王家の宝物庫

三枝七星

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天の義眼

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 天眼石は目のすがたに似る。
 そうであるから、己の目を失った者たちは皆、自分の元の目に似ている天眼石を探して義眼への加工を依頼するのだ。
 ただし、より人間の瞳に近い見た目をした石は珍しい。より自然な見た目を好むなら、多少の金を払ってでも石を探す必要がある。
 とはいえ、明らかに義眼であることがわかっても良いのであれば、選択肢はきっと多岐にわたることだろう。黒や赤茶のものが主流であるが、人間が染料を使って染めることも可能だ。そう遠くない未来に、目を失った人々のファッションとしての地位を確立するだろう。
 これは義眼であるから、当然持ち主はこれを通してものを見ることはできない。ただ……あるとき、突然、わずかな間、石が見ているものが持ち主に伝わることがある、という。まことしやかに囁かれる噂だ。持ち主も「願望が見せた気のせい」と寂しそうに笑う。

 ただ、この王家の宝物庫に納められた一つの義眼は、間違いなく「見た物を持ち主に伝える」と言う。
 理由はわからない。たまたまそういう力のある石だったのか、はたまた何かが宿っているのか。かつて石が見た物も、まるで記憶を蘇らせるように見えることがあると言う。
 義眼としての質も高く、まるで本物の瞳のようだ。グレーのつややかな光彩、吸い込まれそうなほど黒い瞳孔。そういうものが、自然の組成によって作られている。職人は目の形に整えただけだ。その人自身、もし自分が目を失うことになればこの義眼をはめたい、と思うほどの出来映えだった。

 その不思議な力を知られた義眼は宝物庫の肥やしになっているが、日がな一日、他の宝物を眺めている。まるで自分に焼き付けるように。
 いずれ、この目を得る人は、それらの煌めきを見ることになるだろう。
 それはまだ先の話。
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