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HO5.黄金林檎を投げ込んで(6話)
4.疑惑の矛先
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たまたま再会し、今の彼氏から威嚇されて一触即発になった元彼を連れて店から出る……と言う状況を装って杏を連れ出すテータ。杏は、哲夫の態度が気に入らない、と言う表情を作って彼女に連れて行かれるままにする。伝票を持った杏を見て、店員が何か言いたそうにしていたが、
「後で払いにきますから」
と、テータが告げると、そのまま見送られた。
このカフェは、建物を縦に貫くエスカレーターを囲むように並んだ店舗の一つで、出るとすぐ正面にエスカレーターの吹き抜けが見える。その吹き抜けを見下ろすように、満岡飛鳥が電話していた。
「だから、今私はそれどころじゃないって言ってるでしょ」
苛立ったように誰かと話していた。先日事務所に来たときも、給湯室に隠れてしまって会えなかったし、挨拶しようかな、と思っていた杏だったが、本人が言うとおり「それどころ」ではなさそうだ。
「神林さんが怒ってるところ、初めて見ました」
テータがいたずらっぽく笑う。
「すみません」
「良いんですよ、打ち合わせ通りですから」
「でも、北畑さん、僕のこと見ても何も言いませんでしたね」
「そうですね。突然の展開に驚いているのかもしれません。多分今、てっちゃんさんが聞き出してくれているでしょうし、私も戻ったら反応を見てみましょう」
「お願いします。僕はお会計して一旦外に出ますね。三階にキッチン雑貨のお店があったので、そこ見てようかな」
仕事しているとあまり主張する機会はないが、杏の数少ない趣味の一つが料理なのである。外に出ることも多い今の仕事では、弁当を持って行くことも減ったが、前の会社ではほぼ毎日自作弁当だった。そうでないと、出費も嵩む。
「紅茶に良さそうなものがあったら教えてください」
「もちろんです」
顔を見合わせて、くすくすと笑う。
「じゃあ、また後で。『杏くん』」
「また後で。『テータ』」
手を振って、別れる。テータが戻って少ししてから、杏はレジで会計を申し出た。もう飛鳥は席に戻ったらしく、吹き抜けの前からいなくなっていた。
「すみませんうろうろしちゃって」
「いえ、大丈夫ですよ」
店員は朗らかに応じてくれる。スタンプカードも作って、杏はテータに告げたキッチン雑貨の店で時間を潰した。
数十分後、今度はテータからスタンプが飛んできた。「これから向かいます」とのこと。可愛らしい猫のスタンプだ。哲夫が犬で、テータが猫……なんだか少し納得してしまう杏であった。
『待ってます』
杏はデフォルメされた少年のスタンプを送る。
(なんか新しいスタンプ買おうかな……)
などと考えていると、肩を叩かれた。振り返ると、申し訳なさそうな顔をした哲夫と、にこにこしたテータが立っている。
「待たせてごめん」
「大丈夫です。こういう所いるとあっという間なので」
「しかし神林さんが料理好きとは。でもお弁当持ってきてるもんな」
哲夫は意外そうに、でも納得したように頷いた。
「何買うの?」
「ゴムべらが古くなっちゃったから買おうかなぁって。あ、テータさん、これどうですか? ティーバッグじゃなくても、ここにお茶っ葉入れて、ティーバッグみたいに使える茶漉しみたいなんですけど」
「どれどれ。そういえばティーバッグしか使ったことありません。緑茶は茶葉から急須で入れるのが有名みたいですけど、紅茶もそうなんですね?」
「お茶はなんでもそうかな」
「興味があります」
テータは目を輝かせた。杏が見せた茶漉しを手に取り、
「茶葉は今度買うとして、私はこれを買ってみます」
「経費では難しいかもよ?」
哲夫がまた、経費で落とせないことを申し訳なく思っていそうな顔で言う。彼がテータに感じている恩は計り知れないのだろう。
「自分のお小遣いで買いますよ」
二人が会計を済ませると、哲夫は時計を見た。昼近くになっている。土曜日の商業施設は混み始めていた。
「昼食どうしよう。食べて帰る? 事務所で食べる?」
「せっかくだから食べて帰りませんか」
テータが提案した。
「さっきの、北畑さんとのやりとりについても、記憶が新しい内に話し合いたいですし」
「そうだな。神林さん、良い?」
「もちろんです。何が食べたいですか?」
「俺は何でも。浪越さんは?」
「私も何でも。神林さんが食べたいもので」
三人で譲り合って、くすくすと笑う。
結局、チェーンのイタリアンレストランに決まった。値段が手頃だったのと、たまたま三人がすぐに入れそうだったので即決した。
「北畑さん、神林さんには何の反応も見せなかったな」
哲夫は席についてすぐに出された水を煽ると思い出すように呟いた。
「それは私と神林さんも首を傾げていました」
テータが真顔で言う。
「彼女は『天啓』を受けていないと見た方が良いでしょうね」
「他の女の子たちを『助けてるだけ』って言ってるって話でしたけど、自分の行動を正当化するのに『助けてあげてるのに!』って開き直るのはよくありますしね……」
今までの人生の中で、杏もそういう手合いには覚えがある。ずいぶんと昔のケースもあるので「天啓」とは無関係だ。
「まあ、どの道そんなに男をとっかえひっかえしてるなら、その男どもの中に『天啓』を受けた奴がいるかもしれないからな。もし向こうからコンタクトがあったら、話を聞けるだけ聞き出してみようか」
「私のてっちゃんさんが取られてしまいます」
テータが嘘泣きを始めた。
「確かに綺麗な人ではあるけど、俺はそんな簡単になびいたりしないよ。こんな美人の彼女がいるのに」
「そういう人に限ってなびいちゃうんですよ。杏くん、私どうしよう~」
「なんかあったら連絡してね」
杏も段々このテンションの波長が合ってきたような気がする。
「おい、そこ、よりを戻そうとするな」
などと悪ふざけをしながら、それぞれ注文を決める。
「しかし、せっかく満岡さんが勇気を出して連絡してくれたのに残念でしたね」
メニューを畳みながら杏は言った。
「そうだな。あんな怪しい看板を出しているところに女性一人で来るなんて、相当勇気がいっただろうに」
「と言うところで私は疑問に思ったんですが、彼女、北畑さんが『天啓』持ちだと匂わせるために『救う』と言うワードを使ったように私は思えるんですよね」
テータが突然声を低くして話の方向性を変えた。
「え?」
「私たちは、『天啓』を受けた人たちが『救済』にこだわるとわかっているから、特に気になりませんでしたが、満岡さんの言動は少し気になる点が多いんです」
彼女は真顔で続けた。
「国成さん、私たち、厚労省の発表をライブ配信で見ていましたよね」
「ああ」
「『救済』を口走るなんて、発表にあったでしょうか?」
「いやー、そんなことはなかった……なかったな?」
「ないですね」
杏も頷いた。あくまでも「判断力の低下」と言うだけで、「救済」を口走るとは言わなかった。これは、「救済」と言うワードが多くの宗教で使われており、宗教活動家に対する迫害に繋がりかねないとして発表しない方針になったのだ。実際に、カルト宗教による霊感商法などの問題はあちこちで起こっているが、そういうものへの調査の妨げにもなる。
「だから、『天啓』を受けていることの根拠に『救済を主張している』と言い出すのはおかしいんですよ。なおかつ、満岡さんはあの発表の間歩いていた筈です。イヤホンで聞きながら来たのかもしれませんが、やはり『救済』を根拠にしてくるのは妙です」
「気付きませんでした」
「俺もだ……」
「私も、さっきまで思いつきませんでしたよ。でも、北畑さんが、神林さんの顔を見ても何も感じていなさそうだったので、それで引っかかりました。私たちは、聞いてもいない北畑さんの『救済』の主張だけを根拠に彼女が『天啓』を受けていると判断している。じゃあその情報は誰から……? と思ったら、満岡さんしかいないんです」
「でも、満岡さんは神林さんに……」
「あ、僕会ってないんです」
哲夫が言いかけたのを、杏は慌てて遮った。
「え?」
「会ってないんです。彼女が事務所に来たとき、僕は給湯室にいましたし」
「あっ」
「さっきも、満岡さんは電話するために席を離れていて、そこに僕が行ったんです。外に出たときも、彼女は吹き抜けを向いてて、僕たちには背を向けていましたから……」
「彼女は神林さんを見ていません」
「なんてこった」
哲夫は呻いた。
「近いうちに、彼女とアポイントを取ろう」
「はい」
その時、哲夫の端末に通知が来た。彼は意外そうな顔で端末を開くと、にやりと笑う。
「北畑さんからだ。情報提供したいから、今度会いませんかって。ご丁寧に『会いたい』のスタンプ付きだ」
「えー、私と言う物がありながら?」
「浪越さん、その役気に入ってない? 俺の彼女になっても良いことないよ」
「国成さんがお断りしたいならそう仰ってくださって構いませんよ」
テータは微笑んだまま言う。
「そうだな、ごめん」
「安心してください。私は国成さんを地球のパートナーとして信用していますが、変な気は持っていませんから」
「ありがとう」
「でもこの役はちょっと可愛い気がして気に入ってるので、また機会があったら彼女にしてください」
「言い方!」
「え、ていうか、メッセージ? メールじゃなくて?」
スタンプ、と言うワードから、杏は成美がメールではなくてメッセージで送ってきた事を悟った。杏も持っている多摩分室の名刺には、メールアドレスと電話番号しか書いていない筈だが……。
「結局、満岡さんもいなかったから、俺と北畑さん二人っきりになっただろ? あの時にメッセージアプリの連絡先も交換しませんか? って。メールだと敷居が高くて……って言われて交換した。解決したら説明してブロックする」
「ブロック」
「変に期待を持たれても困るからね」
哲夫は涼しい顔で言った。
『思い出したんですけど、前付き合っていた男の人で、「人を救いたい」って言ってる人がいたのを思い出して。そのことについてお話ししたいので、今度会えませんか?』
北畑成美は、わくわくした気持ちで国成哲夫にメッセージを送っていた。
文部科学省の公務員、ハンサムな顔立ち、マッチョと言うほどでもないけど、運動不足は感じさせない引き締まった身体。
そして何より、隣に座っていた、可愛らしいシスター然とした彼女。
あの彼女だって、「杏くん」とやらとなんかよりを戻すかもしれない雰囲気だったし、だったら、私が先に国成さんの次の彼女の座を予約したって良いよね?
浪越さんは杏くんに慰めて貰えば良いじゃない。
ね? 国成さん。
会いたいな。
『わかりました。やはり土日が良いでしょうか?』
「いいえ。今度は国成さんに合わせます。いつが良いですか?」
「後で払いにきますから」
と、テータが告げると、そのまま見送られた。
このカフェは、建物を縦に貫くエスカレーターを囲むように並んだ店舗の一つで、出るとすぐ正面にエスカレーターの吹き抜けが見える。その吹き抜けを見下ろすように、満岡飛鳥が電話していた。
「だから、今私はそれどころじゃないって言ってるでしょ」
苛立ったように誰かと話していた。先日事務所に来たときも、給湯室に隠れてしまって会えなかったし、挨拶しようかな、と思っていた杏だったが、本人が言うとおり「それどころ」ではなさそうだ。
「神林さんが怒ってるところ、初めて見ました」
テータがいたずらっぽく笑う。
「すみません」
「良いんですよ、打ち合わせ通りですから」
「でも、北畑さん、僕のこと見ても何も言いませんでしたね」
「そうですね。突然の展開に驚いているのかもしれません。多分今、てっちゃんさんが聞き出してくれているでしょうし、私も戻ったら反応を見てみましょう」
「お願いします。僕はお会計して一旦外に出ますね。三階にキッチン雑貨のお店があったので、そこ見てようかな」
仕事しているとあまり主張する機会はないが、杏の数少ない趣味の一つが料理なのである。外に出ることも多い今の仕事では、弁当を持って行くことも減ったが、前の会社ではほぼ毎日自作弁当だった。そうでないと、出費も嵩む。
「紅茶に良さそうなものがあったら教えてください」
「もちろんです」
顔を見合わせて、くすくすと笑う。
「じゃあ、また後で。『杏くん』」
「また後で。『テータ』」
手を振って、別れる。テータが戻って少ししてから、杏はレジで会計を申し出た。もう飛鳥は席に戻ったらしく、吹き抜けの前からいなくなっていた。
「すみませんうろうろしちゃって」
「いえ、大丈夫ですよ」
