ高校の制服を着た少女と並んで信号が変わるのを待つことになった。何気なくその顔を見て、祐輝は思わずどきんと胸を高鳴らせた。初めて見る顔だったが、大変な美少女だった(少なくとも彼の目にはそう映った)。
(何年生だろう::新入生じゃないよな)
 彼がそう思ったのは、少女の制服がある程度古びていたのと、着こなしが慣れていたからである。

 あまり一心に見つめていたものだから、少女の方も視線を感じて彼の方に目を向けた。祐輝はあわてて視線をそらし、車の流れを見ているふりをする。心臓が高鳴っていた。
 信号が青になり、二人は同時にペダルを踏み出したが、突き当たりで二つの車輪は左右に分かれていった。祐輝は少し残念な気持ちを抱きながら、仕事場へ向かった。
 だが、反面、心が躍るような喜びも感じていた。明日からの新学期、その少女を捜し出す楽しみができた。

 そんなわけで、その日の朝、永野祐輝は数少ない幸福な気分の生徒の一人だったのだ。
 新しいクラスはまあまあだった。高校生活最後の一年を過ごすクラスだが、まず、担任が英語の吉本先生だったのはラッキーだった。彼女は新採三年目で、祐輝たちが入学したときに、新任の教師として赴任してきた。美人だし、気心も知れている。ただ、同じクラスに、友枝と大塚という嫌な奴らがいたのは気分を台無しにした。

 祐輝は二年前、入学早々、派手なケンカをやらかして退学寸前になったことがある。

 中学時代、バスケットボールでかなり名を知られた選手だった祐輝は、入学直後から数人の女子生徒に声をかけられ、メールアドレスを交換して欲しいと申し込まれた。そのうちの一人の女の子が、ある中学校のヤンキーグループのリーダーだった矢島という奴の彼女だった(矢島の一方的な思いこみだったらしいが)。
 当然、それを知った矢島は祐輝を呼び出し、手下たちと一緒に彼を痛めつけようと考えたのである。しかし、怪我をしたのは矢島たちの方だった。祐輝は別にケンカに慣れていたわけではなかったが、矢島たちが存外に弱かったのだ。友枝と大塚は、その時矢島の手下として、祐輝にぼこぼこにされた連中だった。

 おかげで、祐輝はバスケ部から入部を拒否され、鬱々とした二年間を過ごすはめになった。友枝と大塚の顔を見ると、その時の悔しさがよみがえってくるのである。

「おおい、祐ちゃん……部活行こう」
 ホームルームが終わり、クラスメイトたちは三々五々教室を後にしていく。昼食はどんなパンにしようかと考えていた祐輝のもとへ、小太りで、やけに色白で、黒ぶちメガネの暑苦しい奴がやってきた。

「ああ……昼めし食ったら行くよ」
「部室で一緒に食べようよ」
「いや…他にちょっと用があるからさ」
「ええっ、何の用?」
「おめえには関係ねえよ」
「そんな…水くさいじゃないのよ、祐ちゃん」
 祐輝は、ねっとりとからみついてくる吉田竜之介の腕から逃れるように立ち上がる。

 数人のクラスメイトが、二人のやりとりをクスクス笑いながら見守っている。その中に、例の友枝と大塚の顔を見た祐輝は、カーっと頭に血が上って荒々しく吉田を押しのけると、出口に向かって足音高く歩いていった。
「あっ、待ってよお、祐ちゃん」
 吉田はどんなに粗末に扱われても、祐輝にべったりくっついて離れない。
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