上 下
46 / 55

#44 ”どうして”?

しおりを挟む
「ごきげんよう、リュクレース様。また、一緒でしたね」
「ごきげんよう、フィリベール様。また、一緒でしたね」

 10月20日の正午に少し前。マトローシュルズ湖の湖畔。あの日偶然会ったその場所で、わたし達は微苦笑を浮かべていました。

「お手紙が届いた時は、ビックリしましたよ」
「わたしもです。開封して驚きました」
「相手のもとに到着する日に、自分のもとに届く。僕達は出すタイミングもおんなじでしたね」
「そうですね。伝え方、その内容だけでなく、タイミングまでおんなじでした」

 クスリと微笑み合いながら、お互い何も言わず歩き出します。

 ――やっぱり、そうでした――。

 どちらも、行き先を相手に伝えてはいません。ですが示し合わせているかのように、ピッタリ同じ方向に進んでいって――わたし達は船に乗り、マトローシュルズ湖の中央にやって来ました。

「ここしか、ありませんよね」
「はい。ここしか、ありません」

 わたし達を出会わせてくれた場所。
 わたし達を繋げてくれた場所。
 わたし達をひとつにしてくれた場所。

 フィリベール様もわたしも、そう。『行うならその中心で』との想いがあって、ここを選びました。

「……こういう場合、ズル、になるかもしれませんが。お許しください」
「フィリベール様は悪くありませんよ。仕方がないことですからね」

 わたし達は貴族。貴族のルール――伝統があるのですから、そちらは守らないといけませんよね。

「ありがとうございます。……では、失礼します」

 船を揺らさないよう静かに動いてくださり、わたしに向かって片膝をつかれました。

「僕は貴方と出会い、たくさんの喜びをいただき、分かち合いました。そしてあの夜、大きなものをいただきました」
「わたしも貴方と出会い、たくさんの喜びをいただき、分かち合いました。そしてあの日、大きなものをいただきました」

 どちらも思い出を振り返り、

「そんな出来事であり日々が、僕に特別な感情をもたらしてくれました」
「そんな出来事であり日々が、わたしに特別な感情をもたらしてくれました」

 今この胸の中にあるものを、伝えます。
 そうしてわたし達は見つめ合い、先に動くのはフィリベール様。フィリベール様は左手をご自身の胸に添え、

「ですので、もう一つお伝えしたいことがございます。……リュクレース・ハルトーン様。僕フィリベール・レイオズンは、貴方様を愛しています。この想いを受け取ってはいただけないでしょうか?」

 その言葉と共に、もう片方の右手をこちらへと差し出されました。

「……フィリベール・レイオズン様」

 その名前を持つ人は、同じ思いと想いを持つ方。あちらがそうなら、こちらもそうなのです。
 ですのでわたしは――

「喜んで。その想い、受け取らせていただきます」

 ――その手を取り、手の甲に口づけをいただいたのでした。

「…………応えてくださりありがとうございます、リュクレース様。これ以上ない喜びを感じています」
「…………こちらこそ、応えてくださりありがとうございます。わたしも今、これ以上ない喜びを感じています」
「……改めて、これからもよろしくお願い致します」
「……はい。こちらこそ、これからもよろしくお願い致します」

 どちらも瞳を揺らしながら言葉を交わし、抱き締め合う。

 10月20日。
 わたし達が偶然出会ってから、およそ9か月後。

 こうしてわたし達の関係は、ひとつ、変化したのでした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】悪役令嬢の妹に転生しちゃったけど推しはお姉様だから全力で断罪破滅から守らせていただきます!

くま
恋愛
え?死ぬ間際に前世の記憶が戻った、マリア。 ここは前世でハマった乙女ゲームの世界だった。 マリアが一番好きなキャラクターは悪役令嬢のマリエ! 悪役令嬢マリエの妹として転生したマリアは、姉マリエを守ろうと空回り。王子や執事、騎士などはマリアにアプローチするものの、まったく鈍感でアホな主人公に周りは振り回されるばかり。 少しずつ成長をしていくなか、残念ヒロインちゃんが現る!! ほんの少しシリアスもある!かもです。 気ままに書いてますので誤字脱字ありましたら、すいませんっ。 月に一回、二回ほどゆっくりペースで更新です(*≧∀≦*)

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

処理中です...