王家の宝物庫

三枝七星

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地母神のサークレット

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 地母神のサークレットと伝わる装飾品が、王家の宝物庫には納められている。
 遠い昔、地母神を祀っていた国の王が身につけていたもので、そこにあしらわれているのは石英の一種だ。泥や、他の鉱物を内包した石英で、ガーデンクォーツと呼ばれることもある。金色の冠部分に、小ぶりの物がいくつも下げられていて、一つ一つが、個性豊かな人の庭。つまりは国を示していて、そういった土地の豊かさを象徴する地母神をイメージして作られたとされている。

 されている、というのは、弱体化したその国は、今やこの王国の一領地になっているからだ。遠い昔の話になっている。けれど、旧王家に伝わるこの冠は、現王家の宝物の一つに数えられている。理由はもちろん、美しいからである。透き通った、透明な雫のような石英の中に、色とりどりの鉱物が、泥が包まれている様は、本当にこの世に数多ある人間の土地を思わずにはいられない。土の神秘を感じる。一つとして同じ石は使われていないのだ。
 それに加えて、このサークレットには不思議な力があった。地母神の加護を得られるのだ。すなわち、生命力、生産力。
 豊穣を祈る時、祝う時、子の誕生や、成長を願う時、喜ぶ時、王は神官の長としてこれをその頭に飾るのだ。地母神の加護は豊作を、安産を、健やかな成長を約束する。

 年に一度、とある領主にこれは貸し出される。旧王国領。今でも地母神信仰が盛んなその土地では、毎年地母神を祀る大々的な祭が行われる。そう言った時に、このサークレットは元の土地に返される。故郷でたっぷりと力を蓄えた石たちは、また一年、現王国の豊作と、現王家の繁栄を祈るために王都へ戻される。

 違う土地の、同じ太陽の光を浴びて、土の石は光るのだ。
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