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偶然の出逢い 2011

vol.1 【メルネコ】

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10月の仙台…アパートには自分1人…
半年の出張を命じられて、私は退屈な日々を過ごしていた。

ボーッとしながらスマホをいじっていると、1つのアプリが目についた。
「メルネコ」
見知らぬ誰かにメールを送って話し相手を探す。そんな趣旨のアプリだった。
大空に風船を飛ばすような…太平洋に手紙の瓶を流すような…
暇つぶしにはちょうどいいか…と思って登録してみた。

「35歳男です。暇してます。誰か話しませんか?」
特に何もネタが思いつかなかったので適当に送ってみた。
何通か返信はあるものの、やはり長続きはせず数回のやり取りで途絶えてしまった。
「こんなもんだよな…」
顔も分からない、どこに住んでいるかも分からない人間と
そんなに話を盛り上げるような腕を持っていないことは自分で分かっていた。

メルネコでは1日に送れるメールの数が決まっている。
適当にばら撒くにしても限界があるのだ。
一定数送ってしまったら後は待つしかない。

メルネコではこちらからメールを送らなくても、毎日数通メールが届いた。
「暇してます。話しましょ~」
「飲みに行きませんか~」
大体がそんな内容のメールばかりで返信しても長続きしないことが多かった。
たまに好きなミュージシャンやアニメが合う人がいれば盛り上がることもあったが
それでも1週間もすればネタは尽き、会話も短くなり自然消滅していった。
暇つぶしアプリとしてはそれで十分なのかもしれない。

定時の仕事を終えて帰ってきてはスマホをいじる…そんな毎日を送っていた。

ふと、好きな映画の事が頭に浮かびメルネコに送ってみた。
「この映画好きな人いますか?」
何通かの返信があり私のメルネコ史上一番の盛り上がりを見せていた。
「あそこのセリフがいいんですよね!」
「このキャラが大好きなんですよ!」
何人かとそんな話を続けていたが、やはりネタは徐々に尽きていくもので…
そんな中、映画からたわいない会話へと発展した子が1人いた。
ハンドルネームは夏美。
まだ19歳の学生だった。

歳の差15歳…響きだけでは犯罪のような匂いもしてくるが、実際にはメールをしているだけである。
お互の仕事の愚痴や学校での出来事…流行りのドラマや美味しかったコンビニスイーツ…
何かあるたびにメールを送り合っていた。
夏美は静岡に住んでいる事が分かった。
私は今は出張で仙台に来ているが、青森県人である。
青森と静岡…偶然会うようなこともないような遠い遠いところに住んでいる2人だった。

そんな歳も住んでいる場所も全く離れている2人だったが、
メールは途切れることなく続いていた。

それだけで遠い土地に1人で出張に来ていた寂しさはだいぶ紛らすことができた。
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