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第2章 「二人の魔王」
第15話 魔族襲来③
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魔王山本はハゲンティと名乗る魔神と対峙していた。
「で、貴様らの中で誰が一番強いんだ?」
「ここにいる8柱の魔神の中でということならば__俺だな。」
「そうか!それは良かったぞ!!」
「だが、我ら魔神の中ということなら__俺など、下から数えた方が早い。」
ハゲンティは腰にぶら下げていた剣を抜いた。
「これは、俺が作った剣の中で最高傑作なんだ。」
その最高傑作という剣は、黒い刀身に赤黒い血管のような模様があり、まるで脈を打ち生きているかのようだった。
「さあ、始めようか。異世界から来た魔王とやら。」
「そうだな、我も最近暇でな。すこし遊びに付き合ってもらうとしよう。」
ギーンッ!と互いの刃がぶつかり合う音が鳴り響く。
「これはどうだ?」
ハゲンティは魔王山本に向けて黒い斬撃を飛ばした。
「ならば、こちらもだ」
魔王山本も斬撃を飛ばす。
二つの斬撃が衝突するやいなや爆音と衝撃波を発生させ大地を揺らす。
「ほう、魔剣の斬撃を相殺したか」
「よそ見してる場合か?」
いつの間にかハゲンティの背後に回り込んでいた魔王山本が、彼が魔剣を持つ右手を肩から切り落とした。
「なに…!?」
驚きを見せるもののハゲンティは特に痛がる素振りを見せない。
「む?大抵のやつはここで発狂するか、逃げ出すのだが。」
切断された断面をみると、中が空洞になっており本来あるはずの骨や肉が一切なかった。
「傀儡か?」
「傀儡?なにを言っている。俺は錬金術が使えてな。邪魔な肉体は捨てたんだ。おかげで錬金術の深淵を覗くことができたのだ。」
すると先ほど切断した右手が砂のように崩れたかと思いきや、まるで風に操られるようにしてハゲンティの肩へ戻っていき、完全に右手が再生していた。
「俺は死をも超越した存在だ。恐れるものなど、何もない。」
「死を超越した…ねぇ」
魔王山本は刀を下ろした。
「いいことを教えてやろう、貴様は死を超越したんじゃない。死から逃げているだけだ。」
「ふん、屁理屈を!」
ハゲンティの持つ魔剣が闇のオーラを纏い出す。
「死ねぇえ!!」
先ほどとは比べ物にならない大きさの斬撃が放たれる。
しかし、魔王山本はそれを躱すことなく、ただ立っていた。直撃すると真っ黒な爆炎に包まれた。
「ふははははッ!派手に散ったな!」
勝ちを確信したハゲンティだが、すぐに現実に戻される。
「それが貴様の全力か?」
「な…に…!?」
そこには傷ひとつない魔王が立っていた。
「…いいだろう。見せてやる!!魔剣の真の力をな!!!」
魔剣は液体のようにハゲンティの体にまとわり付き始めた。
やがて完全に一体化し、胴体の中心部分に巨大な眼球が出現した。
「ぐふふふ…力が…溢れる…これこそが、錬金術が行き着く先にある、武器との完全融合だ…!!まさに最強の姿だぁあ!!」
「いや、下から数えた方が早い強さって言ってなかったか?」
「うるさい!!だまれぇええ!!!」
武器と一体化してから明らかに理性を失いかけていた。
「どうやら、武器と融合したことで貴様自身の魂が壊れかけているようだな。肉体が不死身でも魂までは不死身ではないからな。」
「だまれ!だまれ!!だまれぇええ!!!!」
怒り狂ったハゲンティが魔王山本の元へ迫り来る。
しかし、それに対して魔王は刀を使うわけでも、妖術を使うわけでもなく。
ただ___殴り飛ばした。
「ぐげぇえええええええええ!!!!」
