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第2話 来ないで!
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「なんだか、甘い香りがするなー」
僕は布団の中に蹲って身を隠していた。
こんな姿見られたくない。ましてや、どんな反応をされることか。
来ないで、来ないで、来ないで……。
その一寸先では遥華が、
「翔は何処にいるのかなー? ここか!? そこか!?」
なんて口走りながら、上機嫌をこぼして僕の部屋を物色していた。
この調子で言うと、彼女は不自然に盛り上がっている布団の存在など、初めから知っているのだろう。
いかにもわざとらしい、彼女なりの戯れなのだ。
「そうやって人の部屋を無断で漁るのは、良くないんじゃ?」
「……は?」
舞の言葉に突っかかった遥華が重圧を含んだ返事をする。
怖い怖い怖いっ……。こんなところでも喧嘩をしないでっ!
遥華にはどんなに心無い言葉を受けても、笑顔でその容態にそぐわない返事をする癖があった。故に視界の裏で今どうなっているのか、容易に想像できる。
「こんなとこで喧嘩はよしましょう」
「喧嘩を売ってきたのには言われたくないけど、ね」
…………。
気まずい空気が流れる。
「翔、そこにいるんでしょ? 始めから分かってたよ」
「(ひいッ!?)」
ベットの上に誰かが飛び乗ったかと思えば、布団に強い力が掛かる。
こちらも布団がめくられぬよう負けじと抵抗する。
「(ふぎぃぃっ!!)」
「なんで出てこようとしないの? もしかして仮病? 舞じゃあるまいしー」
「……私は一度も仮病で休んだ覚えはありませんが」
半ば憤った声で舞が言う。
「翔、早く起きてよー。無視ってなんか寂しいじゃん」
「(ふんぎぃぃぃぃっ!!)」
歯を強く食いしばる。
遥華の力ってこんなに強かったのか?というより、僕の力の方が弱くなっているようだった。いつもに比べて力が入らない。これも女になった影響なのか。
五分五分の実力と言うより、完全にこちらが押されている気がした。
「む。それなら、こちらも本気で対応させてもらおうか。それオーエス!」
「(本気!? 今までのが本気じゃなかったってこと!? )」
オーエス、オーエス。
う、腕が引きちぎれそう。
今までとは力の掛け方がまるで違う。
まさに全身全霊、全体重を掛けての引きということか。
「(まずい、このままじゃ……)」
ビリッ。
「ああっ!!!」
ついには僕と彼女が掴んでいた布団が限界を迎えたらしかった。
布が千切れる音に加えて全力を掛けていた遥華は、フッと掛けられていた力が抜けたのに対応できず、真後ろにいた舞の上に被さる形で尻餅をついた。
千切れた布団から、白い羽毛が舞う。
盛大に倒れた二人が見つめる先、千切れたせいで面積が少なくなった布団から垣間見えてしまった。
窓から注ぐ白色の光が僕を照らし出す。
そしてしばらく無言で見つめ合った。
二人の瞳には僕の姿がはっきりと映し出されていた。
まるで二人は僕と初めて出会ったかのような顔つきをしていた。
そして普段はまずありえないのだが、二人は続いて顔を見合わせたのだった。
…………。
「「か、可愛い……」」
沈黙を破り、口を揃えて二人は言い放った。
普段の二人からしてみれば、天文学的な確率ほどにありえない状況。
時計は遅刻既定の、七時半を回っていた。
…………え?
「ま、まさか翔!? その姿どうしちゃったの!?」
遥華そっちのけで、舞はすかさず立ち上がり僕の目前に掛け寄った。
むぎゅうと僕のほっぺたを押し込みながら言う。
彼女の姿きめ細やかな白い肌と透き通った瞳がよく見える。
こんな至近距離でまじまじと見られるのは恥ずかしい。
気押されてコクリとだけ頷いた。
「嘘……翔、まさか女装癖があったなんて」
続いて歩み寄ってきた遥華は少し引き気味だった。
「いや、そうじゃなくて朝起きたらこうなってたんだ」と説明すると、彼女は
「じゃあ、これは……」
「うひゃぁ!?」
いきなり胸を触ってきたのだった。
柔らかな胸元に比べて少しだけ硬い指先が沈む。
自分でもちょっと驚いて出したつもりの声さえも甲高い。
なぜかよく分からないけど、この頃には女性としての恥辱が目覚めていたのだった。咄嗟に傍らにあった枕を抱きかかえてガードした。
僕は布団の中に蹲って身を隠していた。
こんな姿見られたくない。ましてや、どんな反応をされることか。
来ないで、来ないで、来ないで……。
その一寸先では遥華が、
「翔は何処にいるのかなー? ここか!? そこか!?」
なんて口走りながら、上機嫌をこぼして僕の部屋を物色していた。
この調子で言うと、彼女は不自然に盛り上がっている布団の存在など、初めから知っているのだろう。
いかにもわざとらしい、彼女なりの戯れなのだ。
「そうやって人の部屋を無断で漁るのは、良くないんじゃ?」
「……は?」
舞の言葉に突っかかった遥華が重圧を含んだ返事をする。
怖い怖い怖いっ……。こんなところでも喧嘩をしないでっ!
