上 下
99 / 170

98

しおりを挟む

「へえ~。私の命を狙ってたんだ?誰からの依頼なのかな?」

マコト様の言葉をうけて、エドワード様の視線が鋭くなった。

その姿はとても温厚な皇太子の姿には見えない。

まるで今にも切り裂かれてしまいそうなほどの鋭さがその視線にはあった。

ぞくり。と背中が粟立つ。

エドワード様は同業の暗殺者よりも殺気を放っているのではないかと思う。

「そ、それは………。」

もう、依頼だからと言ってエドワード様を暗殺する気にもなれない。

だから、依頼人を言ってしまっても良いのに身体が硬直してしまいうまく言葉がしゃべれない。

「私には言えないのかい?」

すぅっとエドワード様の目が細くなり、いっそうの殺気を放つ。

ガクガクと震える身体。

うまく動かせない唇。

「大丈夫ですよ。ライラさん。ほら、落ち着いてください。」

ポンポンッと温かいマコト様の手が私の背中を優しく叩く。

触れられた場所から温かい体温が伝わってきて、ガチガチと震えていた身体が解れていくようだった。

「依頼人はヤックモーン王国の第二王子ナーオットです。」

マコト様から力を貰った私は、すんなりとエドワード様を暗殺しようとした人物の名を告げる。

そう、エドワード様を狙っているのは、私の祖国のヤックモーン王国の第二王子だ。

だが、第二王子と言っても王位継承権は持っていない。なぜならば養子だからだ。

どういった経緯で養子になったのかはわからないが、王国内で第二王子が養子だというのは周知の事実だった。

王家の血を引いていない第二王子は、他に直系の第一王子がいるので、無用な権力争いを避けるために養子になったのにもかかわらず、王位継承権は持っていないのだ。

「ナーオット殿下………ですか?」

「ふむ。」

ナーオット殿下の名を出すと、エドワード様もマコト様も一様に考え込んでしまった。

確かにナーオット殿下がエドワード様を暗殺しようとしても、利になることがないだろう。

むしろ、他国の皇族を暗殺したとあっては、王族から追放され流刑されても仕方ないかもしれない。

確かに私も不思議ではあった。

ナーオット殿下がエドワード様を暗殺する理由がわからないのだ。

しかし、依頼人が何を考えて暗殺を依頼するのかなど、今まで考えたことなどなかった。

仕事だからとわりきっていたのだ。

今はそれが悔やまれる。

「ナーオット殿下。ナーオット………ナオト。………まさか。いや、そんなバカなこと………。」

何やらブツブツとマコト様は呟き始めた。その表情は暗かった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

私は王妃になりません! ~王子に婚約解消された公爵令嬢、街外れの魔道具店に就職する~

瑠美るみ子
恋愛
 サリクスは王妃になるため幼少期から虐待紛いな教育をされ、過剰な躾に心を殺された少女だった。  だが彼女が十八歳になったとき、婚約者である第一王子から婚約解消を言い渡されてしまう。サリクスの代わりに妹のヘレナが結婚すると告げられた上、両親から「これからは自由に生きて欲しい」と勝手なことを言われる始末。  今までの人生はなんだったのかとサリクスは思わず自殺してしまうが、精霊達が精霊王に頼んだせいで生き返ってしまう。  好きに死ぬこともできないなんてと嘆くサリクスに、流石の精霊王も酷なことをしたと反省し、「弟子であるユーカリの様子を見にいってほしい」と彼女に仕事を与えた。  王国で有数の魔法使いであるユーカリの下で働いているうちに、サリクスは殺してきた己の心を取り戻していく。  一方で、サリクスが突然いなくなった公爵家では、両親が悲しみに暮れ、何としてでも見つけ出すとサリクスを探し始め…… *小説家になろう様にても掲載しています。*タイトル少し変えました

【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。 ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。 この作品は 「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。 どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

処理中です...