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本編

第4話 スパイの目をそらして ※性描写あり

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 やはり、先日の廃屋だった。彼女は折りたたみ傘を取り出す。こんな物が武器になるか、と思いつつ、ないよりマシだった。

 そろり、と開け放たれた入り口から入り込むと、話し声が聞こえた。ただし一人分だ。どうやら、電話で話しているらしい。

「はい……水道は問題なく出ているようです。施錠については……」

 どうやら、中央ホテルの間取りや設備についてどこかに報告しているらしい。

 一体誰に?

 しかし、人造人間をスパイとして送り込めるのは、メーカーではないか? これは、メーカーによる人造人間回収のための……?

 と、楽観的に考えようとした綾音だったが、次の一言でそんな幻想は打ち砕かれた。

「まだメーカーはそれほど具体的に動いていないようです。皆さんが管理に着手する方が早いと思います」

 管理。

 ここを牛耳ろうとしている「怪物」の側だったか!

 電話が終わって、彼がここを出ようとしたら見つかってしまう。早く出なくては。幸いにも、電話はまだ続いている。綾音はそっと出ようとして、振り返った。しかし……誰かが立っている。頭を殴られた様なショックだった。先日の恐怖がまざまざと蘇り、身体が震えた。恐る恐る顔を上げると……。

(しーっ!)

 口の前に人差し指を当てたシンスが立っていた。髪がまだ少し濡れている。さっきまで、求めに応じていて、シャワーを浴びたばかりだったのだろう。その生々しさに、綾音は狼狽えた。

「……おや? いや失礼、誰かが」

 スパイの人造人間が気付いた様だ。

(俺とここでセックスしてるフリして)

 シンスは綾音に囁くと、彼女を抱き上げた。

「あっ!」
「ん……待ちきれない?」

 驚いて思わず声を上げると、シンスは甘ったるい声で囁く。ぞくぞくした。今度は、相手の方が隠れなくてはならない番だった。

「もう、意地悪しないで……」
「意地悪じゃないよ……早くあんたのこと、いっぱいにしてあげたいって思ってるから……」

 とろけそうなほどの声を注ぎ込まれて、綾音は演技でもなく喘いだ。シンスは彼女を抱いたまま、スパイがいる手前の部屋に入り、マットレスの上に彼女を横たえる。

「本当にこんなところで良いの?」
「ここが良いの……っ! あなたと出会ったところだから……」

 抱きすくめられて、綾音は身を捩る。

(どれくらい触って平気?)

 シンスはひそひそと綾音の意思を確認した。その丁寧さに涙が出そうだった。意思を尊重される嬉しさと、ずっと抱えている欲望のじれったさで。

(全部)
(え?)
(して……私、シンスが欲しい……)

 状況と、実際に手の届くところにある欲望が噛み合ってしまった。シンスは綾音の頬に口づける。ちゅ、ちゅ、とその唇が降りてくる。

「もう……そういうの、良いから……っ」

 綾音はシンスの顔を両手で挟んだ。暗がりに映るクリームイエローの瞳。
 彼女はシンスの唇を奪った。

「早く……して?」

 綾音が驚いたのは、シンスがローションとコンドームをブルゾンのポケットに入れていたことだった。後で聞いた話だが、実際に、ホテル以外のところで行為を求められることはあるらしく、人造人間たちはこういった物を常に持ち歩いているらしい。

「一応、俺たちも人間と似たような構造ではあるから感染症にはかかる」

 と言う事で、不特定多数を相手にすることから感染防御としてコンドームは標準装備なのだそうだ。


 細いながらも男を感じさせる指が、綾音の欲の花を綻ばせていく。最初は指先が蕾を撫で回し、やがて咲きかかった頃合いで関節まで進めていく。その頃には、スパイの人造人間は逃げ出していたが、綾音はそんなことはすっかり頭から抜け落ちていた。

 女の花を形作る、開かない蕾を親指で愛撫されて、綾音はすっかり悦んでしまった。人間の彼氏の前なら憚られてしまうような痴態も、きっと笑われないと思えば晒してしまえる。

「気持ち良いか?」

 シンスは優しく尋ねた。

「気持ち良い……っ! ねっ……もう、シンスをちょうだい……っ」
「もうちょっと、もうちょっとね。あんたが痛がることはできないから……」
「ああっ!」

 花びらはすっかり落ちた。中の作りを探られて、悶える。満たされつつあり、けれどまだ実を結ばない欲望がもどかしくて、自分からシンスの指に内側をこすりつけるように腰を動かしてしまう。その間も、シンスは時折、綾音の頬や唇にキスを落とす。

 やがて、シンスは指を抜いた。汚すといけないと言う理由で、スカートと下着だけ先に脱がされていた状態だったが、その判断は正しかった。蜜がしとどにあふれ、内股まで濡れている。

「どういう風に、して欲しい?」
「このまま……」

 綾音は喘ぎながら、シンスを見上げる。

「このまま、きて」
「わかったよ」

 綾音の蜜とローションで濡れた指が、太ももを優しく押さえる。いつの間にかそそり立っていた男のものが、花柱の中を奥まで目指すように差し入れられた。

「ああ……っ!」

 待ちきれなくなって、綾音は自分から腰を突き出してシンスを受け入れた。両腕を広げると、彼はその中に潜り込み、彼女を抱きしめる。

 痛くされる心配がなくて、笑われる不安もなくて、求めをはね除けられる怖さもない。

「きもちいい?」

 どこかシンスの声や表情もとろけている。まるで、綾音が気持ち良ければ気持ち良いほど、彼にも快感が返ってくるかのように。

「あっ、すごい、すごくいい…きもちいい……もっと……」
「ん……いいよ……」
「ああん……」

 あの晩の夢の様に。綾音はシンスに与えられる快感に溺れた。欲望が実を結び、弾ける。彼女は背中を反らして甘い悲鳴を響かせた。
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