誕生石の小物

三枝七星(KM)

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アクアマリンのペンデュラム

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 そのペンデュラムは、水辺、特に海で効果を発揮するのだとその人は語った。
 控えめな銀色に輝く鎖の先には、海の色をそのまま固めたようなアクアマリンがぶら下がっており、光に当たると、まるで水を通したかのように光が揺らめく。

 これは何に使う物かと言うと、当然ダウジングであるのだが、探せる物が限定されている。海洋神が残したと言われている数々の武具だ。
 その人はそう言った神遺物を捜索する仕事に就いていたらしい。
「王室付きのトレジャーハンターってところさ」
 彼は肩を竦めた。

 伝承や漁師、船乗りの証言で、めぼしい場所があればどんなに危険な場所であっても船を出す。その海域をゆっくりと周りながら、ペンデュラムでダウジングを行うのだそうだ。
 しかし、揺れる船の上では、振り子の動きなどわからないのではないか?
「そういうことはなかったね。やっぱり、違うんだ。なんだろうな、持っている私にはそれが解った」
 何か、海の底から立ち上る、魔力のような物。それに捕らわれるような、引っ張られるような感覚があるのだそうだ。そうすると、ほんのりとアクアマリンが光を放つ。
「見つけたら、後は潜水士の仕事さ。ただ、そういう海域には魔物が潜んでいることもあってね。護衛の冒険者と一緒に潜るんだよ。それでも命を落とすことがある。三回か四回失敗して……もうやめようと上に掛け合おうとしたその探索の日、ついにサルベージに成功してね」

 刀身がうっすら青みがかった結晶で作られた一振りの剣。海中にあっても、装飾の金属は錆びていない。これが、海洋神が遺したと言う剣なのだろう。三叉の槍を持っているイメージがある神だが、どうやら気まぐれだが手慰みだかで作ったようだ。柄の先には何か装飾品がはまっていたようで、穴が空いているが、そのままでも、王室御用達の職人に変わりの物を埋めさせても良いだろう。同情してきた王室の職員たちは改めて検分した。

 一点の曇りもない、透き通ったアクアマリン。
 甲板に引き上げられたそれを見て、誰もがその美しさに目を奪われた。
 すると、彼が持っていたペンデュラムに異変が起きる。
 キィン……と金属同士を打ち鳴らすような音を放ったのだ。それと同時に、剣からも同じような音が鳴る。
 何が起こっているかわからなかったが、彼が警戒したのは、共振とか共鳴と呼ばれる現象によるペンデュラムと剣の破裂だった。神遺物と、それを探す手がかりになるものをいっぺんに失うのは避けたい。

 だが、その後に起きたことは彼らの想像を裏切った。鎖の先から、アクアマリンがぽろりととれてしまった。
「あっ」
 転がって、海にでも落ちたら大変だ。しかし、それは甲板には落ちなかった。ふわりと浮いて、尖った方を先にして動く。剣の柄、何かがはまっていたであろう穴に、すっぽりと収まってしまったのである。
「こいつの部品だったのか」
 一同は唖然として、完成された剣を見る。他は大いに沸き立ったが、彼は、これから自分はどうやって神遺物を探せば良いのかわからなくなって途方に暮れたのだった。

「それで、どうしたんですか」
 聞き手が尋ねると、銀の眼鏡チェーンをした元ダウザーはいたずらっぽく笑い、
「曰く付きの宝石なんてものは王家の宝物庫には腐るほどあったからね。その内の一つから、めぼしい伝承のあるものを選んで、作り直したよ。まあ、やっぱり前の様には行かなかったが、それでもそれなりに、ね」
 眼鏡を外す。
「このチェーンはその時ペンデュラムに使っていたものだ。辞めるときに宝石も下賜されたが、妻が病に伏したときに売ってしまってね」
 顔の前に眼鏡を持ち上げた。少しだけ青みがかったレンズを通して、こちらを見る。

「けれど、あのアクアマリンのペンデュラムでした仕事は一生忘れない。あの透き通った青さに私はずっと取り憑かれているんだ。と言うことで色々と似たような色味の透明な物を探してはいるんだけど、なかなかね」
 懐かしそうに、愛おしそうに、遠くを見て彼は笑った。


 数年後、彼は亡くなった。遺品の中には、青みがかった透明の装飾品が多く遺されており、葬儀の参列者も彼へのお供えとしてそういうものを多く持ち寄った。

 けれど、あのアクアマリンはないのだろう。
 今は王家の宝物庫と、彼の魂に残った記憶の中に。
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