33 / 70
第六章 再会
7
しおりを挟む
最後に到着したフランソワとステファーヌをさらに入れ替え、ステファーヌをブラモント伯爵としてロレーヌに連れて帰るという案もジェルメーヌの中にはあったが、クロイゼルが聞いていることもあり、黙っていた。
さすがにどこまでクロイゼルが協力してくれるか、いまの時点では不透明だ。
「あなたがここに籠もっている限り、わたしはあなたを助け出すことはできないわ。ミネットも連れて帰らなければならないのに、あなたたちったら一緒にいないんですもの」
「……ごめんなさい」
項垂れたステファーヌが、蚊の鳴くような声を絞り出した。
「公女殿。その計画は、あなたを監督している侍従たちが同意してくれなければ成立しないのでは?」
「プラハで宿を抜け出すくらいならなんとかなるわ。ほんのすぐ近くの安宿で落ち合えば良いのよ。お互いの服を変えるだけだから、半時間もかからないわ」
ピュッチュナー男爵らジェルメーヌのが無茶苦茶な計画に荷担してくれる可能性は低い。彼らはトロッケン男爵を捕らえたいと考えているからこそ、ジェルメーヌを囮にしてトロッケン男爵一味をおびき出すことに協力してくれているのだ。
「女であるわたしはトロッケン男爵にとってなんの役にも立たないから、彼らもわたしをさっさと帰してくれるんじゃないかしら。あなたをフランソワ公子という椅子に座らせれば、ひとまず満足してくれることを願うわ」
ジェルメーヌが成功させなければならないのは、ステファーヌとミネットの解放だけだ。
ジェルメーヌにとって、ロレーヌ公国嫡嗣がステファーヌだろうがフランソワだろうが、違いはない。
「ステファーヌ。わたしは、ミネットと一緒に黙って姿を消したあなたを怒っているのよ。わたしを置いて行くなんて、酷すぎるわ。わたしに許して欲しいなら、ちゃんとわたしの計画通りに動くこと。いいわね」
「ジェルメーヌの計画って……いつも雑ね」
「――ちょっとは正気になって頭が回るようになったようね。結構なことだわ」
ふん、とジェルメーヌが鼻を鳴らすと、ステファーヌは弱々しく微笑んだ。
「子供の頃、わたしたちの部屋にレオポールが蛙を放り込んだとき、あなたったら庭で捕まえた蛇を彼の勉強机の抽斗に仕込んだことがあったわね。抽斗の中で蜷局を巻いていた蛇を見つけた彼の悲鳴が城内中に響き渡って大騒ぎになったことがあったわ」
「その前に、蛙を見たあなたが、金切り声を上げて失神したじゃないの。その仕返しをしたまでよ」
ステファーヌとミネットが止めるのも聞かず、ジェルメーヌは庭を駆け回って異母兄レオポールが嫌いな蛇を探したのだ。
「結局あの蛇、レオポールの部屋から逃げた後、姿を消したものだから、さらに騒ぎが酷くなったわよね。最後はわたしたちの部屋に隠れているのを見つけて、わたしの鸚哥を食べようとしているところをあなたが捕まえてくれたから良かったようなものの」
「確かにあれは、少々計画が適当過ぎたわね」
部屋に蛇がいることに気付いたステファーヌが絶叫し、ジェルメーヌが蛇を捕まえて一件落着したのだが、ジェルメーヌはレオポールと一緒に散々父親から叱られた。
「で、わたしの計画にけちを付けるだけの素晴らしい脱出方法があるの?」
「――ないわ」
苦笑いを浮かべ、ステファーヌは首を横に振った。
「だから、あなたの言う通りにする。食事をして、元気になって、ロレーヌ公国の嫡嗣に相応しい姿になって、プラハに行くわ」
「よろしい」
満足げにジェルメーヌが頷くと、ステファーヌははにかんだ。
「いまのままじゃ、わたしたちが入れ替わると違和感がありすぎるわ。もっとちゃんと美少年らしい姿になってちょうだいな。毎日鏡も見ること」