遥華にはどんなに心無い言葉を受けても、笑顔でその容態にそぐわない返事をする癖があった。故に視界の裏で今どうなっているのか、容易に想像できる。
「こんなとこで喧嘩はよしましょう」
「喧嘩を売ってきたのには言われたくないけど、ね」
…………。
気まずい空気が流れる。
「翔、そこにいるんでしょ? 始めから分かってたよ」
「(ひいッ!?)」
ベットの上に誰かが飛び乗ったかと思えば、布団に強い力が掛かる。
こちらも布団がめくられぬよう負けじと抵抗する。
「(ふぎぃぃっ!!)」
「なんで出てこようとしないの? もしかして仮病? 舞じゃあるまいしー」
「……私は一度も仮病で休んだ覚えはありませんが」
半ば憤った声で舞が言う。
「翔、早く起きてよー。無視ってなんか寂しいじゃん」
「(ふんぎぃぃぃぃっ!!)」
歯を強く食いしばる。
遥華の力ってこんなに強かったのか?というより、僕の力の方が弱くなっているようだった。いつもに比べて力が入らない。これも女になった影響なのか。
五分五分の実力と言うより、完全にこちらが押されている気がした。
「む。それなら、こちらも本気で対応させてもらおうか。それオーエス!」
「(本気!? 今までのが本気じゃなかったってこと!? )」
オーエス、オーエス。
う、腕が引きちぎれそう。
今までとは力の掛け方がまるで違う。
まさに全身全霊、全体重を掛けての引きということか。
「(まずい、このままじゃ……)」
ビリッ。
「ああっ!!!」
ついには僕と彼女が掴んでいた布団が限界を迎えたらしかった。
布が千切れる音に加えて全力を掛けていた遥華は、フッと掛けられていた力が抜けたのに対応できず、真後ろにいた舞の上に被さる形で尻餅をついた。
千切れた布団から、白い羽毛が舞う。
盛大に倒れた二人が見つめる先、千切れたせいで面積が少なくなった布団から垣間見えてしまった。
窓から注ぐ白色の光が僕を照らし出す。
そしてしばらく無言で見つめ合った。
二人の瞳には僕の姿がはっきりと映し出されていた。
まるで二人は僕と初めて出会ったかのような顔つきをしていた。
そして普段はまずありえないのだが、二人は続いて顔を見合わせたのだった。
…………。
「「か、可愛い……」」
沈黙を破り、口を揃えて二人は言い放った。
普段の二人からしてみれば、天文学的な確率ほどにありえない状況。
時計は遅刻既定の、七時半を回っていた。
…………え?
「ま、まさか翔!? その姿どうしちゃったの!?」
遥華そっちのけで、舞はすかさず立ち上がり僕の目前に掛け寄った。
むぎゅうと僕のほっぺたを押し込みながら言う。
彼女の姿きめ細やかな白い肌と透き通った瞳がよく見える。
こんな至近距離でまじまじと見られるのは恥ずかしい。
気押されてコクリとだけ頷いた。
「嘘……翔、まさか女装癖があったなんて」
続いて歩み寄ってきた遥華は少し引き気味だった。
「いや、そうじゃなくて朝起きたらこうなってたんだ」と説明すると、彼女は
「じゃあ、これは……」
「うひゃぁ!?」
いきなり胸を触ってきたのだった。
柔らかな胸元に比べて少しだけ硬い指先が沈む。
自分でもちょっと驚いて出したつもりの声さえも甲高い。
なぜかよく分からないけど、この頃には女性としての恥辱が目覚めていたのだった。咄嗟に傍らにあった枕を抱きかかえてガードした。
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