皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚

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確かにマコト様の言う通りだろう。私が聖なる魔法である回復魔法を使えれば、暗殺者になるようなこともなかったはずだ。

希少な回復魔法の使い手は国で管理され、国に使われる。

お給金も国から逃げられないように、多くのお給金を支払ってくれるだろう。

ただ、国から逃げることが無いように、誰かに唆されたりしないように、監視がつく。そうして、交遊関係も制限されるだろう。

それだけ、回復魔法の使い手は国では重宝されている。

私も、回復魔法の使い手であれば、暗殺者になることもなく、国に保護され、国が私を管理しただろう。

それは、とても窮屈な生活であろうが、日々を生きるか死ぬかで暮らしていた私にとっては天国のような場所だったに違いない。

それでも、私が暗殺者の道を選んだのは・・・。

「回復魔法はこの前まで使えなかったのよ。きっと、レイチェルが使えたのね。」

私はレイチェルの記憶がこの身体に宿るまでは回復魔法は使えなかった。

レイチェルの記憶が芽生えてからなのだ。回復魔法が使用できるようになったのは。だからきっと、レイチェルが回復魔法を使用することができたのだろうと考える。

「・・・レイチェル様が?なぜ、貴女はレイチェル様をご存じなのですか?」

マコト様の瞳が怪訝な色に染まる。憂いを帯びたその表情に、思わずハッと息を飲んだ。

そして、我にかえる。

私は、今何を言ったのだろうか。

どうして私は、マコト様に過去のことを喋ってしまっているのだろうか。

「そ、それは・・・っ。」

なんと答えたら良いのだろうか。

この身にレイチェルが宿っていたと告げるべきなのだろうか。

思わず視線をうろうろとさ迷わせる。

「話してください。悪いようには致しませんから。ハーブティーが冷めてしまいましたね。今、淹れなおしますね。」

マコト様は冷えきってしまったハーブティーをテーブルから下げると、すぐに新しいハーブティーを持ってきた。

ほんのりとした甘い匂いが鼻をくすぐる。

「先程のハーブティーにはちみつを数滴垂らしてみました。飲んでみてください。きっと、心が落ち着くはずです。」

マコト様が差し出してきたカップを、思わず手に取り、匂いを嗅ぐ。

優しい香り。そして、ほんのりと香る甘い香り。

美味しそうな匂いに、ハーブティーを口に入れる。

「・・・美味しい。」

ハーブティーははちみつが入っているからか先程より美味しいような気がした。

でも、何故だか身体が少しだけ熱くなったような気がするのは気のせいだろうか。
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