魔王山本の拳はハゲンティの胴体部分の目玉を吹き飛ばし、大きな風穴を開けていた。
「な…なぜだ…再生が…始まらない…だ…と」
「武器と融合したことで不死身の肉体じゃなくなってしまったようだな。」
「た…たすけ…て…くれ…し…にたく…ない」
「…死に追いつかれてしまったようだな。」
ハゲンティは砂となって消えた。
ーーーー
ーーー
ーー
ー
魔王・山本五郎左衛門が戦う様子を見守る者がいた。
「きゃーー!やっぱりカッコいいのじゃーー!!」
魔王城の天守閣で座敷童子と一緒にいるのは、玉藻前という九尾の狐だった。
キツネ色の髪の毛に、ちょこんと狐の耳が生えている。大人の女性の魅力である、大きな胸と心地の良い声が特徴的だ。
「うん!カッコよかったね!!」
「そうじゃろ!そうじゃろ~!さすがは妾の夫じゃ!」
玉藻前の中では完全に夫扱いなのだが、そういった事実は一切ない。彼女が勝手にそう言っているだけである。
「さ!妾は夫を迎えに行ってくるのじゃ!お留守番よろしくなのじゃ、座敷童子ちゃん!」
「はーい!」
玉藻前はその魔王の元へ全速力で向かった。
「もっと強いかと思ったが期待はずれだったな…」
魔王は意気消沈し、魔王城へ戻るところだった。
すると、建物と建物の隙間から突然誰かに話しかけられた。
「あ・な・た…♡」
「…玉藻前か」
「迎えにきたのじゃ!一緒に帰ろうぞ!」
「まぁ、いいけど」
「うふふ~!ささ、手を」
玉藻前が握れと言わんばかりに手を出してくる。
「いや、歩きにくいだろ」
「むむむ、玉藻前よ、こんなところで何をしているのじゃ?」
「げっ…大天狗…」
空から現れたのは大天狗だった。
ちなみに説明すると、大天狗は異世界に来てから素が出るようになってきた。日本にいるときには自分がしっかりしなければと常に気を張っていたのだ。それが、なくなり話し口調が”のじゃ語”となっている。
そして、玉藻前は口調が丸かぶりしていることから苦手意識を大天狗に持っているのだ。
「大天狗…何しに来たのじゃ?」
「む?魔神とかいう奴が大したことなくてのう。消化不良なのじゃ。」
「のじゃのじゃうるっせーな」
そこに現れたのは酒呑童子だった。
「酒呑童子ではないか?こんなところでどうしたのじゃ?」
玉藻前が頭の上に?マークを浮かべる。
「どうしたも、こうしたもねーよ…」
三人は酒呑童子から先の魔神との戦いについて聞かされた。
「ほほう、皆同じような状況じゃのう」
「魔神ってもしかして、これのこと?」
玉藻前がそういうと彼女の眷属である狐が人の姿で現れ、手に持っていたものを三人の前に投げた。
グシャ、と音がなる___血だるまにされた何かがそこにはあった。
「此奴、妾が夫の迎えに行く途中に急に襲ってきたのじゃ。」
「強かったのか?」
魔王が問いかけると玉藻前は微笑を浮かべながらこう言った。
「”虫”が飛んできたかと思ったのじゃ」
どうやら、虫以下であったそうだ。
「そういや、全部で8人だったよな」
酒呑童子がふと思い出したように言葉を発した。
「ああ、だが残念なことに、我が殺した錬金術を使う奴があの中だと一番強かったらしいぞ?」
「まじか…」
「ほほう…」
「妾はどうでもいいのじゃ。夫の迎えにきただけなのじゃから。」
まぁこいつらと真面に戦える奴は少ないんじゃないだろうか。と思う魔王だった。
それもそのはずである。
酒呑童子は昔、日本で大暴れしていた大妖怪である。誰も手がつけられず、危うく日本という国を滅ぼしかけた。それを良しとしなかった日本の神々が人間に知恵と力を授けやっと追い払うことができたという。あくまで、追い払えただけであり、人間に一本取られたことに怒り狂い再び人の世を脅かした。それは神から授かった知恵と力を持ってしても抑えることができなかった。そして、神の住まう国、天界へ攻め入ろうとしたところで、その力を欲した魔王・山本五郎左衛門と出会った。一度は衝突したが、魔王に敗北するとその力を認め配下に加わったのだ。