「わかったわ」
素直に頷いたステファーヌは、手にしたパンを小さく囓った。
さすがにどこまでクロイゼルが協力してくれるか、いまの時点では不透明だ。
「あなたがここに籠もっている限り、わたしはあなたを助け出すことはできないわ。ミネットも連れて帰らなければならないのに、あなたたちったら一緒にいないんですもの」
「……ごめんなさい」
項垂れたステファーヌが、蚊の鳴くような声を絞り出した。
「公女殿。その計画は、あなたを監督している侍従たちが同意してくれなければ成立しないのでは?」
「プラハで宿を抜け出すくらいならなんとかなるわ。ほんのすぐ近くの安宿で落ち合えば良いのよ。お互いの服を変えるだけだから、半時間もかからないわ」
ピュッチュナー男爵らジェルメーヌのが無茶苦茶な計画に荷担してくれる可能性は低い。彼らはトロッケン男爵を捕らえたいと考えているからこそ、ジェルメーヌを囮にしてトロッケン男爵一味をおびき出すことに協力してくれているのだ。
「女であるわたしはトロッケン男爵にとってなんの役にも立たないから、彼らもわたしをさっさと帰してくれるんじゃないかしら。あなたをフランソワ公子という椅子に座らせれば、ひとまず満足してくれることを願うわ」
ジェルメーヌが成功させなければならないのは、ステファーヌとミネットの解放だけだ。
ジェルメーヌにとって、ロレーヌ公国嫡嗣がステファーヌだろうがフランソワだろうが、違いはない。
「ステファーヌ。わたしは、ミネットと一緒に黙って姿を消したあなたを怒っているのよ。わたしを置いて行くなんて、酷すぎるわ。わたしに許して欲しいなら、ちゃんとわたしの計画通りに動くこと。いいわね」
「ジェルメーヌの計画って……いつも雑ね」
「――ちょっとは正気になって頭が回るようになったようね。結構なことだわ」
ふん、とジェルメーヌが鼻を鳴らすと、ステファーヌは弱々しく微笑んだ。
「子供の頃、わたしたちの部屋にレオポールが蛙を放り込んだとき、あなたったら庭で捕まえた蛇を彼の勉強机の抽斗に仕込んだことがあったわね。抽斗の中で蜷局を巻いていた蛇を見つけた彼の悲鳴が城内中に響き渡って大騒ぎになったことがあったわ」
「その前に、蛙を見たあなたが、金切り声を上げて失神したじゃないの。その仕返しをしたまでよ」
ステファーヌとミネットが止めるのも聞かず、ジェルメーヌは庭を駆け回って異母兄レオポールが嫌いな蛇を探したのだ。
「結局あの蛇、レオポールの部屋から逃げた後、姿を消したものだから、さらに騒ぎが酷くなったわよね。最後はわたしたちの部屋に隠れているのを見つけて、わたしの鸚哥を食べようとしているところをあなたが捕まえてくれたから良かったようなものの」
「確かにあれは、少々計画が適当過ぎたわね」
部屋に蛇がいることに気付いたステファーヌが絶叫し、ジェルメーヌが蛇を捕まえて一件落着したのだが、ジェルメーヌはレオポールと一緒に散々父親から叱られた。
「で、わたしの計画にけちを付けるだけの素晴らしい脱出方法があるの?」
「――ないわ」
苦笑いを浮かべ、ステファーヌは首を横に振った。
「だから、あなたの言う通りにする。食事をして、元気になって、ロレーヌ公国の嫡嗣に相応しい姿になって、プラハに行くわ」
「よろしい」
満足げにジェルメーヌが頷くと、ステファーヌははにかんだ。
「いまのままじゃ、わたしたちが入れ替わると違和感がありすぎるわ。もっとちゃんと美少年らしい姿になってちょうだいな。毎日鏡も見ること」
「わかったわ」
素直に頷いたステファーヌは、手にしたパンを小さく囓った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる