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第3章:幼少期・敬愛編
第40話:【エルフ様は朝が弱い】
しおりを挟む炊事場には様々な料理のいい香りが漂っていた。そろそろ良さそうだと私は鍋をかき混ぜていた手を止める。
「みんなが手伝ってくれたおかげで今日も無事に朝食が出来上がったわ。本当にありがとう」
スイレンさんがシスターたちや孤児院の子供たち、そして私たちの顔をそれぞれ見て、お礼の言葉を口にする。スイレンさんがこの教会の人々に愛されているのは、こういった言動の積み重ねなのだろう。
そう思っているとスイレンさんと目が合って、いつものように私たちの食事を用意した配膳用のワゴンを差し出してくれた。
「ルピナス様、こちらをお持ちくださいませ」
「いつもありがとうございます。頂戴いたしますね」
ラランとリリィに配膳用のワゴンを運んでもらいながら、自分たちの今の住まいでありユーフォリア様がまだ眠っている別棟へと向かった。
私たちは当初、教会にある共同のランチルームで教会の方々と一緒に食事をしようとしていたのだが全力で止められてしまった。
何でも教会の方々からしてみれば、ユーフォリア様は神にも等しい存在である為、同じ場所で食事をするのは恐れ多く、いらっしゃるだけで緊張して食事が喉を通らなくなってしまうのだとか。
皆さんとお食事が出来ないのは残念だな、と思ったが無理をさせるのもご迷惑なので、このように別棟へ食事を運びユーフォリア様と二人で食事をするスタイルを取っている。
ラランとリリィも一緒に食べようと言っているのだが、王国至宝のエルフ様であるユーフォリア様と主人である私と食べるのは恐れ多いと辞退されてしまった。
住まわせてもらっている棟へ向かっている道中、空を見上げると太陽が先ほど見た時よりも高く昇っていた。
きっとユーフォリア様は、まだお部屋で眠っていらっしゃるだろう。
「いろんな本を読んできたけど…エルフ族の方が朝に弱いだなんて知らなかったから、ユーフォリア様からその習性を始めて聞いた時、驚いちゃったな」
ラランとリリィに投げかけると二人とも同意するように頷いた。
「エルフ様は万能なイメージがありましたら、そういった弱みと言いますか不得意なところもあるのだと知れて少し親近感が湧きましたわ」
「アタシもラランに同意です。ラランは昔、早起きが苦手でしたので特に共感できるポイントだったみたいですわ」
「ふふ、そうなの?」
「もう…!リリィってば、バラさないでよー!」
ラランは恥ずかしそうに頬を赤くした。
ラランの可愛らしい様子に通りすがりの教会の男性たちが熱い視線を送っている。
そういった視線に気がつかないラランを尻目にリリィが男たちへ睨みを利かせていた。
ラランに対して辛口なリリィではあるが、なんだかんだ言ってシスコンなのである。
エメラルド色の棟に辿り着くと私は自分の役目を果たすべく二人と別行動をすることにした。
「いってくるね、二人とも。ユーフォリア様と一緒に戻るから用意をお願いね」
「「かしこまりました。お気をつけて、いってらっしゃいませ」」
丁寧にお辞儀をする二人に見送られ、ユーフォリア様の寝室へと足を進める。
普通、貴族の子供は屋敷の中であっても必ず従者や使用人が側にいるもの。屋敷の中とはいえ何が起こるか分からないからだ。
今の私は貴族ではないけれど、ラランとリリィは警備の為もあって現在も私の側を離れない。もう私は貴族ではないのだから一人でも大丈夫だと伝えても二人は頑として譲らなかった。
余談だが、そんな二人がこの棟で私の側から離れられるのはユーフォリア様の強固な結界で棟全体がガチガチに守られているからである。虫一匹でさえ、入れないほどに。
「ユーフォリア様、失礼いたします」
数回に渡りノックをして室内に入る。
マナーとして入室許可が無ければ入ってはいけないのだが、ユーフォリア様からルピナスは許可が無くても入っていいよ、と言われているのだ。
私の役目はユーフォリア様を起こしに行くこと。
種族の習性的に朝の弱いユーフォリア様はいつも朝に起きられない。
夜遅くまでお忙しいとかであれば仕方がないけれど、普通に寝ているのに起きられずに寝過ぎてしまうのは逆に身体に悪いからとユーフォリア様に頼まれて私が起こしに行っているのだ。
「ユーフォリア様、朝ですよ」
静かに揺すると眠たそうに少しばかり唸られて掛け布団がモゾモゾと動く。
「起きてくださ~い。教会の皆さんと一緒に作った美味しい朝ごはんが待ってますよ~」
そう声をかけた瞬間、手を引っ張られて掛け布団の中へと引き摺り込まれる。
「わ…っ!ちょっとユーフォリア様!私、土足ですよ!」
「フフ。ツッコむところは、そこなの?」
クスクスと楽しそうにユーフォリア様は笑った。
掛け布団の中という、かなり密着する場所は笑った吐息が頭に触れるほど近くて自分の心臓が暴れ回っているのではないかと思うほどにドキドキと鳴っていて大変うるさい。
ユーフォリア様のお部屋の中は、いつも陽だまりのような良い匂いで充満しているから入室した時も意識しないようにしていたのに。こんなに密着してしまっては意識せざるを得ないじゃないか。
「一緒に布団から出る時に洗浄の魔法をかけるから大丈夫だよ。それにしても…ルピナスは子供体温だから、あったかいね」
ぎゅうっと抱きしめられると自分の中の何かが幸福感で満たされていく。
こんな風に誰かを起こしに行くなんて家族にするみたいで。体温だけじゃなくて心まで温かくなるようだった。
「ユーフォリア様、まだ眠いですか?」
問いかけると少しだけ頷くように首を縦に揺らす。そして、私を引き寄せる手に力を込めると耳元で囁いた。
「………もう少しだけ、このままで」
きっと私にとって世界で一番、安心できる腕の中で。
しばらくの間、静かに温もりを享受していた。
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