3 / 11
本編
第3話 友人の手がかり
しおりを挟む
結局、フランという人造人間には会えずじまいだった。綾音の終電が出てしまう。
「昼に来ても良いから。ワンナイトって言ってもいつでも来る奴は来るしな」
と言うシンスの言葉に見送られて、彼女は広場を後にする。
帰宅してから、綾音は人造人間の製造企業のウェブサイトを開いた。お問い合わせフォームをクリックし、「ワンナイト広場」にいる人造人間たちを早急に回収してほしいと頼んだ。人捜しをして尋ねたところ、大変に親切にしてもらった。どうやら不埒な輩もいるらしい、と言うことも書き添え送信する。人造人間を製造している、と公言している企業は数社あるため、同じ文章ではあったが、全ての会社のお問い合わせフォームから送信した。
寝支度を調えてベッドに入る。シンスの、あのクリームイエローの瞳に見つめられた時のときめきにも似た興奮は心のどこかに引っかかり続けた。
だから、なのだろうか。夢の中で綾音はシンスに抱かれていた。足を開いて彼を受け入れ、自分の首筋に顔を埋める彼の背をかき抱き、腰を振って喘ぐ。
「シンス……っ! もっと……!」
「良いよ……綾音のして欲しいこと、全部してあげる……」
甘く囁かれて嬉しくなってしまう。激しくなる律動に、綾音は甘い声を上げて溺れた。酷いことをされるかもしれない、意に沿わないことを強制されるかもしれない、と言う不安とは無縁で快楽に浸れる。
だって、人造人間は人が嫌がることをしないから……。
と言う夢を見てから数日後の休日、綾音は再び、ワンナイト広場を訪れていた。昼に来ても良い、と言うシンスの助言に従って、午前中から家を出ている。
「あの、すみません。ビオさん、でしたよね」
「あ、この前の。シンスに会いに来たの? シンス、ちょうど今部屋入ってるんだよね」
部屋に入っている。それは、この前のやりとりから察するに、求めてきた女性と性行為の真っ最中と言う事で……。
心臓がきゅっとなるような感覚に見舞われる。
(どうして……そりゃ確かにそう言う夢は見た……けど、この前初めて会って、助けてもらって、有紗のこと聞いただけなんだし……)
「えーっと……フランさんから友達のこと聞きたくて……」
そう、だから、シンスに会う必要はないのだ。
「フラン、ちょっと待ってて。フランー、話したいって人がいるんだけどー」
ビオがそう言いながら中心ホテルの中に入っていく。後を追って覗き込むと、どうやら待機しているらしい人造人間たちがロビーで所在なさげにしていた。どうやら、ここで相手を見繕って部屋に入る、と言うシステムらしい。しかし男性の人造人間が多い。女性型は少ないようだ。
「こんにちは。私がフランですが……お話とは?」
やがて、ビオに連れられて、真紅の髪をした青年がやってきた。目の色は、シンスとは雰囲気の異なる鮮烈な黄色。元気でやんちゃそうな見た目だが、その印象を裏切るような丁寧な態度だった。
「久山綾音と言います。実は……」
また事情を説明して、有紗の写真を見せる。彼は有紗を覚えていた。
「ええ、お目に掛かりました。詳しいことは、その、個人情報というか、個人の尊厳に関わるので申し上げられませんが……」
「え、ええ……それはもちろん……」
友達のセックスライフなんて知りたくもなかった。知るべきでもないだろう。
「ただ、それ以来連絡が取れなくて……何か、手がかりになることを言ってませんでしたか?」
「だいぶお疲れの様でして、すぐにお休みになりましたから……ただ、そうですね……」
彼は何かを思い出すように宙を睨む。
「『フランのおかげで、こんな人生馬鹿馬鹿しいって気づけたよ』と」
なんだか不穏な言葉だ……ブラック労働の馬鹿らしさに気づけた、と言うことならそれは良いことなのだが、それから綾音に連絡もしてこないとは……ワンナイト広場に難色を示した手前報告しづらかったのかもしれないが。
「ただ、その後具体的にどうされるかまでは仰いませんでした」
「そう、ですか……あの、もし彼女がまた来たら、久山綾音が心配していたと伝えてもらえませんか?」
「お約束はできかねますが、もしチャンスがあれば」
「ボクも気をつけて見ておきますね」
フランとビオは快く頷いてくれた。
部屋から二人組が出てきた。見たことのない男性型人造人間と、恐らく彼を求めた女性。女性の方はどこか晴れやかな表情だ。きっと、あの部屋の中で……満足したのだろう。そう考えた瞬間、下腹部に疼きを感じて、ちらりとビオを見た。ビオは視線に気付いてこちらを見た。慌てて目を逸らす。でも、夢の中でシンスに抱かれた時の、安心して快楽に溺れた開放感が脳裏に蘇った。
したい。ここの誰かと。
そんな欲望がこみ上げてくる。
けれど、綾音の中には社会的な抵抗がまだ残っていた。シンスがここにいたら、もしかしたら誘ってしまっていたかもしれないのは否定しないが、やはり、ワンナイトというもの自体にまだ抵抗がある。
「とにかく、有紗のことはよろしくお願いします」
そう言って頭を下げて、彼女はホテルを出て行った。
(あれ?)
綾音は、先ほどの女性を見送った人造人間が、そのままホテルの中ではなく、人のいない方へ歩いて行くのを見た。その方角には、先日綾音が連れ込まれた廃屋がある筈だ。あの時の恐怖と不快感がまざまざと思い起こされる。
「ねえ、ビオさん」
彼女はホテルの中に戻って、ビオの腕を引っ張った。
「どうしたの。ご指名?」
「そうじゃなくて……あの彼なんだけど、見回りなのかな?」
「え?」
ビオは目を瞬かせて、その後ろ姿を見た。
「ああ、彼。ボクと同じメーカーなんだよね。いや、あの人、新入りだから、まだ見回りやらせてないんだけどー」
「え……?」
「ちょっとフランにも聞いてくる」
ビオは踵を返す。
(管理したい人間たちはなんか知らないけど来た人間をああいう所に連れていって無理矢理しようとすんだよな。俺たちが気付いたから良かったけど。それから手の空いてる奴が見回りしてつまみ出してる)
先日の、シンスの言葉が脳裏に蘇った。
(管理してやるって言うからお断りしたから仕返しか?)
……もしかして……人造人間のフリをした人間なのか?
しかし、何らかの方法で人造人間かどうかの区別は付くのだろう。少なくとも人造人間同士はわかるはずで、それについてビオが言及しなかったと言うことは、あの彼は人造人間で間違いないはずだ。
でも何かがおかしい。
綾音は後を追った。
「昼に来ても良いから。ワンナイトって言ってもいつでも来る奴は来るしな」
と言うシンスの言葉に見送られて、彼女は広場を後にする。
帰宅してから、綾音は人造人間の製造企業のウェブサイトを開いた。お問い合わせフォームをクリックし、「ワンナイト広場」にいる人造人間たちを早急に回収してほしいと頼んだ。人捜しをして尋ねたところ、大変に親切にしてもらった。どうやら不埒な輩もいるらしい、と言うことも書き添え送信する。人造人間を製造している、と公言している企業は数社あるため、同じ文章ではあったが、全ての会社のお問い合わせフォームから送信した。
寝支度を調えてベッドに入る。シンスの、あのクリームイエローの瞳に見つめられた時のときめきにも似た興奮は心のどこかに引っかかり続けた。
だから、なのだろうか。夢の中で綾音はシンスに抱かれていた。足を開いて彼を受け入れ、自分の首筋に顔を埋める彼の背をかき抱き、腰を振って喘ぐ。
「シンス……っ! もっと……!」
「良いよ……綾音のして欲しいこと、全部してあげる……」
甘く囁かれて嬉しくなってしまう。激しくなる律動に、綾音は甘い声を上げて溺れた。酷いことをされるかもしれない、意に沿わないことを強制されるかもしれない、と言う不安とは無縁で快楽に浸れる。
だって、人造人間は人が嫌がることをしないから……。
と言う夢を見てから数日後の休日、綾音は再び、ワンナイト広場を訪れていた。昼に来ても良い、と言うシンスの助言に従って、午前中から家を出ている。
「あの、すみません。ビオさん、でしたよね」
「あ、この前の。シンスに会いに来たの? シンス、ちょうど今部屋入ってるんだよね」
部屋に入っている。それは、この前のやりとりから察するに、求めてきた女性と性行為の真っ最中と言う事で……。
心臓がきゅっとなるような感覚に見舞われる。
(どうして……そりゃ確かにそう言う夢は見た……けど、この前初めて会って、助けてもらって、有紗のこと聞いただけなんだし……)
「えーっと……フランさんから友達のこと聞きたくて……」
そう、だから、シンスに会う必要はないのだ。
「フラン、ちょっと待ってて。フランー、話したいって人がいるんだけどー」
ビオがそう言いながら中心ホテルの中に入っていく。後を追って覗き込むと、どうやら待機しているらしい人造人間たちがロビーで所在なさげにしていた。どうやら、ここで相手を見繕って部屋に入る、と言うシステムらしい。しかし男性の人造人間が多い。女性型は少ないようだ。
「こんにちは。私がフランですが……お話とは?」
やがて、ビオに連れられて、真紅の髪をした青年がやってきた。目の色は、シンスとは雰囲気の異なる鮮烈な黄色。元気でやんちゃそうな見た目だが、その印象を裏切るような丁寧な態度だった。
「久山綾音と言います。実は……」
また事情を説明して、有紗の写真を見せる。彼は有紗を覚えていた。
「ええ、お目に掛かりました。詳しいことは、その、個人情報というか、個人の尊厳に関わるので申し上げられませんが……」
「え、ええ……それはもちろん……」
友達のセックスライフなんて知りたくもなかった。知るべきでもないだろう。
「ただ、それ以来連絡が取れなくて……何か、手がかりになることを言ってませんでしたか?」
「だいぶお疲れの様でして、すぐにお休みになりましたから……ただ、そうですね……」
彼は何かを思い出すように宙を睨む。
「『フランのおかげで、こんな人生馬鹿馬鹿しいって気づけたよ』と」
なんだか不穏な言葉だ……ブラック労働の馬鹿らしさに気づけた、と言うことならそれは良いことなのだが、それから綾音に連絡もしてこないとは……ワンナイト広場に難色を示した手前報告しづらかったのかもしれないが。