店員は朗らかに応じてくれる。スタンプカードも作って、杏はテータに告げたキッチン雑貨の店で時間を潰した。
数十分後、今度はテータからスタンプが飛んできた。「これから向かいます」とのこと。可愛らしい猫のスタンプだ。哲夫が犬で、テータが猫……なんだか少し納得してしまう杏であった。
『待ってます』
杏はデフォルメされた少年のスタンプを送る。
(なんか新しいスタンプ買おうかな……)
などと考えていると、肩を叩かれた。振り返ると、申し訳なさそうな顔をした哲夫と、にこにこしたテータが立っている。
「待たせてごめん」
「大丈夫です。こういう所いるとあっという間なので」
「しかし神林さんが料理好きとは。でもお弁当持ってきてるもんな」
哲夫は意外そうに、でも納得したように頷いた。
「何買うの?」
「ゴムべらが古くなっちゃったから買おうかなぁって。あ、テータさん、これどうですか? ティーバッグじゃなくても、ここにお茶っ葉入れて、ティーバッグみたいに使える茶漉しみたいなんですけど」
「どれどれ。そういえばティーバッグしか使ったことありません。緑茶は茶葉から急須で入れるのが有名みたいですけど、紅茶もそうなんですね?」
「お茶はなんでもそうかな」
「興味があります」
テータは目を輝かせた。杏が見せた茶漉しを手に取り、
「茶葉は今度買うとして、私はこれを買ってみます」
「経費では難しいかもよ?」
哲夫がまた、経費で落とせないことを申し訳なく思っていそうな顔で言う。彼がテータに感じている恩は計り知れないのだろう。
「自分のお小遣いで買いますよ」
二人が会計を済ませると、哲夫は時計を見た。昼近くになっている。土曜日の商業施設は混み始めていた。
「昼食どうしよう。食べて帰る? 事務所で食べる?」
「せっかくだから食べて帰りませんか」
テータが提案した。
「さっきの、北畑さんとのやりとりについても、記憶が新しい内に話し合いたいですし」
「そうだな。神林さん、良い?」
「もちろんです。何が食べたいですか?」
「俺は何でも。浪越さんは?」
「私も何でも。神林さんが食べたいもので」
三人で譲り合って、くすくすと笑う。
結局、チェーンのイタリアンレストランに決まった。値段が手頃だったのと、たまたま三人がすぐに入れそうだったので即決した。
「北畑さん、神林さんには何の反応も見せなかったな」
哲夫は席についてすぐに出された水を煽ると思い出すように呟いた。
「それは私と神林さんも首を傾げていました」
テータが真顔で言う。
「彼女は『天啓』を受けていないと見た方が良いでしょうね」
「他の女の子たちを『助けてるだけ』って言ってるって話でしたけど、自分の行動を正当化するのに『助けてあげてるのに!』って開き直るのはよくありますしね……」
今までの人生の中で、杏もそういう手合いには覚えがある。ずいぶんと昔のケースもあるので「天啓」とは無関係だ。
「まあ、どの道そんなに男をとっかえひっかえしてるなら、その男どもの中に『天啓』を受けた奴がいるかもしれないからな。もし向こうからコンタクトがあったら、話を聞けるだけ聞き出してみようか」
「私のてっちゃんさんが取られてしまいます」
テータが嘘泣きを始めた。
「確かに綺麗な人ではあるけど、俺はそんな簡単になびいたりしないよ。こんな美人の彼女がいるのに」
「そういう人に限ってなびいちゃうんですよ。杏くん、私どうしよう~」
「なんかあったら連絡してね」
杏も段々このテンションの波長が合ってきたような気がする。
「おい、そこ、よりを戻そうとするな」
などと悪ふざけをしながら、それぞれ注文を決める。
「しかし、せっかく満岡さんが勇気を出して連絡してくれたのに残念でしたね」
メニューを畳みながら杏は言った。
「そうだな。あんな怪しい看板を出しているところに女性一人で来るなんて、相当勇気がいっただろうに」
「と言うところで私は疑問に思ったんですが、彼女、北畑さんが『天啓』持ちだと匂わせるために『救う』と言うワードを使ったように私は思えるんですよね」
テータが突然声を低くして話の方向性を変えた。
「え?」
「私たちは、『天啓』を受けた人たちが『救済』にこだわるとわかっているから、特に気になりませんでしたが、満岡さんの言動は少し気になる点が多いんです」
