皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚

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「どうした?レイ、私の指示に従え。私の血を飲んだだろう?」

不敵に笑うナーオット殿下。

私はゆっくりとエドワード様を見る。

エドワード様はほほえんで私を見ていた。

「レイチェルに殺されるなら本望だよ。でも、その前に教えてほしい。どうして、ナーオット殿下はレイチェルのことを愛称で呼んでいるのかな?」

エドワード様はそう言ってほほえんだが、その目が笑っていなかった。

うん?

ナーオット殿下に私が愛称で呼ばれていることが気に入らない?

いや、今は自分の命のことを心配してほしいのだけれども。

「はははっ。冥土の土産に教えてあげようか?レイは私の物だからだ。私の妻なのだからな。」

「なっ!?レイチェルはまだ誰とも結婚はしていないっ!!」

「エドワード様っ!!」

なんか争点が違う。

エドワード様が妻という言葉をきいて立ち上がった。

そうして、剣を構えてナーオット殿下に立ち向かう。

「おっと。レイ、その男を殺せ。」

ナーオット殿下が私に命令する。

私はエドワード様を殺したくないのに。エドワード様を守りたいのに。

どうして、ナーオット殿下の言うことを聞かなければならないのだろうか。

「レイ!何をしている!!」

ナーオット殿下の声にハッとした。

これほどまでにナーオット殿下に命令されているのに、私にはエドワード様を殺そうという意識が一向に芽生えない。

もしかして、ナーオット殿下の血は私には効いていない………?

私は立ち上がると、スッとナーオット殿下を見つめた。

「ようやく立ち上がったか。レイ。ほら、お前の目の前の男を殺すのだ。」

ナーオット殿下は余裕の様子でエドワード様が繰り出す剣を交わしている。

私は勢いよく後ろからエドワード様に抱きついた。

「レイチェルっ!?」

驚いたように声をあげるエドワード様。

振り向いたエドワード様の顔を両手で固定して口づける。

驚きに目を見開いたエドワード様が見えた。

その隙にエドワード様の手に握られている剣をエドワード様から奪い取る。


「………レイ。私以外の男にキスをするだなんて見過ごせないな。あとでお仕置きだな。剣を奪ったのなら、そのまま一思いに殺すのだ。」

ナーオット殿下はそう言って楽しそうに笑った。

ナーオット殿下からのお仕置きなんて冗談じゃない。

私は剣を構えてエドワード様を睨み付ける。

「レイチェルに殺されるのなら本望だよ。」

そう言ってエドワード様は笑みを浮かべる。

ねえ?

エドワード様。

気づいているのかしら?私がエドワード様を殺した後にどんな目にあうのか。

「エドワード様っ!覚悟っ!!」

「おっと。」

エドワード様に向かって剣を振る。

しかし、エドワード様はその剣を避けた。

先程まで私に殺されるのが本望だと言っていたのはどの口だろうか。

でも、これでわかった。

エドワード様は殺されるつもりはないと言うことに。

と、言うことはきっとエドワード様も気づいているはず。

私がナーオット殿下に操られていないと言うことに。

でも、そのことに気づかないふりをしているエドワード様。

もう一度剣を避けたエドワード様に向けて剣を振るう。

またもやエドワード様は剣を避けた。

そうして、私と目を合わせてニッコリと笑った。

私もエドワード様に向けてニッコリと微笑む。

「ちょこちょこと逃げ惑うとは………。私が手を貸してやる。」

そう言うとナーオット殿下はエドワード様をサッと拘束した。

「レイ。これで技量のないお前でも、この男を殺せるだろう?」

「放せっ!!」

嬉しそうにナーオット殿下が微笑む。

エドワード様はナーオット殿下の腕から逃れようと力の限り暴れる。

「エドワード様。そんなに暴れたら危ないわ。手元が狂ってナーオット殿下に当たってしまうわ。」

ニッコリと微笑んでエドワード様に告げれば、エドワード様はピタリと動きを止めた。

「そうだね。私はもう逃げないよ。さあ、早く。」

「わかったわ。覚悟はいいかしら?」

私はエドワード様に向かって剣を振る。

フリをして、ナーオット殿下に斬りかかった。
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