大天狗はというと、あまり知られていないが元魔王である。彼が魔王として君臨していた時に天狗の群れを率いて天界へ攻め入り焼き滅ぼしたことがある。そのせいでほとんどの神は殺され、人間たちはそれ以降神の加護を授かることが難しくなった。天界はいまだに大天狗が暴れた爪痕が残っているという。
次に、玉藻前だが彼女も日本の神々から危険視されている。持ち前の美貌と包容力で男を堕落させ、当時の日本の王を骨抜きにした。そのため、国は乱れ、世は乱世に突入した。しかし、ここでも日本の神々が人間に手を貸した。巫女に神託を下し、玉藻前の正体を伝えたという。人間は過去最大の討伐軍を率いて彼女を討たんとして攻め入ってきたが、九尾の姿になった玉藻前の妖術により全滅させられてしまったという。正体がバレてしまった彼女は別の王を探すため一度日本を離れようとするが、魔王山本五郎左衛門という王を見つける。しかし、彼はこれまでの男と違い、自分の美貌、包容力等が一切通用しなかった。それどころか、自分のことを鬱陶しいような扱いをしてくるため、この魔王に強い興味を抱いたという。やがてそれは好意に代わり、今では世を混乱と狂気で乱すという目的はどうでもよくなり
、魔王__心から愛する男に振り向いて欲しいという気持ちだけがある。
この神をも恐れないどころか、自分から攻め入るような輩が全て異世界に、しかもこのような狭い街に集まっているのだから魔神が虫扱いでも不思議ではない。
残りの魔神はというと。建物と建物の隙間に潜んでいた。
「ばかな…!ハゲンティが敗れただと…!!」
「オロバス…一度戻った方がいいのでは?」
「明らかにここは異質だ…オロバス…撤退を」
オロバスと呼ばれる魔神は戦闘力こそ低いが優れた知識を持っている。それを活かし、戦略を練ったり、敵から情報を引き出したりするのだが、彼の知識を持ってしてもここにいる者たちの正体は分からなかった。
「うむ…ここにいる奴らの異様な戦力を魔王様に伝えねば…」
3人の魔神が一斉に建物の隙間から外で抜け出すと、そこには一番遭遇したくない者たちがいた。
「あ」
誰からか声が漏れた。
魔王山本五郎左衛門、大天狗、酒呑童子、玉藻前と3人の魔神は目があった。
結論からいうと3人の魔神は簡単に捕らえられてしまった。
「わ、ワシらに危害を加えれば魔王様が許さんぞ…!!」
「ああ?魔王だって?つえーのか??」
酒呑童子が童子切の刃をオロバスの首元に当てた。
ヒンヤリとオロバスの首に刀の冷たさが伝わってくる。
「…当たり前だ…ワシらが束になっても敵わぬわ」
「んで、どこにいる?」
「…」
「答えろやッ!!!!」
酒呑童子は隣に同じように拘束されていた魔神を切り裂いた。
「あぎゃああッ!!」
返り血がオロバスの顔にかかった。
「ひぃい!こ、ここ…ここから北にまっすぐ向かえば3日ほどで着きます…!!」
もう一人の魔神が口を割った。
「貴様!!魔族を裏切るのか!!!」
オロバスが怒りの声をあげる。
「し、仕方ないだろ…!!!」
「あなた、この虫どもはどうするのじゃ?」
「そうだな、その魔王がいる場所とやらに案内してもらうとしよう。」
ーーーー
ーーー
ーー
ー
異世界の魔王の元へ全速力で進む影があった。
狼のような姿になったバフォメットだ。
(くそっ…くそっ!!我らよりも上位の存在…8柱もの魔神たちが全く歯が立たんかっただと…!?まずい!!まずい!!それにアイツらは魔王様の元へ攻めてくる…!!急がねば!!魔王軍を編成し、襲撃に備えねば…!!)