彼女は真顔で続けた。
「国成さん、私たち、厚労省の発表をライブ配信で見ていましたよね」
「ああ」
「『救済』を口走るなんて、発表にあったでしょうか?」
「いやー、そんなことはなかった……なかったな?」
「ないですね」
杏も頷いた。あくまでも「判断力の低下」と言うだけで、「救済」を口走るとは言わなかった。これは、「救済」と言うワードが多くの宗教で使われており、宗教活動家に対する迫害に繋がりかねないとして発表しない方針になったのだ。実際に、カルト宗教による霊感商法などの問題はあちこちで起こっているが、そういうものへの調査の妨げにもなる。
「だから、『天啓』を受けていることの根拠に『救済を主張している』と言い出すのはおかしいんですよ。なおかつ、満岡さんはあの発表の間歩いていた筈です。イヤホンで聞きながら来たのかもしれませんが、やはり『救済』を根拠にしてくるのは妙です」
「気付きませんでした」
「俺もだ……」
「私も、さっきまで思いつきませんでしたよ。でも、北畑さんが、神林さんの顔を見ても何も感じていなさそうだったので、それで引っかかりました。私たちは、聞いてもいない北畑さんの『救済』の主張だけを根拠に彼女が『天啓』を受けていると判断している。じゃあその情報は誰から……? と思ったら、満岡さんしかいないんです」
「でも、満岡さんは神林さんに……」
「あ、僕会ってないんです」
哲夫が言いかけたのを、杏は慌てて遮った。
「え?」
「会ってないんです。彼女が事務所に来たとき、僕は給湯室にいましたし」
「あっ」
「さっきも、満岡さんは電話するために席を離れていて、そこに僕が行ったんです。外に出たときも、彼女は吹き抜けを向いてて、僕たちには背を向けていましたから……」
「彼女は神林さんを見ていません」
「なんてこった」
哲夫は呻いた。
「近いうちに、彼女とアポイントを取ろう」
「はい」
その時、哲夫の端末に通知が来た。彼は意外そうな顔で端末を開くと、にやりと笑う。
「北畑さんからだ。情報提供したいから、今度会いませんかって。ご丁寧に『会いたい』のスタンプ付きだ」
「えー、私と言う物がありながら?」
「浪越さん、その役気に入ってない? 俺の彼女になっても良いことないよ」
「国成さんがお断りしたいならそう仰ってくださって構いませんよ」
テータは微笑んだまま言う。
「そうだな、ごめん」
「安心してください。私は国成さんを地球のパートナーとして信用していますが、変な気は持っていませんから」
「ありがとう」
「でもこの役はちょっと可愛い気がして気に入ってるので、また機会があったら彼女にしてください」
「言い方!」
「え、ていうか、メッセージ? メールじゃなくて?」
スタンプ、と言うワードから、杏は成美がメールではなくてメッセージで送ってきた事を悟った。杏も持っている多摩分室の名刺には、メールアドレスと電話番号しか書いていない筈だが……。
「結局、満岡さんもいなかったから、俺と北畑さん二人っきりになっただろ? あの時にメッセージアプリの連絡先も交換しませんか? って。メールだと敷居が高くて……って言われて交換した。解決したら説明してブロックする」
「ブロック」
「変に期待を持たれても困るからね」
哲夫は涼しい顔で言った。
『思い出したんですけど、前付き合っていた男の人で、「人を救いたい」って言ってる人がいたのを思い出して。そのことについてお話ししたいので、今度会えませんか?』
北畑成美は、わくわくした気持ちで国成哲夫にメッセージを送っていた。
文部科学省の公務員、ハンサムな顔立ち、マッチョと言うほどでもないけど、運動不足は感じさせない引き締まった身体。
そして何より、隣に座っていた、可愛らしいシスター然とした彼女。
あの彼女だって、「杏くん」とやらとなんかよりを戻すかもしれない雰囲気だったし、だったら、私が先に国成さんの次の彼女の座を予約したって良いよね?
浪越さんは杏くんに慰めて貰えば良いじゃない。
ね? 国成さん。
会いたいな。
『わかりました。やはり土日が良いでしょうか?』
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