上 下
124 / 170

123

しおりを挟む
 

「レイ。やっと見つけたよ。どうして私から隠れるのかな?」

「誰っ!?」

『・・・っ!!』

男の人に後ろから声をかけられる。

この声、どこかで聞いたような気がする。

思い出したくない記憶の中で聞いたような気がする。

すぐ側にいるユキ様が声なき悲鳴を上げる。

そっと、後ろを振り返るとそこには、ナーオット殿下がいた。

「・・・っ!!?」

反射的に逃げようとして身体を反転させると、パシッと右手の手首を掴まれた。

ユキ様もオロオロとしている。

『ユキ様!お願いだから大人しくしていてください。決して元の姿に戻らないで。私に何かあったらどうか私の子をよろしくお願いいたします。』

『!?レイチェルっ!そんなことできないわ!レイチェルも助けるわ。』

『ありがとうございます。でもユキ様まで危険な目にあわせるわけにはいきません。それに、ユキ様が今、元の姿に戻っても何も解決いたしません。』

『それはっ!?わかってるけど!でもっ!!』

『ユキ様。どうか、わかってください。今は大人しくしていてください。ナーオット殿下に気づかれないように。』

『・・・わかったわ。』

今、ユキ様が姿を見せたところで何も変わらないだろう。

それどころか悪化する可能性もある。

それならば、ユキ様には猫の姿のままでいた方が安全だし、これからの活路が開けるだろう。

ユキ様も何もできない歯痒さで黒く長い尻尾をぶんぶんと振り回しているが、私の言葉にしぶしぶながらも頷いてくれた。

『ありがとう。ユキ様。』

「手を・・・放していただけますか?」

「手を放したら君は逃げるだろう?」

意を決してナーオット殿下にお願いをする。

「この国では初めてあった人の手を握っても許されるのですか?私は、知らない人に手を掴まれて不愉快です。手を放していただけますか?」

「おっと・・・。レイは随分勇ましくなったな。この私に歯向かうだなんて。」

『こいつっ・・・!!』

『ユキ様っ!やめてっ!!』

ユキ様がナーオット殿下をその鋭い爪で攻撃しようと態勢を低くしたので、慌てて止める。

「私は貴方を存じ上げませんが?」

冷静を装ってナーオット殿下に告げる。

これだけ騒いでいるのに、街の人は見向きもしない。

まるで、私たちだけ切り取られてしまったようだ。

すぐ脇を歩いて行く人もいるが、こちらには一切目を向けない。

「そんなはずはないだろう?私にはすぐに君だとわかったよ、レイ。死んだからと言って私から逃げられるとでも?いいや、君は私からは逃げられない運命なのさ。」

「・・・人違いではありませんか?」

「私がレイを見間違うはずもない。君はレイだよ。忘れているのだとしたならば、この私が思い出させてあげようか?」

ナーオット殿下はそう言って不敵に笑った。

その笑は狂気に彩られている。

『レイチェル!!早くっ!!早く転移をして!』

『駄目よ!今、転移したらナーオット殿下まで一緒に転移してきてしまうわ!』

ユキ様が危険を察知して転移するように告げてくるが、今、この状況で転移などできるはずもない。

ナーオット殿下が手を放してくれないと転移することができない。

手を放してくれないまま転移をしてしまえば、ナーオット殿下も一緒に転移することになるからだ。

「結構ですわ。私は帰ります。」

「いいや。放さない。やっと隠されていた君を見つけたんだからね。」

「私は貴方など知りませんと何度も言っておりますっ!手を放してください。」

「君がハズラットーン大帝国の皇太子の婚約者になっていることにはすぐに気づいたんだよ。だけど、なかなか皇太子の守りが強くてね。君に手を出すことはできなかったんだ。でも、こうして私のいる場所に君の方から来てくれたんだ。私が君の手を放すとでも?」

「私はレイチェル様ではありません!」

どうして。

私は今、ライラの身体の中に入っているというのに。

どうして、私がレイチェルだとナーオット殿下にはバレているのだろうか。

もしかして、はったり・・・?

「君の見た目は随分と変わったけれどね。私は君の存在が手にとるようにわかるんだ。若干、君には不純物が紛れ込んでいるようだね。だから、私に逆らおうとするんだね。悪い子だね。」

「貴方の言っていることがわからないわ。」

がっちりと腕どころか腰に手を回されてしまい。

身動きを取ることができない。

このまま私はどうなってしまうのだろうか。

一瞬の隙をついて転移することはできないだろうか。

でも、そのためにはユキ様も一緒でなければならない。

「わからなくて、結構だよ。さあ、一緒に私の城に行こうではないか。」

か弱い女性の力ではナーオット殿下の鍛えられた力には敵わない。

私はそのままナーオット殿下に無理やり連れ去られるしかなかった。

ユキ様が物陰に隠れながらこっそりと後を追いかけてくる。

どうかユキ様がナーオット殿下に見つからないようにと祈りながら私はナーオット殿下について行く他なかった。

 

しおりを挟む
感想 269

あなたにおすすめの小説

愛しているだなんて戯言を言われても迷惑です

風見ゆうみ
恋愛
わたくし、ルキア・レイング伯爵令嬢は、政略結婚により、ドーウッド伯爵家の次男であるミゲル・ドーウッドと結婚いたしました。 ミゲルは次男ですから、ドーウッド家を継げないため、レイング家の婿養子となり、レイング家の伯爵の爵位を継ぐ事になったのです。 女性でも爵位を継げる国ではありましたが、そうしなかったのは、わたくしは泣き虫で、声も小さく、何か言われるたびに、怯えてビクビクしていましたから。 結婚式の日の晩、寝室に向かうと、わたくしはミゲルから「本当は君の様な女性とは結婚したくなかった。爵位の為だ。君の事なんて愛してもいないし、これから、愛せるわけがない」と言われてしまいます。 何もかも嫌になった、わたくしは、死を選んだのですが…。 「はあ? なんで、私が死なないといけないの!? 悪いのはあっちじゃないの!」 死んだはずのルキアの身体に事故で亡くなった、私、スズの魂が入り込んでしまった。 今のところ、爵位はミゲルにはなく、父のままである。 この男に渡すくらいなら、私が女伯爵になるわ! 性格が変わった私に、ミゲルは態度を変えてきたけど、絶対に離婚! 当たり前でしょ。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観です。 ※ざまぁは過度ではありません。 ※話が気に入らない場合は閉じて下さいませ。

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても

千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

処理中です...