「で、貴様らの中で誰が一番強いんだ?」
「ここにいる8柱の魔神の中でということならば__俺だな。」
「そうか!それは良かったぞ!!」
「だが、我ら魔神の中ということなら__俺など、下から数えた方が早い。」
ハゲンティは腰にぶら下げていた剣を抜いた。
「これは、俺が作った剣の中で最高傑作なんだ。」
その最高傑作という剣は、黒い刀身に赤黒い血管のような模様があり、まるで脈を打ち生きているかのようだった。
「さあ、始めようか。異世界から来た魔王とやら。」
「そうだな、我も最近暇でな。すこし遊びに付き合ってもらうとしよう。」
ギーンッ!と互いの刃がぶつかり合う音が鳴り響く。
「これはどうだ?」
ハゲンティは魔王山本に向けて黒い斬撃を飛ばした。
「ならば、こちらもだ」
魔王山本も斬撃を飛ばす。
二つの斬撃が衝突するやいなや爆音と衝撃波を発生させ大地を揺らす。
「ほう、魔剣の斬撃を相殺したか」
「よそ見してる場合か?」
いつの間にかハゲンティの背後に回り込んでいた魔王山本が、彼が魔剣を持つ右手を肩から切り落とした。
「なに…!?」
驚きを見せるもののハゲンティは特に痛がる素振りを見せない。
「む?大抵のやつはここで発狂するか、逃げ出すのだが。」
切断された断面をみると、中が空洞になっており本来あるはずの骨や肉が一切なかった。
「傀儡か?」
「傀儡?なにを言っている。俺は錬金術が使えてな。邪魔な肉体は捨てたんだ。おかげで錬金術の深淵を覗くことができたのだ。」
すると先ほど切断した右手が砂のように崩れたかと思いきや、まるで風に操られるようにしてハゲンティの肩へ戻っていき、完全に右手が再生していた。
「俺は死をも超越した存在だ。恐れるものなど、何もない。」
「死を超越した…ねぇ」
魔王山本は刀を下ろした。
「いいことを教えてやろう、貴様は死を超越したんじゃない。死から逃げているだけだ。」
「ふん、屁理屈を!」
ハゲンティの持つ魔剣が闇のオーラを纏い出す。
「死ねぇえ!!」
先ほどとは比べ物にならない大きさの斬撃が放たれる。
しかし、魔王山本はそれを躱すことなく、ただ立っていた。直撃すると真っ黒な爆炎に包まれた。
「ふははははッ!派手に散ったな!」
勝ちを確信したハゲンティだが、すぐに現実に戻される。
「それが貴様の全力か?」
「な…に…!?」
そこには傷ひとつない魔王が立っていた。
「…いいだろう。見せてやる!!魔剣の真の力をな!!!」
魔剣は液体のようにハゲンティの体にまとわり付き始めた。
やがて完全に一体化し、胴体の中心部分に巨大な眼球が出現した。
「ぐふふふ…力が…溢れる…これこそが、錬金術が行き着く先にある、武器との完全融合だ…!!まさに最強の姿だぁあ!!」
「いや、下から数えた方が早い強さって言ってなかったか?」
「うるさい!!だまれぇええ!!!」
武器と一体化してから明らかに理性を失いかけていた。
「どうやら、武器と融合したことで貴様自身の魂が壊れかけているようだな。肉体が不死身でも魂までは不死身ではないからな。」
「だまれ!だまれ!!だまれぇええ!!!!」
怒り狂ったハゲンティが魔王山本の元へ迫り来る。
しかし、それに対して魔王は刀を使うわけでも、妖術を使うわけでもなく。
ただ___殴り飛ばした。
「ぐげぇえええええええええ!!!!」
魔王山本の拳はハゲンティの胴体部分の目玉を吹き飛ばし、大きな風穴を開けていた。
「な…なぜだ…再生が…始まらない…だ…と」
「武器と融合したことで不死身の肉体じゃなくなってしまったようだな。」
「た…たすけ…て…くれ…し…にたく…ない」
「…死に追いつかれてしまったようだな。」
ハゲンティは砂となって消えた。
