上 下
104 / 170

103

しおりを挟む

頭がポーッとしてくるのがわかる。

自分が何を考えているのかもわからなくなる。いや、何も考える気がおきなくなってくる。

「ライラさん?」

マコト様の声が聞こえる。

「なぁに?」

それに答えるが、どうもうまく思考がまわらない。

「レイチェル様?」

「いいえ。ちがうわ。」

私はレイチェルじゃない。

「おかしいじゃない。なんでレイチェルが出てこないの!?」

ユキ様の金切り声が聞こえてくる。

なんで、そんなに怒ってるのかしら?

わからない。

頭の中に霞がかかっているみたいで。

「もう1杯ですかねぇ。ライラさん。紅茶をもう1杯飲んでみてください。」

そう言ってマコト様は、私の前に紅茶が入ったカップを置いた。

私はその紅茶が入ったカップを、言われるがままに持ち上げ口に運ぶ。

口の中に甘い香りが広がる。

「………ライラさん?」

マコト様の声が聞こえる。

少しだけ心配しているようにこちらを伺う声がする。

聞こえているのだけれども、なぜか声が出ない。

「レイチェルには覚悟がないわ。皇太子に愛されているとわかっても、皇太子妃となる覚悟がないのよねぇ。だから、レイチェルは自分の身体に戻れないのよねぇ。」

私が言ったわけじゃないのに、私の口が勝手に動いて言葉を紡ぐ。

でも、レイチェルでもないような気がする。

誰が私の身体でしゃべっているの?

「あなたは誰ですか?」

マコト様の声が聞こえてくる。

それに反応するように私の口の端がにやりと上がった。

「レイチェルを守護するものよ。私はレイチェルのためなら何でもするわぁ。そう、レイチェルが嫌がるのなら皇太子妃になんてさせないわ。そのために貴方たちを異世界から呼んだのにねぇ。全く想定外の動きをしてくれたわね。」

感情のこもらない声が私の口から飛び出る。私はいったい何を言っているの?

どういうこと?

「貴方たち二人を呼んだ反動で顕現する力がないのよねぇ。だから、こうしてライラの身体を借りているわ。でもぉ、力の一部が使えなくても、レイチェルが嫌がるなら皇太子妃にさせないことくらいはできるわよ。うふふ。」

私の身体が私のものではないような不思議な感じ。

「………あなたが私を呼んだの?ライラが?」

ユキ様が私をギッと睨み付ける。

マコト様もユキ様も異世界から急に呼ばれたと言っていた。

きっと、元の世界に帰りたかったのだろう。

「私はライラではないわ。ただの人の娘が異世界から人を呼べるわけないじゃないの。」

「………レイチェル様は元に戻るんですか?」

マコト様が声を押し殺して確認する。

「戻れるわよ。レイチェルが戻りたいと願えば、ね。」

私の口は何を言っているのだろうか。

どうして、レイチェルが元に戻れると知っているのだろうか。どうして、そんなに自信満々に言えるのだろうか。

「少ししゃべりすぎたわねぇ。私はもう帰るわ。可愛いレイチェルを頼んだわよ。」

すうっと意識が遠のくような気がした。

しおりを挟む
感想 269

あなたにおすすめの小説

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても

千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

処理中です...