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# 泣き虫だった男の子は強い騎士になった
しおりを挟む「逃げてください、クローディア様。ぼくにはあなたを殺すことなどできない」
懇願するようにレミルが言った。曰く彼のおばあさま譲りである碧眼に涙を浮かべ、私の両手をとる。病気がちで内気な性格のレミルと初めて会ったときは、なんて綺麗な女の子なんだろうって思ったものだった。
14歳でレミルが騎士になってからは呼び方も話し方も変わってしまって、前女王が亡くなって私が即位してからはさらに距離が遠くなってしまった。背が伸びて、やわらかかった手も硬くなって、すっかり「男の子」だ。
なのに。
「泣かないで」
泣き虫なのは変わらない。子供の頃もこんなふうに、よくレミルを慰めたものだった。女の子みたいだってからかわれるたびに泣いて、そいつらを私がとっちめる。どちらが騎士かわからないって、大人たちは笑っていた。
まだおばあさまが生きていたころの話だ。
思い出して、私は一人笑った。
「ありがとう、レミル。でも、ここで逃げたとしても私ひとりじゃ生きていけないし、お城に戻ったらレミルが殺されてしまうかもしれないわ。それに、私を殺したらレミル、出世できるわよ」
「馬鹿を言わないで……!」
冬を呼びこむような風が枝を荒っぽく揺らしてあたりをざわつかせる。月の隠れた暗い森の中でこうして二人で抱き合っていると、自分たちはまだ小さな子供で全部夢なんじゃないかって思えてくる。おばあさまが死んでしまったことも、お母さまが死んでしまったことも、自分が女王であることも。
嗚咽を押し殺そうとするレミルの髪を、私は撫でた。昔にもしていたようにぎゅっと抱きしめていると、やがてレミルが顔を上げる。逃げよう、と彼の口が動いたその時だった。
明らかに風の音とは違う複数の人間の気配がこちらに近づいてくるのに、私たちは気づいた。「やっぱり」とレミルが舌打ちして、私にマントを脱ぐように言う。
「ぼくがおとりになる」
お互いのマントを交換すると、レミルは剣を一本私に手渡した。体が弱くて女の子みたいだったレミルは血のにじむような努力をして、シィル国でめずらしい二刀の剣士となった。その一振り。
「そういえば、クローディアには結局一度も勝てないままだったな」
「!」
馬に乗せられて、尻を打たれた馬が走り出す。さっきまで腕の中で泣いていたくせに、レミルは私に抵抗を許さなかった。レミル、と私は馬上から呼ぶ。
風に押されるように雲がそこから退いて、月明かりが森を照らした。5人。ううん、たぶんもっと多い。私はあわてて馬に引き返すよう言うけれど、まるでレミルの意思そのもののように馬は止まらない。
「レミル――!」
再び夜闇に沈んでしまった森に向かって私は叫んだ。
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