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しおりを挟む後方から聞こえてきた黄色い悲鳴に、ユキ様と思わず視線を合わせる。
そうして、不自然にならないようにゆっくりと後ろを振り向いた。
そこには、黒髪の気品のある男性が数多の女性に囲まれていた。
あれが、第二王子のナーオット様であろうか。
『間違いないわ。ナーオット様よ。』
実際に姿を見たことがあるライラが教えてくれる。
女性に囲まれており、シンプルな服装をしているがその高貴なオーラはまったく隠せていない。
ちらりと人の群れからナーオット殿下の横顔がちらりと見えた。
「・・・っ!!?」
どこかで見たような顔のような気がする。
どこだっただろうか・・・。
よく思い出せない。
ライラの記憶の中で見たのだろうか。
でも、違うような気がする。
もっとずっと前に見たような・・・。
「な、なんであいつがここにいるのっ!!!?」
「え?」
ユキ様が焦ったように私の腕を掴む。
そうして、私の腕を思いっきり引く。
「逃げるわよ・・・。」
「え?」
私の返答も待たずに、ユキ様は私の腕をとって走りだす。
私もユキ様を一生懸命に追うために足を動かす。
「ま、待ってください。ユキ様・・・。いったいなにがあったのですか?」
ナーオット殿下からだいぶ距離をとり、ナーオット殿下が見えなくなったところでユキ様の足が止まった。
足が止まり力なくだらりと腕をおろすユキ様に何があったのかとその顔を覗き込む。
すると、悲痛な表情を浮かべたユキ様がいた。
「ユキ様・・・。」
今にも泣きだしそうなユキ様が痛々しくて、思わずユキ様の細い体を抱きしめる。
ユキ様は泣きはしなかったけれども、体が微かに震えていた。
いつも元気いっぱいのユキ様なのに、いったいどうしたことなんだろうか。
どれくらいそうしていただろうか。
しばらくして、ユキ様がゆっくりと私から離れた。
「ごめんね、レイチェル。ありがとう。もう大丈夫だから。」
そう言ってほほ笑むユキ様の表情はどこか痛々しかった。
「なにが・・・あったのですか?」
「・・・ここでは誰が聞いているかわからないから話せない。家に帰ったら話すわ。でも、家に帰る前にもう少し情報を探さなければいけないわね。」
ユキ様は今は話せないという。
誰かに聞かれるとまずいからと。
それほど、危ういことなのだろうか。
「情報も欲しいですが、それより私はユキ様の方が心配です。まだ青い顔をしております。情報収集は一度帰って体制を立て直してからでも遅くはないと思いますよ。」
「・・・レイチェル。ごめんなさい。私、自分がこんなに弱い人間だとは思わなかったわ。そうね、一度帰りましょうか。」
そうして、私たちは一度体制を立て直すためにユキ様の家に戻ることにした。
「ナーオット殿下は私の知っている人にそっくりだったの。ううん。きっと本人だわ。」
ユキ様の家に到着してしばらくしてから、ユキ様がポツリとそう語ってくれた。
どうやらナーオット殿下はユキ様の知人のようだ。
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