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夜半の恋人のように
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上級研究員が他人の夢に入り込む魔法を作った。
すると、上から諜報部隊へ、敵対勢力の夢に入り込んで、記憶から情報を得てこいと言う命令が下った。当然の流れである。
と言うことで、その内の一人は何気ない風を装って、敵拠点の一つ、その近くに滞在。向こうが眠る頃に合わせて夢への侵入を試みた。
すると、どうだろう。敵の夢の中はどんよりと淀んでいた。敵にだって人生がある。四六時中作戦のことを考えているわけではないだろう。
どうやら、この彼は恋人に別れを告げられたらしい。と言うか、彼が不在の間に他のパートナーが出来てしまったようだ。よくある話だが、実際自分の身に降りかかると重たいものなのだろう。
膝を抱えて、彼女との思い出に浸り、「あり得ない」「何かの間違い」「元通りになっていやしないか」と言った願いがぐるぐると心象風景の中を巡っている。めそめそと泣いていた。
こんなのと「敵対」しているのか、何気なく近寄ってその顔を見て、驚いた。
(この喧嘩は俺が預かる! 双方武器を下ろせ!)
先日、非戦闘地域で敵の兵士と小競り合いになったが、その時仲裁に入った男ではないか。こちらが劣勢だったので、助けられる形になった。
その時、陽の光を浴びてこちらを見下ろしながら助け起こそうとする姿が眩しくて、随分と悔しい思いをしたものだ。それと同時に、胸が高鳴った感覚もなかったことにはできなくて。
ごくり、と喉が鳴った。相手はこちらに気付いているのかいないのか、膝を抱えてすすり上げている。
思わずその前にしゃがみ込む。そこで、相手はやっとこちらの存在に気付いた。
あの時はかなり雄々しい表情を、振る舞いをしていたように記憶しているが(美化しているのかもしれない)、今は酷く、幼く見えた。自分の拍動が強くなる。
「……誰?」
当たり前と言うか何と言うか、相手は自分の事を覚えていなかった。
「あなたに恩を感じている者です」
嘘ではない。あの時彼が助けに入ってくれなければもっと酷い目に遭っていただろうから、感謝の気持ちがなくもない。
ただ、悔しさと、憧れと、少しの劣情が自分の心を占めてもいる。
「悲しいことがあったんですね」
「フられちゃった。いつも男の話ばっかしてる、男と付き合いなさいよって言われちゃった」
随分と子供っぽい物言いをする。それほどまでに落ち込んでいるのか、これが彼の本音の部分なのか。これを隠すために男らしく振る舞っているんだろうか。男の話ばっかりと言うのは、隊の仲間のことだろう。そうやって破局するカップルは枚挙に暇がない。
「いつ?」
「先週」
と言うことは……健康な男であれば、一週間以上、愛する人との触れあいを断っていることになる。
彼に対する感情の内、劣情の割合が徐々に大きくなっていくのを自分は感じていた。要するに、あの時、あの場で一目惚れしていたわけだが、それには気付いていない。
「慰めてあげましょうか」
「え?」
「慰めてあげますよ。ほら、おいで。抱きしめてあげます」
両腕を広げると、彼はおずおずとその胸に入ってきた。優しく抱きしめると、こちらに胸に頬を付けて背中に腕を回す。
「可哀想に。こんなに小さくなっちゃって」
囁く。彼が涙に濡れた顔を上げた。その頬に残る涙の筋に唇を付けると、目を閉じて小さな息を漏らす。
「慰めてあげますよ」
どうせ夢の中だ。互いの肉体が傷つくこともない。向こうは淫夢と忘れるだろう。何しろ恋人だった人から「男と付き合えよ」と言われているのだから、それが見せた夢と判じることだろう。
唇への接吻も彼は拒まなかった。自分はそのまま、彼が嫌がらないのを良いことに、夜半の恋人の様に振る舞った。
すると、上から諜報部隊へ、敵対勢力の夢に入り込んで、記憶から情報を得てこいと言う命令が下った。当然の流れである。
と言うことで、その内の一人は何気ない風を装って、敵拠点の一つ、その近くに滞在。向こうが眠る頃に合わせて夢への侵入を試みた。
すると、どうだろう。敵の夢の中はどんよりと淀んでいた。敵にだって人生がある。四六時中作戦のことを考えているわけではないだろう。
どうやら、この彼は恋人に別れを告げられたらしい。と言うか、彼が不在の間に他のパートナーが出来てしまったようだ。よくある話だが、実際自分の身に降りかかると重たいものなのだろう。
膝を抱えて、彼女との思い出に浸り、「あり得ない」「何かの間違い」「元通りになっていやしないか」と言った願いがぐるぐると心象風景の中を巡っている。めそめそと泣いていた。
こんなのと「敵対」しているのか、何気なく近寄ってその顔を見て、驚いた。
(この喧嘩は俺が預かる! 双方武器を下ろせ!)
先日、非戦闘地域で敵の兵士と小競り合いになったが、その時仲裁に入った男ではないか。こちらが劣勢だったので、助けられる形になった。
その時、陽の光を浴びてこちらを見下ろしながら助け起こそうとする姿が眩しくて、随分と悔しい思いをしたものだ。それと同時に、胸が高鳴った感覚もなかったことにはできなくて。
ごくり、と喉が鳴った。相手はこちらに気付いているのかいないのか、膝を抱えてすすり上げている。
思わずその前にしゃがみ込む。そこで、相手はやっとこちらの存在に気付いた。
あの時はかなり雄々しい表情を、振る舞いをしていたように記憶しているが(美化しているのかもしれない)、今は酷く、幼く見えた。自分の拍動が強くなる。
「……誰?」
当たり前と言うか何と言うか、相手は自分の事を覚えていなかった。
「あなたに恩を感じている者です」
嘘ではない。あの時彼が助けに入ってくれなければもっと酷い目に遭っていただろうから、感謝の気持ちがなくもない。
ただ、悔しさと、憧れと、少しの劣情が自分の心を占めてもいる。
「悲しいことがあったんですね」
「フられちゃった。いつも男の話ばっかしてる、男と付き合いなさいよって言われちゃった」
随分と子供っぽい物言いをする。それほどまでに落ち込んでいるのか、これが彼の本音の部分なのか。これを隠すために男らしく振る舞っているんだろうか。男の話ばっかりと言うのは、隊の仲間のことだろう。そうやって破局するカップルは枚挙に暇がない。
「いつ?」
「先週」
と言うことは……健康な男であれば、一週間以上、愛する人との触れあいを断っていることになる。
彼に対する感情の内、劣情の割合が徐々に大きくなっていくのを自分は感じていた。要するに、あの時、あの場で一目惚れしていたわけだが、それには気付いていない。
「慰めてあげましょうか」
「え?」
「慰めてあげますよ。ほら、おいで。抱きしめてあげます」
両腕を広げると、彼はおずおずとその胸に入ってきた。優しく抱きしめると、こちらに胸に頬を付けて背中に腕を回す。
「可哀想に。こんなに小さくなっちゃって」
囁く。彼が涙に濡れた顔を上げた。その頬に残る涙の筋に唇を付けると、目を閉じて小さな息を漏らす。
「慰めてあげますよ」
どうせ夢の中だ。互いの肉体が傷つくこともない。向こうは淫夢と忘れるだろう。何しろ恋人だった人から「男と付き合えよ」と言われているのだから、それが見せた夢と判じることだろう。
唇への接吻も彼は拒まなかった。自分はそのまま、彼が嫌がらないのを良いことに、夜半の恋人の様に振る舞った。
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