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魔王・山本五郎左衛門が戦う様子を見守る者がいた。
「きゃーー!やっぱりカッコいいのじゃーー!!」
魔王城の天守閣で座敷童子と一緒にいるのは、玉藻前という九尾の狐だった。
キツネ色の髪の毛に、ちょこんと狐の耳が生えている。大人の女性の魅力である、大きな胸と心地の良い声が特徴的だ。
「うん!カッコよかったね!!」
「そうじゃろ!そうじゃろ~!さすがは妾の夫じゃ!」
玉藻前の中では完全に夫扱いなのだが、そういった事実は一切ない。彼女が勝手にそう言っているだけである。
「さ!妾は夫を迎えに行ってくるのじゃ!お留守番よろしくなのじゃ、座敷童子ちゃん!」
「はーい!」
玉藻前はその魔王の元へ全速力で向かった。
「もっと強いかと思ったが期待はずれだったな…」
魔王は意気消沈し、魔王城へ戻るところだった。
すると、建物と建物の隙間から突然誰かに話しかけられた。
「あ・な・た…♡」
「…玉藻前か」
「迎えにきたのじゃ!一緒に帰ろうぞ!」
「まぁ、いいけど」
「うふふ~!ささ、手を」
玉藻前が握れと言わんばかりに手を出してくる。
「いや、歩きにくいだろ」
「むむむ、玉藻前よ、こんなところで何をしているのじゃ?」
「げっ…大天狗…」
空から現れたのは大天狗だった。
ちなみに説明すると、大天狗は異世界に来てから素が出るようになってきた。日本にいるときには自分がしっかりしなければと常に気を張っていたのだ。それが、なくなり話し口調が”のじゃ語”となっている。
そして、玉藻前は口調が丸かぶりしていることから苦手意識を大天狗に持っているのだ。
「大天狗…何しに来たのじゃ?」
「む?魔神とかいう奴が大したことなくてのう。消化不良なのじゃ。」
「のじゃのじゃうるっせーな」
そこに現れたのは酒呑童子だった。
「酒呑童子ではないか?こんなところでどうしたのじゃ?」
玉藻前が頭の上に?マークを浮かべる。
「どうしたも、こうしたもねーよ…」
三人は酒呑童子から先の魔神との戦いについて聞かされた。
「ほほう、皆同じような状況じゃのう」
「魔神ってもしかして、これのこと?」
玉藻前がそういうと彼女の眷属である狐が人の姿で現れ、手に持っていたものを三人の前に投げた。
グシャ、と音がなる___血だるまにされた何かがそこにはあった。
「此奴、妾が夫の迎えに行く途中に急に襲ってきたのじゃ。」
「強かったのか?」
魔王が問いかけると玉藻前は微笑を浮かべながらこう言った。
「”虫”が飛んできたかと思ったのじゃ」
どうやら、虫以下であったそうだ。
「そういや、全部で8人だったよな」
酒呑童子がふと思い出したように言葉を発した。
「ああ、だが残念なことに、我が殺した錬金術を使う奴があの中だと一番強かったらしいぞ?」
「まじか…」
「ほほう…」
「妾はどうでもいいのじゃ。夫の迎えにきただけなのじゃから。」
まぁこいつらと真面に戦える奴は少ないんじゃないだろうか。と思う魔王だった。
それもそのはずである。
酒呑童子は昔、日本で大暴れしていた大妖怪である。誰も手がつけられず、危うく日本という国を滅ぼしかけた。それを良しとしなかった日本の神々が人間に知恵と力を授けやっと追い払うことができたという。あくまで、追い払えただけであり、人間に一本取られたことに怒り狂い再び人の世を脅かした。それは神から授かった知恵と力を持ってしても抑えることができなかった。そして、神の住まう国、天界へ攻め入ろうとしたところで、その力を欲した魔王・山本五郎左衛門と出会った。一度は衝突したが、魔王に敗北するとその力を認め配下に加わったのだ。
