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しおりを挟む私はヤークッモ殿下に付き添われて地下牢に向かった。
「レイチェルっ!」
ヤークッモ殿下と一緒に現れた私に一番最初に気づいて声を上げたのはエドワード様だった。
「エドワード様っ。」
エドワード様に会えたことが嬉しくて思わず頬が緩む。
エドワード様も私と視線を合わせて優しく微笑んでくれた。
「はいはい。イチャイチャするのは後回しにしてくださいね。レイチェル嬢はこちらの牢に入っていてください。」
「ええ。わかりましたわ。」
私は、ヤークッモ殿下に言われるがままエドワード様がいる牢の隣の牢に入った。
「ああ。こちらにいる女性の方もレイチェル嬢と一緒にしましょうね。一人部屋よりも二人でいる方が心強いですしね。」
「え?私?」
そう言って、ヤークッモ殿下はユキ様をエドワード様たちが入っている牢から出して、私の牢へと案内した。
「ユキ様。」
「あ、やっほー。元気だった?」
「ええ。ユキ様こそ。」
ユキ様は牢の中でも元気だったようだ。
陰った様子もなく安心した。
「では、レイチェル嬢。計画通りにお願いしますね。」
「ええ。」
ヤークッモ殿下はそう言って牢からさっさと出て行った。
残された私は、これからの計画をエドワード様たちに話して聞かせたのでした。
「ふんっ。いい気味だな、レイ。地下牢の住み心地はどうだ?惨めだろう。令嬢として育てられたお前が、こんな地下牢に押し込められるなんて苦痛だろう?」
翌日、ナーオット殿下が貧血から回復したのか地下牢までわざわざ様子を見にやってきた。
どうやら、ナーオット殿下は私が憔悴する姿を見たいようだ。
今も昔も相変わらすな性格をしている。
「別になんともありませんわ。ナーオット殿下こそ貧血は治ったのですか?」
「あれくらいの出血でどうにかなる私ではないよ。それにしても、レイはこれでも懲りないのか。随分とたくましくなったものだな。ああ、でも以前よりは虐めがいがあるか。はやくその澄ました顔を悲痛に歪ませたいよ。」
私が牢に入っているか優越感に浸って喋るナーオット殿下。
その顔は今日も自身に満ち溢れている。
「ああ、今日の食事は特別製だからね。ちゃんとに全部残さず食べるんだよ。いいね。食べなかったら君の大事な人を一人ずつ恐怖に陥れるからね。」
「・・・・・・・・・。」
ナーオット殿下は言いたいことをひとしきり言ってから高笑いをした。
きっと、食事の中にナーオット殿下の血が入っているのだろう。
もちろん、治癒魔法を使える私とユキ様は影響がないが、エドワード様とマコト様には影響がある。まあ、すぐに治癒の魔法を使えば大丈夫だとは思うけれども。
それ以前に、ナーオット殿下の血が入っている料理だなんて食べたくもないけれども。
「食べ物を捨てたりするといけないからね。私がここで君たちを見張っていてあげるよ。この忙しい私が、だよ。感謝するといい。」
「それより、私の大事な人たちとは誰ですか?」
ここにいるエドワード様たちであれば、対処ができる。
だけれども、祖国にいる人たちだと対処が難しい。
「ここにいるエドワード殿下やユキとマコトだよ。そんなこともわからないのか?相変わらず君の頭は軽いようだ。そうだ。絶望するといい。もうすでに彼らには私の血を飲ませているんだよ。つまり、彼らの命は私が握っているんだ。」
「・・・そう、ですか。」
エドワード様たちと話した感じではナーオット殿下に操られているような形跡はなかった。
きっと、ユキ様の治癒魔法が効いているのだろう。
だけれども、ユキ様もマコト様もエドワード様も何も言わなかった。
きっと、ナーオット殿下の血の効果があると思わせた方が有利に事を運ぶことができるからだろう。
それからすぐに私たちの元に食事が運ばれてきた。
「ふははっ。ふははははっ。さあ、食べるのだ。よぉく味わって食べるのだ。」
食べないわけにはいかない。
ここで、エドワード様たちがナーオット殿下の血による支配を受けていないことがわかってしまったらヤークッモ殿下たちと立てた計画が水の泡だ。
苦悶の表情を浮かべながら食事を睨みつけていると、食事を持ってきた侍女がナーオット殿下に気づかれないように私と視線を合わせると、合図するようにコクリと頷いた。
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