皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚

文字の大きさ
上 下
134 / 170

133

しおりを挟む
 

しばらくして、侍女が2人部屋に入ってきた。

どうやらこの人たちが私に付けられた侍女のようだ。

「レイチェル様。本日よりお世話をさせていただきますマルゲリータと申します。」

「同じく本日よりお世話をさせていただきますマルガリータと申します。」

二人の侍女の目には生気が感じられなかった。

二人のどこか悲観したような瞳が印象的だった。

それにしても、同じような名前で間違えてしまいそうだ。

赤毛を後ろで一つの三つ編みにしているのがマルゲリータさんで、赤毛をサイドで2つに分けて三つ編みをしているのがマルガリータさんだ。

容姿も背格好も似ているので、姉妹なのだろうか。もしかすると双子かもしれない。

髪型が違わなければ判別がつきそうにない。

「よろしくお願いいたします。あの、エドワード様たちはご無事ですか?」

どうしても聞かずにはいられない。

私と別れて地下牢に捕らえられてしまったエドワード様たちの状況を。

「・・・国王陛下が私たちに命じられたのはレイチェル様がこのお城で不自由なく過ごせるように配慮せよとのことです。」

「レイチェル様のお心のケアもするようにと国王陛下からは言われております。」

マルゲリータさんとマルガリータさんはそう言って恭しく一礼した。

国王陛下・・・二人の話からすると私にとても配慮してくれているように思える。

どういうことだろうか。

なにか・・・裏がある?

「・・・レイチェル様のお連れの3人はご無事でございます。」

マルゲリータさんが、そう言ってさりげなく耳打ちしてきた。

「え?」

と、振り向くもマルゲリータさんはマルガリータさんと一緒にそのまま部屋の説明や城についての説明を始めた。

 

 

 

 

「エドワード様・・・。ユキ様、マコト様・・・。ご無事だとは聞いたけど不安だわ。シロ様とクロ様の力を使って転移できないものなのかしら・・・。」

ぼんやりと用意されたソファーに腰かけながら何気なく呟く。

そして、ハッとする。

そうよ。転移すればいいんだわ。

エドワード様たちの元へ転移すればいいのよ。

女神様は私の中にライラの魂があると言っていた。

と、言うことは、だ。

きっと私の中のライラが目覚めれば転移の魔法が使えるはず。

ただ、使えたところで一度でも行ったことのある場所にしか転移できないのでいきなり地下牢には転移することはできない。

地下牢の場所もわからないしね。

でも、なんとなくだが、マルゲリータさんに聞いたら教えてくれそうではある。

案内してくれるかは別として。

「レイチェル様。お部屋にいるのも退屈でございましょう?お城の中を案内いたしましょうか?国王陛下からの許可は取ってあります。」

マルガリータさんがぼんやりとソファーに座って物思いに耽っている私に声をかけてきた。

相変わらずその表情と声には生気が感じられない。

「ええ。そうね。お願いしてもいいかしら?」

「はい。かしこまりました。ご案内いたします。お召し物はそのままでよろしいでしょうか。」

「ええ。構わないわ。」

私はスッとソファーから立ち上がった。

さり気なく、さり気なくマルガリータさんに確認をすればいいのだ。地下牢の位置を。

「そう言えばマルゲリータの姿が見えないようだけれども・・・?」

いつも二人一緒にいるのに今日はマルゲリータさんの姿が見えない。どうしたのだろうか。

「・・・マルゲリータは所用ででかけております。レイチェル様の許可も得ず持ち場を離れてしまい申し訳ございません。」

「あ、いいの。謝らないでちょうだい。ちょっと気になっただけだから。」

マルガリータさんは深々とお辞儀をして謝ったので、私は慌てて両手を振った。

「・・・では、参りましょうか。」

「はい。お願いいたします。」

マルガリータさんはそう言って先導に立って静々と歩き始めた。

近場の部屋から一つ一つ丁寧にマルガリータさんは教えてくれた。

それにしても、マルガリータさんは足音が全くしない。

まるで、廊下を滑るように移動しているようだ。

皇太子宮の侍女たちだってここまで足音を立てずに移動することなどできなかった。

不思議に思ってマルガリータさんの足元を見る。

「・・・なにか?」

すると、視線に気づいたのかマルガリータさんがこちらを振り向いた。

「いいえ。なんでもありません。」

慌てて取り繕う。

まさか、マルガリータさんの足元を見ていましたなんて言えない。

マルガリータさんは、「そうですか。」と言い、そのまま階段を降りだした。

今更だが私に割り当てられていた部屋は2階の部屋だった。

階段を降りたということはこれから1階を案内してくれるのだろうか。

でも、1階に降りた一番最初にある部屋は案内してくれず、どんどん奥の方に進んでいく。

奥に行けば行くほど人が少なくなっていく。

「・・・マルガリータさん?」

不思議に思ってマルガリータさんの名前を呼ぶとマルガリータさんはピタッと足を止めた。

そうして、こちらをゆっくりと振り向いた。

 

 

しおりを挟む
感想 269

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...