誕生石の小物

三枝七星

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石榴石の帯留め

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 石榴は子宝の象徴と言われている。
 そうであるから、名家に嫁いだ女性に対して石榴を象った装飾品が贈られるのはそう珍しいことではなかった。
 この日、この家に嫁いだ女性の為に、現当主が(つまり花嫁の夫の父である)注文していた石榴の帯留めが納品された。
 石榴の装飾品の例に漏れず、裂けた石榴の中から中の粒が覗く造形の物だ。その粒は、石榴石が表現している、というところも含めて。元より、石榴石は海の向こうでも種子を意味する石だ。
「この帯留めを作った職人はただの職人ではなくてね」
 当主は自慢げに言った。

 それを作った職人は、上流階級の中では名の知れた職人であった。
 と言うのも、この職人は、石に秘められた力を引き出すと言われている。石榴石を使って、子宝に恵まれるよう、願掛けの装飾品を依頼されることはきっと多かったことだろう。
 
 例えば、魔除けに水晶の護符を作らせたとする。そうすると、水を固めたようなその石の力にちなんでか、穢れを祓う力を得ると言う。空気の悪いところに行っても、その護符を持った者だけが難を逃れるとか。

 それはさておき、花嫁は大人しくその帯留めを受け取り、可能な限り身に付けていた。子宝……と言うほどではないものの、一男一女をもうけ、ひとまず離縁は免れた。
 それからも、彼女は当主からもらった帯留めを度々付けていた。嫁としての役目を果たせ、と言うことをはっきりと突きつけられたものではあったが、それは別として、やはり名のある職人の作であり、造形も石の質も良い。それに、何故だろう。持っていると、不思議と守られている……ような気がする。この帯留めを付けた日に限って、危ない目に遭っても避けられているような……。
 単純に、愛着がわいただけなのだろうか。それで、良いように考えているだけなのだろうか。

 しかし、その理由を数十年後に知ることになる。息子の妻になる女性の為に、今度は彼女が留針を職人に注文することになった。代替わりしており、彼の息子が継いでいた。同じように、石から力を引き出すと言われている。
 息子の妻になる女性に贈る物に、石榴を象って良い物か、彼女は悩んでいた。時代も変わった。だから、なかなか何を象るかを伝えられなかった。
「そういえば、私も義父から先代が作った帯留めを頂いたんです。良い物でした。なんだか、守られているような気がして」 
 話し合いの中でそう告げると、相手はにっこりと笑った。
「おや、ご存じありませんでしたか。石榴石は金剛砂とも呼ばれている石です。とても強固なのですよ」
 彼女は目を瞬かせた。
「父は使う人のことを考えるようにと。子宝に恵まれなくても良い……と思わなかった訳ではないですが、その後の人生も守られるようにと。あなたのことも考えたのでしょうね」
 しばらく沈黙が続く。
「では、どうしましょうね。あなたが、息子さん夫婦に、娘になる人に願うことはなんですか?」

 彼女は石榴石のほおずきを選んだ。
 どうか、素敵な家族が守られますように、と。
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