大天狗はというと、あまり知られていないが元魔王である。彼が魔王として君臨していた時に天狗の群れを率いて天界へ攻め入り焼き滅ぼしたことがある。そのせいでほとんどの神は殺され、人間たちはそれ以降神の加護を授かることが難しくなった。天界はいまだに大天狗が暴れた爪痕が残っているという。
次に、玉藻前だが彼女も日本の神々から危険視されている。持ち前の美貌と包容力で男を堕落させ、当時の日本の王を骨抜きにした。そのため、国は乱れ、世は乱世に突入した。しかし、ここでも日本の神々が人間に手を貸した。巫女に神託を下し、玉藻前の正体を伝えたという。人間は過去最大の討伐軍を率いて彼女を討たんとして攻め入ってきたが、九尾の姿になった玉藻前の妖術により全滅させられてしまったという。正体がバレてしまった彼女は別の王を探すため一度日本を離れようとするが、魔王山本五郎左衛門という王を見つける。しかし、彼はこれまでの男と違い、自分の美貌、包容力等が一切通用しなかった。それどころか、自分のことを鬱陶しいような扱いをしてくるため、この魔王に強い興味を抱いたという。やがてそれは好意に代わり、今では世を混乱と狂気で乱すという目的はどうでもよくなり
、魔王__心から愛する男に振り向いて欲しいという気持ちだけがある。
この神をも恐れないどころか、自分から攻め入るような輩が全て異世界に、しかもこのような狭い街に集まっているのだから魔神が虫扱いでも不思議ではない。
残りの魔神はというと。建物と建物の隙間に潜んでいた。
「ばかな…!ハゲンティが敗れただと…!!」
「オロバス…一度戻った方がいいのでは?」
「明らかにここは異質だ…オロバス…撤退を」
オロバスと呼ばれる魔神は戦闘力こそ低いが優れた知識を持っている。それを活かし、戦略を練ったり、敵から情報を引き出したりするのだが、彼の知識を持ってしてもここにいる者たちの正体は分からなかった。
「うむ…ここにいる奴らの異様な戦力を魔王様に伝えねば…」
3人の魔神が一斉に建物の隙間から外で抜け出すと、そこには一番遭遇したくない者たちがいた。
「あ」
誰からか声が漏れた。
魔王山本五郎左衛門、大天狗、酒呑童子、玉藻前と3人の魔神は目があった。
結論からいうと3人の魔神は簡単に捕らえられてしまった。
「わ、ワシらに危害を加えれば魔王様が許さんぞ…!!」
「ああ?魔王だって?つえーのか??」
酒呑童子が童子切の刃をオロバスの首元に当てた。
ヒンヤリとオロバスの首に刀の冷たさが伝わってくる。
「…当たり前だ…ワシらが束になっても敵わぬわ」
「んで、どこにいる?」
「…」
「答えろやッ!!!!」
酒呑童子は隣に同じように拘束されていた魔神を切り裂いた。
「あぎゃああッ!!」
返り血がオロバスの顔にかかった。
「ひぃい!こ、ここ…ここから北にまっすぐ向かえば3日ほどで着きます…!!」
もう一人の魔神が口を割った。
「貴様!!魔族を裏切るのか!!!」
オロバスが怒りの声をあげる。
「し、仕方ないだろ…!!!」
「あなた、この虫どもはどうするのじゃ?」
「そうだな、その魔王がいる場所とやらに案内してもらうとしよう。」
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異世界の魔王の元へ全速力で進む影があった。
狼のような姿になったバフォメットだ。
(くそっ…くそっ!!我らよりも上位の存在…8柱もの魔神たちが全く歯が立たんかっただと…!?まずい!!まずい!!それにアイツらは魔王様の元へ攻めてくる…!!急がねば!!魔王軍を編成し、襲撃に備えねば…!!)
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