「ただ、その後具体的にどうされるかまでは仰いませんでした」
「そう、ですか……あの、もし彼女がまた来たら、久山綾音が心配していたと伝えてもらえませんか?」
「お約束はできかねますが、もしチャンスがあれば」
「ボクも気をつけて見ておきますね」
フランとビオは快く頷いてくれた。
部屋から二人組が出てきた。見たことのない男性型人造人間と、恐らく彼を求めた女性。女性の方はどこか晴れやかな表情だ。きっと、あの部屋の中で……満足したのだろう。そう考えた瞬間、下腹部に疼きを感じて、ちらりとビオを見た。ビオは視線に気付いてこちらを見た。慌てて目を逸らす。でも、夢の中でシンスに抱かれた時の、安心して快楽に溺れた開放感が脳裏に蘇った。
したい。ここの誰かと。
そんな欲望がこみ上げてくる。
けれど、綾音の中には社会的な抵抗がまだ残っていた。シンスがここにいたら、もしかしたら誘ってしまっていたかもしれないのは否定しないが、やはり、ワンナイトというもの自体にまだ抵抗がある。
「とにかく、有紗のことはよろしくお願いします」
そう言って頭を下げて、彼女はホテルを出て行った。
(あれ?)
綾音は、先ほどの女性を見送った人造人間が、そのままホテルの中ではなく、人のいない方へ歩いて行くのを見た。その方角には、先日綾音が連れ込まれた廃屋がある筈だ。あの時の恐怖と不快感がまざまざと思い起こされる。
「ねえ、ビオさん」
彼女はホテルの中に戻って、ビオの腕を引っ張った。
「どうしたの。ご指名?」
「そうじゃなくて……あの彼なんだけど、見回りなのかな?」
「え?」
ビオは目を瞬かせて、その後ろ姿を見た。
「ああ、彼。ボクと同じメーカーなんだよね。いや、あの人、新入りだから、まだ見回りやらせてないんだけどー」
「え……?」
「ちょっとフランにも聞いてくる」
ビオは踵を返す。
(管理したい人間たちはなんか知らないけど来た人間をああいう所に連れていって無理矢理しようとすんだよな。俺たちが気付いたから良かったけど。それから手の空いてる奴が見回りしてつまみ出してる)
先日の、シンスの言葉が脳裏に蘇った。
(管理してやるって言うからお断りしたから仕返しか?)
……もしかして……人造人間のフリをした人間なのか?
しかし、何らかの方法で人造人間かどうかの区別は付くのだろう。少なくとも人造人間同士はわかるはずで、それについてビオが言及しなかったと言うことは、あの彼は人造人間で間違いないはずだ。
でも何かがおかしい。
綾音は後を追った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生
花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。
女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感!
イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡
【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました
utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。
がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
【R-18】金曜日は、 貴女を私の淫らな ペットにします
indi子/金色魚々子
恋愛
【昼】上司と部下→【金曜の夜】ご主人様×ペット の調教ラブ
木下はる、25歳。
男運ゼロ
仕事運ゼロ
そして金運ゼロの三重苦
彼氏に貢ぎ続け貯金もすっかりなくなったはるは、生活が立ちいかなくなり……つてを頼って、会社に内緒でガールズバーでアルバイトを始める。
しかし、それが上司である副島課長にばれてしまって……! 口止め?それはもちろん……
ご主人様こと副島課長による甘々調教ライフ、はじまります。
---
表紙画像:シルエットAC
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
艶色は密事を彩って【短編集】
枳 雨那
恋愛
ティーンズラブ短編集です。R18作品のため、18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
【収録作品】
『ほっと・ちょこれいと逃避行』(没落華族令嬢×執事)
『白き妖狐は甘い夢を見るか』(白狐×陰陽師)
『お巡りさんとローレライの魔女』(魔女×警察官)
『アイスキャンディーの罠』(幼馴染み&いとこ)
*表紙イラストはまっする(仮)様よりお借りしております。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる