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しおりを挟む「………エドワード様、私はエドワード様とマコト様の関係を誤解しておりました。ずっとマコト様は女性だと思っていたのです。」
ポツリポツリとレイチェルが話はじめる。
その様子をエドワード様は頷きながら、聞いていた。
「そうか。私がちゃんとに言わなかったからいけなかったんだな。すまない。レイチェル。」
撫で撫でと、エドワード様の大きな手が私の頭を撫でる。
優しく、労るように。
「それに、私。エドワード様とマコト様の間に子が産まれたのだと勘違いしておりました。」
そうだよね。
レイチェルの子なのに、マコト様の子だと嘘をつくものだから、思わず勘違いしてしまったのだ。
「ははっ。それは、あり得ないことだよ。私はレイチェル以外愛せないのだからね。」
「………エドワード様。」
優しくレイチェルに微笑むエドワード様は、とても冷酷な面を持つ皇太子だなんて思えなかった。
「誤解がとけたのなら、レイチェルどうか元の身体に戻って欲しい。仮の身体ではなく本物のレイチェルの身体を抱き締めたいよ。」
エドワード様は、レイチェルの宿っている身体が私のものだからか、遠慮して私の肩を抱き締めるだけに留めている。
レイチェルに配慮しているのだろうか。
「………いいえ。私は戻りたくはありません。」
しばらく沈黙が続いた後、静かにレイチェルが告げた。
その言葉には確かな力が込められていた。
「理由を聞いてもいいかい?」
エドワード様は、穏やかな表情を崩すことなくレイチェルに優しく問いかける。
レイチェルは、ビクッと身体を震わせて、エドワード様から視線を逸らすようにうつむいた。
「………エドワード様もわかっていらっしゃるはずです。私には皇太子妃という立場は重すぎます。私には………皇太子妃となる器はありません。」
静かにはっきりとレイチェルがエドワード様に向けて告げる。
エドワード様は、レイチェルのその言葉を受けて静かに目を臥せて、ため息を1つついた。
しばしの沈黙が二人を包み込む。
先に口を開いたのは、エドワード様だった。
「知っていたよ。レイチェルが皇太子妃という重圧に苦しんでいることは。でも、私はレイチェルに側にいてほしいんだ。皇太子妃でなくてもいい。私の妻として一緒にいてほしいんだ。」
レイチェルに言い聞かせるように、ゆっくりと確かに言葉を紡ぐエドワード様。
その言葉からは、皇太子としてではなく一人の男性としてレイチェルのそばにいたいという気持ちが溢れていた。
それをレイチェルも感じたのだろう。瞬いたその目から大粒の涙を溢した。
それから、ゆっくりと首を横に振る。
「………なりません。お飾りの皇太子妃などあってさなりません。エドワード様は、そのお立場にふさわしい方を妃に向かえるべきなのです。私はそれを見届けるまで元の身体には戻りたくはありません。」
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